B型肝炎,慢性

執筆者:Sonal Kumar, MD, MPH, Weill Cornell Medical College
レビュー/改訂 2020年 12月
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B型肝炎は,慢性肝炎の一般的な原因の1つである。患者は無症候性または疲労および倦怠感のように非特異的症状を呈することがある。診断は血清学的検査による。無治療の場合,しばしば肝硬変を起こし,肝細胞癌のリスクが高まる。抗ウイルス薬を使用すれば,治癒は得られないものの,ウイルスをコントロールすることができる。

肝炎の原因慢性肝炎の概要,およびB型急性肝炎も参照のこと。)

一般に慢性肝炎は6カ月以上続く肝炎と定義されるが,この期間は恣意的である。

B型急性肝炎は,免疫能が正常な患者全体の約5~10%で慢性化する。しかしながら,B型急性肝炎の発症年齢が低いほど,B型慢性肝炎に移行するリスクが高くなる:

  • 乳児:90%

  • 1~5歳の小児:25~50%

  • 成人:約5%

B型急性肝炎は,血液透析を受けている成人の約40%で,また易感染性患者の最大20%で慢性化する。

B型慢性肝炎の患者数は,米国では米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が86万2千人(1)と,全世界では世界保健機関(World Health Organization:WHO)が約2億5700万人(2)と推定している。

無治療の場合,B型慢性肝炎は治癒に至るか(まれ),急速に進行するか,数十年かけて緩徐に進行して肝硬変を引き起こす。治癒は一時的な重症化に続いて始まる場合が多く,結果としてB型肝炎e抗原(HBe抗原)陽性から抗B型肝炎e抗原抗体(HBe抗体)陽性に変化するセロコンバージョンと,それに続くB型肝炎表面抗原(HBs抗原)の消失がみられる。

慢性HBV感染症は肝細胞癌のリスクを高める。

D型肝炎ウイルス(HDV)との同時感染は,最重症型の慢性HBV感染症を引き起こし,無治療では最大70%の患者で肝硬変が発生する。

総論の参考文献

  1. 1.CDC: Hepatitis B questions and answers for health professionals.Accessed 11/29/20.

  2. 2.World Health Organization: Hepatitis B.Accessed 11/29/20.

B型慢性肝炎の症状と徴候

B型慢性肝炎の症状は,基礎にある肝障害の程度に応じて様々である。

多くの患者(特に小児)は無症状である。しかし,倦怠感,食欲不振,および疲労がよくみられ,ときに微熱や非特異的な上腹部の不快感を伴う。黄疸は通常みられない。

多くの場合,最初の所見としては以下がみられる:

肝臓外の臨床像として,結節性多発動脈炎糸球体疾患などがみられることがある。

B型慢性肝炎の診断

  • 血清学的検査

  • 肝生検

以下のうち1つでも該当する項目があれば,B型慢性肝炎の診断が疑われる:

  • 本疾患を示唆する症状および徴候

  • 偶然指摘されたアミノトランスフェラーゼ値の上昇

  • 過去に診断された急性肝炎

B型肝炎表面抗原(HBs抗原)およびB型肝炎ウイルスコアに対するIgG抗体(IgG-HBc抗体)が陽性でIgM-HBc抗体が陰性の所見(B型肝炎の血清学的検査の表を参照)とB型肝炎ウイルスDNAの測定(HBV-DNA定量)により,B型慢性肝炎の診断が確定する。

表&コラム

B型慢性肝炎が確定した場合は,予後を判定するとともに抗ウイルス療法の指針を得るため,通常はB型肝炎e抗原(HBe抗原)およびB型肝炎e抗原に対する抗体(HBe抗体)の検査を行う。血清学的検査でHBV感染症が重症であることが確認された場合は,D型肝炎ウイルスに対する抗体(HDV抗体)を測定する。

反応を評価するために,治療前および治療中にHBV-DNA定量検査(ウイルス量)も行う。

B型慢性肝炎の診断後には,非侵襲的な検査法で線維化の程度を評価する。

肝傷害の程度を評価し,肝疾患の他の原因を除外するため,ときに生検を施行する。治療ガイドラインに明確に一致しない症例では肝生検が最も有用である(American Association for the Study of Liver Diseaseの診療ガイドライン,Hepatitis C Guidance 2019 Update: AASLD-IDSA [Infectious Diseases Society of America]recommendations for testing, managing, and treating hepatitis C virus infectionも参照)。

その他の検査

以前に施行されていなければ,肝機能検査が必要であり,検査項目には血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),およびアルカリホスファターゼを含める。

肝機能と重症度を評価するために,血清アルブミン,ビリルビン,血小板数,プロトロンビン時間/国際標準化比(PT/INR)などの他の検査を行うべきである。

感染経路が類似していることから,患者にはHIV感染症C型肝炎の検査も行うべきである。

慢性肝炎患者においてクリオグロブリン血症の症状または徴候がみられた場合は,クリオグロブリン値とリウマトイド因子を測定すべきであり,リウマトイド因子が高値で補体が低値であれば,クリオグロブリン血症が示唆される。

