鉄(Fe)はヘモグロビン,ミオグロビン,および体内の多数の酵素の成分である。主に動物性食品に含まれるヘム鉄は,平均的な食事中の鉄分の85%超を占める非ヘム鉄(例,植物および穀物に含まれる)よりもはるかに吸収がよい。しかし,非ヘム鉄は,動物性タンパク質およびビタミンCと一緒に摂取すると吸収が増大する。
(ミネラル欠乏症および中毒の概要 ミネラルの概要 ヒトには6種類の多量ミネラル(マクロミネラル)がグラム単位で必要である。 4種類の 陽イオン:ナトリウム,カリウム,カルシウム,およびマグネシウム 付随する2種類の 陰イオン:塩化物イオンとリン 1日当たりの必要量は0.3~2.0gである。骨,筋肉,心臓,および脳の機能が,これらの多量ミネラルに依存している。... さらに読む も参照のこと。)
鉄欠乏症
鉄欠乏症は,世界的に最も一般的なミネラル欠乏症の一種である。以下の結果として起こることがある:
不十分な鉄の摂取(乳児,青年期の女児,および妊婦によくみられる)
慢性出血(重い月経,消化管病変からの出血[例,腫瘍]など)
結腸癌による慢性出血が,中年および高齢者にみられる深刻な原因である。
鉄欠乏症および鉄欠乏性貧血は上級レベルのランナーやトライアスロン選手によくみられる(1 鉄欠乏症に関する参考文献 鉄(Fe)はヘモグロビン,ミオグロビン,および体内の多数の酵素の成分である。主に動物性食品に含まれるヘム鉄は,平均的な食事中の鉄分の85%超を占める非ヘム鉄(例,植物および穀物に含まれる)よりもはるかに吸収がよい。しかし,非ヘム鉄は,動物性タンパク質およびビタミンCと一緒に摂取すると吸収が増大する。 ( ミネラル欠乏症および中毒の概要も参照のこと。) 鉄欠乏症は,世界的に最も一般的なミネラル欠乏症の一種である。以下の結果として起こること... さらに読む )。
欠乏症が進行すると, 小球性貧血 鉄欠乏性貧血 鉄欠乏症は貧血の最も一般的な原因であり,通常は失血の結果として起こり,吸収不良ははるかにまれな原因である。症状は通常非特異的である。赤血球は小球性および低色素性の傾向を示し,血清フェリチン低値,血清総鉄結合能高値,および血清鉄低値で示されるように,貯蔵鉄量は低値である。この診断を下した場合は,他の原因が証明されない限り潜在的な失血を疑うべきである。治療としては,鉄補充に加え,失血の原因に対する治療がある。... さらに読む が発生する。
貧血に加えて,鉄欠乏症は異食症(非食物を渇望する)およびさじ状爪を引き起こすことがあり,レストレスレッグス症候群と関連する。まれに,鉄欠乏症は輪状軟骨後部の食道ウェブによる嚥下困難を引き起こす。
鉄欠乏症の診断としては,血算,血清中のフェリチンおよび鉄の濃度,ならびに場合によりトランスフェリン飽和度(鉄結合能)の測定を行う。欠乏状態では,鉄およびフェリチンの濃度が低く,鉄結合能が高い傾向がある。
まれに,鉄欠乏症の診断が不確かである場合には,骨髄検査が必要になる場合もある。
鉄欠乏症の治療では,可能であれば原因を是正する(例,出血している腸管の腫瘍の治療など)。中等度または重度の鉄欠乏症の患者全ておよび軽度の患者の一部では,鉄補給が必要である。
鉄欠乏症に関する参考文献
1.Coates A, Mountjoy M, Burr J: Incidence of iron deficiency and iron deficient anemia in elite runners and triathletes.Clin J Sport Med 1-6, 2016.doi: 10.1097/JSM.0000000000000390.
鉄中毒
鉄は以下のため体内に蓄積することがある:
過剰量であるかまたは期間が長すぎる鉄剤療法
繰り返しの輸血
慢性アルコール中毒
鉄剤の過量投与
鉄過剰はまた,鉄を大量に吸収しすぎる遺伝性の鉄過剰疾患(ヘモクロマトーシス 遺伝性ヘモクロマトーシス 遺伝性ヘモクロマトーシスは,過剰な鉄(Fe)蓄積を特徴とする遺伝性疾患で,組織障害を引き起こす。所見としては,全身症状,肝疾患,心筋症,糖尿病,勃起障害,および関節障害がみられることがある。診断は,血清フェリチン,鉄,およびトランスフェリン飽和度の高値により行い,遺伝子検査により確定する。連続的な瀉血による治療が一般的である。 ( 鉄過剰症の概要も参照のこと。) 遺伝性ヘモクロマトーシスには,変異した遺伝子に応じて,以下に示す1~4型の... さらに読む )により生じることもある;これは致死的となる可能性はあるが容易に治療可能な遺伝性疾患である。ヘモクロマトーシスは100万人を超えるアメリカ人にみられる。
鉄の過剰摂取 鉄中毒 鉄中毒は,小児における中毒死の主要な原因である。症状は,急性胃腸炎に始まり,続いて無症状期,その後ショックおよび肝不全を来す。診断は,血清鉄の測定,消化管内の放射線不透過性の鉄錠剤の検出,または鉄中毒を示唆する他の所見のある患者における説明のつかない代謝性アシドーシスの検出により行う。大量摂取の治療は,通常は全腸管洗浄およびデフェロキサミン静注によるキレート療法である。 ( 中毒の一般原則も参照のこと。)... さらに読む は有毒であり,嘔吐,下痢,ならびに腸管およびその他の臓器の損傷を引き起こす。
鉄中毒の診断は鉄欠乏症の診断と同様である。
鉄中毒の治療としては,鉄と結合し尿中に排泄されるデフェロキサミンを用いることが多い。