ハンタウイルス科は,エンベロープを有する一本鎖RNAウイルスで構成される科である。ハンタウイルスとしては50以上の種が存在し,それらは2つの主要な(ときに重複する)臨床症候群を引き起こす:
腎症候性出血熱(HFRS):欧州とアジアで風土病となっている
ハンタウイルス肺症候群(HPS):アメリカ大陸で風土病となっている
HFRSを引き起こすウイルスは,ハンターンウイルス,ソウルウイルス,ドブラバ(ベオグラード)ウイルス,サーラマーウイルス(Saaremaa virus),アムールウイルス(Amur virus),およびプーマラウイルスである。
HPSを引き起こすウイルスは以下の通り地域によって異なる(1):
アルゼンチン:アンデス,Arraraquara,Bermejo,Juquitiba,Lechiguanas,Laguna Negra,Maciel,およびOranウイルス
ブラジル:ArraaquaraおよびJuquitibaウイルス
チリおよびボリビア東部:アンデスウイルス
北米:シンノンブレウイルス,ブラッククリークカナルウイルス,バヨウウイルス,およびMonongahelaウイルス
パナマ:Chocloウイルス
パラグアイおよびボリビア:Laguna Negraウイルス
ハンタウイルスは世界中の野生の齧歯類にみられ,その生涯にわたり唾液,尿および糞中に排出される(2)。コウモリ,モグラ,トガリネズミ,爬虫類,および魚類もハンタウイルスを保有することが示されている。ヒトへの伝播は齧歯類からの感染のみが確認されており,齧歯類排泄物のエアロゾルの吸入や,まれに齧歯類による刺咬を介して起こる。アンデスウイルスはヒトからヒトへの伝播が起こりうる。自然に起こる感染に加えて,実験室内での感染や感染動物の排泄物への明確な曝露がない状況での感染が増加している。
検査によるハンタウイルス感染症の診断は,血清学的検査および逆転写PCR(RT-PCR)検査により確定される。血清学的検査には,酵素結合免疫吸着測定法(ELISA),ウェスタンブロット法とストリップイムノブロット法(strip immunoblot assay)などがある。北米における血清学的診断は,交差反応の可能性があるため,ソウルウイルス感染症とシンノンブレウイルス感染症を鑑別できなければならない。ウイルスの培養は技術的には困難であり,バイオセーフティレベル3の検査室が必要である。
総論の参考文献
1.Milholland MT, Castro-Arellano I, Suzán G, et al: Global diversity and distribution of hantaviruses and their hosts.EcoHealth 15 (1):163-208, 2018.doi:10.1007/s10393-017-1305-2.
2.Vial PA, Ferrés M, Vial C, et al: Hantavirus in humans: a review of clinical aspects and management. Lancet Infect Dis 23(9):e371-e382, 2023.doi:10.1016/S1473-3099(23)00128-7
腎症候性出血熱
腎症候性出血熱(HFRS)とは,ハンタウイルスによって引き起こされる一群の類似疾患の総称であり,流行性出血熱,韓国型出血熱,流行性腎症などが含まれる;これらはインフルエンザ様疾患として始まり,ショック,出血,および腎不全へと進行することがある。診断は血清学的検査およびPCR検査による。死亡率は6~15%である。治療法にはリバビリン静注などがある。
腎症候性出血熱の一部の病型は軽症である(例,スカンジナビア,ロシア西部,および欧州でみられるプーマラウイルスによる流行性腎症)。別の一部は通常軽症であるがときに重症化することがある(例,野生のドブネズミおよび家畜化されたラットを宿主として世界中に分布するソウルウイルス)。さらに別の一部は重症化する(例,朝鮮半島,中国,ロシアなどでみられるハンターンウイルスによる疾患またはバルカン半島などでみられるドブラバ[ベオグラード]ウイルスによる疾患)。
