クッシング症候群に関する一般的な疑問にお答えします

コラム01年1月1日 Ashley B. Grossman, MD, University of Oxford; Fellow, Green-Templeton College

最近、ある有名人がクッシング症候群と診断されたことを受けて、この比較的まれな病気が注目を集めています。クッシング症候群とは、副腎から分泌されるコルチゾールと呼ばれるホルモンが過剰な状態になる病気です。このホルモンが過剰な状態になると、体の見た目が変化したり命に関わる病気が引き起こされたりする可能性があります。クッシング症候群の特徴的な症状や体への影響が最近メディアで取り上げられたことから、この病気について、また、この病気のリスクがある場合にどうすればよいかについて知りたいと思う人がいるかもしれません。

ここでは、クッシング症候群に関する最も重要な疑問のいくつかにお答えします。

1.クッシング症候群の原因は何か

副腎からはいくつかのホルモンが分泌されています。これらのホルモンは、血圧や心拍数を調節したり、水分と塩分のバランスを調節したり、ストレスに対する反応をコントロールしたりするのを助けています。クッシング症候群は、コルチゾールというホルモンが副腎から過剰に分泌された場合や、コルチゾールに似た作用をもつホルモン剤を使用している場合に起こります。

これには通常、以下の2つの原因のいずれかが考えられます。

  • 副腎の腫瘍または体のほかの部位のがん
  • コルチコステロイドの長期間の使用

コルチコステロイドは単にステロイドと呼ばれることが多く、炎症性疾患やアレルギー疾患、自己免疫疾患などの重い病気に対して薬として処方されます。

また、クッシング症候群はクッシング病とは同じではないことにも注意することが大切です。クッシング病は、特定の原因によって起こるクッシング症候群の1つで、具体的には下垂体の腫瘍によって副腎が過剰に刺激されることで発症します。

コルチゾールがストレスホルモンであることから、日常生活におけるストレスが原因でクッシング病を発症したと考える人もいますが、それは本当ではありません。特定の生活習慣がクッシング症候群の原因となることを示す科学的根拠はありません。

 

2.クッシング症候群にはどのような症状があるか

コルチゾールは体に必要不可欠なホルモンの1つです。しかし、コルチゾールが過剰になりすぎると、血糖値やコレステロール値の上昇など、多くの変化が引き起こされる可能性があります。また、コルチコステロイドによっても体脂肪の量や分布が変化します。

そのほかに、クッシング症候群の症状として次のものが挙げられます。

  • 顔が大きく丸くなる(「ムーンフェイス」と呼ばれる)
  • おなかに大量の脂肪がついて、背中の上部にも脂肪がつく(「野牛肩」と呼ばれる)
  • 皮膚がうすくなって、あざができやすく治りにくい
  • おなかや胸に引き伸ばしたような紫の筋がつく
  • 疲れやすくなる
  • ときに、顔や体に余分な毛がはえる
  • 女性では、ときに髪の毛が抜ける

コルチコステロイドの血中濃度が高い状態が続くと、時が経つにつれ、高血圧(血圧が高くなる病気)や骨粗しょう症(骨が弱くなる病気)を発症したり、感染症に対する抵抗力が弱くなったりします。腎結石や糖尿病、静脈内血栓が発生するリスクも増大し、うつ病や幻覚などの精神的な病気や症状が起こることもあります。

クッシング症候群は命に関わることもあります。コルチゾール値が非常に高くなると、カリウム値が低下して、心臓に問題を引き起こす可能性があります。また、コルチゾール値が非常に高いと免疫系が抑制されるため、クッシング症候群の人は、通常であれば容易に防御できたはずの感染症を突然発症することがあります。

3.クッシング症候群かどうかを調べる診察では何が行われるか

高用量のステロイドを使用していない人では、クッシング症候群はまれであり、症状の多くは、ほかの原因によるものである可能性があります。一方で、身体的な変化はクッシング症候群の可能性を示唆する重要な徴候の1つになりえます。 

患者自身が体の見た目の変化に気づくことが多く、これが受診するきっかけです。そのようなことに気づいた場合は、すぐにかかりつけ医の診察を受けることをお勧めします。医師が体の変化を確認できるように数年前の自分の写真を何枚か持参しましょう。医師は、ステロイドを含有するクリームや吸入薬の使用だけでなく、レクリエーショナルドラッグの使用など、ステロイドの血中濃度を上昇させるあらゆる可能性についても質問します。

コルチゾール値が高いことが疑われる場合、医師はいくつかの方法でその原因をさらに調べ、クッシング症候群であるかどうかを判断することができます。方法としては、唾液、尿、血液中のコルチゾール値の測定、コルチゾール値を一時的に抑制する薬剤の使用、画像検査などがあります。

クッシング症候群と診断された場合、専門医に診てもらい、さらなる指導と治療を受けることが重要です。治療法は、原因が副腎、下垂体、あるいはそれ以外のどこにあるかによって決まります。医師は、ステロイドを使用している人に対して薬剤の変更を勧めることがあります。その他の治療法として、タンパク質やカリウムを多く含む食事療法、コルチゾール値を下げる薬剤やコルチゾールの働きを抑える薬剤の使用、手術や放射線療法などがあります。

クッシング病で、その原因となっている下垂体に対する手術や放射線療法でも効果がみられず、治療のために両方の副腎を摘出した人は、ネルソン症候群を発症することがあります。この病気を発症すると、下垂体の腫瘍が大きくなり、皮膚に色素沈着がみられるようになります。

4.ステロイドの使用は安全か

ステロイドは多くの患者にとって画期的な治療法となる可能性がありますが、実際には副作用のリスクもあります。そのため、処方通りに使用する必要があります。コルチコステロイドを2~3週間以上使用している人に対して、医師がその使用を突然中止することは決してなく、数週間、場合によっては数カ月かけて、徐々に使用量を減らしていきます。

クッシング症候群は、その原因にかかわらず、治療可能であることを知っておきましょう。クッシング症候群に関する詳しい情報については、「MSDマニュアル」または「やさしくわかる病気事典」の該当するページをご覧ください。