(大動脈瘤の概要 大動脈瘤の概要 動脈瘤とは,動脈壁の脆弱化により動脈が異常に拡張した状態である。一般的な原因としては,高血圧,動脈硬化,感染,外傷,遺伝性または後天性の結合組織疾患(例,マルファン症候群,エーラス-ダンロス症候群)などがある。動脈瘤は通常無症状であるが,疼痛を引き起こしたり,虚血,血栓塞栓症,自然解離,破裂を来して致死的となることもある。診断は画像検査(... さらに読む , 腹部大動脈瘤 腹部大動脈瘤 (AAA) 典型的には,腹部大動脈の直径が3cm以上になった場合に腹部大動脈瘤とみなされる。原因は多因子から成るが,動脈硬化が関係している場合が多い。ほとんどの動脈瘤は症状を引き起こすことなく徐々に(およそ年10%のペース)大きくなり,大半が偶然発見される。破裂のリスクは動脈瘤の大きさに比例する。診断は超音波検査またはCTにより行う。治療は外科手術または血管内ステントグラフト内挿術による。... さらに読む ,および 胸部大動脈瘤 胸部大動脈瘤 胸部大動脈の径が正常より50%以上大きい場合,動脈瘤とみなされる(径の正常値は部位により異なる)。ほとんどの胸部大動脈瘤は無症状であるが,胸痛または背部痛がみられる場合もあるほか,その他の症候は通常,合併症(例,解離,隣接構造の圧迫,血栓塞栓症,破裂)の結果として生じたものである。破裂のリスクは動脈瘤の大きさに比例する。診断はCT血管造影または経食道心エコー検査(TEE)により行う。治療は血管内ステントグラフト内挿術または外科手術である... さらに読む も参照のこと。)
大動脈分枝の動脈瘤の危険因子には, 動脈硬化 アテローム性動脈硬化 アテローム性動脈硬化は,中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜プラーク(アテローム)を特徴とし,そのプラーク内には脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,および結合組織が認められる。危険因子には,脂質異常症,糖尿病,喫煙,家族歴,座位時間の長い生活習慣,肥満,高血圧などがある。症状はプラークの成長または破綻により血流が減少ないし途絶した... さらに読む , 高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む ,喫煙,高齢などがある。局所感染は感染性動脈瘤の原因となる。
ときに鎖骨下動脈瘤は頸肋症候群または 胸郭出口症候群 胸郭出口症候群(TOS) 胸郭出口症候群とは,手,頸部,肩,または腕の疼痛および錯感覚を特徴とするが,明確な定義はない一群の疾患である。腕神経叢は胸郭の出口を横切っているため,この疾患には腕神経叢(および,おそらくは鎖骨下動静脈)の圧迫が関わっていると考えられる。診断方法は確立されていない。治療には理学療法や鎮痛薬などが用いられ,重症例では手術も行う。 発生機序はしばしば不明であるものの,腕神経叢は斜角筋の下および第1肋骨の上で胸郭出口を横切って腋窩に入るため,... さらに読む を合併する。
内臓循環の動脈での動脈瘤の発生はまれである。約60%は脾動脈,20%は肝動脈,5.5%は上腸間膜動脈で発生する。
脾動脈瘤の発生率は男性より女性で高い(1:4)。原因としては,中膜の 線維筋性異形成 線維筋性異形成 線維筋性異形成には,動脈硬化でも炎症性でもない一群の異質な動脈変化が含まれ,いくらかの血管狭窄,閉塞,または動脈瘤を引き起こす。 線維筋性異形成は通常,40~60歳の女性に発生する。原因は不明である。しかしながら,遺伝的要素があると考えられ,喫煙が危険因子である可能性がある。線維筋性異形成は,特定の結合組織疾患(例, エーラス-ダンロス症候群IV型,嚢胞性中膜壊死, 遺伝性腎炎,... さらに読む , 門脈圧亢進 門脈圧亢進症 門脈圧亢進症とは,門脈内の圧力が上昇した状態である。原因として最も頻度が高いものは,肝硬変(先進国),住血吸虫症(流行地域),および肝血管異常である。続発症として,食道静脈瘤や門脈大循環性脳症などが生じる。診断は臨床基準に基づいて行い,しばしば画像検査や内視鏡検査を併用する。治療としては,内視鏡検査,薬剤,またはその両方による消化管出血の予防のほか,ときに門脈下大静脈吻合術または肝移植を行う。... さらに読む ,多胎妊娠,穿通性または鈍的腹部外傷, 膵炎 膵炎の概要 膵炎は急性または慢性のいずれかに分類される。 急性膵炎では,炎症が臨床的および組織学的のいずれにおいても消失する。 慢性膵炎は,不可逆的かつ進行性の組織学的変化を特徴とし,膵内外分泌機能に大幅な低下を来す。慢性膵炎患者は,急性疾患の急性増悪(flare-up)を起こすことがある。... さらに読む ,感染症などがある。
