急性および慢性ベリリウム症は,ベリリウム化合物やベリリウム製品から発生した塵埃またはヒュームを吸入することによって引き起こされる。急性ベリリウム症は現在ではまれである;慢性ベリリウム症は,特に肺および胸腔内リンパ節における肉芽腫の形成を特徴とする。慢性ベリリウム症の臨床像はしばしば肺サルコイドーシスに類似し,進行性の呼吸困難,咳嗽,および疲労感を伴い,包括的な職業歴および環境歴の情報がなければサルコイドーシスと誤診されることがある。診断は病歴および診断検査による。治療は肺サルコイドーシスに対するものと同様である。
(環境性および職業性肺疾患の概要も参照のこと。)
ベリリウム症の病態生理
急性ベリリウム症は,肺実質のびまん性炎症性浸潤および非特異的な肺胞内肺水腫(intra-alveolar edema)を引き起こす化学性肺炎である。急性ベリリウム症は,多くの産業で曝露量がを低減されたため現在ではまれである。
慢性ベリリウム症は,ベリリウムおよびベリリウム合金を使用する産業において発生し続けている。細胞媒介性の過敏症である点で,大半の塵肺症とは異なる。T細胞がベリリウムに感作され,再曝露により増殖する。これが,TNF-α,インターロイキン2,インターフェロンγなどの炎症性サイトカインの放出および肉芽腫性炎症につながる。肺または血液由来のT細胞がin vitroでベリリウムに曝露した際の増殖がベリリウムリンパ球幼若化試験(BeLPT)の原理となっており,この試験はベリリウムに対する免疫感作の同定に臨床的に用いられている。
典型的な病理学的特徴は,肺,肺門,および/または縦隔リンパ節のびまん性肉芽腫性反応であり,組織学的にはサルコイドーシスと鑑別できない。
ベリリウム曝露からベリリウム感作へ進行するリスクは多因子的であり,曝露量,曝露期間,遺伝因子などがある。
ベリリウム曝露労働者の約1~18%にベリリウム感作(in vitroでベリリウム塩に反応して血中リンパ球の増殖がみられることにより定義される)が生じ,6~8%が慢性ベリリウム症に進行することが研究により示されている(1)。現場監督者や警備員など,その場に居合わせて曝露する労働者にも,比較的頻度は低いものの,感作と発症がみられることがある。
病態生理に関する参考文献
1.MacMurdo MG, Mroz MM, Culver DA, Dweik RA, Maier LA.Chronic Beryllium Disease: Update on a Moving Target. Chest 2020;158(6):2458-2466.doi:10.1016/j.chest.2020.07.074
ベリリウム症の病因
ベリリウムへの曝露は,例えばベリリウムの採掘および抽出,合金の製造,金属合金の機械加工,電子機器,電気通信,核兵器および防衛産業,航空宇宙,ならびに金属の回収およびリサイクルなど,多くの産業で発生する可能性がある。ベリリウム合金を作るために,少量のベリリウムが銅,アルミニウム,ニッケルなどの金属に加えられることもある。ベリリウムが感作性のある物質であることを考慮すると,比較的低濃度の曝露でも感受性のある人に疾患を引き起こす可能性がある。
ベリリウム症の症状と徴候
慢性ベリリウム症の患者では,呼吸困難,咳嗽,盗汗,疲労感,および体重減少がみられる。症状は,最初の曝露から数カ月以内に出現することもあれば,曝露停止後30年以上経過して出現することもある。
臨床像は肺のサルコイドーシスと区別がつかないため,患者は誤ってサルコイドーシスと診断されることがある。したがって,サルコイドーシスと診断された患者では慢性ベリリウム症を考慮することが重要である(1)。
症状と徴候に関する参考文献
1.MacMurdo MG, Mroz MM, Culver DA, et al.Chronic Beryllium Disease: Update on a Moving Target. Chest 2020;158(6):2458-2466.doi:10.1016/j.chest.2020.07.074
ベリリウム症の診断
慢性ベリリウム症の診断は典型的には以下に基づく(1):
胸部X線またはCT
ベリリウム感作(末梢血または気管支肺胞洗浄細胞を用いて行うベリリウムリンパ球幼若化試験の異常により確認)
肺生検(肉芽腫性炎症を確認するため)
胸部X線像は正常であることもあれば,結節状,網状,または淡いすりガラス様のびまん性浸潤影を上肺野に示すこともあり,またしばしばサルコイドーシスにみられるパターンに似た肺門および縦郭リンパ節の腫脹を伴う。胸部高分解能CTはX線より感度が高いが,画像検査の結果が正常でも生検で疾患が証明される例もある。
サルコイドーシスと同様,肺機能検査の結果は様々であり,拘束性パターン,肺拡散能(DLCO)の低下,および/または閉塞がみられる可能性がある。
BeLPTはベリリウムに対する免疫感作を検出するための試験であり,血液検体または気管支肺胞洗浄液から採取したリンパ球を硫酸ベリリウムとともに培養する。BeLPTはベリリウム症が疑われる全ての症例に推奨される。ベリリウムに曝露した労働者の感作を検出するためにも用いられる。
BeLPTには限界があり,広く普及しておらず,また肺組織を常に採取できるわけではないため,ベリリウム症の診断は困難となる可能性がある。しかしながら,曝露歴,サルコイドーシスに一致する所見を示す胸部画像検査,肺機能検査結果の異常,BeLPT結果の異常,気管支肺胞洗浄(BAL)でのリンパ球増多,および肺生検での肉芽腫性炎症などの診断基準の様々な組合せにより,ベリリウム症疑いの診断が可能となる。BeLPT異常などの特定の所見は,非特異的な画像所見などの他の所見と比べて,診断的確実性がより高いという点に留意すべきである。
