イレウス

(麻痺性イレウス;adynamic Ileus;不全麻痺)

執筆者:Parswa Ansari, MD, Hofstra Northwell-Lenox Hill Hospital, New York
レビュー/改訂 2020年 4月
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イレウスとは,腸蠕動が一時的に停止した状態である。腹部手術後,特に腸管に操作を加えた場合に最もよくみられる。症状は悪心,嘔吐,および漠然とした腹部不快感である。診断はX線所見および臨床像に基づく。治療は支持療法であり,経鼻胃管吸引と輸液を行う。

イレウスの病因

イレウスの最も一般的な原因は以下のものである:

  • 腹部手術

その他の原因としては以下のものがある:

腹部手術後には胃および大腸の運動障害がよくみられる。典型的には小腸に対する影響は最も小さく,運動および吸収は術後数時間以内に正常に戻る。胃内容の排出は通常約24時間以上にわたり阻害される。大腸は最も侵される頻度の高い部位であり,48~72時間以上にわたって活動を停止することがある。

イレウスの症状と徴候

イレウスの症候としては,腹部膨隆,悪心,嘔吐,漠然とした不快感などがある。機械的腸閉塞でみられる古典的な仙痛パターンは,まれにしか起こらない。重度で持続性の便秘または少量の水様便を認めることがある。聴診では腸雑音消失または蠕動微弱を認める。基礎疾患が炎症性でない限り,腹部圧痛はない。

イレウスの診断

  • 臨床的評価

  • ときにX線検査

最も重要な課題は,イレウスと腸閉塞を鑑別することである。どちらの状態でも,X線では一部の腸管分節にガスによる拡張が認められる。ただし,術後イレウスでは,小腸よりも大腸に多くのガスが蓄積する可能性がある。小腸における術後のガス蓄積は,しばしば合併症(例,閉塞腹膜炎)の発生を示唆する。他の種類のイレウスにおけるX線所見は閉塞に類似しているため,臨床的特徴がどちらか一方を明らかに支持しない限り鑑別は困難なことがある。造影CTは両者の鑑別に有用であり,イレウスの原因疾患が示唆されることがある。

イレウスの治療

  • 経鼻胃管吸引

  • 輸液

イレウスの治療として,持続的な経鼻胃管吸引,絶食,輸液および電解質の静脈内投与,必要最小限の鎮静薬投与,オピオイドおよび抗コリン薬の回避を行う。十分な血清カリウム値(4mEq/L[4.00mmol/L]超)の維持は特に重要である。1週間を超えて持続するイレウスは,おそらく機械的腸閉塞が原因であり,開腹を考慮すべきである。

ときに大腸イレウスは大腸内視鏡検査による減圧で治癒することがあり,まれに盲腸吻合術が必要である。偽閉塞(Ogilvie症候群)は,脾弯曲部に明らかな閉塞があるが,この部位でのガスおよび便の通過障害の原因が下部消化管造影や大腸内視鏡検査で特定できない病態であり,偽閉塞の治療には大腸内視鏡による減圧が役立つ。Ogilvie症候群の治療にネオスチグミンの静注(心電図モニタリングが必要)を用いる医師もいる。

イレウスの要点

  • イレウスには多くの原因があるが,最も一般的な原因は腹部手術である。

  • 聴診では腸雑音消失または蠕動微弱を認める。

  • イレウスと腸閉塞を鑑別する。

  • 経鼻胃管吸引と輸液で治療する。

  • オピオイドおよび抗コリン薬の使用は避ける。

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