肝動脈瘤の発生率は女性より男性で高い(1:2)。肝動脈瘤は過去の腹部外傷,違法静注薬物の使用,動脈壁の中膜変性,動脈周囲の炎症などが原因で生じる。
腎動脈瘤は解離または破裂を起こして, 急性閉塞 急性腎動脈閉塞 腎動脈狭窄は,片側または両側腎動脈の本幹または分枝を通る血流が低下する状態である。腎動脈閉塞は,片側または両側腎動脈の本幹または分枝を通る血流が完全な遮断である。狭窄および閉塞の原因は通常,血栓塞栓症,動脈硬化,線維筋性異形成である。急性閉塞の症状は,間断なくうずく側腹部痛,腹痛,発熱,悪心,嘔吐および血尿などである。急性腎障害が発生する場合がある。慢性,進行性の狭窄は,難治性高血圧をもたらし,慢性腎臓病に至る場合がある。診断は画像検査... さらに読む を引き起こすことがある。
上腸間膜動脈瘤は男性と女性で等しく発生する。原因としては,線維筋性異形成,嚢胞性中膜壊死,外傷などがある。
大動脈分枝の動脈瘤の症状と徴候
大動脈分枝の動脈瘤の多くは無症状である。症状(発生した場合)は病変が生じた部位や動脈によって異なる。
鎖骨下動脈瘤では,局所的な疼痛,拍動感,静脈血栓症,静脈性浮腫(隣接する静脈の圧迫による),遠位部の虚血症状,一過性脳虚血発作,脳卒中,嗄声(反回神経の圧迫による)または運動および感覚機能障害(腕神経叢の圧迫による)などが生じる。
脾動脈瘤では,左上腹部痛が生じることがある。肝動脈瘤では,右上腹部痛や黄疸が生じることがある。上腸間膜動脈瘤では,腹部全体に及ぶ腹痛や虚血性大腸炎が生じることがある。
発生部位に関係なく,感染性または炎症性動脈瘤は局所の疼痛と全身性感染の後遺症(例,発熱,倦怠感,体重減少)を引き起こす可能性がある。
大動脈分枝の動脈瘤の診断
超音波検査,CT,その他の水平断の断層画像検査
水平断の断層画像検査がルーチンに施行できるようになり,現在では多くの動脈瘤が破裂前に診断されている。石灰化した無症状ないし潜在性の動脈瘤が,別の理由で施行されたX線またはその他の画像検査で発見されることがある。大動脈分枝の動脈瘤の検出または確定診断には,一般的に超音波検査またはCTが用いられる。血管造影は,典型的には治療もしくは末梢臓器の灌流評価にのみ用いられる。
大動脈分枝の動脈瘤の治療
開胸/開腹下の修復またはときに血管内ステントグラフト内挿術
治療は外科的切除とグラフトによる置換である。一部の患者では血管内修復術も選択肢の1つとなる。無症状の動脈瘤を修復するかどうかの決定は,破裂のリスク,動脈瘤の範囲および部位,ならびに周術期のリスクに基づいて判断する。
鎖骨下動脈瘤の手術では,修復および置換に先立って頸肋(存在する場合)を除去することがある。
内臓動脈瘤では,破裂および死亡のリスクが10%にものぼり,特に妊娠可能年齢の女性と肝動脈瘤の患者ではさらに高くなる(35%を超える)。したがって,以下の場合は待機手術による内臓動脈瘤の修復の適応となる:
直径が2cmよりも大きい動脈瘤
妊婦または妊娠可能年齢の女性に生じた動脈瘤
年齢に関係なく症状を伴う動脈瘤
肝動脈瘤
脾動脈瘤の修復は,動脈再建を伴わない結紮か,動脈瘤の切除と血管再建で構成される。動脈瘤の位置によっては,脾臓摘出が必要となることがある。
感染性動脈瘤の治療は,特定の病原体に対する積極的な抗菌薬療法である。一般に,この種の動脈瘤には外科的な修復も必要になる。
大動脈分枝の動脈瘤の要点
大動脈分枝の動脈瘤は,腹部または胸部大動脈瘤よりもまれである。
偶然発見されるものが多く,しばしば無症状である。
症状が発生した場合,症状は病変が生じた部位や動脈によって異なる。
最初はX線で偶然認められた所見から疑われる場合が多いが,確定診断には超音波検査およびCTを用いる。
治療は待機手術による修復のほか,感染性動脈瘤の症例では抗菌薬による。
待機手術の適応は一般に,破裂のリスク,動脈瘤の範囲および部位,ならびに周術期のリスクに基づいて決まる。内臓動脈瘤を有する妊婦または妊娠可能年齢の女性は,破裂のリスクが高いため,待機手術を行うべきである。