
妊娠高血圧腎症および子癇の概要
妊娠高血圧腎症は妊婦だけに起こる疾患であり,妊娠20週以降に起こり,一部の症例では分娩の6週間後までに発症します。妊娠高血圧腎症は,新規発症の高血圧および腎障害のマーカーであるタンパク尿を引き起こすほか,脳や肝臓などの他の臓器にも損傷を与える可能性があります。症状には様々なものがあります。無症状の女性や軽度の症状しかみられない女性もいる一方,生命を脅かす疾患に進行する女性もいます。妊娠高血圧腎症の女性が痙攣発作を起こした場合は,子癇と呼ばれます。
妊娠高血圧腎症は,最初の妊娠,多胎妊娠,または35歳以上の母親において,より頻繁に起こる傾向があります。その他の危険因子には,高血圧,糖尿病,肥満,または妊娠高血圧腎症の家族歴などがあります。
では,なぜ妊娠高血圧腎症や子癇ではこういった変化が起こるのでしょうか。正確な原因は不明ですが,重要な病態生理学的特徴は異常な胎盤の発生です。正常では,妊娠中にらせん動脈は正常時の太さの5~10倍に拡張し,発育中の胎児に大量の血流供給を可能にする太い子宮胎盤動脈となります。妊娠高血圧腎症では,それらの子宮胎盤動脈が線維化することにより狭小化しますが,これは胎盤に送られる血液量が減少することを意味します。
胎盤への灌流が不十分になると,胎児発育不全が起きる可能性があり,重症の場合は胎児死亡に至ることもあります。このように灌流が低下した胎盤からは,炎症性タンパク質が放出されるようになります。それが母親の循環血中に入り,血管の内側を覆う内皮細胞に機能障害を引き起こします。
内皮細胞の機能障害は血管収縮を引き起こして血管が狭くなり,腎臓にも影響を及ぼして塩分の保持量を増加させ,これら両方が高血圧をもたらします。
妊娠高血圧腎症の診断において,高血圧は収縮期血圧が140mmHg以上,拡張期血圧が90mmHg以上,またはこの両方に該当する場合と定義されます。重症の妊娠高血圧腎症では,収縮期血圧が160 mmHg以上,拡張期血圧が110mmHg以上になることがあります。これほど血圧が極端に上昇すると,出血性脳卒中や常位胎盤早期剥離の原因になる可能性があり,後者では子宮壁から胎盤が早期に剥離します。
また,局所的な血管攣縮もみられることがあり,体の特定の部位に送られる血液量が減少します。例えば,特に影響を受けやすい腎臓の血流低下は糸球体損傷につながり,尿量が異常に減少する乏尿になるほか,タンパク尿がみられることもあります。腎臓の糸球体は正常ではタンパク質が尿中に漏出するのを防ぐ役割を果たしているため,タンパク尿は糸球体損傷の徴候である可能性があり,妊娠高血圧腎症の古典的徴候の1つとされています。網膜への血流が減少すると,霧視や閃光を見ているような感覚が生じたり,暗点が現れたりすることがあります。暗点とは,視野のごく一部だけで視力がわずかに低下した状態で,正常なコンピュータのモニターにぼやけた点がある状態に似ています。
肝臓への血流が減少すると,肝臓に重度の損傷および腫脹が生じることがあり,それにより肝酵素値の上昇や肝周囲の被膜の伸展が起きる可能性があります。肝被膜の伸展は,典型的には右上腹部痛または心窩部痛を引き起こし,これらは重症の妊娠高血圧腎症での主症状の1つです。
内皮損傷は微小血管における多数の微小血栓の形成にもつながり,その過程で大量の血小板が消費されます。そうした多数の微小血栓が血液中に存在するという状況は,勢いよく流れる川の中央に何十個もの岩が置かれている状態に似ています。それらは流れていく赤血球にとって危険な障害物となり,やがて赤血球は血栓にぶつかって破壊されますが,このプロセスを溶血と呼んでいます。以上を併せた概念がHELLP症候群で,HELLPのHは溶血,ELは肝酵素の増加,LPは血小板数の減少を表します。HELLP症候群は,重症の妊娠高血圧腎症または子癇の女性の約10~20%に発生します。
やがて,内皮損傷により血管透過性が亢進し,隣接する内皮細胞の隙間から水分が漏出して組織内に入るようになります。タンパク尿のために血液からタンパク質も失われるため,さらに多くの体液が血管から組織へと移動します。
そしてこれにより,しばしば下肢,顔面,および手にみられる全身性浮腫,咳嗽や息切れを引き起こす肺水腫,ならびに頭痛,錯乱,痙攣発作を引き起こす脳浮腫が引き起こされます。こうした痙攣発作が子癇発症の定義の定義とされています。
妊娠高血圧腎症および子癇でみられる問題はいずれも胎盤の機能不全に起因するため,最終的な治療は胎児と胎盤を娩出することになります。分娩を誘発するという決定は,疾患の重症度や疾患が母体と胎児の両者の健康にどのような影響を及ぼしているかだけでなく,胎児の在胎期間にも大きく依存します。分娩後に症状が現れた場合は,ゆっくりと自然に治まっていく症状を管理することが目標になります。追加の対策として,もし末端臓器の損傷があれば,酸素投与のほか,痙攣発作やその他の合併症(脳卒中や常位胎盤早期剥離など)を管理するための薬剤投与によって,それを管理します。
以上のように,妊娠高血圧腎症は妊娠20週から分娩後6週間までに起こる疾患です。新規発症の高血圧およびタンパク尿により定義されていますが,多くの臓器,特に腎臓,眼,肝臓,および脳に影響を及ぼす可能性があります。妊娠高血圧腎症の患者が痙攣発作を起こした場合に子癇と診断されます。
ご視聴ありがとうございました。私たちのチャンネルを購読していただくか,ソーシャルメディアで私たちのことをご友人にお話しいただけると,私たちにとってありがたい支援になります。
This video is created as a collaboration between The Manuals and Osmosis(https://open.osmosis.org/).