(心臓弁膜症の概要 心臓弁膜症の概要 いずれの心臓弁も狭窄または閉鎖不全(逆流とも表現される)を起こす可能性があり,その場合,症状出現のかなり前から血行動態に変化が生じる。弁の狭窄または閉鎖不全は,個々の弁で独立して起こる場合が最も多いが,複数の弁膜症が併存する場合もあれば,1つの弁に狭窄と閉鎖不全が併発する場合もある。... さらに読む も参照のこと。)
三尖弁狭窄症はほぼ常に リウマチ熱 リウマチ熱 リウマチ熱は,A群レンサ球菌咽頭感染症の合併症として発生する急性の非化膿性炎症であり,関節炎,心炎,皮下結節,輪状紅斑,舞踏運動などを引き起こす。診断は,病歴,診察,および臨床検査から得た情報に対する,改変Jones診断基準の適用に基づく。治療には,アスピリンまたはその他の非ステロイド系抗炎症薬の投与,重症心炎発生時のコルチコステロイド投与,残存するレンサ球菌の根絶と再感染防止のための抗菌薬投与が含まれる。... さらに読む に起因し,ほぼ常に 三尖弁逆流症 三尖弁逆流症 三尖弁逆流症(TR)は,三尖弁の閉鎖不全により,収縮期に右室から右房に向かって逆流が生じる病態である。最も一般的な原因は右室の拡大である。症状や徴候は通常みられないが,重症TRでは頸部の拍動,全収縮期雑音,および右室由来の心不全または心房細動が引き起こされる。診断は身体診察および心エコー検査による。TRは通常良性で治療を必要としないが,一部の患者では弁輪形成術,弁修復術,または弁置換術が必要になる。... さらに読む を併発しており,リウマチ性僧帽弁膜症(通常は 僧帽弁狭窄 僧帽弁狭窄症 僧帽弁狭窄症は,僧帽弁口が狭小化することによって,左房から左室への血流が妨げられる病態である。原因は(ほぼ)常にリウマチ熱である。一般的な合併症は,肺高血圧症,心房細動,および血栓塞栓症である。症状は心不全と同じであり,徴候としては開放音や拡張期雑音などがある。診断は身体診察および心エコー検査による。予後は良好である。内科的治療としては,利尿薬,β遮断薬,心拍数低下作用のあるカルシウム拮抗薬,抗凝固薬などがある。より重症例に効果的な治療... さらに読む )も同様に併発している。
三尖弁狭窄症のまれな原因としては, 全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは,自己免疫を原因とする慢性,多臓器性,炎症性の疾患であり,主に若年女性に起こる。一般的な症状としては,関節痛および関節炎,レイノー症候群,頬部などの発疹,胸膜炎または心膜炎,腎障害,中枢神経系障害,血球減少などがある。診断には,臨床的および血清学的な基準が必要である。重症で進行中の活動性疾患の治療には,コルチコステロイドおよび免疫抑制薬を必要とする。 全症例のうち,70~90%が女性(通常妊娠可能年齢)に起こる。... さらに読む ,右房粘液腫,先天奇形,転移性腫瘍などがある。
右房に肥大および拡張が生じ,続発症として右心系の疾患による 心不全 心不全 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む を来すが,右室機能障害は伴わず,右室は十分に充満されずに小さいままとなる。まれに心房細動がみられる。
三尖弁狭窄症の症状と徴候
重症三尖弁狭窄症でみられる症状は,頸部のはためくような不快感(頸静脈波の巨大a波による),疲労および皮膚冷感(心拍出量低下による),右上腹部不快感(肝腫大による)のみである。
視診で認められる主な徴候は,頸静脈波における揺らめく巨大なa波と緩やかなy谷である。頸静脈怒張を認めることがあり,吸気時に増強する(クスマウル徴候)。横臥位では顔面が暗赤色となり,頭皮の静脈が拡張する(suffusion sign)。肝うっ血および末梢浮腫が生じることがある。
聴診
弱い開放音
前収縮期の雑音亢進を伴う拡張中期ランブル
聴診では,三尖弁狭窄症はしばしば無音であるが,弱い開放音と前収縮期に増強する拡張中期ランブルが聴取されることがある。雑音は静脈還流を増加させる手技(運動,吸気,下肢の挙上,Müller手技)により増強および延長し,静脈還流を減少させる手技(起立,バルサルバ手技)により減弱し短縮する。
