良性腫瘍としては,平滑筋腫,脂肪腫,神経線維腫,線維腫などがある。これらはいずれも腹部膨隆,疼痛,出血,下痢を引き起こすことがあり,閉塞が発生した場合には,嘔吐を惹起する可能性がある。ポリープは結腸ほど頻度が高くない。
悪性腫瘍である腺癌はまれである。通常,十二指腸または近位空腸に生じ,惹起される症状は最小限である。小腸を侵すクローン病の患者では,腫瘍は遠位に,そしてバイパスされた腸係蹄または炎症を起こした腸係蹄に発生する傾向がある。
回腸に原発性悪性 リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫は,網内系およびリンパ系から発生する不均一な一群の腫瘍である。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別される( ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の比較の表を参照)。 リンパ腫はかつて, 白血病とは全く異なる疾患と考えられていた。しかし現在では,細胞マーカーとそれらのマーカーを評価するツールについて理解が深まったことで,これら... さらに読む が生じると,腸が硬化し長くなる可能性がある。小腸リンパ腫は,長期にわたり未治療の セリアック病 セリアック病 セリアック病は,遺伝的感受性を有する者に免疫を介して発生する疾患で,グルテン不耐症によって引き起こされ,粘膜炎症および絨毛萎縮が生じ,その結果,吸収不良を来す。症状としては通常,下痢や腹部不快感などがみられる。診断は小腸生検により行い,生検では特徴的であるが非特異的な病理的変化である絨毛萎縮が示され,この変化は厳格なグルテン除去食で消失する。 セリアック病は 吸収不良を引き起こす疾患である。... さらに読む で発生しうる。
カルチノイド腫瘍 カルチノイド腫瘍の概要 カルチノイド腫瘍は,消化管(90%),膵臓, 気管支のほか,まれに泌尿生殖器においても神経内分泌細胞から発生する。消化管カルチノイド全体の95%以上が虫垂,回腸,直腸という3カ所から発生する。 カルチノイドはしばしば良性であるか,浸潤性であっても限局的であるが,回腸および気管支を侵すものは悪性であることが多い。悪性腫瘍は高分化型から低分化... さらに読む (消化管神経内分泌腫瘍とも呼ばれる)は,小腸(特に回腸)および虫垂に好発し,これらの部位では大きな病変が悪性化する可能性がある。50%の症例では複数の腫瘍が発生する。直径が2cmを超える腫瘍の80%は手術時までに局所または肝臓に転移している。小腸カルチノイドの約30%が閉塞,疼痛,出血またはカルチノイド症候群を引き起こす。カルチノイド腫瘍の治療は外科的切除により,再手術が必要になることがある。遠隔転移を来したカルチノイド腫瘍には,用量を漸増しながら長時間作用型ソマトスタチンアナログを使用する治療法,放射性標識ソマトスタチンアナログを用いるペプチド受容体放射性核種療法(PRRT),またはエベロリムスを用いることで,効果的に病勢をコントロールすることができる。
カポジ肉腫 カポジ肉腫 カポジ肉腫は,ヘルペスウイルス8型によって引き起こされる多中心性の血管性腫瘍である。病型として古典的カポジ肉腫,AIDS関連カポジ肉腫,風土病型(アフリカ型)カポジ肉腫,および医原性カポジ肉腫(例,臓器移植後)がある。診断は生検による。進行の緩徐な表在性病変に対する治療としては,凍結療法,電気凝固術,切除,または電子線照射療法が施行される。さらに広範な病変には放射線療法を用いる。AIDS関連では,抗レトロウイルス薬で最も大きな改善が得ら... さらに読む は,当初は高齢のユダヤ人およびイタリア人男性の疾患として報告されたが,進行の速い病型がアフリカ人,移植患者,およびAIDS患者に発生し,それらの患者の40~60%では消化管病変がみられる。病変は消化管内のいずれの部位にも起こりうるが,通常は胃,小腸,または遠位結腸に発生する。消化管病変は通常,無症状であるが,出血,下痢,タンパク漏出性胃腸症,腸重積症が起こることもある。 カポジ肉腫の治療 治療 カポジ肉腫は,ヘルペスウイルス8型によって引き起こされる多中心性の血管性腫瘍である。病型として古典的カポジ肉腫,AIDS関連カポジ肉腫,風土病型(アフリカ型)カポジ肉腫,および医原性カポジ肉腫(例,臓器移植後)がある。診断は生検による。進行の緩徐な表在性病変に対する治療としては,凍結療法,電気凝固術,切除,または電子線照射療法が施行される。さらに広範な病変には放射線療法を用いる。AIDS関連では,抗レトロウイルス薬で最も大きな改善が得ら... さらに読む は,細胞型および病変の部位と進展範囲によって異なる。
総論の参考文献
1.Siegel RL, Miller KD, Jemal A: Cancer statistics, 2020.CA Cancer J Clin 70(1):7–30, 2020. doi: 10.3322/caac.21590
小腸腫瘍の診断
ゾンデ法による小腸造影
ときにプッシュ式小腸内視鏡検査またはビデオカプセル内視鏡検査
小腸の腫瘤病変で最も頻度が高い検査は,おそらく ゾンデ法による小腸造影 ゾンデ法による小腸造影 X線および他の造影検査は,咽頭から直腸までの消化管全体を可視化し,腫瘤病変と構造的異常(例,腫瘍,狭窄)の検出に最も有用である。単一造影法は,放射線不透過物質で管腔内を充満させて,構造の輪郭を描出する。二重造影法では,少量の高濃度バリウムで粘膜表面を覆い,臓器をガスで膨らませてコントラストを増強することで,より詳細な画像が得られる。二重造影法による下部消化管造影では施行者によってガスが注入されるが,その他の検査では内因性の消化管ガスで十... さらに読む (ときにCT enteroclysis)である。
腫瘍の観察および生検を目的として,小腸内視鏡を用いた小腸のプッシュ式内視鏡検査を行うことがある。
ビデオカプセル内視鏡検査 ビデオカプセル内視鏡検査 ビデオカメラを搭載した内視鏡は,咽頭から近位十二指腸までの上部消化管と肛門から盲腸まで(ときに回腸末端まで)の下部消化管の観察に使用できる。他のいくつかの診断的および治療的介入も内視鏡下で施行することができる。内視鏡検査は1回の手技で診断と治療をできる可能性があるため,画像だけが得られる検査(例,X線造影検査,CT,MRI)と比較して大きな利点があり,高費用であることおよび鎮静薬が必要であることをしばしば補って余りある。... さらに読む は小腸病変,特に出血部位を確認するのに役立つ可能性があり,飲み込まれたカプセルは,1秒間に2枚の画像を体外の記録装置に転送する。最初に作られたカプセルは胃や大腸では転がってしまうため,これらの大きな臓器の検査には有用でないことから,このような径のより大きな臓器での使用を目的に,光学機能および照明機能のより優れた結腸カプセル内視鏡の開発が進められている。
小腸腫瘍の治療
外科的切除
小腸腫瘍の治療は外科的切除である。
小腸内視鏡検査または手術時の電気焼灼,熱による除去,あるいはレーザー光線療法を切除の代替としてもよい。