細菌性尿路感染症

執筆者:Talha H. Imam, MD, University of Riverside School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 2月
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細菌性尿路感染症(UTI)は,尿道,前立腺,膀胱,または腎臓で発生する。症状は認められない場合もあれば,頻尿,尿意切迫,排尿困難,下腹部痛,および側腹部痛がみられる場合もある。腎臓の感染では,全身症状や敗血症が発生する場合もある。診断は尿の分析および培養に基づく。治療は抗菌薬投与と尿路カテーテルの抜去および閉塞の解除による。

尿路感染症に関する序論グラム陰性桿菌前立腺炎;および小児の尿路感染症も参照のこと。)

20~50歳の成人では,UTIは女性の方が約50倍多くみられる。この年齢層の女性では,ほとんどのUTIが膀胱炎または腎盂腎炎である。同じ年齢層の男性では,ほとんどのUTIが尿道炎または前立腺炎である。50歳以上になると,UTIの発生率は上昇するが,男性において前立腺腫大と器具操作が増加するため,男性患者数に対する女性患者数の比は小さくなる。

病態生理

腎臓から外尿道口までの尿路は,遠位尿道が大腸内の細菌によって頻繁に汚染されるにもかかわらず,正常では無菌であり,細菌の定着に対して抵抗力を有している。尿路感染症に対する主要な防御機構は,排尿時に膀胱が完全に空になることである。尿路を無菌に保つその他の機構としては,尿の酸性度,膀胱尿管弁,種々の免疫および粘膜バリアなどがある。

UTIの約95%は細菌が尿道から膀胱内へ上行することで発生し,腎盂腎炎は細菌が尿管を上行して腎臓に到達して発生する。残りのUTIは血行性である。UTIから全身性感染症を来すこともあり,特に高齢者ではその可能性が高い。院内感染菌血症の症例の約6.5%はUTIに起因する。

単純性UTIは通常,閉経前の成人女性において,尿路に構造的にも機能的にも異常がなく,妊娠しておらず,より重篤な結果をもたらしうる有意な併存症もない状況で発生した膀胱炎または腎盂腎炎とされる。また一部の専門家は,閉経後女性またはコントロール良好の糖尿病を有する患者に生じたUTIも単純性とみなしている。男性では,ほとんどのUTIが小児または高齢患者で発生しており,解剖学的異常または器具操作に起因し,複雑性とみなされる。

15~50歳の男性で発生するまれなUTIは,通常は無防備な肛門性交を行う男性や包皮切除を受けていない男性で発生し,それらは一般に単純性とみなされる。この年齢層で無防備な肛門性交歴があり,包皮切除を受けている男性でのUTIの発症は非常にまれであり,単純性とみなされるものの,泌尿器の異常に対する評価が必要である。

複雑性UTIは,男女ともあらゆる年齢で発生する可能性がある。これは通常,単純性の基準を満たさない腎盂腎炎または膀胱炎であるとされる。患者が小児または妊婦であるか,以下のいずれかに該当する場合,UTIは複雑性とみなされる:

  • 尿路の構造的または機能的異常と尿流の閉塞がある

  • コントロール不良の糖尿病慢性腎臓病,易感染状態など,感染または耐性化のリスクを上昇させる合併症がある

  • 尿路に対する器具操作または手術を最近受けた

危険因子

女性のUTI発生の危険因子としては以下のものがある:

  • 性交

  • ペッサリーおよび殺精子剤の使用

  • 抗菌薬の使用

  • 過去1年間の新たなセックスパートナー

  • 第1度近親者の女性におけるUTIの既往

  • 再発性UTIの既往

  • 若年での初回UTI

殺精子剤がコーティングされたコンドームの使用もまた,女性におけるUTIの発生リスクを高める。抗菌薬または殺精子剤の使用が女性にもたらすUTI発生リスクの上昇は,おそらく腟内細菌叢の変化に伴う大腸菌(Escherichia coli)の異常繁殖に起因する。高齢の女性では,便失禁による会陰部の汚染がリスクを高める。

