補完代替医療の概要(CAM)
補完代替医療(CAM)には世界中を起源とする様々な治療法や治療的アプローチが含まれますが、通例として従来の西洋医学は含まれません。CAMの多くは、中国、インド、チベット、アフリカ、南北アメリカにみられるもののように、昔からその地域に伝わる治療システムに根ざしています。
こうした治療法や施術の多くは広く普及しており、現在では、病院で行われていたり保険の対象となっているものもあります。鍼治療や一部のカイロプラクティック療法がその例です。CAMへの関心と利用が高まっているため、鍼治療、薬用ハーブ、カイロプラクティック療法、ホメオパシーなどのCAMに関する情報を講義で扱う医学部が増えています。
どのように利用されるかによって、いくつかの異なる用語が用いられています。
通常医療と代替医療を明確に区別することは必ずしも容易ではありませんが、両者には根本的な哲学的相違が存在します。通常医療は、利用可能な最良の科学的根拠に基づいて行われる傾向があります。対照的に、CAMは哲学に基づいて行われる傾向があり、その治療法を用いることを正当化する科学的根拠を必要としていません。通常医療では一般に、病気や機能障害のない状態を健康と定義しています。この医療では、病気や機能障害の主な原因は、細菌やウイルス、生化学的な均衡の崩れ、加齢といった個別の要因とされ、多くは薬や手術で治療します。これに対して代替医療では、健康を全人的に定義することが多くなります。すなわち、その人全体にかかわるシステム(身体、情緒、スピリチュアルな面)のバランスがとれた状態を健康と定義します。こうしたシステム間の調和が乱れると病気になると考えられています。治療には体に備わっている防御機能を強化して、これらのバランスを回復することも含まれます。
通常医療と代替医療の違い
受容と利用
欧米諸国では、多くの人が医療の一環として代替医療に目を向けています。2007年の米国では、成人およそ3810万人における代替医療の施術回数が3億5420万回であり、1997年から50%減少しました。この数字は同年の通常医療の受診回数をはるかに下回っています。
2007年には18歳以上の米国人の約38%が、次のようなものを含む、何らかの代替医療を利用しました。
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エキナセア、薬用ニンジン、イチョウ、ニンニクのサプリメントなどの天然製品(ビタミンおよびミネラルは含まない)(17.7%)
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深呼吸訓練:12.7%
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カイロプラクティック:8.6%
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マッサージ:8.3%
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ヨガ:6.1%
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食事療法:3.6%
その他のCAM療法の利用は、より低い状況です。
人々が代替医療を利用したいと思うに至る主な状態には次のようなものがあります。
また、がんなどの命にかかわる病気に直面している多くの人が、通常治療による望みがほとんどなくなったとき、特に終末期に代替医療を求めます。
有効性と安全性
米国では1992年に、代替医療の各種療法の効果と安全性についての調査を行うための代替医療局が国立衛生研究所(NIH)内に設立されました。代替医療局は1999年に国立補完代替医療センター(NCCAM―ウェブサイト:www.nccam.nih.gov)となり、2014年に国立補完統合衛生センター(NCCIH)となりました。
有効性
代替医療の有効性は極めて重要な問題です。
多くのCAM療法について研究が行われましたが、その結果として、効果がない、または良く言っても一貫性がないことが判明しています。一部の代替医療は、いくつかの特定の病気や状態への有効性が示されています。しかし、それ以外の状態や症状に対する使用を裏付ける科学的根拠がない場合であっても、これらの療法は頻繁に用いられることがあります。CAM療法の中には、適切な試験デザインに基づく研究が行われていないものもあります。しかし、適切な試験デザインに基づく研究からの証拠が不足しているからといって、療法に効果がないという証明にはなません。
代替医療の多くは数百あるいは数千年にもわたって実践されてきたといわれています。鍼治療、瞑想、ヨガ、治療食、マッサージ、薬用ハーブなどがこれにあたります。長く使用されてきた歴史が存在することが、ときに代替療法の有効性の根拠として挙げられます。ただし、この主張にはいくつかの問題点があります。
つまり、ある療法が有効であるかどうかを明らかにするためには、適切な試験デザインを有する研究がやはり必要となります。
しかしながら、CAM療法においては、適切な試験デザインの研究は困難になりがちです。CAM療法に関する調査研究には、次のような障壁があります。