診断に関する参考文献
1.Balmes JR, Abraham JL, Dweik RA, et al.An official American Thoracic Society statement: diagnosis and management of beryllium sensitivity and chronic beryllium disease. Am J Respir Crit Care Med 2014;190(10):e34-e59.doi:10.1164/rccm.201409-1722ST
ベリリウム症の治療
曝露の中止
ときにコルチコステロイドおよび免疫抑制薬
慢性ベリリウム症の患者はさらなるベリリウム曝露を回避するべきである。
慢性ベリリウム症の自然経過は様々であり,患者の中には,疾患が安定しているか疾患の進行が比較的遅いため,治療を必要としない者もいる。そうでなければ,治療は肺サルコイドーシスと同様である。
肺の症状と疾患進行の臨床所見の両方が認められる患者では,通常はコルチコステロイドを開始する(1, 2)。プレドニゾンは典型的には3~6カ月間投与する。その後,肺の生理機能およびガス交換の測定を繰り返し,治療に対する反応を記録する。コルチコステロイドの用量は,症状の改善および客観的改善を維持できる最少量まで徐々に漸減する。メトトレキサート(またはインフリキシマブ)などのコルチコステロイドを節減するための薬剤は,サルコイドーシスで用いられるものと同様のアプローチに基づいて選択する。
慢性ベリリウム症の自然寛解はまれである。末期の患者は肺移植に適格となりうる。酸素投与療法,呼吸リハビリテーション,および右室不全の治療薬などの支持療法が必要に応じて行われる。
治療に関する参考文献
1.Balmes JR, Abraham JL, Dweik RA, et al.An official American Thoracic Society statement: diagnosis and management of beryllium sensitivity and chronic beryllium disease. Am J Respir Crit Care Med 2014;190(10):e34-e59.doi:10.1164/rccm.201409-1722ST
2.MacMurdo MG, Mroz MM, Culver DA, Dweik RA, Maier LA.Chronic Beryllium Disease: Update on a Moving Target. Chest 2020;158(6):2458-2466.doi:10.1016/j.chest.2020.07.074
ベリリウム症の予後
予後に関する参考文献
1.MacMurdo MG, Mroz MM, Culver DA, Dweik RA, Maier LA.Chronic Beryllium Disease: Update on a Moving Target. Chest 2020;158(6):2458-2466.doi:10.1016/j.chest.2020.07.074
ベリリウム症の予防
ベリリウム含有製品を使用する施設は,ベリリウムへの曝露を最小限に抑えるための管理プログラムを導入すべきである。米国労働安全衛生庁(United States Occupational Safety and Health Administration:OSHA)は,ベリリウムの許容曝露限界値(permissible exposure limit:PEL)を空気1立方メートル当たり平均8時間で0.2μgと設定している(OSHA Beryllium Standardsを参照)。このOSHA基準により症例数は減少すると予想されるが,この基準より低い曝露レベルでも発症する可能性があるため,慢性ベリリウム症を根絶できるわけではない。皮膚接触による感作の可能性を考慮して,皮膚曝露を最小限に抑えるように努めるべきである。
曝露した労働者には,血液検体を用いたBeLPTおよび肺機能検査を含む医学的サーベイランスが推奨される。BeLPTの結果が陽性であった労働者には,慢性ベリリウム症であるかどうかを判定するため,胸部CTおよび場合により気管支鏡検査によるさらなる評価を行うべきである。
要点
ベリリウム症はあまり認識されていないが,多くの産業の労働者が罹患する。
サルコイドーシスが疑われる患者では,臨床的特徴が類似していることから,慢性ベリリウム症を考慮すべきである。
高分解能CTおよびベリリウムリンパ球幼若化試験(血液または気管支肺胞洗浄細胞を用いる)によって慢性ベリリウム症の診断が容易になる。
咳嗽および呼吸困難などの症状がみられる患者は,コルチコステロイドのほか,ときに免疫抑制薬により治療する。
予防法には,ベリリウムの塵埃への曝露の最少化および曝露労働者のサーベイランスがある。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Balmes JR, Abraham JL, Dweik RA, et al.An official American Thoracic Society statement: diagnosis and management of beryllium sensitivity and chronic beryllium disease. Am J Respir Crit Care Med 2014;190(10):e34-e59.doi:10.1164/rccm.201409-1722ST



