Msd マニュアル

Please confirm that you are not located inside the Russian Federation

honeypot link

コメンタリー:ポストコビット症候群について現時点で分かっていること

コラム
20年9月24日 Matthew E Levison, MD, Adjunct Professor of Medicine, Drexel University College of Medicine

COVID-19情報ポータルページ

2019年12月に中国中部にある人口1,100万人余りの都市、武漢で最初に認められた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、過去10カ月の間に世界中に拡散しました。発見から1カ月足らずで、中国の研究チームがその原因を新型のコロナウイルスと特定し、SARSコロナウイルス2と命名しました。このウイルスは、中国雲南省のキクガシラコウモリから分離されていたコロナウイルスと遺伝子学的に最も近い関係にありました。このウイルスが雲南省の洞窟に生息するコウモリから武漢で暮らす人々の下まで、どのような道筋をたどったのかは依然として分かっていません。

COVID-19の感染者数が世界全体で3,000万人に迫り、およそ100万人の人々が亡くなっている現在でさえ(1)、このとても複雑な病気については、驚くほど多くのことが不明のままになっています。臨床的な病像は非常に多彩です。新型コロナウイルスに感染した人の最大40%では、何の症状もみられません。症状が現れた人でも約80%は入院の必要がない軽症で、およそ15%の人では入院を必要とする症状が現れますが、集中治療室(ICU)での治療(通常は呼吸不全に対して人工呼吸器をします)が必要になる人は5%にすぎません。

パンデミック(世界的大流行)の発生当初は、COVID-19は短期間で回復する病気だと考えられていました。2020年2月に世界保健機関(WHO)は、当時の予備的なデータを用いて、軽症患者における発症から臨床的な回復までの期間はおよそ2週間であり、重症の場合は回復までに3~6週間を要すると報告しました(2)。ところが最近になって、一部の患者では体を衰弱させる症状が数週間、場合によっては数カ月も続くことが明らかになってきました。そのような患者の中には、症状が全く消失しないケースもあります。

新型コロナウイルスに感染した患者では、肺や心臓、脳、腎臓、血管系など多くの臓器や器官系に長期的な損傷が残ることが、多くの研究で報告されています。そうした損傷は、重度の炎症反応、血栓性微小血管症、静脈血栓塞栓症、酸素欠乏によって引き起こされると考えられています。無症状の患者やCOVID-19による肺炎の症状が現れる前の患者でも血中酸素飽和度の低下がみられており、この状態は「無症候性低酸素症」と呼ばれています。軽度の症状しかない人でさえ、一部では肺、脳、腎臓などの臓器に損傷が残ることが報告されています。このように回復のペースが遅いことから、この病態は「ポストコビット症候群」と呼ばれるようになっています。ICUに収容された人でときにみられる集中治療後症候群を発症する人もいます。この症候群では、通常は人工呼吸器を長時間使用する集中治療を終えた後に、筋力低下、平衡感覚の障害、認知機能の低下、精神的な健康障害などがみられます(3)。

症状が長く続く現象は、2002~2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因となった、SARSコロナウイルス1と呼ばれる別のコロナウイルスへの感染後にも起きていました。それらの長引く症状は、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)に似ています。カナダのトロントでは、医療従事者がSARS患者の大半を占めていましたが、長期間続く倦怠感、筋肉痛、抑うつ、睡眠障害のために、感染後最長20カ月にわたって職場復帰が困難になるという事態がみられました(4)。香港の調査では、SARSの生存者233人のうち40%が3~4年後も慢性的な倦怠感を報告し、27%が米国疾病予防管理センター(CDC)が概要を示したCFS/MEの診断基準を満たしていました。多くの人が失業したままで、社会的に不名誉な状況を経験していました(5)。