解剖学的,構造的,および機能的異常がUTIの危険因子となる。解剖学的異常の結果としてよく生じる病態に膀胱尿管逆流症(VUR)があり,これは症候性UTIを呈する幼児の30~45%に認められる。VURは通常,尿管膀胱弁の機能不全につながる先天異常によって生じる。VURは後天的に発生することもあり,脊髄損傷により弛緩性膀胱を来した患者や尿路手術を受けた患者でみられる。UTIの素因となるその他の解剖学的異常としては,尿道弁(先天的な閉塞性異常),膀胱頸部の発達遅滞,膀胱憩室,重複尿道などがある(泌尿生殖器系の先天異常の概要を参照)。

UTIの素因となる構造的および機能的な尿路異常には,通常は尿流路の閉塞と膀胱からの排出不良が関与する。尿流は結石および腫瘍によって損なわれることがある。膀胱の排出機能は,神経因性機能障害(神経因性膀胱を参照),妊娠,子宮脱膀胱瘤,および前立腺腫大により低下しうる。先天的因子に起因するUTIは小児期に発生することが最も多い。他のほとんどの危険因子は高齢者で多くみられるようになる。

UTIのその他の危険因子としては,器具操作(例,膀胱カテーテル挿入,ステント留置,膀胱鏡検査)や最近の手術などがある。

病因

膀胱炎および腎盂腎炎を引き起こす頻度が高い細菌としては,以下のものがある:

  • 腸内細菌,通常はグラム陰性好気性細菌(最も多い)

  • グラム陽性細菌(比較的少ない)

正常な泌尿生殖器では,膀胱および尿管の移行上皮に対する特異的な接着因子を発現する大腸菌(Escherichia coli)株が全症例の75~95%を占める。それ以外のグラム陰性の尿路病原菌は,通常はその他の腸内細菌であり,典型的にはKlebsiella mirabilisまたはProteus mirabilis,ときに緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)である。グラム陽性細菌の中では,腐性ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)が細菌性UTIの5~10%で分離される。より頻度の低いグラム陽性の分離菌としてEnterococcus faecalis(D群レンサ球菌)およびStreptococcus agalactiae(B群レンサ球菌)があるが,これらは汚染菌である可能性があり,特に単純性膀胱炎の患者から分離された場合はその可能性が高い。

入院患者では,大腸菌( E. coli)が全症例の約50%を占める。グラム陰性菌のKlebsiella属,Proteus属,Enterobacter属,Pseudomonas属,およびSerratia属が原因の約40%を占めており,残りはグラム陽性球菌のE. faecalis,腐性ブドウ球菌(S. saprophyticus),および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)である。

分類

尿道炎

尿道の細菌(または原虫,ウイルス,真菌)による感染は,尿道に進入した微生物が男性の尿道球部および下垂部と女性の尿道全体に存在する多数の尿道周囲腺に,急性または慢性に定着することで起こる。性感染症を引き起こす病原体であるChlamydia trachomatisクラミジア,マイコプラズマ,およびウレアプラズマによる感染症を参照),淋菌(Neisseria gonorrhoeae)(淋菌感染症を参照),腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)(トリコモナス症を参照),および単純ヘルペスウイルスは,男女ともに頻度の高い原因である。

膀胱炎

膀胱炎は膀胱の感染症である。膀胱炎は女性でよくみられ,単純性膀胱炎は通常,性交がそれに先行する(ハネムーン膀胱炎)。男性では,膀胱の細菌感染は通常複雑性であり,通常は尿道または前立腺からの上行性感染に起因するか,尿道に対する器具操作に続発する。男性における再発性膀胱炎の最も一般的な原因は,慢性細菌性前立腺炎である。

急性尿道症候群

急性尿道症候群は女性に発生し,排尿困難頻尿,膿尿(排尿困難‐膿尿症候群)が関連する症候群で,このため膀胱炎に類似する。しかしながら,急性尿道症候群では(膀胱炎と異なり),ルーチンの尿培養は陰性となるか,細菌性膀胱炎の従来の診断基準より低いコロニー数を示す。起因菌にChlamydia trachomatisおよびUreaplasma urealyticumが含まれることから,尿道炎が原因である可能性があり,これらはルーチンの尿培養では検出されない。

感染以外の原因が提唱されているが,これを裏付けるエビデンスは決定的ではなく,感染以外の病態は大半が膿尿をほとんどまたは全く引き起こさないのが通常である。非感染性の原因として考えられるものは,解剖学的異常(例,尿道狭窄),生理的異常(例,骨盤底筋機能障害),ホルモン不均衡(例,萎縮性尿道炎),限局性の外傷,消化器系症状,炎症などがある。

