(肛門直腸疾患の評価 肛門直腸疾患の評価 肛門管は肛門縁から肛門直腸移行部(櫛状線,粘膜皮膚接合部,歯状線)までを指し,肛門直腸移行部には8~12の肛門陰窩と5~8の乳頭がある。肛門管は,肛門周囲の皮膚の延長である肛門上皮に裏打ちされている。肛門管および隣接した皮膚は体性感覚神経に支配され,痛覚刺激に対して感受性が高い。肛門管からの静脈還流は大静脈系を経由するが,肛門直腸移行部は... さらに読む も参照のこと。)
肛門直腸領域の静脈内の圧力上昇により痔核が生じる。この圧は,妊娠,重い物を頻繁に持ち上げること,または排便時のいきみの繰返し(例,便秘による)が原因で生じる。痔核は外痔核または内痔核のことがある。少数の人では,直腸静脈瘤が門脈の血圧上昇によって生じ,これらは痔核とは別である。
外痔核は,歯状線より下方に位置し,扁平上皮に覆われている。
内痔核は歯状線の上方に位置し,直腸粘膜で裏打ちされている。痔核は典型的には右前方,右後方,および左側に起こる。痔核は成人および小児に起こる。
痔核の症状と徴候
痔核はしばしば無症候性であり,突出するだけのこともある。 肛門そう痒症 肛門そう痒症(肛門のかゆみ) 肛門周囲の皮膚はそう痒が生じやすく,これは多くの原因から生じうる( Professional.see table 肛門そう痒症の主な原因)。この病態は肛門そう痒症としても知られている。ときに,患者がその刺激感を誤って疼痛と解釈することがあるため,肛門周囲痛の他の原因(例,膿瘍またはがん)を除外すべきである。 肛門のそう痒の大半は以下のいずれかである: 特発性(大部分) 衛生関連... さらに読む は,痔核が著明に脱出しない限り,痔核によって引き起こされることはまれである。
外痔核は血栓を形成することがあり,有痛性の紫色の腫脹を生じる。まれに,外痔核が潰瘍化し,小出血を来す。肛門領域の洗浄は困難なことがある。
内痔核は典型的には排便後の出血として発症し,患者はトイレットペーパーや,ときに便器の中を見て出血に気づく。内痔核は不快なこともあるが,血栓性外痔核ほど痛みはない。内痔核はときに粘液分泌および残便感を引き起こす。
突出および収縮によって血液供給が妨げられると,痔核嵌頓が起こる。痔核嵌頓は疼痛を引き起こし,ときにそれに続いて壊死および潰瘍化が起こる。
痔核の診断
肛門鏡検査
ときにS状結腸鏡検査または大腸内視鏡検査
疼痛を伴う痔核のほとんどは,血栓性または潰瘍性であるかにかかわらず,肛門および直腸の視診で認められる。肛門鏡検査は,無痛性または出血性痔核の評価に不可欠である。下血の原因は,より重篤な病態が除外された後にのみ(すなわち,S状結腸鏡検査または大腸内視鏡検査にて),痔核にあるとすべきである。
内痔核の分類
グレード | 特徴 |
---|---|
I | 明らかな痔核 脱出なし |
II | バルサルバ手技により脱出 脱出は自然に還納する |
III | バルサルバ手技により脱出 脱出は用手的還納を要する |
IV | 慢性的な脱出 脱出の用手的還納が無効 |
Adapted from the American Society of Colon and Rectal Surgeons’ clinical practice guidelines for the management of hemorrhoids. |
痔核の治療
対症療法:便軟化剤,坐浴,鎮痛薬
ときに血栓性外痔核に対して切除術
内痔核に対して硬化剤注入療法,ゴム輪結紮術,または赤外線光凝固術
(American Society of Colon and Rectal Surgeon[ASCRS]の痔核の管理に関する臨床ガイドラインも参照のこと。)
対症療法
通常は痔核の対症療法だけで十分である。対症療法としては,便軟化剤(例,ジオクチルソジウムスルホサクシネート,オオバコ),排便後毎回および必要に応じて温坐浴(すなわち,耐えられる熱さのお湯を入れた浴槽に10分間座る),リドカイン含有麻酔軟膏,またはマンサク(ハマメリス)の湿布(機序は不明であるが緩和する)がある。血栓性外痔核に起因する疼痛は非ステロイド系抗炎症薬で治療できる。
まれに,外痔核の単純切除術が行われ,これにより痛みが素早く緩和することがある;1%リドカインによる浸潤麻酔後に痔核の血栓部を切除し,欠損部は吸収糸で閉鎖する。
外来での処置
対症療法に反応しないグレードIおよびIIの内痔核患者,ならびにグレードIII(内痔核の分類 内痔核の分類 の表を参照)の内痔核患者の一部に対しては,外来で行える以下の処置で効果的に治療できる(ASCRSの臨床ガイドラインも参照)。
植物油または他の硬化剤に5%フェノールを加えたものを用いる硬化剤注入療法は出血のある内痔核の治療に使用できる。出血は少なくとも一時的には止まるはずである。
より大きな脱出性の内痔核,出血のある内痔核,または保存的管理に反応しない痔核には,ゴム輪結紮術を行う。内外痔核については,内痔核に対してのみゴム輪結紮術を行うべきである。直径0.5cmのゴム輪を引き伸ばし,その中から内痔核をつまんで引き出した後に,ゴム輪を開放して痔核を結紮することで,痔核は壊死し脱落する。典型的には,2週間毎に1つの痔核を結紮し,3~6回の治療が必要になることがある。ときに,複数の痔核を1回の受診で結紮することが可能であるが,処置に伴う痛みはより強い可能性がある。外痔核にはゴム輪結紮は行うべきでない。
赤外線光凝固術は,脱出していない出血を伴う内痔核またはゴム輪結紮術では治癒しない痔核の切除に有用である。
痔核の外科的切除
他の治療法に反応しない患者およびグレードIVの内痔核患者には痔核の外科的切除が必要となる。重大な術後疼痛がよくみられ,同様に尿閉と便秘もよくみられる。
自動縫合器による痔核切除術(stapled hemorrhoidopexy)は,全周性の痔核に対する代替手技であり,従来の外科的痔核切除術と比べて術後疼痛は少ないが再発および合併症発生率は高い。
その他の手技
ドプラ超音波ガイド下の痔核動脈結紮術は,縫合結紮すべき血管を経直腸的超音波プローブを用いて同定するもので,有望ではあるが,総合的な有用性を判断するにはさらなる研究が必要である。
レーザー破壊,凍結療法,および様々な種類の電気破壊は効果が証明されていない。
痔核の要点
外痔核は血栓を形成し,顕著な痛みをもたらすことがあるが,出血はまれである。
内痔核はしばしば出血するが,痛みがあることは少ない。
外痔核の治療としては,通常は便軟化剤,外用療法,および鎮痛薬で十分である。
出血を伴う内痔核は硬化剤注入療法,ゴム輪結紮術,または赤外線光凝固術が必要になることがある。
外科手術は最後の手段である。
痔核についてのより詳細な情報
以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American Society of Colon and Rectal Surgeons: Clinical practice guidelines for the management of hemorrhoids