その他の先天性心奇形

執筆者:Lee B. Beerman, MD, Children's Hospital of Pittsburgh of the University of Pittsburgh School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 12月
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その他の先天性心奇形としては,以下のものが挙げられる:

  • 大動脈肺動脈窓

  • 修正大血管転位症

  • 両大血管右室起始症

  • エプスタイン奇形

  • 心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症

  • 単心室症単独または肺動脈弁狭窄を合併した単心室症

まれな非構造的先天性心疾患としては,以下のものが挙げられる:

  • 先天性完全房室ブロック

  • 心筋症を引き起こす先天性代謝異常症

ときに致死的となる重症心室性不整脈のリスクを伴うQT延長症候群とその他の遺伝性不整脈症候群については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。(心血管系の先天異常の概要も参照のこと。)

大動脈肺動脈窓

大動脈肺動脈窓は,大動脈と主肺動脈の間にできる異常な交通路である。非常にまれであり,全ての先天性心奇形に占める割合は0.6%未満である。大動脈肺動脈窓は孤立性のこともあれば,心房中隔欠損症大動脈縮窄症,またはファロー四徴症など他の心血管異常に合併することもある。

孤立性の大動脈肺動脈窓患者では,診察で連続性雑音が聴取される。症状は左右短絡の症状である。大量の左右短絡があると,肺血流が過剰になり,左室の容量負荷が増大し,心不全の徴候(例,頻呼吸,哺乳不良,発汗)が現れる可能性がある。乳児期には,これらの症状により,しばしば発育不良を来す。大きな左右短絡があると,肺コンプライアンスの低下と気道抵抗の増大も起き,その結果として呼吸困難(鼻翼呼吸,呻吟,胸壁陥凹などの努力呼吸の徴候を認める)と繰り返す呼吸器感染症を来す。大動脈と肺動脈の結合部が大きければ,全身血圧に等しい肺高血圧が生じているはずである。

診断は身体所見と画像検査(通常は心エコー検査)によるが,この異常は比較的軽微な場合があり,肺高血圧の病因が初期には明らかでないことがある。解剖学的構造を描出するため,MR,CT,または心血管造影検査が必要になることがある。

診断したら,できるだけ早く大動脈肺動脈窓の外科的修復を行うべきである。

修正大血管転位症(左旋性大血管転位症)

修正大血管転位症(左旋性大血管転位症)は比較的まれであり,先天性心奇形の約0.5%を占める。胎生期に心筒の正常な発生学的ループが逆方向に回転することで,房室不一致と心室大血管不一致が生じる。その結果,右房が右側にある形態学的左室に,左房が左側にある形態学的右室に結合する。ほぼ全例で,形態学的左室が肺動脈に,形態学的右室が大動脈に結合する。そのため,循環は生理学的に「修正」されているが,大多数の患者で合併奇形が存在し,具体的には心室中隔欠損症肺動脈弁狭窄エプスタイン奇形,その他の左側三尖弁の異形成,先天性房室ブロック,正中心または右胸心,内臓心房錯位症候群などがある。

このような奇形の結果として,幅広い臨床像を呈する。成人期に最も多くみられる問題は,体心室の役割を担う形態学的右室の機能障害である。この機能障害は不顕性のこともあれば,重度の心筋症および心不全として発現することもあり,後者の場合は心臓移植を考慮すべき事態に至る。

両大血管右室起始症

両大血管右室起始症(DORV)は,大動脈と肺動脈の両方が右室に連結している奇形であり,ほぼ常に心室中隔欠損症(VSD)を合併する。DORVは,VSDの大きさと位置,ならびに肺動脈弁狭窄の有無と程度に応じて,広範な解剖学的・生理学的スペクトラムを呈する。大動脈下型VSDを合併する最も頻度の高い病型では,VSDの閉鎖とともに左室流出路を大動脈へ向けるなどの方法で完全に修復することが可能である。

エプスタイン奇形

エプスタイン奇形は,三尖弁の中隔尖および後尖の様々な程度の心尖部偏位および異形成から構成され,前尖にも(起始は正常であるが)異形成がみられる。これらの異常のため,有効な弁開口部が下方に偏位することにより,右室の弁開口部より近位にある部分が右房化して,右室機能が障害される。この奇形には,妊娠中の母親によるリチウム使用との関連が報告される。合併異常としては,心房中隔欠損肺動脈弁狭窄WPW症候群などがある。

臨床像のスペクトラムが著しく多彩であり,新生児期に重度のチアノーゼを呈するものから,小児期に軽度チアノーゼを伴って心拡大を呈するもの,成人期まで無症状で経過した患者で心房性不整脈や発作性上室頻拍を発症するものまで,様々な経過を示す。症状の発症は,三尖弁の解剖学的および機能的障害の程度と副伝導路の有無(例,WPW症候群)に依存する。症状が重度の三尖弁の機能障害によるものである場合は,外科的修復を考慮すべきである。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症は,肺動脈弁が適切に形成されないために心臓から肺に向かう血流が妨げられる病態であり,三尖弁および右室の低形成を合併することが多い。これらの異常が合併することは,胎児期における正常な心室の成長がその心室の十分な流入および流出に依存するという事実から容易に理解できる。冠動脈異常,特に低形成の右室に交通する冠動脈瘻と冠動脈狭窄がよくみられ,それらが予後と外科手術の選択肢に大きく影響する。出生直後の生存は動脈管の開存性に依存する。患児はチアノーゼを起こし,聴診所見として三尖弁逆流雑音を認めることがある。出生前超音波検査で診断されていない場合,出生後診断は心エコー検査による。

単心室スペクトラム

この種の心奇形には,機能的心室が1つしか存在しないあらゆる複合奇形が含まれ,具体的には,右室または左室低形成や,より頻度は低いが未分化な真の単一心室などがある。生後の発症時期は,心房中隔欠損,肺動脈弁狭窄,および動脈管開存の有無に依存し,乳児ではうっ血性心不全またはチアノーゼを呈することがある。出生前超音波検査で診断されていない場合,出生後診断は心エコー検査による。外科的管理としては,肺血流量が減少している患者では,十分な肺血流量を確保するために大動脈肺動脈吻合術(例,modified Blalock-Taussig-Thomas短絡術[ファロー四徴症を参照])を施行し,肺血流が過剰になっている場合は,肺血管床を保護し肺血流を制限するために肺動脈絞扼術またはその他の介入(大動脈と肺動脈基部を再建するNorwood手術の変法[Damus-Kaye-Stansel吻合術と呼ばれることもある]など)を行う。その後はFontan手術を施行することで,単心室を単独で体心室として機能させる根治的治療が可能になる。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Heart Association: Common Heart Defects: Provides overview of common congenital heart defects for parents and caregivers

  2. American Heart Association: Infective Endocarditis: Provides an overview of infective endocarditis, including summarizing prophylactic antibiotic use, for patients and caregivers

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