感染症は,齧歯類の排泄物吸入によりヒトへ伝播される。
HFRSの症状と徴候
潜伏期間はおよそ2週間であるが,長い場合は6週間に及ぶこともある(1)。
軽症型では,感染してもしばしば無症状である。
症候性のHFRSは,発熱期,低血圧期,乏尿期,多尿期,回復期の5つの段階を経る(1)。
発熱期は突然発症し,高熱,頭痛,背部痛,悪心,嘔吐,および腹痛といった症状がみられる。
相対的徐脈がみられ,発熱のある患者の約11~40%で低血圧が起こり,うち約3分の1の患者はショックを来す。痙攣発作または重度の局所神経症状が1%に発生する(3)。血小板減少による出血性合併症が発生することがある(例,鼻出血,点状出血,消化管出血,血尿)。
血小板減少は早期にみられることがあり(心症状より早いこともある),血小板減少の程度には全身性炎症のリスクや重症急性腎障害の発生との関連がみられる(1)。乏尿期は死亡率が最も高く,乏尿に続いて多尿となり,腎機能が改善する。
症状と徴候に関する参考文献
1.Vial PA, Ferrés M, Vial C, et al: Hantavirus in humans: a review of clinical aspects and management. Lancet Infect Dis 23(9):e371-e382, 2023.doi:10.1016/S1473-3099(23)00128-7
2.Sehgal A, Mehta S, Sahay K, et al: Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome in Asia: History, Pathogenesis, Diagnosis, Treatment, and Prevention. Viruses 15(2):561, 2023.Published 2023 Feb 18.doi:10.3390/v15020561
3.Lupuşoru G, Lupuşoru M, Ailincăi I, et al: Hanta hemorrhagic fever with renal syndrome: A pathology in whose diagnosis kidney biopsy plays a major role (Review). Exp Ther Med 22(3):984, 2021.doi:10.3892/etm.2021.10416
HFRSの診断
血清学的検査またはPCR検査
曝露の可能性がある患者で発熱,出血傾向,および腎不全がみられた場合は,腎症候性出血熱を疑う。
最初の診断検査としては,血算,電解質レベル,腎機能検査,凝固検査,尿検査などがある。ハンタウイルス感染症の推定診断は,血小板減少,血漿アルブミン濃度の低下,タンパク尿,および顕微鏡的血尿の存在に基づく。低血圧期の間はヘマトクリットが上昇し,白血球増多および血小板減少がみられる。アルブミン尿,血尿,ならびに赤血球および白血球円柱が,通常は2日目から5日目までに生じる場合がある。多尿期には電解質異常がよくみられる。
HFRSの確定診断は血清学的検査またはPCR検査に基づく。
HFRSの治療
リバビリン
ときに腎透析
腎症候性出血熱の治療は,リバビリンの静注による。
支持療法(腎透析を要することもある)が極めて重要で,多尿期には特に重要性が高まる。
HFRSの予後
多尿期の間は,体液量減少,電解質異常,または二次感染から死に至ることがある。回復には通常3~6週間かかるが最長で6カ月要することもある。
全体での死亡率は1~15%であり,死亡例はいずれもより重症の病型で発生している(1)。後遺症の腎機能障害は,バルカン半島で起こる重症型を除きまれである。
予後に関する参考文献
1.Centers for Disease Control and Prevention: Hantavirus: Clinician Brief: Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome.May 20, 2024.Accessed June 17, 2025.
