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放射線障害

執筆者:

Jerrold T. Bushberg

, PhD, DABMP, School of Medicine, University of California, Davis

最終査読/改訂年月 2017年 9月
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放射線障害とは、電離放射線の被曝により生じた組織の損傷です。

  • 電離放射線の大量照射は、血球の産生量を減らし、消化管に損傷を与えることによって急性疾患を引き起こします。

  • 電離放射線のさらに大量の照射は、心臓と血管(心血管系)、脳、皮膚にも損傷を与えます。

  • 大量、またはさらに大量の放射線被曝による放射線障害は、組織反応と呼ばれます。どのくらいの線量を当てれば目に見える組織損傷が起こるかは、組織の種類によって異なります。

  • 電離放射線はがんのリスクを高めます。

  • 精子や卵子が放射線にさらされると、子孫に遺伝子異常が起こるリスクがわずかに高まります。

  • 医師は患者の体外および体内(吸入または摂取された場合)から放射性物質をできるだけ除去し、放射線障害の症状と合併症を治療します。

電離放射線とは一般に、原子から電子を放出させる(イオン化する)働きをもつ高エネルギーの電磁波(X線、ガンマ線)や粒子(アルファ粒子、ベータ粒子、中性子)のことをいいます。イオン化された原子やその原子を含む分子は、その化学的性質が変化します。電離放射線は、高度に秩序立った細胞内の環境で分子に変化を起こすことにより、細胞を破壊し損傷を与えます。細胞が損傷すると病気になったり、がんの発生リスクが上昇したり、その両方が起こったりします。

電離放射線はウラン、ラドン、プルトニウムなどの放射性物質(放射性核種)から放出されます。またX線検査や放射線療法の機器などの装置から発生するものもあります。

携帯電話やAMまたはFMラジオのトランスミッターから出る電波や、可視光線も放射線(電磁放射線)の一種です。しかし、それらのもつエネルギーは小さくイオン化を引き起こさないため、これらの一般的な機器から通常受ける程度の放射線量では、細胞の損傷は起こりません。本章で使用する「放射線」という用語は、電離放射線のみを指します。

放射線の測定

放射線量の測定には数種類の単位が用いられます。レントゲン(R)は、放射線が空気中で他の物質をイオン化する能力を示す尺度で、放射線被曝の強度を表すために広く用いられています。人が浴びる放射線の量や体に受ける影響の大きさは、場合によって様々です。グレイ(Gy)とシーベルト(Sv)は対象物が受けた放射エネルギーの量を示す放射線量の尺度であり、人が放射線にどれだけ被曝したかを表す単位として用いられます。GyとSvは似ていますが、Svの場合は放射線の種類による影響や、組織によって異なる放射線への感受性を考慮に入れています。低レベルの放射線量は、mGy(1mGy = 1/1000Gy)とmSv(1mSv = 1/1000Sv)で示します。

汚染と照射

ある人の放射線被曝線量は、汚染と照射という2つの方法で増えていきます。多くの重大な放射線事故では、両方の種類の被曝が起きています。

放射能汚染は、多くの場合、粉末状や液状の放射性物質に触れ、それが付着することで起こります。体外汚染は皮膚や衣服に放射性物質が付着して起こり、そこから落下したり剥がれ落ちたりして、他の人や物質を汚染します。体内汚染は、飲食や呼吸、皮膚の損傷から放射性物質が体内に入り、沈着することで起こります。いったん体内に入ると、放射性物質は骨髄などの様々な部位に移動し、排出されるかエネルギーをすべて放出して崩壊するまで放射線を出し続けるため、被曝量が増加します。体内汚染は体外汚染よりも除染が困難です。

照射は、放射性物質にさらされていない状態、すなわち汚染のない状態で放射線を受けることです。一般的な例は、骨折した場合などに診断目的で行われるX線検査です。放射線被曝は、人と放射線源(放射性物質やX線装置など)の間に直接の接触がない場合にも起こります。放射線源を取り除くか装置をオフにすると、照射は終わります。汚染とは異なり、照射を受けただけの人は放射能を帯びていません。つまり、その人から放射線が放出されることはなく、放射線源から受けた線量はそれ以降増加しません。

知っていますか?

