陣痛および分娩時の鎮痛と麻酔の選択肢には,脊髄幹麻酔,局所・区域鎮痛,注射による鎮痛,および全身麻酔がある。脊髄幹麻酔(例,硬膜外麻酔または脊髄くも膜下麻酔)が典型的には望ましい(1)。局所・区域鎮痛(例,陰部神経ブロック,傍頸管ブロック)はあまり一般的ではない。オピオイドやその他の薬剤の注射は一般に,脊髄幹麻酔が使用できない場合,妊婦に脊髄幹麻酔の禁忌がある場合(例,脊椎手術の既往または重大な脊柱側弯症),または妊婦が脊髄幹麻酔の回避を強く希望する場合(例,以前にこの麻酔を受けた際の悪い経験による)にのみ用いる。全身麻酔は緊急帝王切開に必要な場合にのみ使用する。
総論の参考文献
1.American College of Obstetricians and Gynecologists' Committee on Practice Bulletins: Obstetrics.ACOG Practice Bulletin No. 209: Obstetric Analgesia and Anesthesia. Obstet Gynecol 133(3):e208-e225, 2019.doi:10.1097/AOG.0000000000003132
陣痛および分娩時の脊髄幹麻酔
脊髄幹麻酔は,陣痛および分娩中の鎮痛に望ましいアプローチである。これは効果的な疼痛コントロールであり,分娩中の妊婦が意識を保ったままいきむことが可能となる一方で,児は鎮静には至らない。脊髄幹麻酔としていくつかの方法が利用可能であり,硬膜外麻酔,脊髄くも膜下麻酔,脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔などがある。
硬膜外麻酔
硬膜外麻酔では,疼痛コントロールが徐々に得られる。陣痛および経腟分娩の間を通して継続して用いることができ,帝王切開では鎮痛レベルを上げることができる。
硬膜外麻酔では,腰椎硬膜外腔にカテーテルを留置する。典型的には,局所麻酔薬(例,0.2%ロピバカイン,0.125%ブピバカイン)を,硬膜外腔に,しばしばオピオイド(例,フェンタニル,スフェンタニル)とともに継続的に注入する。必要に応じて,麻酔レベルを変えることができる。例えば,妊婦が分娩第2期に収縮を感じることができない場合には,レベルを下げることができる。
硬膜外麻酔の使用によって帝王切開のリスクが上昇することはない(1)。
脊髄くも膜下麻酔
脊髄くも膜下麻酔(脊髄周囲のくも膜下腔への単回注射)は作用の発現が速く,硬膜外カテーテルを留置していない妊婦の帝王切開に用いることがある。脊髄くも膜下麻酔は,効果の持続が短時間(約2~3時間)であるため,経腟分娩ではあまり用いないが,経腟分娩が差し迫っており,妊婦が疼痛コントロールを希望する場合に用いることがある。脊髄くも膜下麻酔には,後に脊髄性の頭痛が生じるリスクが多少ある。
脊髄くも膜下麻酔を用いるときは,妊婦に常に付き添い,5分毎にバイタルサインをチェックして,起こりうる低血圧を検出して治療しなければならない。
脊髄幹麻酔に関する参考文献
1.Practice Guidelines for Obstetric Anesthesia: An Updated Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Obstetric Anesthesia and the Society for Obstetric Anesthesia and Perinatology*.Anesthesiology 124:270–300, 2016.doi: 10.1097/ALN.0000000000000935
陣痛および分娩時の局所・区域鎮痛
方法には,陰部神経ブロック,会陰浸潤麻酔,および傍頸管ブロックがある。
陰部神経ブロックは,腟壁を通じて局所麻酔薬を注射することにより,麻酔薬が坐骨棘を横切る際に陰部神経に浸潤するというものである。このブロックにより腟下部,会陰および外陰後部が麻酔される;外陰前部は,腰椎の皮膚分節により神経支配を受けているため麻酔されない。妊婦が硬膜外麻酔または脊髄くも膜下麻酔を希望しない場合や,陣痛が進行して硬膜外麻酔の時間がない場合には,陰部神経ブロックが合併症のない自然経腟分娩において安全で簡単な方法である。陰部神経ブロックの合併症としては,麻酔薬の血管内注入,血腫,感染症などがある。
会陰の浸潤麻酔は限られた状況で用いる。例えば,硬膜外麻酔または陰部神経ブロックを行っても会陰部痛がある場合,または他の鎮痛を用いていない場合で,特に大きな裂傷または会陰切開が予想される場合に用いることがある。この方法は十分に管理された陰部神経ブロックほど効果的ではない。
傍頸管ブロックは,胎児の徐脈の発生率が10%を超えるため,分娩時の施行が適切となることはまれである(1)。手技として,3時および9時位置への1%リドカインまたはクロロプロカイン(chloroprocaine)(この薬剤はより半減期が短い)の5~10mLの注入を行う;鎮痛効果の持続は短時間である。
局所・区域鎮痛に関する参考文献
1.LeFevre ML: Fetal heart rate pattern and postparacervical fetal bradycardia.Obstet Gynecol 64 (3):343–6, 1984.
