肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae(肺炎双球菌)によって引き起こされる細菌感染症の予防に役立ちます。 肺炎球菌感染症 肺炎球菌感染症 肺炎球菌感染症は、肺炎レンサ球菌 Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)という グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 主な細菌の形」を参照)によって引き起こされます。この細菌は一般的に、肺炎、髄膜炎、副鼻腔炎、中耳に感染症を引き起こします。 肺炎球菌は、感染者がせきやくしゃみをすると空気中に撒き散らされます。 肺炎球菌感染症により、通常は発熱と全身のけん怠感や、感染部位に応じた他の症状が現れます。... さらに読む としては、 耳の感染症 急性中耳炎 急性中耳炎は、ウイルスや細菌の感染により中耳が炎症を起こした状態です。 急性中耳炎は、かぜやアレルギーの患者によく起こります。 感染した耳には痛みが出ます。 医師は、鼓膜を診察して診断を下します。 特定の小児予防予防接種によって、急性中耳炎のリスクを低減することができます。 さらに読む 、 副鼻腔炎 副鼻腔炎 副鼻腔炎は副鼻腔の炎症で、多くはウイルスや細菌の感染またはアレルギーが原因です。 最もよくみられる症状は痛み、圧痛、鼻づまり、頭痛などです。 診断は症状に基づいて下されますが、ときにCT検査などの画像検査が必要になることもあります。 原因となっている細菌感染症は抗菌薬で根治させることができます。 副鼻腔炎は最も多い病気の1つです。副鼻腔炎は、上顎洞(じょうがくどう)、篩骨洞(しこつどう)、前頭洞(ぜんとうどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつ... さらに読む 、 肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に発生する感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気が他にある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約200~300万人が肺炎を発症し、そのうち約6万人が死亡していま... さらに読む
、 血流感染症 菌血症 菌血症とは血流に細菌が存在する状態をいいます。 菌血症は、日常的な行為(激しい歯磨きなど)、歯科的または医学的処置、あるいは感染症( 肺炎や 尿路感染症)が原因となります。 人工関節や人工心臓弁を使用している人や心臓弁に異常がある人では、菌血症が長引くリスクや菌血症で症状が生じるリスクが高まります。 菌血症では通常、症状はみられませんが、ときに特定の組織や臓器に細菌が増殖して、重篤な感染症を引き起こすことがあります。... さらに読む 、 髄膜炎 急性細菌性髄膜炎 急性細菌性髄膜炎とは、急速に進行する髄膜(脳と脊髄を覆う組織層)とくも膜下腔(髄膜と髄膜の間の空間)の炎症のうち、細菌が原因であるものをいいます。 年長の小児や成人では、あごを胸につけるのが難しくなる症状(項部硬直といいます)が現れ、また通常は発熱や頭痛もみられます。 乳児では、項部硬直がみられないことがあり、体調が悪そうに見えたり、体温が高くまたは低くなったり、哺乳が少なくなったり、眠そうにむずかったりするだけのことがあります。... さらに読む などがあります。
詳細については、CDCによる肺炎球菌結合型(PCV13)ワクチン説明書(Pneumococcal Conjugate (PCV13) vaccine information statement)とCDCによる肺炎球菌多糖体ワクチン説明書(Pneumococcal Polysaccharide vaccine information statement)を参照してください。
肺炎球菌には90を超える種類があります。ワクチンは、重篤な病気を引き起こす可能性が非常に高い種類の多くを対象としています。肺炎球菌ワクチンには以下の2種類があります。
13種類の肺炎球菌に効果のある13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)
23種類の肺炎球菌に効果のある23価肺炎球菌多糖体ワクチン(PPSV23)
肺炎球菌ワクチンの接種
PCV13ワクチンは筋肉内に注射します。接種回数は年齢によって異なります。このワクチンは以下の人に推奨されています。
すべての小児: 小児定期接種 小児期の予防接種スケジュール 米国では、ほとんどの医師は米国疾病予防管理センター(CDC—乳児・小児用スケジュール[schedule for infants and... さらに読む の一環として、米国では通常、生後2カ月、4カ月、6カ月、12~15カ月の時点で接種されます
65歳以上で、免疫機能の低下、髄液の漏出、または人工内耳があり、PCV13を接種したことがない人
65歳以上の人で、上記の病態はないが、ワクチンの相対的なリスクと利益について医師と話し合った人
PCV13ワクチンは、肺炎球菌感染症の発生リスクが高い6~64歳の人にも推奨されています。具体的には以下の人が対象になります。
慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病では、血液をろ過して老廃物を除去する腎臓の能力が、数カ月から数年かけて徐々に低下します。 主な原因は糖尿病と高血圧です。 血液の酸性度が高くなり、貧血が起き、神経が傷つき、骨の組織が劣化し、動脈硬化のリスクが高くなります。 症状としては、夜間の排尿、疲労、吐き気、かゆみ、筋肉のひきつりやけいれん、食欲不振、錯乱、呼吸困難、体のむくみ(主に脚)などがあります。 診断は、血液検査と尿検査の結果により下されます。 さらに読む または ネフローゼ症候群 ネフローゼ症候群 ネフローゼ症候群は、尿中に大量のタンパク質が排泄される、糸球体(小さな穴が多数あいた微細な血管でできた球状の腎組織で、それらの穴を通して血液がろ過されます)の病気です。タンパク質の過剰な排泄により、典型的には体内への水分の蓄積(浮腫)をきたすとともに、アルブミンと呼ばれるタンパク質の血中濃度が低下し、脂質の血中濃度が上昇します。 腎臓に損傷を与える薬剤や病気によってネフローゼ症候群が発生することがあります。... さらに読む がある人
髄液の漏出がみられる人
免疫系の機能が低下している人(HIV感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。 HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。 HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。... さらに読む
、 白血病 白血病の概要 白血病は、白血球または成熟して白血球になる細胞のがんです。 白血球は骨髄の幹細胞から成長した細胞です。ときには成長がうまくいかずに、染色体の一部の並びが変化してしまうことがあります。こうして異常となった染色体により正常な細胞分裂の制御が失われ、この染色体異常がある細胞が無制限に増殖するようになったり、細胞がアポトーシス(不要になった細胞が... さらに読む 、 リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫とは、リンパ系および造血器官に存在するリンパ球のがんです。 リンパ腫は、 リンパ球と呼ばれる特定の白血球から発生するがんです。この種の細胞は感染を防ぐ役割を担っています。リンパ腫は、Bリンパ球やTリンパ球のいずれの細胞からも発生する可能性があります。Tリンパ球は免疫系の調節やウイルス感染に対する防御に重要です。Bリンパ球は、いくつ... さらに読む
、進行がんなどの病気がある人、免疫機能を抑制する薬[免疫抑制薬]を使用している人、特定の 臓器移植 移植の概要 移植とは、生きて機能している細胞、組織、臓器を体から摘出して、同じ人間の別の部分、または別の人間の体に移し替えることをいいます。 一番よく行われている移植は 輸血です。毎年、何百万人もが治療として輸血を受けます。しかし、一般には移植というと臓器(実質臓器移植)や組織の移植を指します。... さらに読む をした人など)
PPSV23ワクチンは、皮下または筋肉内に注射されます。これは以下の人に推奨されています。
65歳以上のすべての成人
現在65歳以上の人が、65歳未満の時点でPPSV23の接種を受けたことがある場合、初回接種から5年以上の間隔を空けて2回目の接種を受けます。例えば、64歳で初回接種を受けた人は、その5年後の69歳以降に2回目を受けます。
PPSV23ワクチンは、肺炎球菌感染症の発生リスクが高い2~64歳の人にも推奨されています。具体的には以下の人が対象になります。
PCV13ワクチンの対象者(上記)
心臓、肺(喘息 喘息 喘息は、気道が何らかの刺激に反応して狭くなる(通常は可逆性)病態です。 症状としては、特定の誘因に反応して生じる、せき、喘鳴(ぜんめい)、息切れなどが最もよくみられます。 医師は、呼吸の検査(肺機能検査)を行って喘息の診断を確定します。 喘息発作を防ぐためには、誘因となる物質を吸い込まないようにするとともに、気道の開口を保つ薬を服用する必... さらに読む
や 肺気腫 慢性閉塞性肺疾患(COPD) 慢性閉塞性肺疾患は、気道が狭くなる状態(閉塞)が持続する病気で、肺気腫や慢性閉塞性気管支炎、またはその両方に伴って発生します。 この病気の原因として最も重要なのは、紙巻タバコの喫煙です。 この病気になると、せきが出て、やがて息切れが現れます。 診断は、胸部X線検査と肺機能検査によって下されます。... さらに読む
など)、肝臓に慢性疾患を抱えている人
アルコール使用障害の人
喫煙者
PPSV23ワクチンは、肺炎球菌による肺炎の重篤な合併症(血流感染症など)を予防するのに効果がありますが、衰弱した高齢者ではその効果が下がります。65歳で肺炎球菌ワクチンの初回接種を受ける人は、最初にPCV13ワクチン、次いで1年後にPPSV23ワクチンの接種を受けます。すでにPPSV23の接種を受けている場合は、直近のPPSV23の接種から1年以上経過した後にPCV13の接種を受けるべきです。
対象者が一時的に病気にかかっている場合、ワクチンの接種はその病気が治まるまで待つのが通常です(CDC:ワクチン接種を受けるべきでない人[CDC: Who Should NOT Get Vaccinated With These Vaccines?]も参照)。
肺炎球菌ワクチンの副反応
注射部位に痛みが生じ、赤くなることがあります。他の副反応としては、発熱、易刺激性、眠気、食欲減退、嘔吐などがあります。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国疾病予防管理センター(CDC):肺炎球菌結合型(PCV13)ワクチン説明書(Information statement about pneumococcal conjugate (PCV13) vaccine)
CDC:肺炎球菌多糖体(PPSV23)ワクチン説明書(Information statement about pneumococcal polysaccharide (PPSV23) vaccine)
CDC:PCV13またはPPSV23ワクチンを接種すべきでない人に関する情報(Information about people who should NOT get vaccinated with PCV13 or PPSV23 vaccine)