  • 平均的にみると、米国に住んでいる人は、自然環境から受ける放射線と同程度の線量を人工的な放射線源から受けています(ほとんどは病気の診断や治療に用いられる医療用放射線です)。

放射線被曝の線源

人間の体は常に自然界から低レベルの放射線(バックグラウンド放射線)を受けているほか、断続的に人工的な発生源からの放射線を浴びています。バックグラウンド放射線の線量は住む地域によって劇的に異なり、同じ国の中でさえ大きな違いがあります。 米国では人が1年当たりに自然の放射線源から受ける放射線量は、平均で約3mSvですが、この値は地域、海抜、地質によって0.5~20mSv/年と幅があります。また、そのほかに平均して約3mSv/年の放射線を人工的な線源(ほとんどは医療で使用されるもの)から受けており、合計すると1人当たり平均6mSv/年の実効線量を受けていることになります。

バックグラウンド放射線

バックグラウンド放射線には、大気圏外からの宇宙線や天然の放射性元素から放出される放射線などがあります。

宇宙線はその多くが大気によって遮断されますが、北極や南極では地球の磁場によって強くなります。したがって、高緯度地域または高地に住む人や、航空機で飛行中の人は多くの宇宙線を浴びます。

ウランなどの放射性元素やそれらが自然に崩壊して発生した放射性の生成物(ラドンガスなど)は、多くの岩石や鉱物中に存在しています。これらの放射性元素は、最終的には食物や水、建築資材などの様々な物質に含まれることになります。ラドンによる被曝は、一般的に人が受ける自然放射線の約3分の2を占めています。

環境中のバックグラウンド放射線はごく少量であるため、すべて合わせても放射線障害の原因にはなりません。現在のところ、バックグラウンド放射線のレベルの違いによって、健康被害が現れるということを示した証拠はありません。これは、この程度の低線量であれば、健康被害をもたらすリスクがまったくないか測れないほど小さいためです。

人工放射線

人工的な線源から受ける放射線は、ほとんどが医療用の画像検査(特にCT[コンピュータ断層撮影]検査や心臓核医学検査)に関係しています。がんの放射線療法を受けている人は非常に高レベルの放射線を受けます。しかし、その場合も放射線の照射を病気がみられる組織に限定し、正常な組織への照射を最小限にとどめるよう、様々な努力がなされています。

被曝は、放射線事故や過去の核実験による放射性降下物など、他の放射線源によっても発生しています。しかし、これらの原因による被曝は、大部分の人が1年間に受ける線量のごく一部です。放射線事故は通常、食品照射装置、産業用X線源、医療用X線検査装置など、放射性物質やX線の線源を扱う職業に従事する人に起こります。こういった労働者は高い線量の放射線を受けることがあります。これらの放射線障害は、主に安全手順が守られなかった場合に起きています。また、医療用もしくは産業用線源が紛失または盗難にあい、その線源に含まれる大量の放射性物質によって放射線被曝が起こることもあります。放射線療法や、パルス状X線ビームを使用してX線動画を撮影する医療処置(X線透視検査)を受けている患者に放射線障害が起こることもあります。こういった放射線障害の中には、事故や装置の誤用のために起こるものもありますが、より複雑な事例では、正しい使い方をしても放射線関連の合併症や組織反応を避けられない場合があります。