無症候性細菌尿

無症候性細菌尿は,尿培養がUTIの基準を満たす患者でUTIの徴候または症状が認められないものである。膿尿は存在する場合もしない場合もある。無症候性であるため,このような細菌尿は主に,高リスク患者のスクリーニング時や他の理由で尿培養が行われた際に検出される。

無症候性細菌尿に対する患者のスクリーニングは,細菌尿を無治療で放置した場合に合併症が起きるリスクが高い患者で適応となる。具体的には以下のような患者が挙げられる:

特定の患者(例,閉経後女性,コントロール良好の糖尿病患者,ステント,腎瘻チューブ,留置カテーテルなどの尿路異物を継続して使用する患者)は,しばしば持続的な無症候性細菌尿,ときに膿尿を呈する。このような患者が無症状である場合,リスクは低いためルーチンにスクリーニングすべきではない。カテーテルが留置された患者では,無症候性細菌尿の治療を行っても細菌尿の消失に無効である場合が多く,抗菌薬に耐性を獲得した細菌の出現をもたらすのみである。

急性腎盂腎炎

腎盂腎炎は,腎実質の細菌感染症である。腎盂腎炎という用語は,感染が確認されているのでない限り,尿細管間質性腎症を記載するために使用すべきではない。女性では,市中感染の菌血症の約20%は腎盂腎炎に起因する。腎盂腎炎は尿路が正常な男性ではまれである。

腎盂腎炎の95%の症例では,原因は細菌の尿路の上行である。閉塞(例,狭窄結石,腫瘍,神経因性膀胱VUR)は腎盂腎炎の素因となるが,女性の腎盂腎炎患者の大半には,明白な機能的または解剖学的異常は認められない。男性では,腎盂腎炎はほぼ常に何らかの機能的または解剖学的異常に起因する。膀胱炎単独,あるいは解剖学的異常により逆流が生じることがある。細菌の上行のリスクは尿管蠕動が抑制される場合に大きく強まる(例,妊娠中,閉塞,グラム陰性細菌の内毒素)。腎盂腎炎は,膀胱カテーテル挿入後の若年の女児および妊婦においてよくみられる。

細菌の上行が原因ではない腎盂腎炎は血行性の伝播に起因し,これは黄色ブドウ球菌(S. aureus),緑膿菌(P. aeruginosa),Salmonella属,Candida属真菌などの病原性微生物で特に特徴的である。

患側腎は通常,炎症を引き起こす好中球と浮腫のために腫大する。感染は腎盂と髄質において限局的かつ斑状に始まり,楔状に拡がり皮質に及ぶ。慢性炎症を媒介する細胞が数日のうちに現れ,髄質および皮質下に膿瘍が形成されることがある。感染巣の間にある実質組織は正常であることが多い。

乳頭壊死は,糖尿病,閉塞,鎌状赤血球症,腎移植患者の腎盂腎炎,カンジダ症による腎盂腎炎,または鎮痛薬腎症のいずれかに合併した急性腎盂腎炎において明らかに認められることがある。

急性腎盂腎炎はしばしば小児の腎瘢痕に関連するが,成人における同様の瘢痕は,逆流または閉塞が存在しない場合は検出されない。

症状と徴候

高齢患者,神経因性膀胱患者,またはカテーテル留置患者では,敗血症せん妄がみられるが,尿路に関係する症状はみられない場合がある。

症状が存在する場合,相当な重複がみられるために尿路の感染部位と相関しないこともあるが,多少の一般化は有用である。

尿道炎の主な症状は,排尿困難と主に男性における尿道分泌物である。分泌物は膿性,白色調,または粘液性の場合がある。膿汁の量などの分泌物の特徴は,非淋菌性尿道炎から淋菌性尿道炎を鑑別する上で信頼性はない。

膀胱炎は,通常突然発生し,典型的には頻尿,尿意切迫,灼熱感または疼痛を伴う少量の排尿がみられる。夜間頻尿がよくみられ,恥骨上部痛やときに腰痛を伴う。尿はしばしば混濁し,顕微鏡的(またはまれに肉眼的)血尿が発生する可能性がある。軽度の発熱が認められることもある。気尿(尿中への空気の排出)は,感染が膀胱腸瘻もしくは膀胱腟瘻に起因する場合または気腫性膀胱炎に起因する場合に発生しうる。