合併症のスクリーニング

慢性HBV感染症の患者では,超音波検査と血清α-フェトプロテイン値の測定による肝細胞癌のスクリーニングを6カ月毎に行うべきであるが,このスクリーニング(特にα-フェトプロテイン値測定)の費用対効果については議論がある。(コクラン・レビュー[Cochrane Review]「Alpha-foetoprotein and/or liver ultrasonography for of hepatocellular carcinoma in patients with chronic hepatitis B」の抄録も参照のこと。)

B型慢性肝炎の治療

  • 抗ウイルス薬

  • ときに肝移植

(American Association for the Study of Liver DiseaseのHepatitis C Guidance 2019 Update: AASLD-IDSA[Infectious Diseases Society of America]recommendations for testing, managing, and treating hepatitis C virus infectionも参照のこと。)

以下の1つ以上がみられるB型慢性肝炎患者には抗ウイルス治療が適応となる:

  • アミノトランスフェラーゼ高値

  • HBVウイルス量高値

  • 進行性の疾患を示唆する臨床または生検所見

治療の目標はHBV-DNAの排除である(1)。治療により,ときにB型肝炎e抗原(HBe抗原)が消失し,さらにまれであるが,B型肝炎表面抗原(HBs抗原)が消失することもある。しかしながら,B型慢性肝炎の治療を受ける患者の大半は無期限に治療を続ける必要がある。これらの薬剤で本疾患を治癒させることはできない。

不十分な状態で治療を中止すると,再発する可能性があり,重症化することもある。ただし,以下のうち1つが認められる場合,治療を中止することがある:

  • HBe抗原陽性からHBe抗体陽性に移行する。

  • HBs抗原検査が陰性になる。

複数の抗ウイルス薬がB型肝炎に対して活性を示すが,現在推奨されているのはエンテカビル,フマル酸テノホビル ジソプロキシル,テノホビル アラフェナミド,およびペグインターフェロンαの4つのみである:アデホビル,インターフェロンα,ラミブジン,およびテルビブジン(telbivudine)は,使用されてはいるが,有害作用および薬剤耐性発生のリスクが高いため,もはや第1選択の治療としては推奨されていない。

第1選択の治療は通常,以下のいずれか1つによる:

  • エンテカビル(ヌクレオシドアナログ)やテノホビル(ヌクレオチドアナログ)などの経口抗ウイルス薬

  • ペグインターフェロンα

経口抗ウイルス薬は有害作用がほとんどなく,非代償性肝疾患の患者にも投与することができる。副作用として乳酸アシドーシスが起こる可能性があり,臨床的な懸念がある場合は乳酸値を測定すべきである。併用療法が単剤療法より優れているとの証明はまだ得られていないが,有用性を比較する研究が継続中である。治療開始前にHIVの検査を行うべきである。

HBe抗原陽性の慢性HBV感染患者で,HBs抗原が検出できなくなり,HBe抗原セロコンバージョンが起きた場合,このような患者では抗ウイルス薬を中止することができる。HBe抗原陰性の慢性HBV感染患者では,ウイルス抑制を維持するため,ほぼ必ず抗ウイルス薬の服用を無期限に続ける必要があるが,このような患者ではHBe抗原に対する抗体がすでに産生されており,そのためHBVの治療を中止できるとすれば,HBs抗原が検出不能になる特殊な場合のみであろう。

エンテカビルは,高い抗ウイルス活性を備え,薬剤耐性はまれであり,HBV感染症の第1選択薬とされている。エンテカビルはアデホビル耐性株にも効果的である。用量は0.5mgの1日1回経口投与であるが,ヌクレオシドアナログの服用歴がある患者では,1mgを1日1回経口投与すべきである。腎機能不全のある患者では減量が必要である。重篤な有害作用はまれのようであるが,妊娠中の安全性は確立されていない。

テノホビルは,アデホビル(古いヌクレオチドアナログ)に代わって第1選択薬となっている。テノホビルはB型肝炎に対する最も強力な経口抗ウイルス薬であり,薬剤耐性も極めて少ない。有害作用はほとんどない。テノホビルには以下の2種類がある:

  • フマル酸テノホビル ジソプロキシル(TDF)

  • テノホビル アラフェナミド(TAF)(より新しい)

TDFの用量は300mgの1日1回経口投与であり,クレアチニンクリアランス値が低下している場合は,投与頻度の低減が必要になることがある。起こりうる副作用としては,腎症,ファンコニ症候群,骨軟化症などがある。腎障害のリスクが高い患者では,クレアチニンクリアランス,血清リン,尿糖,および尿タンパクを少なくとも年1回の頻度で測定すべきである。骨折の既往または骨減少症の危険因子がある患者では,ベースライン時および治療中の骨密度検査を考慮すべきである。

