米国では毎年65歳以上の人の20%が股関節骨折で入院しています。大半が女性です。
股関節の骨折が高齢者に多いことには、次の原因があります。
ほとんどの股関節骨折は転倒によるものですが、骨粗しょう症の高齢者では、日常生活の動作(ベッドで寝返りを打つ、いすから立ち上がる、歩くなど)で体に加わる力によって股関節を骨折することがあります。
股関節は、太ももの骨(大腿骨)の丸い上端部(骨頭)と骨盤骨の一部で構成されます。丸い大腿骨頭は骨盤骨のカップ状のくぼみにはまり、球が受け皿に収まった球関節を形成します。大腿骨は骨頭のすぐ下が狭くなっていて、大腿骨の頸部を形成しています。頸部の下は広くなっていて、ここには2つの大きな隆起(転子)があります。脚と殿部の強い筋肉が、腱によって転子に結合しています。
ほとんどの股関節骨折は、大腿骨頭のすぐ下で起こります。次の2種類の骨折が一般的です。
股関節骨折は大腿骨頭で起こる場合や、大きな隆起の下で起こる場合(転子下骨折)もあります。
特に、大腿骨頸部骨折は骨頭部への血流を妨げるため、問題視されます。血流が滞ると骨が治癒せず、ついにはつぶれて壊死することがあります(骨壊死)。痛みを伴う重度の関節炎が発生することがあります。
転子間骨折が大腿骨頭への血流を妨げることはまれです。骨折面が出血することもありますが、多くの場合、深刻な問題を引き起こすほどではありません。通常、この骨折は、転倒や直接的な打撃によって発生します。
症状
股関節骨折は通常、激しい痛みを伴い鼠径部に痛みを引き起こします。
折れた骨片が分離していると、患者は歩くことも立つことも、脚を動かすこともできません。横になると、骨折した側の脚が短く見え、外側に開いていることがあります。しかし、骨片同士が互いに入り込んでいて、かつ骨折の範囲が小さければ、患者は歩くことができ、痛みが軽く、脚が正常に見えることもあります。
骨折部や周辺の破れた血管から大量に出血すると、ふらつきや脱力を感じることがあります。その部位が腫れ、紫色のあざが現れることがあります。
股関節が骨折しているのに、股関節ではなく膝が痛むように感じられることがあります。この感覚は、膝と股関節が同じ神経経路の一部を共有しているために起こります。こうした痛みは関連痛と呼ばれます({blank} 関連痛とは)。
股関節骨折を負った患者が、長期間ベッドで安静にしていなければならない場合は、次のような重篤な問題が発生するリスクが高まります。床上安静による問題として、以下のものがあります。
高齢者は、床上安静によって問題が起こりやすく、より重篤な状態になる場合があります。股関節を骨折すると、生活が変わることもあります。日常的に営んでいた活動ができなくなるかもしれません。自宅で介護してくれる人が必要になったり、介護施設に入所しなければならないこともあります。骨折のせいで行動が制限されたり自立が妨げられたりすると、抑うつ状態になる高齢者もいます。
診断
医師は、けがや症状についての本人の説明と身体診察の結果に基づいて、股関節骨折を疑います。
X線検査は明確な骨折を確認できることが多く、医師が股関節骨折の診断を確定する材料になります。ただし、骨折が存在していても、骨折が小さい場合や骨片が元の位置から動いていない場合には、X線検査を行っても正常に見えることがあります。それゆえ、医師が引き続き股関節骨折を疑っている場合や、転倒後1日以上が経過しても痛みが続いて立てない場合には、MRI(磁気共鳴画像)検査で小さな骨折がないか調べます。ときにCT(コンピュータ断層撮影)検査も行われますが、小さな股関節骨折の発見に関しては、この検査の精度は高くありません。
治療
患者がベッドで安静にしていなければならない期間が短縮され、床上安静により重篤な問題が生じるリスクを低減できるため、通常、股関節骨折の治療では手術を行います。手術を行うことで、患者がベッドから出て歩けるようになるまでの期間を可能な限り短縮できます。通常は術後1~2日すれば歩行器を使って数歩あるくことができます。股関節骨折の治療後は、できるだけ早くリハビリテーション(理学療法)を開始します。
骨折した股関節は、手術で修復する、または人工関節と置換することがあります。 修復で使用される方法は、観血的整復内固定術(ORIF)といいます。骨折がそれほど重度でなければ、股関節の修復を行います。骨折が重度の場合や、大腿骨頭への血液供給が妨げられている場合は、股関節を人工関節に置換することがあります(関節形成術)。
救急外来で股関節の手術を受けるまでの間、高齢者は痛みを抱えていることがあります。痛みのコントロールを助けるため、医師は麻酔薬を股関節の神経に注射することがあります。この処置(神経ブロック)によって、神経が痛みの信号を脳に送るのを防ぎます。
股関節の修復
人工股関節置換術
一部またはすべての股関節を置換します。関節を置換する前に、医師が折れた骨片を除去します。
部分的な人工股関節置換術(人工骨頭置換術)が必要な場合は、骨盤骨の関節窩(関節のくぼみ)に合うように作られた球状の金属部品(人工関節)を使用します。この人工関節には頑丈なステムがあり、それが太ももの骨の中心にはまります。一部の人工関節は、合成樹脂のセメントを使って骨にすばやく固定できます。また別の人工関節は、特殊な多孔質またはセラミックの表面加工が施され、周囲の生きた骨が直接結合できるようになっています。
ときに人工股関節全置換術が必要とされます。例えば、大腿骨頸部骨折が股関節の血液供給を妨げる可能性が高い場合などに行います。人工股関節全置換術には、部分的な人工股関節置換術よりも大きなリスクがあります。しかし、機能がより高まるため、活動的な高齢者で行われることが増えています。人工股関節全置換術では、大腿骨頭と骨盤のくぼみの表面を人工関節に置換します。
人工股関節置換術を受けた患者は、術後1~2日で松葉杖か歩行器を使って歩行を開始し、6週間以内にステッキに切り替えます。
人工関節は永久に使えるものではありません。10~20年後に再手術が必要になることがあり、特に活動的な人や体重の重い人では、その必要性が高いでしょう。
再手術を受ける可能性が低い高齢者にとっては、多くの場合に人工関節置換術がよい選択肢となります。加えて、術後すぐに歩行ができることも高齢者には大きな利点です。