急性腎盂腎炎の症状は膀胱炎と同様の場合がある。3分の1の患者で頻尿および排尿困難がみられる。しかしながら,腎盂腎炎では,症状は典型的には悪寒,発熱,側腹部痛,腹部仙痛,悪心,嘔吐などである。腹部硬直が認められないか軽微な場合は,圧痛を伴う腎腫大がときに触知される。一般に,感染側の肋骨脊柱角の打診で圧痛が認められる。小児の尿路感染症では,症状が乏しく,あまり特徴がない場合が多い。

診断

  • 尿検査

  • ときに尿培養

培養による診断は常に必要というわけではない。培養を行う場合のUTIの診断では,適切に採取した尿検体で有意の細菌尿を確認する必要がある。

採尿

性感染症(STD)が疑われる場合は,排尿前にSTD検査のための尿道スワブを採取する。その後に清潔操作またはカテーテル導尿により尿検体を採取する。

清潔に採取した中間尿検体を得るには,外尿道口を無発泡の低刺激性消毒薬で洗ってから,空気乾燥させる。粘膜と尿流の接触を最小限に抑えるため,女性では陰唇を広げ,包皮切除を受けていない男性では包皮を引き上げるべきである。尿の最初の5mLは採取せず,次の5~10mLを無菌の容器に採取する。

高齢女性(典型的には清潔尿の採取が困難である)と性器出血または帯下がみられる女性では,カテーテル採取による検体が望ましい。評価に内診を含める場合は,多くの臨床医がカテーテルを用いて検体を採取している。カテーテルが留置された患者での診断については,本マニュアルの別の箇所で考察されている(カテーテル関連尿路感染症を参照)。

検査(特に培養)は,検体採取から2時間以内に行うべきであり,そうでない場合は検体を冷蔵すべきである。

尿検査

尿の鏡検は有用であるが,決定的ではない。膿尿の定義は非遠心尿で白血球8個/μL以上であり,これは遠心尿沈渣の強拡大視野当たり白血球2~5個に相当する。真に感染した患者の大半は白血球10個/μLを超える。膿尿が認められず細菌が存在する場合,特に複数の菌株が認められる場合は,通常,検体採取時の汚染が原因である。顕微鏡的血尿は最大50%の患者で発生するが,肉眼的血尿はまれである。白血球円柱は,尿細管円柱との鑑別は特殊染色を要するが,炎症反応を示唆するにすぎず,腎盂腎炎糸球体腎炎,および非感染性尿細管間質性腎炎で認められる可能性がある。

細菌尿および尿路感染症が存在しない状態で膿尿がみられることもあり,例えば,腎結石症,尿路上皮腫瘍,虫垂炎,または炎症性腸疾患がある場合や,検体が腟の白血球で汚染された場合に起こりうる。排尿困難および膿尿がみられるが,有意の細菌尿はみられない女性は,尿道症候群ないし排尿困難膿尿症候群である。

尿試験紙検査もよく用いられる。排尿直後の検体を用いた亜硝酸塩試験(検体を直ちに検査しないと容器中で細菌が繁殖し,検査結果の信頼性が損なわれる)の陽性は,UTIに高度に特異的であるが,検査の感度があまり高くない。白血球エステラーゼ検査は,10個/μLを超える白血球の存在に対して非常に特異的であり,感度もかなり高い。典型的症状を伴う単純性UTIの成人女性では,大半の医師が鏡検と尿試験紙検査で陽性であれば十分と判断する;可能性の高い病原体を考慮に入れると,このような症例では,培養によって治療方針が変わる可能性は低く,一方で相当の費用が追加で必要になる。

培養は,特徴と症状から複雑性UTIの存在または細菌尿の治療適応が示唆される患者で推奨される。一般的な例を以下に示す:

