呼吸性アルカローシスの概要

呼吸性アルカローシスの「アルカローシス」とは血液のpHを7.45以上に上昇させる過程を指し,「呼吸性」とは,それがpHを均衡させる役割を果たすべき呼吸器系の機能不全に起因するということを意味します。

正常な状態では,吸気時に横隔膜と胸壁の筋肉が収縮して胸郭が引き開けられ,そこに掃除機のように空気が吸い込まれます。続いて,呼気時には,筋肉が弛緩して肺内のエラスチンが反動で跳ね返り,肺が元の大きさに引き戻されて空気が押し出されます。重要なのはとにかく,肺は酸素を体内に引き入れ,二酸化炭素(CO2)を除去する必要があるということです。CO2は血中で水(H2O)と結合して炭酸(H2CO3)を形成し,これが水素イオン(H+)と重炭酸イオン(HCO3-)に解離します。pHの変動を防ぐためには,CO2濃度,すなわちCO2の分圧(PCO2)をかなり狭い範囲内に保つ必要があります。このため,肺の換気速度は,組織でCO2が産生されるのと同じ速度でCO2を除去できるレベルに維持されています。PCO2が低下し始め,pHが上昇し始めると,頸動脈壁および大動脈弓壁にある末梢の化学受容器の発火が減弱し,これが脳幹の呼吸中枢に呼吸数および呼吸の深さを減らす必要があることを知らせます。呼吸数が減少し,呼吸が浅くなるにつれて,分時換気量(1分間に肺に出入りする空気の量)も減少します。換気が低下するということは,体外に排出される二酸化炭素(CO2)の量が減少し,体内のPCO2が上昇してpHが低下することを意味します。

呼吸性アルカローシスでは,正常な換気機構が障害され,分時換気量がpHの均衡を保つのに必要な量よりも多くなります。換気を増加させるためには,呼吸中枢の発火頻度が高まる必要があります。この発火の増加は,正常な代償反応である場合もあれば,実際には換気の増加を必要としない状況における異常な反応である場合もあります。低酸素症(血中酸素濃度の低下)に対する換気の増加は正常な反応であり,低酸素症は肺炎や肺塞栓症などの疾患に伴って発生するほか,エベレストなどの高い山に登ったときにも発生することがあります。しかし,換気の増加は異常な反応である場合もあり,不安やパニック発作,敗血症,またはサリチル酸塩の過剰摂取などの状況で起こることがあります。

まれに,脳幹障害により呼吸中枢が刺激され,その発火頻度が高まることがあります。ときに,分時換気量の増加が医原性,すなわち医学的介入に起因することもあります。例えば,患者が挿管されて,人工呼吸器を使用している場合があります。人工呼吸器の設定が誤っていると,呼吸性アルカローシスを引き起こすことがあります。

これら全ての状況において,結果として肺からのCO2の除去が過剰になります。すると,血液中のCO2が枯渇するため,PCO2は低下し,その値は通常,35mmHgを下回ります。その結果,血液のpHが上昇し,しばしば7.45を超えます。このpHの上昇を代償するために,身体にはいくつかの機序が備わっています。第一に,呼吸性アルカローシスの発生から数分後に,細胞内(特に赤血球)内の酸性分子,例えばヘモグロビンのようなタンパク質の表面にあるカルボキシル基(-COOH)が,大量の水素イオン(H+)を放出します。これらの水素イオン(H+)は血液中に拡散し,重炭酸イオン(HCO3-)を補足して炭酸(H2CO3)を生成し,これが最終的に二酸化炭素CO2と水H2O分子に解離します。これにより,血液中の主なアルカリ分子である血漿HCO3-濃度がわずかに低下します。しかし,これらの細胞内タンパク質の濃度は,血中に浮遊しているHCO3-の量に比べてあまりに低いのです。つまり,これらのHCO3-分子に結合して中和できる水素イオン(H+)の量は限られているということです。その結果,ほとんどの場合,遊離重炭酸イオン(HCO3-)の減少はpHに実質的な影響を及ぼすには不十分で,PCO2の10mmHgの低下に対してHCO3-は約2mEq/Lしか低下しません。例えば,PCO2が40mmHgから20mmHgへと急激に20mmHg低下した場合,この機序では血漿重炭酸濃度は基準値である24mEq/Lから20mEq/Lまで4mEq/Lしか低下せず,pHに大きな影響を及ぼすことはできません。したがって,この病態の急性期にはpHは高いままにとどまります。

幸いにも,約3~5日以内に腎臓がpHの異常拘置を感知し始め,不均衡の是正に乗り出します。これを行う具体的な方法は,主に近位尿細管の細胞からのHCO3-の排泄を増やすことです。実際,腎臓はPCO2が10mmHg低下する毎にHCO3-の濃度を約4~5mEq/L低下させるので,これにはかなりの効果があります。したがって,PCO2が40mmHgから20mmHgへとに20 mmHg低下した場合,血漿重炭酸イオン(HCO3-)は基準値の24mEq/Lから16mEq/Lへと8mEq/L低下します。これによりpHが大幅に低下し,再び正常範囲に近づきます。

以上のように,呼吸性アルカローシスは,肺から必要以上にCO2が呼出され,血液のpHが7.45を超えて上昇することで発生します。これは,腎性代償(血中HCO3-濃度を低下させる)の有無によって急性期と慢性期に分けられます。

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