TAFの用量は25mgの1日1回経口投与であり,クレアチニンクリアランス値が低下している場合でも,用量調節は不要である。TDFとTAFの効力は同程度であるが,腎毒性または骨密度の懸念がある患者ではTAFの方がより安全である。治療開始前および治療中に,血清クレアチニンおよびリン,クレアチニンクリアランス,ならびに尿糖および尿タンパクを測定すべきである。

ペグインターフェロンαは,インターフェロンαの代わりに使用することができる。ペグインターフェロンαの用量は通常,注射による180μgの週1回投与を48週間にわたり継続する。有害作用はインターフェロンαと同様であるが,より軽度である。ペグインターフェロンαによる治療を受けた患者の40%以上が疲労,発熱,筋肉痛,および頭痛を訴える。その他に起こりうる副作用としては,気分の乱れ,血球減少,自己免疫疾患などがある。

ペグインターフェロンαの禁忌としては以下のものがある:

  • 非代償性肝疾患

  • 自己免疫性肝炎

  • 腎不全

  • 免疫抑制

  • 臓器移植

  • 血球減少

ペグインターフェロンαによる治療を受けている患者は,以下の検査でモニタリングすべきである:

  • 血算(1~3カ月毎)

  • 甲状腺刺激ホルモン(3カ月毎)

  • 自己免疫性,虚血性,神経精神医学的,および感染性合併症に対する臨床的なモニタリング

  • 臨床的な懸念がある場合は乳酸値

  • 治療開始前のHIV検査

上記の薬剤が使用できない場合は,望ましいもの以外の抗ウイルス療法(アデホビル,ラミブジン,テルビブジン[telbivudine],インターフェロンα)を考慮してもよい。

アデホビルはヌクレオチドアナログである。用量は10mg,経口,1日1回である。これは腎不全および乳酸アシドーシスのリスクがあるため,望ましい第1選択薬ではない。

ラミブジン(ヌクレオシドアナログ)は,新世代の抗ウイルス薬と比較して薬剤耐性のリスクが高く,効力も低いため,もはやHBV感染症の第1選択薬とはみなされていない。用法・用量は100mg,経口,1日1回であり,有害作用はほとんどない。

テルビブジン(telbivudine)は,ヌクレオシドアナログで,ラミブジンよりも高い効力と力価を有するが,薬剤耐性の頻度が高く,第1選択薬とはみなされていない。用法・用量は600mg,経口,1日1回である。

インターフェロンαは,使用することはできるが,もはや第1選択薬とみなされておらず,概ねペグインターフェロンαに取って代わられている。

肝移植は,HBVによる末期肝疾患に対して考慮すべきである。HBV感染患者では,第1選択の経口抗ウイルス薬の長期使用とB型肝炎免疫グロブリン(HBIG)の移植前後での使用により,肝移植後の転帰が改善する。生存率は他の適応での肝移植と比較して同程度または良好であり,B型肝炎の再発は極めてまれである。

治療に関する参考文献

  1. 1.AASLD-IDSA Hepatitis C Guidance Panel: Hepatitis C Guidance 2019 Update:American Association for the Study of Liver Diseases–Infectious Diseases Society of America (ISDA) Recommendations for Testing,Managing, and Treating Hepatitis C Virus Infection.Hepatology 71 (2):686–721, 2020.doi: 10.1002/hep.31060

B型慢性肝炎の要点

  • B型急性肝炎は患者全体の約5~10%で慢性化し,そのリスクは若年時に最も高くなる(乳児で90%,1~5歳の小児で25~50%,成人で約5%)。

  • WHOは,全世界におけるB型慢性肝炎の患者数を約2億5700万人と推定している。

  • 症状は基礎にある肝傷害の程度に応じて様々である。

  • 抗ウイルス薬を使用することで,肝機能検査の結果と肝臓の組織像を改善し,肝硬変への進行を遅らせることが可能であるが,無期限の服用が必要になる場合もある;新しい薬剤では薬剤耐性の懸念は少なくなってきている。

  • B型肝炎により非代償性肝硬変を来した患者では,肝移植が必要になる場合がある。

B型慢性肝炎についてのより詳細な情報

  1. Alpha-foetoprotein and/or liver ultrasonography for screening of hepatocellular carcinoma in patients with chronic hepatitis B: This study evaluates the beneficial and harmful effects of using alpha-fetoprotein, ultrasonography, or both to screen for hepatocellular carcinoma in patients with chronic hepatitis B.

  2. American Association for the Study of Liver Disease Practice Guidelines: A multidisciplinary panel of experts developed guidelines for diagnosing and managing various hepatic disorders using clinically relevant questions, which are answered by systematic reviews of the literature and followed by data-supported recommendations.The panel rates the quality (level) of the evidence and strength of each recommendation.

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