頭痛や、食べものを噛んだときに痛みがある場合、顎を動かした際にカチッなどのクリック音がする場合は、顎関節疾患かもしれません。顎関節疾患には様々な種類があり、それぞれに原因と症状があります。顎関節疾患について適切な支援を求める方法を知るには、病状についてより詳しく理解し、医師との会話に備えることから始まります。ここでは顎関節疾患に関する主な疑問についてお答えします。
TMJとTMDの違いは何ですか?【訳注:TMJはtemporomandibular jointの略で「顎関節」の意味、TMD(顎関節疾患)はtemporomandibular disorderの略。米国ではTMJとTMDがよく混同される背景がある。】
「TMJ」はあごの痛みや問題を簡略化した表現としてよく使われます。しかし、TMJとは顎関節のことを表しており、体の一部を指しているにすぎません。具体的には、TMJは頭蓋骨の側頭骨と下あごの骨(下顎骨)とをつないでいる関節です。
一方で、TMD(顎関節疾患)は頭蓋骨(側頭骨)の一部分と下あごの骨をつなげている顎関節、靱帯(じんたい)、腱、筋肉に起こる問題を指しています。TMDは、以前はTMJ疾患(顎関節症)と呼ばれており、20歳代前半と40~50歳の女性に多い病気です。
顎関節疾患の原因は何ですか?
顎関節疾患の主な原因の1つに、噛み合わせやあごのずれの問題があると医師たちは考えてきましたが、今日では、このようなケースはそれほど多くないことが分かっています。その結果、一部の症例を除いて、顎関節疾患に対する手術は以前よりも推奨されることが少なくなりました。
ほとんどの場合、顎関節疾患には複数の要因があり、その中には患者が自覚さえしていない要因も含まれています。多くの顎関節疾患は、次の2つの原因のうちのいずれかによるものです。1つ目は、重度の外傷(あごへの直接的な打撃で、痛みを伴うこと)によるものです。より一般的な原因は、微小な外傷(繰り返される負担による損傷で、時間がたつにつれてだんだん蓄積すること)です。ストレスを感じたときの歯の食いしばりや就寝中の歯ぎしり、また日常的にガムを噛んだりするなどのちょっとした行動でも顎関節疾患を引き起こすことがあります。
あごの痛みや頭痛はどの専門医にかかればよいですか?
顎関節疾患に関連する症状は人によって異なります。一般的に顎関節疾患には、頭痛、食べものを噛んだときのあごの筋肉の痛み、あごのクリック音、口の閉じにくさ、首から腕にかけての痛みやこわばり、めまい、耳の痛み、耳詰まり、睡眠障害、口を大きく開けることができないなどの症状があります。多くの場合、どの症状が現れているかによって、最初にかかるべき専門医が決まります。
口の中やあご、顔などの痛みは一般的に歯科の専門とされています。かかりつけの歯科医が口の中やあご、顔などの痛みの専門医でない場合も、痛みについて相談することから始めるのは良い方法です。歯科医に口や健康状態の変化について尋ねられた場合は、歯の状態についてだけではなく、顎関節疾患に関連している可能性のある頭痛やあごの痛みなどの症状についても相談しましょう。顎関節疾患の処置が必要な場合には、専門医を受診するようかかりつけの歯科医や医師から勧められることもあります。
顎関節疾患に関するバイオマーカーというものはなく、一般的に病歴聴取と身体診察によって顎関節疾患の診断が下されます。ときには画像検査も行われます。こうした医師との会話に備えるためには、いつどのような痛みや症状があらわれているかについて正直に正確な情報を提供できるよう、考えを整理しておくことが最善な方法です。詳細に説明するほど、医師も問題に対してよりよい診断を下すことができます。
顎関節疾患になったらどうすればよいですか?
一般的に、医師は痛みの原因を特定し、治療することに重点を置きます。痛みを感じる場所を治療することよりも、痛みの原因や本当の原因を特定することが大切です。頭痛や首の痛みの原因が、実際には顎関節にある場合があります。顎関節疾患に関連する痛みにうまく対処できるよう、医師はしばしばマウスピースや鎮痛薬を勧めます。また、医師は理学療法やあごの運動、その他の薬、手術などを提案する場合もあります。歯の噛みしめが気になる場合には、ストレス管理の助けとなるようセラピストや認知行動療法の専門家へ相談してみましょう。
どんなマウスピースを選べばよいですか?
マウスピースは顎関節疾患による痛みの軽減に用いられる一般的な方法です。マウスピースには数えきれないほどの種類があり、まるでスーツを選ぶことに似ています。スーツの場合、自分のサイズや仕様に正確に合わせて作られたものを購入することができます。もしくは既製品を買うこともできますが、おそらくそれほどフィットするものではないでしょう。うまくフィットしないものでは、顎関節疾患の痛みが悪化することが実際にあります。そのため、多くの歯科医は特注のマウスピースを推奨しています。高価なものから始める必要はなく、よくフィットし、快適なものであれば、シンプルなプラスチック製のものでも効果があるでしょう。
顎関節疾患に関する詳しい情報については、「MSDマニュアル」または「やさしくわかる病気事典」の該当するページをご覧ください。