便秘

執筆者:Jonathan Gotfried, MD, Lewis Katz School of Medicine at Temple University
レビュー/改訂 2020年 3月
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便秘は,排便が困難,排便回数が少ない,便が硬い,残便感がある状態である。(小児の便秘も参照のこと。)

排便ほど変化に富み,外部の影響を受けやすい身体機能はない。排便習慣は人によって大幅に異なり,年齢,生理機能,食事,社会的および文化的影響を受ける。何の根拠もなく排便習慣のことばかり考えている人もいる。欧米では,正常な排便回数は2~3回/日から2~3回/週である。

多くの人が,毎日排便がなければならないと誤解し,排便回数がそれよりも少なければ便秘を訴える。便の外観(大きさ,形状,色)または硬さを気にする人もいる。ときに,主訴は排便行為に対する不満または排便後の残便感である。便秘は,多くの愁訴(腹痛,悪心,疲労,食欲不振)の原因とされているが,これらは実際には基礎疾患(例,過敏性腸症候群[IBS],うつ病)の症状である。患者は,毎日排便することによって全ての症状が緩和するものと期待してはならず,排便習慣を補助する対策を慎重な判断の下に実施すべきである。

強迫症患者は,身体から毎日「不潔な」廃棄物を取り除く必要があるとしばしば感じている。そのような患者は,しばしばトイレで過剰な時間を費やしたり,下剤常習者になったりする。

便秘の病因

急性便秘は器質的原因を示唆する一方,慢性便秘は器質性と機能性の両方がありうる( see table 便秘の原因)。

多くの患者では,便秘は大腸の便通過の遅延と関連する。この遅延は,薬剤,器質的病態,排便機能の障害(すなわち,骨盤底機能不全),または食事によってもたらされる疾患に起因することがある( see table 消化管機能にしばしば影響する食物)。排便障害のある患者は,直腸で十分な蠕動力を生み出せないか,排便時に恥骨直腸筋および外肛門括約筋を弛緩できないか,またはその両方である。過敏性腸症候群(IBS)では,患者は症状(例,腹部不快感および排便習慣の変化)を有するが,一般に結腸通過および直腸肛門機能は正常である。しかしながら,IBSと排便障害が併存することもある。

おそらく骨盤底機能不全に続発する排便時の過度のいきみは,直腸肛門病変(例,痔核裂肛,および直腸脱)に寄与していると考えられ,さらには失神まで引き起こす可能性がある。宿便は,便秘を惹起または便秘によって生じることがあり,高齢患者でよくみられ,特に長期臥床または身体活動低下を呈する患者で多い。バリウムの経口投与後または注腸後にもよくみられる。

表&コラム
表&コラム

便秘の評価

病歴

現病歴の聴取では,患者の排便頻度,便の硬さ,排便時にいきみまたは用手的会陰操作(例,会陰部,殿部,または直腸腟壁を圧迫)の使用が必要か,および排便後の満足感が得られているかについて,緩下薬または浣腸の使用頻度および期間を含め,これまでの病歴を確認すべきである。一部の患者は,便秘歴を否定するが,具体的に尋ねると,1回の排便に15~20分かかることを認める。血便の有無,量,および持続期間についても尋ねるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,原因疾患の症状がないか,便の太さの変化や血便(がんを示唆する)を含めて検討すべきである。慢性疾患を示唆する全身症状(例,体重減少)がないかも検討すべきである。

既往歴の聴取では,既知の原因について,腹部手術の既往,代謝疾患(例,甲状腺機能低下症,糖尿病)および神経疾患(例,パーキンソン病,多発性硬化症,脊髄損傷)の症状も含めて尋ねるべきである。処方薬および非処方薬の使用を入念に評価すべきであり,抗コリン薬およびオピオイドについて具体的に尋ねるべきある。

身体診察

全身状態の観察を実施し,発熱および悪液質などの全身性疾患の徴候がないか検討する。触診で腹部腫瘤がないか検討すべきである。直腸診を行い,裂傷,狭窄,血液,塊(宿便を含む)だけでなく,肛門静止圧(患者が肛門括約筋を締めるときに,恥骨直腸筋が「挙上」する),排便再現時の会陰下垂,直腸の感覚についても評価すべきである。排便障害のある患者では,肛門静止圧の上昇(またはアニスムス),会陰下垂の減少(すなわち,2cm未満)または増加(すなわち,4cm超),および/または排便再現時の恥骨直腸筋の奇異性収縮がみられることがある。

警戒すべき事項(Red Flag)

