コメンタリー:前立腺がんのスクリーニングをめぐる議論を理解する―男性が知っておくべき5つのこと
コラム21年9月22日 Leonard G. Gomella, MD, The Bernard W. Godwin Professor of Prostate Cancer and Chairman, Department of Urology, Sidney Kimmel Cancer Center at Thomas Jefferson University

自分の健康に関して賢明な選択をするのは大事なことですが、年齢を重ねるにつれて、起きているかもしれない病気や合併症を積極的に特定していくことがそれに該当するようなります。たいていの場合、自分の健康状態の変化に気づくのが早いほど、そうした問題に効果的に取り組むことができ、健康を維持できるものです。

ところが、つねにそうだとはかぎりません。状況によっては、検査やスクリーニングのやり方に賛否両論があるのです。そうした検査をいつどのように行うかについては、医師と専門家と患者の間で意見が異なります。

前立腺がんのスクリーニングは、最も多くの議論を呼んでいる医療行為の一つです。

前立腺は男性だけにある腺で、膀胱のすぐ下に位置しています。加齢に伴い、多くの男性は、前立腺の良性腫瘍や、がんではない腫れによる前立腺の肥大を経験するようになります。それよりも少数の男性に前立腺の悪性腫瘍(がん)が発生し、早期に発見しないと、がんが体のほかの部分に広がる可能性があります。米国では、男性が一生のうちに前立腺がんと診断されるリスクは17%で、前立腺がんのために死亡するリスクはおよそ3%です。

このがんを早期に発見するために設計されたスクリーニングは、とても有効ですが、大きな議論があります。自分の健康を守るために積極的な手段を講じたい男性にとって、前立腺がんのスクリーニングを受けるべきかどうかや、いつ受けるのが正しいかを理解するのは、ややこしく、精神的な負担になりかねません。スクリーニングに関するこの議論には、がんが前立腺の外側に広がる前の早期発見も含まれます。こうした考慮すべきことがらを紹介しつつ、頭に入れておくべき5つのことを以下に示します。

1. 前立腺がんのスクリーニングは過去数十年間で大きく変わった

前立腺のスクリーニングについてまず理解しておくべきことは、一世代前とは事情が変わったということです。過去においては、医師が直腸診を行って前立腺を触り、硬い部分がないか調べて、生検が必要かどうかを判断するのが、前立腺がんのスクリーニングでした。数十年前からは、前立腺で作られるPSAという物質を測定する血液検査が用いられるようになり、現在では多くの医師たちがこの方法を信頼するようになっています。

PSAの測定値が高いことは、がんが存在する可能性を示唆しますが、がん以外にもPSAの値を上昇させる要因があります。つまり、PSA値の上昇は、前立腺の感染症や前立腺肥大症など、がん以外の病気が原因である可能性もあるということを知っておく必要があります。血液検査でPSA値が高いと判定された場合には、存在するかもしれないがんを見つけるために、前立腺のMRI検査などの新しい検査が行われることがあります。そのような検査が行われる場合もありますが、前立腺がんを診断する方法は、生検と呼ばれる組織を調べる検査だけです。

2. 前立腺がんのスクリーニングには賛否両論がある

スクリーニングに関する様々な推奨や基準について検討する前に、スクリーニング検査がこれほどの議論を呼んでいる理由を理解しておくことが重要です。実際には、前立腺のスクリーニングには有益な側面と否定的な側面がありますが、多くの男性にとって有益となる可能性があります。最大の利点は、進行が早いタイプの前立腺がんを、前立腺の外に広がる前の早期に検出できるということです。そのような場合には、治療をしてがんの拡大を防ぐことにより、余命を延ばせるだけでなく、生活の質を高めることもできます。

一方で、スクリーニングそのものや、その後に行われる可能性がある生検には、出血や感染症などのリスクがあります。さらに、多くの前立腺がんは成長のスピードが比較的遅い傾向がある一方で、治療には勃起障害尿失禁腸の炎症などの副作用の可能性があることから、スクリーニングを行うと、がんを治療せずに放置しておく場合よりも不利益が生じる可能性があります。前立腺のスクリーニングに関する議論の核心は、がんを積極的に検出することと、生活を変えてしまう副作用のある治療を避けることとのせめぎ合いにあるのです。

3. 早期の前立腺がんは必ずしも手術や放射線療法を必要としない

スクリーニングが進歩していることも大事ですが、前立腺がんの進行に関する私たちの理解や治療戦略もまた進歩しているということを知っておくことが重要です。20年前とは異なり、現在では早期の前立腺がんが診断されても、それだけで積極的な治療が急がれるわけではありません。

今日の医師たちは、アクティブサーベイランスと呼ばれる積極的な監視(かつては経過観察と呼ばれていました)を勧めることがあります。進行が遅い早期の前立腺がんと新たに診断された人には、定期的なモニタリングが行われます。多くの患者さんは、途中でがんが進行したり変化したりしない限り、治療を避けることができるのです。「未治療」のがんとともに生きることは、その人にとって精神的な負担になる状況かもしれませんが、本当のリスクとメリットを理解した上で、治療と監視のどちらかを選択する最善の方法について医師に相談することが大切です。

4. スクリーニングに関する推奨には様々なものがある

前立腺がんのスクリーニングについては、誰もが認める最善の推奨があるわけではありません。スクリーニングのメリットとリスクを比べた上で、様々な専門家グループがそれぞれ異なる推奨を示しています。米国National Comprehensive Cancer Network(NCCN)、米国泌尿器科学会(AUA)、米国がん協会(ACS)などの組織は、特定の注意事項を付けた上で、一部の男性を対象とするスクリーニングを推奨しています。

具体的な推奨内容は組織により異なっていますが、一般に前立腺がんのスクリーニングは、余命の見込みが最低10~15年ある50歳以上の男性と、アフリカ系アメリカ人であることや前立腺がんまたは乳がんの家族歴があることなど、危険因子がある50歳未満の人を対象に検討されます。スクリーニングのメリットは、年齢が高くなるにつれて少なくなる場合があります。

米国家庭医学会(AAFP)など、前立腺がんのスクリーニングに賛成していない組織もあります。患者を中心におく組織や資料の多くでも、スクリーニングのリスクに焦点をおいています。一方、かつて前立腺スクリーニングに反対していた米国予防医療作業部会をはじめとする他のグループは、スクリーニングが一部の男性に有益である可能性を示すようになってきています。

5. 男性は医師から情報を得て、自分で判断しなければならない

前立腺がんのスクリーニングをめぐる複雑な事情と議論を踏まえて、スクリーニングを検討する場合には、まず不確定要素、リスク、メリットについて医師と詳細な話し合いをするべきという考えに、ほぼすべての主要組織が賛成しています。

つまるところ、個人の選択なのです。あなたが前立腺がんが心配で、ある程度の年齢である場合や、あなたがアフリカ人またはアフリカ系アメリカ人である場合、前立腺がんまたは乳がんの家族歴がある場合は、医師とよく話し合って情報を得るべきです。

前立腺がんやスクリーニングに関する詳しい説明は、MSDマニュアルの該当するページをご覧ください。