1979年の米国ペンシルベニア州スリーマイル島の発電所、1986年のウクライナのチェルノブイリ発電所、2011年の日本の福島第一発電所など、原子力発電所から放射性物質が大量に漏出する事故もまれに起こります。スリーマイル島の事故では、大量の放射線被曝は起こりませんでした。実際、発電所から1.6キロメートル以内に生活していた人の被曝線量は、普通より約0.08mSv多いだけでした。しかし、チェルノブイリの発電所付近から避難したおよそ11万5千人の平均被曝線量は約30mSvでした。参考のため、一般的なCT検査1回分の被曝線量は4~8mSvです。チェルノブイリ発電所で働いていた人はそれよりはるかに高い線量を被曝しました。また、30人以上の労働者と緊急作業員が事故から数カ月以内に死亡し、それをはるかに上回る数の人が急性放射線障害を発症しました。チェルノブイリの事故が原因となって、遠く離れた欧州やアジア、(程度は下がりますが)北米でも低レベルの汚染がみられました。事故後20年にわたって軽度の汚染地区(ベラルーシ、ロシア、ウクライナの様々な地域)に住んでいた一般人の被曝積算線量は、平均で9mSvと推定されています。つまり、チェルノブイリから放出された放射性物質で汚染された地区の住民は、平均すると年間0.5~1.5mSvの放射線を余分に受けたことになりますが、これは米国における通常のバックグラウンド放射線量(年間3mSv)よりも低い値です。福島第一発電所で働いていた人の一部は高線量の放射線にさらされましたが、死者や恒久的な組織反応の残った人はいませんでした。福島第一発電所から20キロメートル以内に住んでいた人は、被曝を懸念して避難しました。 しかし、付近に住んでいた人で約5mSvを超える線量を被曝した人はいなかったと推定されています。世界保健機関は、この事故に関連するがんによる死亡リスクは低いと予測しています。

核兵器は大量のエネルギーと放射線を放出します。1945年以後、核兵器は人には使用されていません。しかし、今や多くの国が核兵器を保有し、テロリストグループも核兵器の入手や独自製造を企てているため、核兵器が再び使用される可能性が高まっています。核兵器の爆発による犠牲者の大半は、爆風と熱傷によるものです。放射線が原因で生じた病気による犠牲者の割合はより小さくなります(とはいえ多数の犠牲者が出ています)。

テロリスト( 放射能兵器)が意図的に放射線被曝を引き起こすために、爆弾で放射性物質をまき散らし地域を汚染する可能性があります(通常の爆発物を使用して放射性物質を拡散する装置は、ダーティボムと呼ばれます)。ほかにも、公共の場に放射線源を隠しておき、無警戒の人を大量の放射線に被曝させるテロ活動や、原子炉または放射性物質保管施設への攻撃、核兵器の使用などを実行する可能性が考えられます。

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米国で1年間に浴びる放射線の量

放射線源

平均実効線量(ミリシーベルト)

自然界に存在する放射線源

ラドンガス

2.3

その他の地上の放射線源

0.2

太陽光と大気圏外からの放射線

0.3

体内に存在する自然由来の放射性元素

0.3

小計

3.1

人工放射線源

診断用画像検査*

3.0

消費財によるもの

0.1

兵器テストによる放射性降下物

0.01未満

原子力産業

0.01未満

小計

3.1

年間総被曝量

6.2

その他の放射線源(1回毎)

航空機旅行

0.001~0.014/飛行時間

歯科X線検査

0.005

胸部X線検査(後前像)

0.02

胸部X線検査(2方向:後前像および側面像)

0.1

マンモグラフィー

0.4

頭部のCT検査

2

胸部、腹部、または骨盤のCT検査

6~8

下部消化管造影検査

8

核医学検査(骨シンチグラフィーなど)

4.2

*平均値。ほとんどの人は歯科用X線検査やマンモグラフィーなどの検査を行うのみであるため、毎年これらの値よりはるかに低い線量しか受けていません。その一方で、数は少ないものの病気の人や負傷した人は頻繁な画像検査が必要であるため、はるかに高い線量の放射線にさらされます。

Data from the National Council on Radiation Protection and Measurements.Ionizing radiation exposure of the population of the United States.NCRP Report No.160 National Council on Radiation Protection and Measurements, Bethesda, MD, 2009.

放射線の影響

放射線が与える影響(すなわち、組織反応の重症度)は以下の要因により異なります。

  • 受けた量(線量)

  • どのくらい短期間にその線量を受けたか

  • 被曝した体の面積

  • 放射線に対する特定の組織の感受性

  • DNAの正常な修復過程を妨げる遺伝子異常の存在

  • 被曝時の年齢

  • 被曝前の全般的な健康状態

一度に大量の放射線を全身に浴びると死に至ることがありますが、同じ線量を数週間あるいは数カ月にわたって浴びた場合は、影響はかなり小さくなります。放射線による影響は、体のどれだけの部分が被曝したかで変わってきます。例えば、全身に6Gy以上の放射線を浴びると、死に至る可能性があります。しかし、がんの放射線療法のように数週間または数カ月に分けて特定の狭い部位に限って照射する場合は、重度の傷害を起こさずに、この10倍以上の放射線を照射することができます。