速やかに回復する人がいる一方で症状が長期間続く人もいるCFS/MEのような病気は、他の多くの感染症の後にも発生しています。例えば、インフルエンザ、エプスタイン・バーウイルス感染症(伝染性単核球症(6))、ブルセラ症、Q熱(コクシエラ・ブルネッティ感染症(7))、エボラウイルス感染症(8)、ロスリバーウイルス感染症(9)などが挙げられます。

COVID-19の発症後に長引く症状もCFS/MEに似ていると言われており(10)、ポストコビット症候群の人々は自分たちのことを、長距離トラックの運転手を意味する「ロングホーラー」と呼ぶようになりました。しかし、何をもってポストコビット症候群と呼ぶかは明確にされていません。ポストコビット症候群に関して正式に認められた定義はなく、これがどれくらい一般的な病態なのか、どれくらい長く続くのか、リスクがあるのはどのような人なのか、何が原因なのか、どのような病態生理があるのか、どのような治療法や予防法があるのかを評価するのは困難であるのが現状です。それでも、この患者集団の定義を定めるべく、いくつかの研究が開始されています。

CDCは2020年の4月と6月に、新型コロナウイルスの感染を調べるRT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)検査で陽性と判定されたものの入院しなかった成人を対象に、複数の州で電話調査を実施しました(11)。回答者には、人口統計学的な特性や発症前からあった慢性疾患、検査時点でみられていた症状、それらの症状が調査回答時までに解消したかどうか、回答時までに通常の健康状態に戻ったかどうかについて質問がなされました。PCR検査の時点で症状があった回答者は274人いましたが、そのおよそ3分の1が検査から2~3週間後の回答時点で通常の健康状態まで回復していないと回答しました。慢性疾患のない18~34歳の若年者では、20%が通常の健康状態まで回復していませんでした。しかし、高齢者や複数の慢性疾患がある回答者では、病状が長引いていた人の割合が高く、18~34歳で26%、35~49歳で32%、50歳以上で47%という結果でした。倦怠感(71%)、せき(61%)、頭痛(61%)が最も多く報告された症状でした。以上の結果は、若い成人を含む比較的軽症の外来患者でさえも、COVID-19は病状が長期化する可能性があることを示しています。大学構内でのアウトブレイク(集団発生)が起きつつある現在、これは特に気になる知見です。

COVID-19で2週間入院して退院した患者143人(平均年齢57歳)を対象としてイタリアのローマで実施された別の研究では、発症から平均60日後の時点でも、多くの患者が症状に苦しんでいました。87%の患者で少なくとも1つの症状がみられ、55%の患者には3つ以上の症状がみられました(12)。44%で生活の質(QOL)が悪化していて、多くの人で倦怠感(53.1%)、呼吸困難(43%)、関節痛(27%)、胸痛(22%)が長期間続いていました。発熱や急性疾患の徴候・症状が残っていた人は一人もいませんでした。

一方で、ポストコビット症候群の人口統計的特性、時間的経過、症状・徴候に関する多くの情報が、一部のロングホーラー自身の手で収集・分析されています。それらの人たちは、Body Politicという団体がオンラインで立ち上げたCOVID-19サポートグループに参加していて、調査研究や調査の計画、データ解析について専門知識をもっています。このグループが計画してオンラインで実施した調査では、症状が2週間以上続いた人を対象として、2020年の4月21日から5月2日にかけて640件の回答が寄せられました(13)。

回答者は若年者(30~49歳が63%)、白人(77%)、女性(77%)、米国(72%)または英国(13%)の居住者が多くを占めていました。大半が一度も入院しなかったか、入院してもICUに収容されることも人工呼吸器が使用されることもなかったため、医学的には「軽度」とカウントされていました。多くが救急外来や救急診療施設で診察を受けましたが、入院とはなりませんでした。全ての回答者が、新型コロナウイルスに対するRT-PCR検査の結果に関係なく、解析対象に含められました。およそ25%の回答者がRT-PCR検査で陽性判定を受けていましたが、50%近くの回答者は一度も検査を受けていませんでした。これは、対象とされた期間(2020年の3月と4月)には、検査の対象が重度の呼吸障害がみられる入院患者に限定されていたケースが多かったためで、「標準的」な症状がみられたために、PCRの検査キットが不足していた当時では検査不要と判断された患者や、症状があらかじめ定められた基準と合致しないために検査を拒否された患者が多くみられました。