三尖弁狭窄症の所見は,しばしば 僧帽弁狭窄症 僧帽弁狭窄症 僧帽弁狭窄症は,僧帽弁口が狭小化することによって,左房から左室への血流が妨げられる病態である。原因は(ほぼ)常にリウマチ熱である。一般的な合併症は,肺高血圧症,心房細動,および血栓塞栓症である。症状は心不全と同じであり,徴候としては開放音や拡張期雑音などがある。診断は身体診察および心エコー検査による。予後は良好である。内科的治療としては,利尿薬,β遮断薬,心拍数低下作用のあるカルシウム拮抗薬,抗凝固薬などがある。より重症例に効果的な治療... さらに読む の所見とともに認められ,あまり著明ではない。雑音は臨床的に鑑別できる(三尖弁狭窄雑音と僧帽弁狭窄雑音の鑑別 三尖弁狭窄雑音と僧帽弁狭窄雑音の鑑別 の表を参照)。
三尖弁狭窄症の診断
心エコー検査
三尖弁狭窄症の診断は病歴および身体所見に基づき,ドプラ 心エコー検査 心エコー検査 この写真には,心エコー検査を受けている患者が写っている。 この画像には,4つの心腔全てと三尖弁および僧帽弁が示されている。 心エコー検査では,超音波を利用して心臓,心臓弁,および大血管の画像を描出する。この検査は心臓壁の厚さ(例,肥大または萎縮)や運動の評価に役立ち,虚血および梗塞に関する情報が得られる。収縮機能や左室拡張期の充満パターンの評価に利用できることから,左室肥大,... さらに読む で三尖弁前後に一定の圧較差を認めることで確定となる。2次元心エコー検査では,運動性の低下を伴う弁尖の肥厚と右房拡大を認める。
重症の三尖弁狭窄症には以下の特徴がある:
三尖弁の平均圧較差が5mmHgを超える
心電図検査 心電図検査 標準的な心電図検査では,四肢・胸壁に装着した陽極・陰極間の電位差によって反映される心臓の電気的活動が12個のベクトルのグラフとして示される。それらのうち6つは前額面(双極肢誘導I,II,IIIと単極肢誘導aVR,aVL,aVFを使用する),6つは水平面(単極胸部誘導V1,V2,V3,V4,V5,V6を使用する)のベクトルである。標準的な12誘導心電図は,以下のような多くの心疾患を確定診断する上で極めて重要である(... さらに読む では,下方誘導およびV1において,右室肥大に見合わない右房拡大と高い尖鋭P波を認めることがある。
胸部X線 胸部X線 胸部画像検査には,単純X線,コンピュータ断層撮影(CT),MRI,核医学検査,および超音波検査などがある。 非侵襲的な画像検査を行う上で,MRI以外には絶対的禁忌はない。患者の眼または脳に金属が入っている場合,MRIは実施できない。 恒久型ペースメーカーまたは植込み型除細動器がある場合は相対的禁忌である(MRI Safetyを参照)。また,MRIの造影剤としてガドリニウムを使用する場合,慢性腎臓病のステージ4もしくは5の患者または透析患... さらに読む では,上大静脈の拡大と右房の拡大を認めることがあり,これらは心右縁の拡大により示唆される。
受動的な肝うっ血(passive hepatic congestion)により 肝酵素値 肝臓および胆嚢の臨床検査 臨床検査は一般に以下の目的に効果的である: 肝機能障害の検出 肝損傷の重症度の評価 肝疾患の経過および治療効果のモニタリング 診断の絞り込み さらに読む が上昇する。
三尖弁狭窄症の評価のために 心臓カテーテル検査 心臓カテーテル法 心臓カテーテル法とは,末梢の動脈または静脈から心腔,肺動脈,冠動脈,および冠静脈までカテーテルを挿入する手技である。 心臓カテーテル法は,以下のものを含む様々な検査に用いることができる: 血管造影 血管内超音波検査(IVUS) 心拍出量(CO)の測定 さらに読む が適応となることはまれである。カテーテル検査が適応(例,冠動脈の解剖の評価)となる場合の所見としては,右房圧の上昇と拡張早期の緩徐な下降や,拡張期の三尖弁圧較差などがある。
三尖弁狭窄症の治療
利尿薬およびアルドステロン拮抗薬
まれに弁修復術または弁置換術
三尖弁狭窄症の治療方針については,エビデンスが少ない。症状があって治療を受けていない患者には,減塩食と利尿薬およびアルドステロン拮抗薬の投与を行うべきである。
重度の三尖弁狭窄症患者には,症状がみられる場合または他の理由で心臓手術を施行する場合,介入を行うべきである。三尖弁逆流症を合併していない重症TS患者には,経皮的バルーン三尖弁交連切開術を考慮してもよい。
三尖弁狭窄症の要点
三尖弁狭窄症は,ほぼ全例がリウマチ熱によるものであり,しばしば三尖弁逆流と僧帽弁狭窄を合併する。
聴診所見としては,弱い開放音や前収縮期に増強する拡張中期ランブルなどがあり,雑音は静脈還流を増加させる手技(例,運動,吸気,下肢の挙上)によって増強および延長し,静脈還流を減少させる手技(起立,バルサルバ手技)によって減弱および短縮する。
治療法としては,利尿薬やアルドステロン拮抗薬などがあり,まれに外科的な修復術または置換術が必要となる。