以下をはじめとする様々な理由から、CAMの研究に通常の研究手法を適用することが困難な場合があります。
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通常の研究デザインでは、試験の各治療群ですべての被験者に同一の治療を行うことが一般的に求められます。しかし多くのCAM療法は、患者一人ひとりの固有的かつ特異的なバランスの崩れを考慮に入れようとします。そのため、医学的診断が同じ患者でも、まったく異なる治療をされることがしばしばあります。例えば鍼治療では、異なる部位に鍼が刺される場合があります。また、ホメオパシーや薬用ハーブ療法の処方がまったく異なる場合もあります。
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通常の研究デザインでは、実薬治療(薬や治療)をプラセボと比較します(プラセボとは、実薬に似せて作られた薬や、実際の治療に似せて行われる治療のことで、薬の有効成分も含まれておらず、実際に効果のある治療も行われません)。ホメオパシーや薬用ハーブなど、いくつかのCAM療法においては、プラセボを設定するのは比較的容易です。しかし、鍼治療やカイロプラクティック療法といった理学的な治療のプラセボを設定するのはより困難です(しかし不可能ではありません)。瞑想のプラセボを設定するのも不可能です。
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CAM療法がもつ有効な構成要素がもたらす効果と、プラセボの効果を切り離すことは困難です。例えば、他にどのような療法が用いられているかに関係なく、CAMの施術者は前向きで支援的な方法(体調が良くなったように感じさせることが知られています)で一般的には接します。CAMのこのような側面は、プラセボ効果とみなすことができます。
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通常の研究デザインでは、二重盲検という方法を用います。二重盲検では、調査研究に参加する被験者と医療専門家に、どの人がどの治療を受けているのか分からないようにします。被験者と医療専門家は、実薬治療のほうがプラセボよりも効果があることを、通常は期待します。二重盲検では、このような期待から実薬治療の結果を有利にみるバイアスがかかる可能性が少なくなります。ただし、医療専門家の盲検化は難しい場合があります。例えばレイキ(霊気)の施術者は、実際に「気」による施術を行っているのかどうかが分かるでしょう。このような場合は、どの治療が行われたのかを知らない別の施術者によって、治療の有効性の評価が行われる必要があります。
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CAM療法やCAMの診断は標準化されていないことがあります。例えば、施術者毎に異なる鍼治療の体系が使用されたり、薬用ハーブ製剤の成分や効果が大幅に異なったりします。
そのような困難にもかかわらず、CAM療法(鍼治療やホメオパシーなど)についての適切なデザインの研究が多数行われています。例えば、ある鍼治療の研究では適切なデザインのプラセボを設定することで、二重盲検化を可能としました。不透明の覆いを患者の皮膚のツボに押し付ける方法がとられました。いくつかの覆いには皮膚に刺さる鍼(実薬治療)が入れられ、その他には入れられませんでした(プラセボ)。CAM療法に効果があるとみなすためには、プラセボよりも効果があることを示す科学的根拠が必要です。
CAM療法の優れたデザインの研究を支援するための資金の不足が、このような研究が行われないことの理由としてしばしば挙げられます。例えば、製薬企業では製薬のための研究が数多く行われていますが、CAMの薬に関する研究は利益が見込めないことから行われていません。しかし、CAMの製品は数十億ドル規模のビジネスであることから、製薬企業がCAM製品の研究を行わないのは利益が見込めないことが理由ではないと考えられます。一方で、CAMが利益を生み出すことから、研究の結果、CAM製品やCAM療法に効果がないと分かった場合にはCAMの企業に損が出るリスクがあります。
安全性
安全性はもう1つの重要な課題です。
CAM最も大きなリスクは以下のものが考えられます。
CAM療法自体のリスクについては、明らかに安全なものもあります。例えば、痛みの管理に対する瞑想や、吐き気に対する鍼治療、平衡感覚の改善に対するヨガや、消化を助けるショウガ入りのお茶などです。他の治療法では、有害性が考えられる場合もあります。米国では、薬用ハーブやその他のサプリメント(多くの代替医療で用いられます)は食品医薬品局(FDA)の管理下にないため、製造業者は安全性を立証する義務を負いません( 薬用ハーブと機能性食品の概要 : 安全性と有効性)。
一般的に以下のようなリスクがあります。
代替医療の多くのケースでは、有害性が確立されたことも退けられたこともありませんが、一部のケースでは潜在的な有害性が示されています。ときには、代替的な製品や療法を喧伝しようとする人々によって、潜在的な危険性が大幅に割り引かれることもあります。