体内には、放射線に対する感受性が高い部位があります。腸や骨髄など細胞の増殖が速い器官や組織は、筋肉や脳など細胞の増殖速度が遅い部位に比べ、放射線による害を受けやすくなっています。放射性ヨードは甲状腺に集積するため、放射性ヨードにさらされた後は甲状腺のがんが発生しやすくなります。

放射線と小児

小児は成人に比べて、脳、眼の水晶体、甲状腺といった一部の器官に放射線の影響を受けやすくなっています。しかし、小児でも放射線への感受性が成人と変わらない組織もありますし、卵巣をはじめ、むしろ成人よりも感受性が低い組織もあります。このように感受性が異なる理由は複雑で、完全には理解されていませんが、小児の一部の組織で感受性が高い理由の1つとして、小児は成人に比べて細胞の増殖と成熟が速く、そのためより頻回に細胞分裂が繰り返されることが挙げられます。

胎児が放射線障害により敏感なのは、細胞の分裂速度が非常に速く、また未熟な細胞が成熟した細胞へと分化しているためです。受精後8~25週間の期間中に胎児が300mGy以上の放射線にさらされると、知能の低下や学業成績の低下につながる可能性があります。また、子宮が高線量の放射線にさらされると先天異常の原因になります。ただし100mGy未満の線量、特に妊婦が一般的に受けるような画像検査で使用される低い線量では、生まれてくる子どもに先天異常のリスクの明らかな増加はみられません。

知っていますか?

  • 放射線は一般に考えられているほど、がんや先天異常の原因として重大なものではありません。

放射線とがん

大量の放射線に被曝すると、放射線を受けた細胞内で遺伝物質(DNA)が損傷されるため、がんのリスクは増大します。ただし、放射線は一般的に考えられているほど大きながんの原因ではありません。全身に500mGy(年間の平均バックグラウンド放射線量の150倍以上)の放射線を浴びた場合でも、通常の人ががんで死亡する生涯リスクは22%から約24.5%に増加するだけで、絶対リスクの増加は2.5%に過ぎません。

胎児または小児では、放射線によってがんが誘発されるリスクが成人の数倍になります。小児のリスクが高くなるのは、小児の体では細胞分裂が盛んに行われていて、残りの生涯、つまりがんが発生しうる期間も長いからです。1歳の小児が腹部のCT検査を受けた場合、生涯でがんを発症するリスクは約0.1%増加する可能性があります。近年、CT検査によって発生しうるリスクへの懸念から、CT検査が使われ過ぎているのではないかという議論がもちあがりました。こういった懸念を背景として、放射線の線量を最小限に抑えるCT検査技術が常に開発されています。医師もまた、より線量の低い他の検査に比べて正確な画像が得られる場合に限り、CT検査を用いるようにしています。CT検査で最も正確な情報が得られることが明らかな場合、より不正確な検査を使って正しい診断ができないリスクは、CT検査そのもののリスクをはるかに上回ります。

放射線と遺伝的な異常

卵巣や精巣に高線量の放射線照射を受けた動物では、子孫に異常(遺伝的影響)が起こることが証明されています。しかし、日本の原爆被害者の子孫では先天異常の発生率は増加していません。これは、異常の増加が測定可能になるほど、放射線への曝露量が多くなかったためと考えられます。がんの放射線治療を受け、卵巣の平均被曝量が0.5Gy、精巣の平均被曝量が1.2Gyであった場合(放射線療法で直接の治療対象ではないが、隣接する組織に照射された場合の典型的な被曝量)、その女性と男性がその後子どもをもうけても、先天異常のリスクが増加することは認められていません。

症状

症状は放射線被曝が全身に及んでいるか、狭い範囲に限定されているかによって異なります。全身に大量の放射線を浴びると急性放射線障害が起こり、体の一部に被曝した場合は局所放射線障害が起こります。

急性放射線障害

急性放射線障害は通常、一度にまたは短期間のうちに大量の放射線を全身に浴びた場合に起こります。急性放射線障害は、影響を受けた主な器官系によって次の3つの症候群に分類されますが、これらが重複して起こることもよくあります。