陣痛および分娩時の注射による鎮痛
鎮痛薬の静脈内または筋肉内注射は,典型的には脊髄幹麻酔を利用できない場合にのみ行うが,分娩第1期の選択肢としてこの種の鎮痛薬を勧める医師もいる。鎮痛薬は胎盤を通過して新生児の呼吸を抑制する可能性があるため,母体の快適のために必要な最少量の投与にすべきである。最少量であっても,新生児毒性が起こりうるが,その理由は,新生児の代謝および排泄過程は未熟であり,臍帯が切断された後,移行してきた薬物を肝臓代謝または尿中排泄により排出するのが非常に遅いためである。
フェンタニル(100μg)または硫酸モルヒネ(10mgまで)の,60~90分毎の静注が一般的に使用される。これらのオピオイドは,非常に少ない総投与量で優れた鎮痛作用をもたらす。フェンタニルまたはモルヒネでの鎮痛が不十分な場合,解毒剤のないいわゆる相乗作用薬(例,プロメタジン)よりも,オピオイドの追加投与または他の鎮痛法を用いるべきである。(これらの薬は実際に相加的であり,相乗的ではない。)相乗作用薬はオピオイドによる悪心を減少させるため,いまだときに使用されている;低用量を採用すべきである。
新生児に対する毒性が発現した場合,呼吸を補助し,ナロキソン(0.01mg/kg)を特異的拮抗薬として新生児に筋注,静注,皮下,または気管内投与できる。新生児の反応に基づき,必要に応じてナロキソンを1~2分間隔で反復投与する。先に投与したナロキソンの効果が弱まるため,初回投与から1~2時間後に医師は新生児をチェックするべきである。
陣痛および分娩時の全身麻酔
全身麻酔は典型的には睡眠薬と筋弛緩薬から成る。一般的には,脊髄幹麻酔を利用できないか迅速に施行できない場合にのみ緊急帝王切開に対して使用する。
強力で揮発性の吸入薬(例,イソフルラン)は,胎児に著しい呼吸抑制を生じさせる恐れがあるため,全身麻酔はルーチンの分娩には勧められない。
まれではあるが,妊婦との呼び掛け応答が維持される限り,酸素を混合した40%亜酸化窒素を経腟分娩中の鎮痛に使用する。
分娩後の疼痛管理
分娩後の疼痛管理について,American College of Obstetricians and Gynecologistsは,疼痛コントロールを個別化し最適化するために,作用機序の異なる薬剤(非ステロイド系抗炎症薬,アセトアミノフェン,および/または低力価のオピオイド)を組み合わせた段階的かつ複合的なアプローチを用いることを推奨している(1)。
医師は疼痛コントロールについて,患者とともに共有意思決定(shared decision-making)を行うべきである。疼痛の評価および治療における不公平(例,人種または民族に基づく)を認識し,疼痛管理に関する臨床意思決定におけるバイアスを避けるべきである。
授乳中の場合は,アセトアミノフェンおよびイブプロフェンが第1選択の鎮痛薬である。静脈内投与のケトロラクは許容可能な薬剤であるが,母乳中濃度に関するデータは限られている。オピオイド鎮痛薬を使用している患者には,その患者本人と母乳栄養児における中枢神経系抑制のリスクについてカウンセリングを行うべきである。また,コデインを含む薬剤は,過剰な鎮静と新生児死亡が報告されているため,他に選択肢がない場合にのみ使用すべきである(2)。
分娩後の疼痛管理に関する参考文献
1.Pharmacologic Stepwise Multimodal Approach for Postpartum Pain Management: ACOG Clinical Consensus No. 1. Obstet Gynecol.2021;138(3):507-517.doi:10.1097/AOG.0000000000004517
2.US Food and Drug Administration: FDA Drug Safety Communication: FDA restricts use of prescription codeine pain and cough medicines and tramadol pain medicines in children; recommends against use in breastfeeding women.Accessed January 2024.