特定の所見を認める場合には,慢性便秘の病因としてより重篤な病態の疑いが高まる:

  • 腹部膨隆,鼓音

  • 嘔吐

  • 血便

  • 体重減少

  • 高齢患者に新たに発生/悪化した重度の便秘

所見の解釈

特定の症状(例,肛門直腸の閉塞感,長時間の排便または排便困難,摘便が必要な状況)は,特に排便再現時の会陰運動の異常(すなわち,増加または減少)は排便障害を示唆する。腹部の緊張,膨隆,鼓音は,特に悪心および嘔吐がある場合,機械的閉塞を示唆する。

緩下薬を長期間使用中の患者にみられる,軽度の腹部不快感を伴う慢性便秘は,通過遅延型便秘を示唆する。レッドフラグサインのない患者で,便秘を惹起する薬物の開始と同時に生じた急性の便秘は,その薬物が原因であることを示唆する。新規発生した便秘が数週間持続するか,または頻度もしくは重症度の増加を伴って間欠的に起こる場合,既知の原因がない限り,結腸腫瘍または他の原因による部分的閉塞が示唆される。過度のいきみ,長時間または不満足な排便は,指を肛門に入れての排便補助の有無にかかわらず,排便障害を示唆する。宿便のある患者は,腸痙攣を起こして宿便周囲の水様粘液または便素材を排出することがあり,下痢に似た症状を呈する(overflow diarrhea)。

IBSの患者では,典型的には排便習慣の障害を伴った腹痛がみられる。IBSの基準を満たさない慢性便秘患者は,機能性便秘である可能性がある(1)。

検査

検査項目は臨床像および患者の食事歴によって決まる。

病因(薬物,外傷,臥床)が明らかな便秘については,詳細な検討を行わずに対症療法を行ってもよい。腸閉塞の症状がみられる患者では,臥位および立位の腹部X線のほか,ときに大腸閉塞を評価するための水溶性造影剤による下部消化管造影,さらに場合によっては小腸のCTまたはバリウムによるX線撮影を施行する必要がある(腸閉塞の診断も参照)。明らかな病因のない患者の大部分では,大腸内視鏡検査および臨床検査(血算,甲状腺刺激ホルモン,空腹時血糖,電解質,カルシウム)を行うべきである。

通常,さらなる検査は,上述の検査で異常所見が認められる患者または対症療法に反応しない患者にのみ行う。American Gastroenterological Associationによる便秘に関する学会としての医学的声明では,食物繊維よび/または市販緩下薬による試験的治療が提案されている。この試みが不成功に終わった場合は,骨盤底疾患を同定するために直腸肛門内圧測定とバルーン排出試験を行うべきである。内圧測定が陰性で,主訴が排便回数の減少である場合は,X線不透過マーカー法(Sitzマーカー),シンチグラフィー,または無線カプセル法を用いて大腸通過時間を測定すべきである。慢性便秘の患者では,通過遅延型便秘(Sitzマーカーによる検査で異常)と骨盤底筋機能不全(マーカーが遠位大腸にのみ滞留する)を鑑別することが重要である。

評価に関する参考文献

  1. 1.Lacy BE, Mearin F, Chang L, et al: Bowel disorders.Gastroenterology 150(6):1393–1407, 2016.doi: 10.1053/j.gastro.2016.02.031.

便秘の治療

  • 場合によって原因薬剤の中止(いくつかは必要になる可能性がある)

  • 食物繊維の増加

  • 場合によって浸透圧性下剤の試験的な短期間投与

同定された疾患は全て治療すべきである。

要約として便秘の治療に用いる薬剤の表を参照のこと。緩下薬は慎重に使用すべきである。薬物と結合して,その吸収を妨げるものもある(例,リン酸塩,ブラン,セルロース)。急速な便の通過によって,一部の薬物および栄養素は最適な吸収部位を急速に通り過ぎる可能性がある。緩下薬および下剤の使用禁忌として,原因不明の急性腹痛,炎症性腸疾患,腸閉塞,消化管出血,宿便が挙げられる。

食事および行動

十分な便の量を確保するため,食事は適切量の食物繊維(典型的には15~20g/日)を含むべきである。植物繊維は,一般に消化吸収されないので,便の量が増加する。食物繊維の特定成分は,水分も吸収し,便を軟化して排便を容易にする。ブランを含むシリアルと同様に,果物および野菜も供給源として推奨される。食物繊維の補給は,通過正常型便秘の治療には特に効果的であるが,通過遅延型便秘または排便障害に対してはあまり効果的ではない。