  • 造血器症候群

  • 胃腸症候群

  • 脳血管症候群

急性放射線障害は一般的に次の3つの段階を経て進行します。

  • 初期症状として、吐き気、食欲減退、嘔吐、疲労などのほか、非常に高い放射線量を受けた場合には下痢が起こる(これらの症状を総称して前駆症状と呼びます)

  • 症状のない期間(潜伏期)

  • 受けた放射線の量に応じて様々な症状のパターン(症候群)がみられる

どの症候群が現れ、その重症度や進行の速度がどうなるかについては放射線の線量に応じて異なります。線量が多いほど、症状は早くから起こり、進行スピードも速く(前駆症状から様々な器官系の症候群への進行が速くなるなど)、より重症になります。

放射線の被曝量が同程度であれば、初期症状の重症度や時間的な経過に個人差はあまりみられません。したがって放射線の被曝の程度は、多くの場合初期症状のタイミングや種類、重症度から推定できます。しかし、けが、熱傷、または重度の不安があるとこの推定が難しくなります。

造血器症候群は、主に血球の生成(造血)にかかわる骨髄や脾臓、リンパ節が放射線の影響を受けた場合に起こります。1~6Gyの放射線を浴びると、1~6時間後に食欲不振、嗜眠(しみん)、吐き気、嘔吐が現れます。こうした症状は被曝後24~48時間以内にいったん消失し、その後1週間程度は体の調子が良くなります。この間にも骨髄、脾臓、リンパ節にある造血細胞は消耗していきますが、新たにつくられることはなく、重度の白血球の欠乏が起こり、引き続いて血小板や赤血球も不足します。白血球の欠乏は重度の感染症につながります。また血小板の不足によって出血が止まらなくなります。赤血球の不足(貧血)は疲労、脱力、血色不良を引き起こし、体を動かすと呼吸が苦しくなります。4~5週間後、患者が生存していれば血球の生成が再開されますが、数カ月間は脱力感と疲労感が残り、がんのリスクが高まります。

胃腸症候群は、放射線が消化管の内層の細胞に影響して起こります。6Gy以上の放射線を浴びてから1時間以内に重度の吐き気、嘔吐、下痢が始まることがあります。重度の脱水につながることがありますが、2日以内にこれらの症状はいったん消失します。その後4~5日間は体の調子も良くなりますが(潜伏期)、この間に、正常な状態であれば人体の保護壁として働いている消化管内層の細胞が死んで剥がれ落ちていきます。この期間を過ぎると、血の混じった重度の下痢を生じて再び脱水を起こします。また消化管から体内に細菌が侵入し、重度の感染症を起こします。この量の放射線を浴びた患者は造血器症候群も併発し、出血と感染症により死に至るリスクが高くなります。6Gy以上の放射線に被曝すると、多くの人が死亡します。ただし、高度な治療を受けると、約50%の人は生存できます。

脳血管症候群は、放射線の総量が20~30Gyを超えたときに生じます。患者は錯乱、吐き気、嘔吐、血性の下痢、振戦、ショックを急速に起こします。潜伏期は短期間か、存在しません。数時間で血圧は低下し、けいれん発作が起こり、昏睡状態に陥ります。脳血管症候群は常に致死的で、ほとんどが数時間から1~2日の間に死亡します。

局所放射線障害

がんの放射線療法は、局所放射線障害の原因として最もよくあるものの1つです。放射線の線量、どれだけ短時間で被曝したか、体のどの部位に治療を受けたかよって症状は異なります。

脳や腹部への照射では、照射の実施中や直後に、吐き気や嘔吐、食欲減退などがみられます。ごく限られた領域に大量の放射線を照射すると、多くの場合、その領域の皮膚に損傷が生じます。皮膚の変化には脱毛や、発赤、剥離、びらんなどの変化がみられ、可能性としてはやがて皮膚が薄くなり、皮膚のすぐ下の血管が拡張します(くも状血管腫)。口やあごに放射線を照射すると、恒久的な口腔乾燥を起こし、その結果、虫歯が増えたり、あごの骨に損傷が生じたりします。また、肺に放射線を照射すると、肺の炎症を引き起こします(放射線肺炎)。非常に高い線量を照射した場合は、肺組織の重度の瘢痕化(線維症)が起こり、生活に支障をきたすほどの息切れが生じて、後に死に至ります。胸部の広い範囲に放射線を照射すると、心臓と心膜(心臓の外側を覆っている膜)に炎症が起こり、胸痛や息切れなどの症状が現れます。脊髄への照射量が蓄積すると、壊滅的な損傷が起こり、麻痺、失禁、感覚消失につながります。リンパ節や精巣、卵巣のがんのため、腹部の広い範囲に放射線を照射した場合には、慢性潰瘍や瘢痕化、腸の狭窄や穿孔が起こり、腹痛、嘔吐、吐血、黒いタール状の便などの症状が生じることがあります。

