肩関節脱臼の整復法の概要

執筆者:Matthew J. Streitz, MD, San Antonio Uniformed Services Health Education Consortium
レビュー/改訂 2019年 12月
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    肩関節の閉鎖性脱臼の整復には多くの方法がある。例外なく成功する方法はないため,術者はいくつかの方法に精通しておくべきである。

    脱臼の概要および肩関節脱臼も参照のこと。)

    肩関節前方脱臼の整復法には以下のようなものがある:

    オリジナルのHippocrates法(患側の腋窩に術者の踵を当てて対抗牽引力を生み出す)は,損傷を引き起こすため,行ってはならない。てこの原理で上腕骨に強い力を加えるKocher法も,合併症のリスクが高いため,行ってはならない。

    前方脱臼の整復法では,一般に軸方向の牽引および/または外旋を行う。完璧な方法や最善の方法は存在しない。最も重要なこととして,術者はいくつかの方法に精通し,患者の脱臼および臨床状態に適した方法を用いるべきである(肩関節前方脱臼:治療を参照)。

    整復の試みは,特に鎮静なしで行う場合,患者がリラックスして協力的であれば成功する可能性がより高くなる。鎮痛および鎮静は筋攣縮の軽減に役立つ場合があり,会話などで気をそらすことについても同様である。

    患者に鎮痛を勧めるべきである。しかしながら,患者が希望する場合は,愛護的な整復法(例,Davos法,肩甲骨の徒手整復,Hennepin法,FARES法)による整復を鎮痛なしで1回試みてもよい。X線検査中や他の処置前の準備中の痛みを軽減するため,初期評価の際から鎮痛薬の静脈内投与および/または麻酔薬の関節内注射を行ってもよい。不安が強く筋攣縮が多い患者や,比較的強い力を必要とする整復法(例,牽引-対抗牽引法およびStimson法)に対しては,処置時の鎮静・鎮痛(PSA)を用いてもよい。

    後方脱臼または下方脱臼(直立脱臼)の整復では通常,牽引-対抗牽引法を行う。これらの脱臼を整復する前には,可能であれば,整形外科医へのコンサルテーションを行うべきである。

    脱臼自体(前方脱臼の場合が最も多い)または整復処置が原因で神経血管損傷が生じることがある。整復が遅れれば神経血管合併症のリスクが高まるため,関節は可能な限り早く整復すべきである。筋攣縮の増強を避けるために,全ての整復は愛護的に徐々に行い,多くの場合,より強い力を用いる整復法の前により弱い力を用いる整復法を試みる。腕神経叢損傷が疑われる場合は,愛護的な方法を選択することが特に重要である。

    神経血管系の評価を,処置の前に加えて,整復を試みた後に毎回行う。診察には,末梢の脈拍および指の毛細血管再充満時間(腋窩動脈),上腕外側部の触覚(腋窩神経),ならびに橈骨神経,正中神経,および尺骨神経の機能(腕神経叢)の評価を含める。

    例えば以下のような複雑な肩関節損傷がある場合は,整復前に整形外科医へのコンサルテーションを行うべきである:

    • 1cmを超える転位のある大結節骨折

    • 重大なHill-Sachs病変(関節窩縁への衝突による上腕骨頭の20%以上の変形)

    • 上腕骨外科頸骨折(大結節および小結節の下)

    • 20%を超える骨片と肩甲上腕関節の不安定性を伴うBankart病変(関節窩前下縁)

    • 2 part以上の上腕骨近位端骨折

    整復前に整形外科医へのコンサルテーションを行うべき他の理由としては以下のものがある:

    • 関節が露出している(すなわち開放性脱臼)

    • 患者が小児である(骨端軟骨[成長板]の骨折を合併していることが多いため)

    • 脱臼が起きてから7~10日以上経過している(整復時に腋窩動脈の損傷が生じるリスクが高いため,特に高齢患者の場合)

    非観血的整復の試みが2~3回不成功に終わった場合,または整復に成功しても以下に該当する場合は,整形外科医へのコンサルテーションを行うべきである:

    • 複雑な肩関節損傷が疑われる(例,脱臼に加えて骨折,腋窩神経損傷,または肩腱板断裂

    • 患者にとって初めての脱臼である

    ただし,いかなる患者でも,神経血管障害がある場合は直ちに整復を行う必要がある。整形外科医がいない場合は,非観血的整復を試みてよく,理想的には最小限の力で行う;整復が成功しない場合は,手術室で全身麻酔下で行わなければならないことがある。

    整復が成功したことを記録し,骨折の有無を再度確認するために,通常は整復後にX線検査を施行すべきである。ただし,損傷が軽微な反復性の肩関節前方脱臼の患者では,X線検査が必要ない場合もある。

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