  • 妊婦

  • 閉経後女性

  • 男性

  • 思春期前の小児

  • 尿路異常または最近の器具操作歴を有する患者

  • 免疫抑制患者または有意な併存症を有する患者

  • 症状が腎盂腎炎または敗血症を示唆する患者

  • 再発性UTI(年3回以上)の患者

多数の上皮細胞を含有する検体は汚染されており,役立つ可能性は低い。培養のためには汚染されていない検体を採取しなければならない。UTIを検出する可能性は朝の検体の培養が最も高い。室温に2時間以上放置された検体は,細菌の増殖が継続したためにコロニー数が偽性に高い可能性がある。培養の陽性基準には,無菌的に採取された中間尿またはカテーテル尿で単一菌種の細菌が分離されることなどがある。

無症候性細菌尿の培養陽性の基準は,Infectious Diseases Society of Americaのガイドラインに基づくGuidelines for the Diagnosis and Treatment of Asymptomatic Bacteriuria in Adultsを参照)

  • 清潔に採取した尿検体の連続した2検体(男性では1検体)で,同じ細菌株がコロニー数105/mL超で分離される

  • 女性または男性で,カテーテルを介して採取された検体から単一菌種の細菌がコロニー数102/mL超で分離される

症状がみられる患者の培養での基準は以下の通りである:

  • 女性の単純性膀胱炎では103/mL超

  • 女性の単純性膀胱炎では102/mL超(この数値は大腸菌 [E. coli]に対する感度を高めるために考慮されることがある。)

  • 女性の急性単純性腎盂腎炎では104/mL超

  • 複雑性UTIは,女性では105/mL超,または男性もしくはカテーテルから採取した女性の尿検体では104/mL超

  • 急性尿道症候群は,単一菌種の細菌が102/mL超

恥骨上膀胱穿刺により得られた検体では,培養の結果陽性は,コロニー数にかかわらず真の陽性とみなすべきである。

中間尿では,混合細菌叢内の大腸菌(E. coli)が真の原因菌である場合がある(1)

ときに,コロニー数は少ないがUTIが存在する場合があり,これはおそらく過去の抗菌薬投与,著しい希釈尿(比重1.003未満),著しく感染した尿流が妨げられたことなどが原因である。培養を繰り返すことで陽性結果の診断精度が向上し,汚染と真の陽性を鑑別できる場合がある。

感染部位の同定

上部UTIと下部UTIの臨床的な鑑別は,多くの患者において不可能であり,検査は通常推奨されない。高熱,肋骨脊柱角の圧痛,円柱を伴う肉眼的膿尿が存在する場合は,腎盂腎炎の可能性が非常に高い。非侵襲的に膀胱感染症を腎感染症と鑑別する上での最良の方法は,抗菌薬による短期療法で反応を確認することと考えられる。治療3日後に尿が清澄化しない場合,腎盂腎炎を探索すべきである。

腟炎の患者でも膀胱炎尿道炎と類似の症状がみられる可能性があり,炎症を起こした陰唇の間を尿が通過することで排尿困難が生じることがある。腟炎は,しばしば帯下,腟の臭い,および性交痛の存在によって鑑別することが可能である。

男性において通常の抗菌薬療法に反応しない膀胱炎の症状がみられる場合は,前立腺炎の可能性がある。

その他の検査

重症患者では,敗血症の評価が必要であり,典型的には血算,電解質,乳酸,血中尿素窒素(BUN),クレアチニン,および血液培養を行う。腹痛または圧痛がみられる患者は,急性腹症の他の原因を評価する。

排尿困難/膿尿を呈するが細菌尿はみられない患者では,性感染症(STD)の検査を行うべきであり,典型的には尿道および子宮頸部から採取したスワブ検体を用いて核酸検査を行う(クラミジア感染症:診断を参照)。

成人のほとんどでは,以下のことが発生しない限り,構造的異常の評価は必要ない:

  • 腎盂腎炎のエピソードが2回以上ある。

  • 感染が複雑性である。

  • 腎結石症が疑われる。

  • 無痛性の肉眼的血尿または新規の腎機能不全が認められる。

  • 発熱が72時間以上持続している。

尿路画像検査の選択肢としては,超音波検査,CT,静脈性尿路造影(IVU)などがある。ときに,排尿時膀胱尿道造影,逆行性尿道造影,または膀胱鏡検査が必要となる。症候性膀胱炎または無症候性再発性膀胱炎を呈する女性では,結果が治療方針に影響を及ぼさないことから,泌尿器検査をルーチンに施行する必要はない。UTIの小児患者では,しばしば画像検査が必要となる。

診断に関する参考文献

  1. Hooton TM, Roberts PL, Cox ME, Stapleton AE: Voided midstream urine culture and acute cystitis in premenopausal women.N Engl J Med 369(20):1883-1891, 2013.

