修正大血管転位症(CCTGA)では,右房が右側にある解剖学的左室に結合し,それが肺動脈へとつながり,左房が左側にある解剖学的右室に結合し,それが大動脈へとつながっている。この血流パターンでは,心腔の連絡に異常があるにもかかわらず,循環は生理的に是正される。複数の合併異常により,幅広い臨床像がみられる。診断は身体診察,心電図検査,画像検査,および心臓カテーテル検査による。治療は薬剤,手術,および植込み型心臓デバイスによる。
(心血管系の先天異常の概要も参照のこと。)
修正大血管転位症(左旋性大血管転位症)は比較的まれであり,先天性心形成異常の約0.5%を占める。大多数の患者で合併異常がみられ,具体的には心室中隔欠損症(VSD),肺動脈弁狭窄,エプスタイン病,その他の左側三尖弁の異形成,先天性房室ブロック,正中心または右胸心,内臓心房錯位症候群などがある(1)。
総論の参考文献
1.Wallis GA, Debich-Spicer D, Anderson RH: Congenitally corrected transposition. Orphanet J Rare Dis 6:22, 2011.doi:10.1186/1750-1172-6-22
CCTGAの病態生理
最も頻度の高い大血管転位症(右旋性TGA,d-TGA)は,大動脈が右室から直接起始すると同時に,肺動脈が左室から起始した状態であり,結果として,肺循環および体循環が互いに独立して平行する状態となる;そのため,酸素化された血液は右心系と左心系を連結する開口部(例,開存した卵円孔,心房または心室中隔欠損)を通る以外,体循環に入ることができない。このタイプの転位は,出生直後に重度のチアノーゼを引き起こすため,出生時に直ちに介入を行い,生後1週間以内に外科的矯正を行う必要がある。
修正大血管転位症(CCTGA)
修正大血管転位症(左旋性[l-TGA]CCTGA)では,右房が右側にある解剖学的左室に,左房が左側にある解剖学的右室に結合している。ほぼ全例で,解剖学的左室が肺動脈に,解剖学的右室が大動脈に結合している。そのため循環は生理学的に「修正」されるものの,ほぼ常に臨床症状と血行動態学的な続発症がみられる。それらの続発症は,CCTGAに高頻度で合併する異常によるものであるか,体循環が解剖学的右室に支えられている状態(systemic right ventricle)に起因したものである。CCTGA患者の大多数は,以下のうち少なくとも1つの異常を合併する(1, 2):
VSD(> 60%)
肺動脈弁狭窄(40%)
エプスタイン病またはその他の左側三尖弁の異形成(90%)
先天性または後天性の房室ブロック(年2%のペースで進行し,青年期までに10~15%,成人では最大30%にみられる)
正中心または右胸心を伴う位置異常(20%)
Systemic right ventricleの進行性の機能障害(30歳までに50%)
病態生理に関する参考文献
1.Cui H, Hage A, Piekarski BL, et al: Management of Congenitally Corrected Transposition of the Great Arteries With Intact Ventricular Septum: Anatomic Repair or Palliative Treatment? Circ Cardiovasc Interv 14(7):e010154, 2021.doi:10.1161/CIRCINTERVENTIONS.120.010154
2.Wallis GA, Debich-Spicer D, Anderson RH: Congenitally corrected transposition. Orphanet J Rare Dis 6:22, 2011.doi:10.1186/1750-1172-6-22
CCTGAの症状と徴候
複数の合併異常により,幅広い臨床像がみられる。
乳児期のCCTGAは,肺動脈弁狭窄またはVSDによる雑音,高度の肺動脈弁狭窄およびVSDによるチアノーゼ,大きなVSDによる心不全,または先天性完全房室ブロックによる症候性徐脈で気づかれることがある。これらの症状は,合併異常の重症度に応じて,小児期から青年期にかけて徐々に出現することもある。
成人期に至ると,体心室の役割を担う解剖学的右室の機能障害がしばしば問題となる。この機能障害は不顕性のこともあれば,重度の心筋症および心不全として発現することもある。左側三尖弁にはほぼ例外なく解剖学的異常が存在するため,進行性の三尖弁逆流がよくみられ,これが心不全傾向を悪化させる。
CCTGAの診断
身体診察
胸部X線および心電図検査
心エコー検査
MRIおよびCT
心臓カテーテル検査
臨床所見は合併する病変によって異なるが,必ずみられる所見の1つとして,大動脈が前方左寄りにあるために心基部で聴取される大きな単一II音がある。大動脈閉鎖音により,しばしば上部の胸骨右縁または左縁に限局して触知可能な拍動が生じる。
心電図では,右前胸部誘導に房室ブロックまたは異常Q波(中隔脱分極の逆転による)を認めることがある。この異常はWPW(Wolff-Parkinson-White)症候群の合併率が高い。
胸部X線では通常,心臓が正中寄りまたは右側に位置することに加え,心臓の左上縁が直線状に描出される(上行大動脈の位置異常のため)。
診断は心エコー検査から明らかであるはずで,エコー画像により,左右の心室形態が逆転していて,右側の心室(解剖学的左室)から肺動脈基部(後方)が,左側の心室(解剖学的右室)から大動脈基部(前方左寄り)が起始しているのが確認できる。心エコー検査では合併する異常も明瞭に描出される。
より詳細な解剖学的情報を取得し,右室および左室機能に対して最も信頼性の高い評価を下すために,しばしばMRIおよびCTが用いられる。
肺動脈圧や抵抗などの心内圧を正確に評価するため,ときに心臓カテーテル検査が必要となる。
CCTGAの治療
薬剤
手術
植込み型心臓デバイス
圧負荷もしくは容量負荷,または心室機能障害に起因するうっ血性心不全がある患者には,薬物療法が必要になる場合がある。
心室中隔欠損,肺動脈流出路閉塞,三尖弁逆流などの合併異常を修復するために,しばしば外科的治療が必要になる。
成人期には進行性の心機能障害が避けられないため,多くの医師が小児期の外科的選択肢として「ダブルスイッチ手術」を考慮する。この術式では,大動脈および肺動脈を解剖学的に適切な心室に付け替えるとともに,静脈還流を心房内バッフルで切り替えることにより,大静脈還流を左側右室に,肺静脈還流を右側左室に誘導する。こうした複雑な手技により,解剖学的右室が体循環に送血しているというCCTGAの循環に特有の病的状態が解消される。
房室ブロックがある場合は,一般にペースメーカーが必要であり,中等度から重度の右室機能障害がある成人および心室性不整脈のリスクがある成人には,植込み型除細動器を使用することがある。
右室機能障害による進行性心筋症などの重度の症状を呈する患者には,心臓移植が必要になることがある。
要点
修正大血管転位症では,右房が右側にある解剖学的左室に結合し,それが肺動脈へとつながり,左房が左側にある解剖学的右室に結合し,それが大動脈へとつながっている。
複数の合併異常により,幅広い臨床像がみられる。
成人期に至ると,体心室の役割を担う解剖学的右室の機能障害が問題となる。
診断は通常,心エコー検査により下され,エコー画像により,左右の心室形態が逆転していて,右側にある形態的左室から肺動脈基部(後方)が,左側にある形態的右室から大動脈基部(前方左寄り)が起始しているのが確認できる。
治療では薬剤,手術,および植込み型心臓デバイスを併用する。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American Heart Association: Common Heart Defects: Provides overview of common congenital heart defects for parents and caregivers
American Heart Association: Infective Endocarditis: Provides an overview of infective endocarditis, including summarizing prophylactic antibiotic use, for patients and caregivers