黄熱は蚊が媒介するウイルス疾患で、主に熱帯地域でみられ、
中央アフリカの熱帯地域、パナマ南部、および南米のみにみられます。
黄熱患者の中には症状がないか、あっても軽度にとどまる人もいれば、黄疸(皮膚や白眼部分が黄色に変色すること)、発熱、頭痛、筋肉痛、出血などのより重度の症状が現れる人もいます。
黄熱の診断は、ウイルスを増殖させる(培養)か、血液検査でウイルスに対する抗体を検出するか、またはPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法でウイルスの遺伝物質を特定することによって下されます。
治療は支持療法が中心となり、出血を治療または予防する薬剤などが用いられます。
ワクチンは、黄熱の流行国の居住者や流行地域への旅行者を対象としたものがありますが、蚊に刺されないようにすることも重要です。
黄熱はフラビウイルスを原因とする病気で、蚊が媒介して広がります。
黄熱はウイルス感染症の中では最もよく知られた病気の1つで、歴史的にも大きな意味をもっています。過去には、黄熱の大流行により何万人もの死亡者が発生していました。世界各地の熱帯や温帯地域によくみられましたが、現在では中央アフリカ、パナマ南部、中南米の熱帯地域にしか発生しません。感染は,南米では暑い雨季の湿度の高い時期に,アフリカでは雨季の終わり,または乾燥期の早期により多く発生します。
黄熱の症状
症状がまったくない人もいますが、軽度の症状のみの人もいれば、中には生命を脅かす重度の症状がみられる人もいます。
黄熱の症状は通常、感染した蚊に刺されてから約3~6日後に現れます。初めに頭痛、めまい、筋肉痛、悪寒、軽度の熱といった症状が突然現れます。吐き気、嘔吐、便秘、極度の疲労感、落ち着きのなさもよくみられます。顔面は紅潮します。
数日後に回復する人もいますが、最初の症状が治まってから数時間から数日後に、高熱、吐き気、嘔吐、全身の激しい痛みが生じることもあります。肝臓に感染が生じるため、皮膚や白眼部分が黄色に変色します(黄疸)。鼻、口、消化管からの出血がよくみられます。吐血することもあり、錯乱して無関心になることもあります。
中にはせん妄を発症する人もおり、血圧が非常に低くなります(ショック)。重症感染症の場合は、けいれん発作、多臓器不全が発生し、患者が昏睡に陥ることもあり、重度の出血や発熱が生じた場合は、30~60%の患者が死亡します。
黄熱の診断
培養検査または血液検査
この病気の流行地域に住んでいる人に典型的な症状が現れた場合、黄熱が疑われます。
診断は、ウイルスを増殖させたり(培養)、血液中のウイルスに対する抗体を調べたりして行います。また、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を使ってウイルスの遺伝物質のコピーを大量に作り出す場合もあります。この方法を使うと、ウイルスを迅速かつ正確に特定できます。
黄熱の治療
支持療法
黄熱の治療は支持療法であり、血液凝固を助けるビタミンKの注射など、出血を治療または予防する薬剤を投与します。
黄熱に特別な治療法はありません。
黄熱の予防
黄熱の予防には以下の対策を行います。
蚊に刺されないようにする
ワクチン接種
隔離
蚊に刺されないようにすることが予防する上で重要です。
黄熱病の予防に95%有効なワクチンがあります。ワクチンを1回接種すると、黄熱に対して生涯にわたる免疫が得られます。黄熱の流行国に旅行する10日以上前にワクチンを接種する必要があります。米国では、米国公衆衛生局によって認可された黄熱病予防接種クリニックでのみ接種が可能です。
黄熱がみられる地域から入国する旅行者にワクチン接種を義務づけている国は多数にのぼります。黄熱の流行地域に旅行する場合は、予防接種を受ける必要があります。
黄熱でサルが死亡する場合、ジャングルで集団感染が発生しており、人に波及するリスクを伴っていることを示唆しています。これらの地域で予防接種を受けていない人は、予防接種を受けるまでその地域から避難する必要があります。免疫化により進行する黄熱の集団感染を制御するため、住民に対する迅速な黄熱集団ワクチン接種が実施されます。
このワクチンは次の人には投与されません。
妊婦
6ヵ月未満の乳児
終末期のHIV感染患者など、免疫系の機能が低下している人
感染が疑われる人や黄熱と診断された人は、蚊を介したウイルス感染の拡大を防ぐために、網戸などで遮蔽され、殺虫剤が散布された部屋に隔離されます。
さらなる情報
以下の英語の資料が役立つかもしれません。この情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いかねることをご了承ください。
CDC:黄熱病予防接種クリニック(Yellow Fever Vaccination Clinics)