治療

  • 抗菌薬

  • ときに手術(例,膿瘍のドレナージ,基礎にある構造的異常の是正,閉塞の軽減)

その形態を問わず,症候性の細菌性尿路感染症には抗菌薬投与が必要である。煩わしい排尿困難がある患者では,抗菌薬が症状をコントロールするまで(通常48時間以内)の症状管理にフェナゾピリジンが有用な場合がある。

抗菌薬の選択は,患者のアレルギーおよびアドヒアランス歴,現地の耐性パターン(既知の場合),抗菌薬の利用可能性および費用,ならびに治療失敗のリスクに対する患者および医療従事者の耐容性に基づくべきである。抗菌薬耐性を誘発する性質も考慮すべきである。尿培養を行った場合,抗菌薬の選択は培養および感受性の結果が判明した時点で,同定された病原菌に対して効果的であり,かつ最もスペクトルの狭い薬剤に変更すべきである。

外科的な是正は,通常は閉塞性尿路疾患,解剖学的異常,および神経障害性の尿路病変(脊髄圧迫など)に対して必要とされる。閉塞した尿路のカテーテルによるドレナージは,UTIの迅速なコントロールに役立つ。ときに,腎皮質膿瘍または腎周囲膿瘍に対して外科的ドレナージが必要となる。感染尿が認められる場合は,下部尿路に対する器具操作は可能ならば延期すべきである。器具操作の前に尿を無菌にしておくこと,および器具操作後3~7日間の抗菌薬投与により,生命を脅かす尿路敗血症を予防できる。

尿道炎

性的に活動的で症状がみられる患者は,通常は検査結果が判明するまで性感染症(STD)と推定して治療する。典型的なレジメンは,セフトリアキソン250mg,筋注に加えて,アジスロマイシン1g,経口,1回またはドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,7日間のいずれかを投与するものである。全てのセックスパートナーの評価を60日以内に済ませるべきである。尿道炎と診断された男性は,Centers for Disease Control and Preventionの2015年版Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelinesに従い,HIVおよび梅毒の検査を受けるべきである。

膀胱炎

単純性膀胱炎の第1選択の治療は,ニトロフラントイン100mg,経口,1日2回,5日間(クレアチニンクリアランス60mL/min未満の場合は禁忌),トリメトプリム/スルファメトキサゾール160/800mg,経口,1日2回,3日間,またはホスホマイシン3g,経口,1回である。次善の選択肢としては,フルオロキノロン系薬剤やβ-ラクタム系抗菌薬などがある。膀胱炎が1~2週間以内に再発した場合は,より広いスペクトルを有する抗菌薬(例,フルオロキノロン系薬剤)を使用することができ,尿培養を行うべきである。

複雑性膀胱炎の治療では,現地の病原体および耐性パターンに基づいて選択した広域抗菌薬の経験的投与を開始し,培養結果に基づいて修正するべきである。尿路異常も管理されなければならない。

急性尿道症候群

治療は臨床所見および尿培養の結果による:

  • 排尿困難および膿尿がみられ,かつ尿培養で単一菌種の細菌のコロニー数が102/mLを超える女性は,単純性膀胱炎として治療することができる。

  • 排尿困難および膿尿を呈し,細菌尿が認められない女性は,STDの評価(淋菌[N. gonorrhoeae]およびC. trachomatisを含む)をすべきである。

  • 排尿困難がみられるが,膿尿と細菌尿はみられない女性は,真の尿道症候群ではない。これらの患者では,感染以外の排尿困難の原因を評価すべきである。評価には,例えば行動療法(例,バイオフィードバック,骨盤底筋系弛緩),手術(尿道狭窄に対し),薬剤(例,萎縮性尿道炎の疑いに対するホルモン補充療法,麻酔薬,鎮痙薬)などの治療の試用が含まれると考えられる。

