疥癬は、ダニが皮膚に寄生して起こる皮膚寄生虫感染症です。
疥癬は通常、身体的な接触によって人から人に伝染します。
疥癬にかかると、一般的に寄生しているダニはわずか数匹であるにもかかわらず、強いかゆみが生じます。
疥癬の診断は、医師がかゆみのある部位を診察するほか、ときに削り取った皮膚を顕微鏡で観察することによって下されます。
疥癬の治療法としては、ペルメトリンまたはスピノサド(spinosad)の外用や、イベルメクチンの内服などがあります。
寄生虫とは、他の生物(宿主[しゅくしゅ])の体表や体内にすみつき、生きるための栄養を宿主に依存している生物のことです。疥癬の原因となるダニは寄生虫で、人間の血液を食料として生きています。
疥癬は、ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)という小型のダニによって引き起こされます。感染は世界中でみられます。このダニの雌は人間の皮膚の最表層に咬みついてトンネル状の横穴をあけ、その巣穴に卵を産み付けます。ダニの幼虫は数日で卵からかえります。寄生により非常に強いかゆみが生じますが、これはおそらく、このダニに対するアレルギー反応と考えられています。(小型のダニによる咬み傷も参照のこと。)
この感染症は身体的な接触を通じて容易に伝染し、同じ家に住む人全員がかかることもよくあります。人間に寄生するダニは、タオル、寝具類、衣類などの媒介物に潜んでおり、そこから人に感染します。しかし、人間の体から離れたダニは、あまり長生きできません。動物に寄生するダニが人間に寄生してかゆみを引き起こすこともありますが、それほど長生きせず、治療の必要はありません。疥癬の原因になるダニは通常、普通の洗濯(お湯を使って洗濯機で洗ってから高温の乾燥機またはアイロンで乾かす)またはドライクリーニングで死滅します。主な危険因子は過密な環境です(学校、避難所、兵舎、一部の家屋など)。不衛生な環境とは関係がありません。ラテンアメリカや太平洋地域の一部の島国(フィジーなど)では、特に、疥癬の負担が高くなります。
疥癬の症状
最初の曝露から約4~6週間後に、疥癬の症状が最初に現れます。疥癬の特徴は非常に強いかゆみで、多くの場合夜間に悪化します。このダニが作るトンネルは、しばしば目に見えるほど長い(最長で約1センチメートル)非常に細い線として観察でき、その一端に小さい赤色の、かゆみの強い隆起(ダニの虫体)がみられる場合もあります。多くの場合、この後に液体で満たされた水疱が形成されます。かゆみを伴う水疱をかき取ると破れ、皮膚の細菌感染(いわゆる二次感染)を起こすことがあります。小さい隆起だけが見えることもありますが、かゆみがひどいためその隆起はたいていかき壊されています。
隆起は、乳房や陰茎を含む体のあらゆる部位に生じます。隆起は成人の顔面には生じません。隆起はまず手指の間、手首、肘の内側、わきの下、ベルトラインに沿った部位、または殿部に現れます。ダニが寄生した部分はかかれるために炎症を起こしやすく、トンネルは時とともに炎症に隠れて見えにくくなります。温暖な気候の地域に住む患者では、小さな赤い隆起が生じ、トンネルはほとんどみられません。
皮膚の色が濃い人では、疥癬によって硬く盛り上がった病変ができることがあります。乳児では、手のひら、足の裏、顔面、頭皮に生じることがありますが、特に耳の後ろに多くみられます。高齢者では、強いかゆみを引き起こすことがありますが、皮膚の症状はごく軽く、このため診断が難しくなります。
この写真には、疥癬による赤い隆起が指間みずかきに生じている様子が写っています。
この写真には、疥癬による赤い隆起が指間みずかきに生じている様子が写っています。
DR P.MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY
この写真の小児には、前腕、手のひら、手首のしわに、かき傷と小さな赤い隆起の集まりがみられます。このような所見は疥癬に典型的なものです。疥癬トンネルという、長さ1センチメートルほどの、かさぶたがついた隆起が、手首のしわなどにみられます。
この写真の小児には、前腕、手のひら、手首のしわに、かき傷と小さな赤い隆起の集まりがみられます。このような所見は疥癬に典型的なものです。疥癬トンネル
Photo courtesy of Karen McKoy, MD.