行動の変更が有用なことがある。食物の摂取は大腸の運動を刺激するため,患者は毎日同じ時刻,できれば朝食から15~45分後に,排便を試みるべきである。規則正しい急がない排便のために最初はグリセリン坐剤が役立つことがある。

強迫症(強迫性障害)の患者は,この障害に対する治療を必要とする。さらに,毎日排便する必要はないこと,腸に機能する機会を与える必要があること,緩下薬または浣腸を頻繁に使用すると(3日に1回を超える使用)腸が機能する機会がなくなることを,説明しなければならない。

表&コラム

緩下薬の種類

膨張性緩下薬(例,オオバコ,カルシウムポリカルボフィル,メチルセルロース)は,ゆっくりと穏やかに作用し,排便を促進する上で最も安全な緩下薬である。適正な使用法としては,便が軟化膨張するまで徐々に用量を増量し,理想的には,詰まりを予防するため,十分な水分(例,500mL/日の水分を追加)とともに1日3回または1日4回服用させる。腹部膨満は,食物繊維の用量を推奨用量まで徐々に漸増すること,またはメチルセルロースなどの合成繊維の製剤に切り替えることで緩和する場合がある。

浸透圧性緩下薬は,吸収されにくい多価イオン(例,マグネシウム,リン酸塩,硫酸塩),ポリマー(例,ポリエチレングリコール),または炭水化物(例,ラクツロース,ソルビトール)を含有し,これが腸内にとどまるため,腸内の浸透圧が上昇し,水分が腸内に引き込まれる。容量の増加によって蠕動が刺激される。これらの薬剤は通常3時間以内に作用する。

一般に,浸透圧性下剤は定期的に使用した場合にも妥当な安全性を示す。しかしながら,リン酸ナトリウムは腸管の前処置を目的とした単回使用の後でもまれに急性腎不全を引き起こすことがあるため,腸洗浄には使用すべきではない。これらのイベントは,主に高齢患者,すでに腎疾患に罹患している患者,腎血流または腎機能に影響する薬剤(例,利尿薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬)を服用している患者で起きている。また,マグネシウムおよびリン酸塩は一部吸収されるため,一部の疾患(例,腎機能不全)では有害な場合がある。ナトリウム(一部の製剤に含まれる)は心不全を悪化させることがある。これらの薬剤を大量または頻回に投与すると,水・電解質バランスが乱れる可能性がある。診断検査または外科手術のために腸を洗浄する別のアプローチとして,またはときに慢性便秘に対して,平衡浸透圧性薬剤(例,ポリエチレングリコール電解質溶液)を経口または経鼻胃管にて大量投与する。

分泌性または刺激性下剤(例,フェノールフタレイン,ビサコジル,アントラキノン系,ヒマシ油)は,腸粘膜を刺激することによって,または粘膜下神経叢および筋層間神経叢を直接刺激することによって作用する。フェノールフタレインは,動物試験で発がん性が示唆された後に米国市場から撤去されたが,ヒトにおける疫学的エビデンスはない。ビサコジルは慢性便秘に対する効果的なレスキュー薬である。センナ,カスカラサグラダ,アロエ,およびダイオウに含まれるアントラキノン類は,ハーブおよびOTC医薬品としての緩下薬の一般的な成分である。これらは結腸まで無変化で通過し,ここで細菌代謝により活性型に変換される。

有害作用としては,アレルギー反応,電解質減少,大腸メラノーシス,cathartic colonなどがある。大腸メラノーシスは,大腸にみられる黒褐色の組成不明の色素沈着である。Cathartic colonとは,刺激性下剤を長期使用している患者の下部消化管造影で観察される結腸の解剖学的変化を指す。cathartic colonは,便秘を引き起こして緩下薬の使用量を増加させ,それにより便秘が増加するという悪循環を形成する。この病態はアントラキノン系薬剤による筋層間神経叢のニューロン破壊によるものとされているが,現在入手可能な薬剤や入手不能となっている神経毒性のある他の薬剤(例,ポドフィリン[podophyllin])によってcathartic colonが生じるか否かは不明である。アントラキノン系薬剤の長期使用によって結腸癌の発生リスクが増加することはないようである。

浣腸剤を使用することができ,具体的には水道水および市販の高張液などがある。

便軟化剤(例,ジオクチルソジウムスルホサクシネート,鉱油)は緩やかに作用し,便を軟化して排便を容易にする。しかしながら,強力な排便促進剤ではない。ジオクチルソジウムスルホサクシネートはサーファクタントの一種であり,水分が便塊に入るのを可能にし,便を軟化膨張させる。