無症候性細菌尿

糖尿病患者,高齢患者,または膀胱留置カテーテルを長期使用している患者にみられる無症候性細菌尿は,典型的には治療すべきでない。しかしながら,無症候性細菌尿から合併症が発生するリスクを有する患者( see page 無症候性細菌尿)では,治療可能な全ての原因に対処し,膀胱炎に対して抗菌薬を投与すべきである。妊婦では,安全に使用できる抗菌薬がごくわずかに限られている。経口β-ラクタム系薬剤,スルホンアミド系薬剤,およびニトロフラントインは妊娠初期には安全であるとされているが,トリメトプリムは妊娠第1トリメスターには避けるべきであり,スルファメトキサゾールは妊娠第3トリメスター,特に分娩間際には避けるべきである。治療不能な閉塞性疾患(例,結石逆流)を有する患者では,長期の再発抑制療法が必要となることがある。

急性腎盂腎炎

抗菌薬が必要である。以下の全ての基準を満たす場合には,経口抗菌薬による外来治療が可能である:

  • 患者にアドヒアランスが期待される

  • 患者の免疫能が正常である

  • 悪心および嘔吐が認められず,体液量減少または敗血症の所見もみられない

  • 複雑性UTIを示唆する因子が認められない

第1選択の抗菌薬は,現地の尿路病原体の耐性率が10%未満である場合には,シプロフロキサシン500mg,経口,1日2回,7日間およびレボフロキサシン750mg,経口,1日1回,5日間である。第2選択の治療は通常,トリメトプリム/スルファメトキサゾール160/800mg,経口,1日2回,14日間の投与である。しかしながら,米国の一部では大腸菌(E. coli)の20%超がサルファ剤に耐性を示すことから,現地の感受性パターンを考慮すべきである。

外来治療に適格ではない患者は入院させ,現地の感受性パターンに基づいて選択した注射剤による治療を行うべきである。第1選択の抗菌薬は通常,シプロフロキサシンやレボフロキサシンなど,腎排泄されるフルオロキノロン系薬剤である。アンピシリン+ゲンタマイシン,アミノグリコシド系抗菌薬であるプラゾマイシン(plazomicin)(1),スペクトルの広いセファロスポリン系薬剤(例,セフトリアキソン,セフォタキシム,セフェピム),アズトレオナム,β-ラクタム系抗菌薬/β-ラクタム阻害薬の併用(アンピシリン/スルバクタム,チカルシリン/クラブラン酸塩,ピペラシリン/タゾバクタム),およびイミペネム/シラスタチンは,一般的に,より複雑な腎盂腎炎(例,閉塞,結石,耐性菌,院内感染)または尿路に対する器具操作を最近受けた患者にのみ使用する。

注射剤による治療は,解熱とその他の臨床的改善の徴候がみられるまで継続する。80%以上の患者では,72時間以内に改善が認められる。その後は経口治療を開始でき,残りの7~14日間の治療は退院して継続することが可能である。複雑性感染症の症例では,抗菌薬を計2~3週間にわたって静脈内投与する,より長期の薬物療法と泌尿器の解剖学的異常の是正が必要となる。

腎盂腎炎を呈する妊婦では外来治療を考慮することが可能であるが,ただし症状が軽症で,綿密なフォローアップが可能であり,(望ましくは)妊娠24週未満の場合のみである。外来治療はセファロスポリン系薬剤による(例,セフトリアキソン1~2g,静注または筋注,続いてセファレキシン500mg,経口,1日4回を10日間)。その他の場合の第1選択の静脈内投与抗菌薬には,セファロスポリン系薬剤,アズトレオナム,アンピシリン + ゲンタマイシンなどがある。腎盂腎炎が重症の場合,可能性としてピペラシリン/タゾバクタムまたはメロペネムなどがある。フルオロキノロン系薬剤およびトリメトプリム/スルファメトキサゾールは避けるべきである。再発は一般的にみられることから,一部の専門家は急性感染が消失した後にニトロフラントイン100mg,経口またはセファレキシン250mg,経口,毎晩を妊娠の残りの期間および妊娠後の4~6週間にわたって予防投与することを推奨している。

治療に関する参考文献

  1. Wagenlehner FME, Cloutier DJ, Komirenko AS, et al: Once-daily plazomicin for complicated urinary tract infections.N Engl J Med  380:729-740, 2019.doi: 10.1056/NEJMoa1801467