この写真には、乳児の足の裏に生じた疥癬による隆起が写っています。
この写真には、乳児の足の裏に生じた疥癬による隆起が写っています。
© Springer Science+Business Media
以下の人では、重度の感染症(角化型疥癬またはノルウェー疥癬と呼ばれます)が生じることがあります。
免疫機能が低下している人(ヒト免疫不全ウイルス[HIV]感染、血液のがん、ステロイド[ときにグルココルチコイドまたはコルチコステロイドとも呼ばれます]など免疫機能を抑える薬剤の長期使用により引き起こされる)
重度の身体障害または知的障害のある人
オーストラリア先住民族の人
青年や成人よりも小児に多くみられます。感染が重度の場合、広い範囲の皮膚(特に成人の手のひらと足の裏および小児の頭皮)が厚くなり、湿疹と似たかさぶたができますが、かゆみは生じません。
この写真には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の人に発生した角化型疥癬が写っています。
別の種類の疥癬として、ステロイドの外用薬を長期間使用している人に発生する異形疥癬があります。これは通常の疥癬と見た目が異なり、ダニを見つけるのが難しい場合もあることから、それと認識するのが難しいことがあります。
疥癬の診断
医師による評価
トンネルの擦過物
通常は、かゆみと隆起やトンネルの外観だけで疥癬と診断することができます。ときにトンネルが見えるように拡大鏡で皮膚を見ることもあります。しかし、診断を確定するために、隆起やトンネルがある部分から少量の皮膚をかき取って顕微鏡で観察し、ダニやその卵(虫卵)、糞の有無を調べることもよくあります。
疥癬の治療
ペルメトリンまたはその他の抗疥癬薬のクリーム剤
ときにイベルメクチン
ときにそう痒をコントロールする薬剤
年長の小児や成人では、ペルメトリンやその他の抗疥癬薬(疥癬虫を殺す薬剤)を含有するクリーム剤を首から下の全身に塗り、8~14時間後に洗い落とすことで治癒します。この治療法は1週間後に繰り返します。
乳幼児では、ペルメトリンを頭頸部(眼と口の周囲の皮膚は避けます)と全身に塗ります。皮膚が重なり合う部分、手と足の指の爪、およびへそを徹底的に治療する必要があります。乳児にはミトンを着用させることで、ペルメトリンが口に入らないようにすることができます。さらに乳児では、ワセリンに硫黄が配合された軟膏を夜間に塗り、朝に洗い流してもよいでしょう。リンデンは有害な副作用があるため、もはや推奨されていません。
成人と4歳以上の小児では、スピノサド(spinosad)の懸濁液(液剤)を足の裏も含めた首から下の皮膚全体に塗ります。頭髪が薄い人では、さらに頭皮、額、生え際、こめかみにローションを塗るべきです。服を着る前に10分間体を乾燥させ、その後6時間にわたり皮膚に塗られた状態にしてから、シャワーを浴びるか入浴します。この治療は1週間繰り返す必要があります。眼に入らないように注意する必要があります。
皮膚に直接塗る薬剤に効果がなかったり、使用することができない人では、イベルメクチンを1週間空けて2回内服するのも効果があり、これは免疫系の機能低下により症状が重くなっている人に特に有効です。
ダニを殺す治療が成功した後も、ダニの死骸が皮膚の中にしばらく残るため、ダニに対するアレルギー反応が持続し、最大3週間ほどかゆみや隆起が残る場合があります。かゆみは、抗ヒスタミン薬の経口薬で治療できます。かゆみの治療には、弱いステロイド(ときにグルココルチコイドまたはコルチコステロイドとも呼ばれます)クリームを使用することもありますが、使用されるのはダニの治療が成功した後のみです。皮膚の炎症や深いかき傷の部分に細菌感染が生じることがありますが、その場合は抗菌薬を内服します。
衣類、タオル、寝具類は、ダニ感染症が発生する数日前から使っていたものも合わせてお湯で洗って高温の乾燥機で乾かすか、ドライクリーニングにかけるか、密封したビニール袋に少なくとも3日間入れておきます。
疥癬感染の予防
感染者やその持ち物との接触を避けて感染の拡大を止め、寄生したダニやダニのいる環境でダニを死滅させることが、疥癬予防の主な目的です。家族や、感染者との性的接触などの身体的な濃厚接触があった人は一緒に疥癬の治療を受ける必要があります。症状が出るまでに数週間かかることがありますが、感染した人にはすでに感染性があります。衣服、寝具、その他のリネンは、熱湯(最低50°C)で洗浄し、高熱で乾燥するか、ビニール袋に最長1週間密封します。洗浄する必要があるのは、過去2~3日間に感染者と接触した物品のみです。
イベルメクチンの経口投与またはペルメトリンなどの外用クリームによる大量療法は、大流行の抑制に非常に効果的であることが示されています。