ハンタウイルス肺症候群
ハンタウイルス肺症候群(HPS)は米国(主に南西部の州),カナダ(主に西部の州),南米およびパナマで発生している。インフルエンザ様疾患として始まり,数日以内に非心原性肺水腫を引き起こす。診断は血清学的検査および逆転写PCR(RT-PCR)検査による。重症例では致死率が最大50%にも及ぶ。治療は支持療法による。
HPSの大半の症例は以下を原因とする:
シンノンブレ,アンデス,およびChocloハンタウイルス
他の症例は以下を原因とする:
米国南東部およびメキシコのブラッククリークカナルウイルス,Muleshoeウイルス,およびバヨウウイルス
米国東海岸のニューヨークウイルス(シンノンブレウイルスの変異種)
北米の西海岸のConvict CreekウイルスおよびIsla Vistaウイルス
南米のLaguna Negra(およびそのRio Mamore変異種),アンデス様ウイルス(Hu39694,Lechiguanas,Oran),Central Plata,Buenos Aires,Rio Mearim,Juquitiba,Juquitiba-like,Ape Aime Itapua,Araucaria,Jabora,Neembucu,Anajatuba,Castelo dos Sonhos,Maripo,およびBermejoハンタウイルス
感染症は,アメリカネズミ亜科の齧歯類(特にシンノンブレウイルスを伝播するシカネズミ)の排泄物吸入によりヒトへ伝播される。大半の症例は,ミシシッピ川の西側で春または夏に起こり,豪雨の後が典型的であるが,これはこのような季節の豪雨が植物の成長を促し,それを食物とする齧歯類の個体数増加につながるためである。
HPSの症状と徴候
ハンタウイルス肺症候群は,非特異的なインフルエンザ様疾患として始まり,症状としては急性の発熱,筋肉痛,頭痛,結膜充血,眼後部痛,および消化管症状がみられる。2~15日後(中央値は4日後),急激に非心原性肺水腫および低血圧が生じる。
HFRSと同様に,血小板減少は早期にみられることがあり(心肺症状より早いこともある),血小板減少の程度には全身性炎症のリスクや重症急性腎障害の発生との関連がみられる(1)。
HFRSおよびHPSの合併例が数件報告されている。軽症のHPSが起こる可能性がある。
症状と徴候に関する参考文献
1.Vial PA, Ferrés M, Vial C, et al.Hantavirus in humans: a review of clinical aspects and management. Lancet Infect Dis 2023;23(9):e371-e382.doi:10.1016/S1473-3099(23)00128-7
HPSの診断
血清学的検査またはPCR検査
曝露の可能性がある患者で臨床所見またはX線所見により原因不明の肺水腫が認められた場合は,ハンタウイルス肺症候群を疑う。胸部X線像で血管陰影の増強,Kerley B line,両側性の浸潤,または胸水を認めることがある。
HPSが疑われる場合は,心原性肺水腫を除外するために心エコー検査を施行すべきである。
初期検査としては,血算,肝機能検査,電解質検査,腎機能検査,尿検査などがある。HPSは好中球優位の軽度の白血球増多,血液濃縮,および血小板減少を引き起こす。血清アルブミンの低下を伴う乳酸脱水素酵素,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ,およびアラニンアミノトランスフェラーゼの軽度上昇は典型的である。尿検査ではごく軽微な異常を認める。
HPSの診断は血清学的検査または逆転写PCR検査による。
HPSの治療
支持療法
ハンタウイルス肺症候群の治療は支持療法による。機械的人工換気,綿密な循環血漿量調節,および昇圧薬が必要になることがある。重度の心肺機能不全では,体外循環式の人工心肺装置で救命可能となることがある(1)。
リバビリン静注は腎症候性出血熱への有効性があるにもかかわらず,HPSの治療に効果的であることは示されていない。
Treatment reference
1.Centers for Disease Control and Prevention: Hantavirus: Clinician Brief: Hantavirus Pulmonary Syndrome (HPS).May 23, 2024.Accessed June 17, 2025.
HPSの予後
最初の数日間を生き延びたHPS患者は急速に改善し,2~3週間でしばしば後遺症もなく完全に回復する。しかしながら,早期に治療しない場合のHPSの致死率は40%近くになる(1)。
予後に関する参考文献
Centers for Disease Control and Prevention: Hantavirus: Clinician Brief: Hantavirus Pulmonary Syndrome (HPS).May 23, 2024.Accessed June 17, 2025.