予防

尿路感染症(UTI)を年間に3回以上経験する女性では,行動療法が推奨され,これには水分摂取量の増加,殺精子剤およびペッサリーの使用回避,排尿を遅延させない,排便後は前から後ろに向かって拭く,腟洗浄の回避,性交の直後に排尿するなどがある。クランベリー製品に女性のUTIに対する予防効果があるとしたエビデンスもあるが,そうでないエビデンスもある;至適な用量は不明であり,シュウ酸が大量に含まれている可能性がある(そのためシュウ酸結石のリスクを高める可能性がある)。そのため,ほとんどの専門家は女性の症候性UTIの予防にクランベリー製品を用いることを推奨していない。(さらなる詳細については,Jepsonらによる2012年コクラン・レビュー[Cochrane Review]の論文,Cranberries for preventing urinary tract infectionsを参照のこと。)

これらの方法が無効に終わった場合は,抗菌薬の予防投与を考慮すべきである。一般的な選択肢としては,継続的な予防と性交後の予防がある。

継続的予防は,一般的には6カ月間の試験投与で開始される。6カ月間の予防的治療後にUTIが再発する場合は,予防を2~3年間繰り返してもよい。抗菌薬の選択は前回の感染症の感受性パターンに依存する。一般的な選択肢はトリメトプリム/スルファメトキサゾール40/200mg,経口,1日1回または週3回,ニトロフラントイン50mgまたは100mg,経口,1日1回,セファレキシン125~250mg,経口,1日1回,ホスホマイシン3g,経口,1日4回に分けて10日間である。フルオロキノロン系薬剤は効果的であるが,耐性が増加しているため,通常は推奨されない。また,フルオロキノロン系薬剤は妊婦および小児では禁忌である。ニトロフラントインは,クレアチニンクリアランスが60mL/min未満の場合は禁忌である。長期使用すると,まれに肺,肝臓,および神経系の損傷につながる可能性がある。メテナミンはCrClが30mL/分を超える高齢者におけるUTIの予防に有効であることが実証されている(1)

女性の性交後の予防は,UTIに性交との時間的関連性が認められる場合により効果的となる可能性がある。通常は継続的予防で使用される薬剤(ただし,ホスホマイシンは除く)の単剤の単回投与が効果的である。

フルオロキノロン系薬剤を使用している女性は,これらの薬剤が胎児に傷害をもたらす可能性があることから,避妊が推奨される。抗菌薬は経口避妊薬の有効性を低下させる可能性が懸念されているが,薬物動態試験では有意な影響も一貫した影響もこれまで示されていない。それでも,一部の専門家は依然として,経口避妊薬を使用している女性に対し,抗菌薬の服用中はバリア式避妊具を使用することを推奨している。

妊婦のUTIの効果的な予防法は,性交後の予防を含め,妊娠していない女性と同様である。該当する患者として,急性腎盂腎炎を呈する妊娠中の患者,妊娠中にUTIまたは細菌尿のエピソードが(治療にもかかわらず)1回を上回って発生した患者,妊娠前に再発性UTIの予防を必要とした患者などが挙げられる。

閉経後女性に対する抗菌薬の予防投与は,上述と同様である。加えて,局所エストロゲン療法は,萎縮性腟炎または萎縮性尿道炎を呈する女性の再発性UTIの発生率を顕著に低下させる。

予防に関する参考文献

  1. Chawa A, Kavanagh K, Linnebur AR, et al: Evaluation of methenamine for urinary tract infection prevention in older adults: A review of the evidence.Ther Adv Drug Saf 2019; 10: 2042098619876749.

要点

  • 細菌性UTIおよびUTI全体で最も頻度の高い原因は,大腸菌(E. coli)とその他のグラム陰性腸菌である。

  • 妊婦,易感染性患者,および侵襲的な泌尿器科的処置を受ける前の患者を除き,無症候性細菌尿には検査および治療は行わない。

  • 一般に,複雑性UTIが疑われる患者では尿培養を行うが,単純性膀胱炎では行わない。

  • 構造的異常の検査は,感染が再発性または複雑性である患者,腎結石症が疑われる患者,無痛性血尿または新たな腎機能不全が認められた患者,および発熱が72時間以上持続する患者に対して行う。

  • UTIに対して抗菌薬療法を選択する場合は,現地の耐性パターンが判明していれば考慮に入れる。

  • 行動的予防療法にもかかわらずUTIが年間に3回以上発生した女性では,抗菌薬による継続的予防または性交後予防を考慮する。

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