残り25%の回答者は、検査で陰性と判定されていましたが、結果が陰性でもCOVID-19に感染していなかったと言い切ることはできません。陰性と判定された検査結果の一部は偽陰性であった可能性が高く、偽陰性は最大30%の頻度で発生します(14)。また、一部の人は発症後比較的遅い時期に検査を受けていましたので、そのころにはウイルスが減って検出できなくなっていた人もいたはずです(15)。実際この調査では、RT-PCR検査で陰性判定を受けた人の方が、陽性判定を受けた人よりも検査の時期が1週間遅かったという結果が出ています。

報告された症状は様々で、気道や神経系、心血管系、消化器系など様々な器官系に及んでいました。70%以上の回答者が報告した上位10個の症状は、息切れ、胸部の圧迫感、倦怠感、悪寒または発汗、体の痛み、空せき、「体温の上昇(37.1~37.8℃)」、頭痛、頭にもやがかかったような状態/集中力の低下でした。40~50%の回答者が、ベッドから出られないほどの極度の疲労、重度の頭痛、発熱(37.8℃以上)、味覚または臭覚の喪失を報告しました。経過が進むにつれて、回答者の70%が症状の種類の変動を経験し、89%が重症度の変動を経験していました。身体活動を行うと症状が再発ないし悪化していた患者や、夜に症状が最も強くなっていた患者もいました。約70%の回答者は発症時まで健康な状態を維持していましたが、70%が発症後にあまり身体を動かさない生活になったと報告しました。

平均とされる約4週間で回復がみられた回答者の割合は約10%でした。この期間で回復しなかった90%の回答者では、平均40日間にわたり症状が続いていました。回答者の大多数では5~7週間にわたり症状がみられました。50日間で完全な回復が得られる可能性は20%未満と推定されました。

ただし、このような調査結果には偏りが生じることがあります。調査に回答した人には、回答しなかった人と比べて何らかの違いがある可能性があります。例えば、サポートグループに参加してオンライン調査に回答する可能性は女性の方が高いという、性別による偏りがあったかもしれませんし、病状が重かった人は、当時経験したことを正確に思い出して答えることができなかった可能性があります。また、オンライン調査では回答者の層が裕福な人、若い人、コンピューターに精通した人に偏る可能性もあり、経済的に不利な立場にいるマイノリティや、ホームレス、高速の通信回線やコンピューターをもたない人、不法滞在の移民のように回答することを恐れる人たちが除外されている可能性があります。

Body PoliticのCOVID-19サポートグループチームは、報告書を発行した後、米国疾病予防管理センターおよび世界保健機関のスタッフと会合して(16)、最初の報告書で欠落していた部分を埋めるべく2つ目の調査を計画し、抗体検査の結果、神経症状、精神衛生の役割を検討し、調査対象の地理的および人口統計学的な多様性を高めています(17)。

持続的な症状が軽視されていると、多くのロングホーラーが報告しています。一方で、彼らの訴えは大げさで、想像の産物であって、生活を変えるような病気を自ら作り出しているのだとさえ言われることもあります。ベッドから起きる、身だしなみを整える、簡単な食事を用意する、シャワーを浴びるといった単純な身体活動も、一部の人にとっては大変な疲労を伴うことがあります。自分自身や家族の世話をすることができず、働くこともできず、収入を失い、場合によっては雇用主負担の健康保険も失うとなると、負担はさらに大きくなります。医療の計画者や政策の立案者には、ポストコビット症候群の原因とこれを軽減する方法を調べる研究を継続しつつ、この病気の影響を受けている多くの人々とその家族のニーズを満たせるように体制を整備することが求められます。