末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA;例,メチルナルトレキソン,ナロキセゴール[naloxegol],ナルデメジン)は,他の方法では消失しないオピオイド誘発性便秘の治療に使用できる。アルビモパン(alvimopan)は,術後イレウスの治療を目的とする手術患者への病院での短期使用に利用可能である。

宿便

宿便の治療には,浣腸剤としてまず水道水を使用し,その後,市販の高張液を少量(100mL)使用する。これらが奏効しなければ,指で便塊を崩して便塞栓を解除しなければならない場合もある。この処置は痛みを伴うため,直腸周囲および直腸内への局所麻酔薬(例,5%リドカイン軟膏または1%ジブカイン軟膏)の塗布が推奨される。鎮静薬を必要とする患者もいる。

老年医学的重要事項

便秘は高齢者でよくみられ,これは低繊維食,運動不足,併存する医学的状態,および便秘をもたらす薬物の使用に起因する。多くの高齢者は正常の排便習慣について誤解しており,定期的に緩下薬を使用している。高齢者に便秘の素因となる他の変化としては,直腸コンプライアンスの増加および直腸の感覚障害がある(このため便意を誘発するためにより大きな直腸容量が必要となる)。

便秘の要点

  • 薬剤によってもたらされることが多い(例,抗コリン薬またはオピオイドの使用)。

  • 便秘が急性かつ重度の場合,腸閉塞に注意する。

  • 食物繊維および/または緩下薬による試験的治療が不成功に終わった場合は,骨盤底機能障害を除外するために,直腸肛門内圧測定とバルーン排出試験を行うべきである。

便秘についてのより詳細な情報

  1. American Gastroenterological Associationの便秘に関する学会としての医学的声明

排便困難

排便困難は排便が困難な状態である。患者は,便の存在および便意を感じるが,排便できない。骨盤底筋と肛門括約筋の協調が欠けているために起こる。診断には直腸肛門の検査が必要である。治療は困難であるが,バイオフィードバックが有益となりうる。

排便困難の病因

正常では,排便しようとすると,直腸圧の上昇と協調して外肛門括約筋が弛緩する。この過程は,病因不明な1つ以上の機能不全(例,直腸の収縮障害,腹壁の過度の収縮,肛門の奇異性収縮,肛門の弛緩不全)によって影響を受けることがある。機能性排便障害はあらゆる年齢層で起こりうる。これに対し,直腸肛門抑制反射の喪失を原因とするヒルシュスプルング病は,ほぼ全例で乳児期または小児期に診断される。過敏性腸症候群(IBS)の患者には,IBSによる排便障害のために排便困難を来すことがある。

排便困難の症状と徴候

患者は直腸内に便があることを感じる場合もあれば,感じない場合もある。長時間のいきみにもかかわらず,排便は長時間にわたるか不可能であり,しばしば軟便または浣腸後でも同様である。患者は肛門の閉塞を訴え,指で直腸の便を取り除くか,または用手的に会陰を支えるか,腟に指を入れて排便を促すことがある。実際の排便回数は減少することも減少しないこともある。

排便困難の診断

  • 直腸肛門内圧測定とバルーン排出試験

直腸診および内診によって,骨盤底筋および肛門括約筋の緊張亢進が認められることがある。いきんでいる際に,患者は予測される肛門弛緩および会陰下垂を示さないことがある。肛門の弛緩異常の患者では,過度のいきみにより直腸前壁が腟へ脱出するため,直腸瘤は通常原発性疾患ではなく続発性疾患である。常にいきみを伴う慢性的な排便困難は孤立性直腸潰瘍,様々な程度の直腸脱,過度の会陰下垂,あるいは腸瘤を引き起こすことがある。

本疾患の診断には直腸肛門内圧測定とバルーン排出試験,ときに排泄性直腸造影または磁気共鳴直腸造影による補助診断が必要である。

排便困難の治療

  • バイオフィードバック

緩下薬による治療は奏効しないため,難治性便秘の患者では直腸肛門機能の評価が重要である。バイオフィードバック療法は,排便時の腹部収縮と骨盤底弛緩の協調を改善し,それによって症状を緩和する。しかしながら,排便障害に対する骨盤底の再訓練は高度に専門的であり,限定された医療施設でしか受けることができない。協調的アプローチ(理学療法士,栄養士,行動療法士,消化器専門医)が必要である。

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