 

参考文献

 

1. Worldometer 2020 Accessed September 21, 2020. https://www.worldometers.info/coronavirus/

2. World Health Organization: Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). Geneva, WHO. 16-24 February, 2020. Accessed September 21, 2020. https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf

3. Jaffri A, Jaffri UA: Post-intensive care syndrome after COVID-19: A crisis after a crisis? Heart Lung June 18, 2020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7301100/

4. Moldofsky H. Patcai J: Chronic widespread musculoskeletal pain, fatigue, depression and disordered sleep in chronic post-SARS syndrome; a case-controlled study. BMC Neurol 11:1–7, 2011. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3071317/

5. Lam MHB, Wing YK, Yu MWM, et al: Mental morbidities and chronic fatigue in severe acute respiratory syndrome survivors: long-term follow-up. Arch Intern Med 169:2142-2147, 2009.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20008700/

6. Katz BZ, Shiraishi Y, Mears CJ, et al: Chronic fatigue syndrome following infectious mononucleosis in adolescents: A prospective cohort study. Pediatrics 124: 189-193, 2009. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2756827/

7. Morroy G, Keijmel SP, Delsing CE, et al: Fatigue following acute Q fever: A systematic literature review. PloS One 11(5): e0155884, 2016. doi:10.1371/journal.pone.0155884 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4880326/

8. PREVAIL III Study Group, Sneller MC, Reilly C, et al: A longitudinal study of Ebola sequelae in Liberia. N Engl J Med 380(10):924-934, 2019. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30855742/

9. Centers for Disease Control and Prevention: Myalgic encephalomyelitis/Chronic fatigue syndrome: Possible causes. Updated July 12, 2018. Accessed September 22, 2020. https://www.cdc.gov/me-cfs/about/possible-causes.html

10. Perrin R, Riste L, Hann M: Into the looking glass: Post-viral syndrome post COVID-19. [published online ahead of print, 2020 Jun 27]. Med Hypotheses 144:110055, 2020. doi:10.1016/j.mehy.2020.110055 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7320866/

11. Tenforde MW, Kim SS, Lindsell CJ, et al: Symptom duration and risk factors for delayed return to usual health among outpatients with COVID-19 in a multi-state health care systems network-United States, March-June 2020. MMWR 69:993-998, July 31, 2020. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6930e1.htm?s_cid=mm6930e1_e&deliveryName=USCDC_921-DM33740

12. Carfi A, Bernabei R, Landi F, et al: Persistent symptoms in patients after acute COVID-19. JAMA 324:603-605, 2020. https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2768351https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32644129/

13. Patient-led Research for COVID-19: Report: What does Covid-19 recovery actually look like? May 11, 2020. Accessed September 22, 2020. https://patientresearchcovid19.com/research/report-1/

14.Krumholz HM: If you have coronavirus symptoms, assume you have the illness, even if you test negative. New York Times April 1, 2020. Accessed September 22, 2020. https://www.nytimes.com/2020/04/01/well/live/coronavirus-symptoms-tests-false-negative.html

15. Kucirka LM, Lauer SA, Laeyendecker O, et al: Variation in false-negative rate of reverse transcriptase polymerase chain reaction-based SARS-CoV-2 tests by time since exposure. Ann Intern Med 173:262-267, 2020. https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-1495

16. Collins F: Body Politic COVID-19 Support Group: Citizen scientists take on the challenge of long-haul COVID-19. NIH Director’s Blog September 3, 2020. Accessed September 22, 2020. https://directorsblog.nih.gov/tag/body-politic-covid-19-support-group/

17. Akrami A, et al: Online survey on recovery from COVID-19 (survey 2). Patient-led research for Covid-19. Accessed September 22, 2020. https://patientresearchcovid19.com/survey2/

COVID-19情報ポータルページ