がんの放射線療法を終えてから、かなり後になって重度の障害が現れる場合もあります。極めて大量に放射線を浴びると、6カ月から1年後に腎機能の低下がみられ、貧血高血圧を発症することがあります。筋肉への照射線量が蓄積すると、照射を受けた筋肉の萎縮やカルシウム沈着など、痛みを伴う症状が生じます。ときには、放射線療法の結果、悪性の腫瘍(がん)ができることもあります。放射線誘発性のがんは、被曝後10年以上経過してから発症するのが典型的です。

診断

  • 症状、症状の重さ、被曝してから症状が現れるまでの時間

  • リンパ球の数(被曝の程度を確認するため)

放射線被曝は、病歴や生活歴から明らかになります。放射線療法を受けた後や放射線事故で被曝した後に、放射線障害の症状や皮膚の発赤やびらんがみられる場合は、放射線障害が疑われます。症状が出るまでにかかる時間は、医師が被曝線量を推定するのに役立ちます。放射線被曝の診断に利用できる特別な検査法はありませんが、感染や血球数の減少、臓器の機能不全を調べるために標準的な臨床検査が行われる場合があります。被曝の程度を判定するには、血液中のリンパ球(白血球の一種)の数を測定します。通常は、被曝から48時間後のリンパ球数が少なければ少ないほど高度の被曝があったことを意味します。

放射線照射と異なり、放射能汚染の場合は、放射線を検出するガイガーカウンターという装置を使って体を調べ、汚染の程度を判定することがよくあります。また、鼻やのど、その他の傷口から綿棒で採取したサンプルの放射能を測定します。

吐き気、嘔吐、振戦(ふるえ)などの急性放射線障害の初期症状と同じ症状は、不安によっても起こります。テロリストによる攻撃や原子力事故の後には不安が高まるため、これらの初期症状が現れても、特に放射線の被曝量が不明か少量の場合は、パニックにならないようにします。

予防

原子力発電所の事故や意図的な放射性物質の放出により、大規模な高レベルの環境汚染が起きた場合は、公衆衛生当局の指示に従います。こうした情報はTVやラジオで放送されます。その中で、汚染地区からの避難や近くのシェルターへの退避が指示されることがあります。地区からの避難とシェルターへの退避のどちらが推奨されるかは、放射性物質の最初の放出から経過した時間や、放出が止まったかどうか、気候条件、利用可能なシェルターの有無、道路や交通状況といった多数の要因によって変わります。シェルターへの退避が指示された場合、退避先がコンクリートまたは金属製の構造物で、特に地表面より1段下(地下室など)にあれば最適です。 地下のシェルターが使用できない場合は、高い建物の中ほどの階で、窓から離れた部屋の中央付近が適しています。

放射性物質に汚染された疑いのある人は、服を着替えてシャワーを浴びることが勧められます。ヨウ化カリウム(KI)の錠剤は地域の薬局や一部の公衆衛生当局から入手することができます。ただし、ヨウ化カリウムは放射性ヨードが漏出した場合にのみ有用です。他の放射性物質に対する防護にはなりません。ヨウ素に対して過敏な人や特定の甲状腺疾患がある人は、ヨウ化カリウムの服用を避ける必要があります。ヨウ素への過敏が疑われる場合は、医師に相談してください。特定の試験薬は、被曝の最中または直後に投与すると生存率が高まることが動物実験で証明されています。しかし、これらの薬は非常に毒性が強く、現在のところ人には勧められていません。

電離放射線を使用する画像検査や、とりわけがんの放射線療法を実施する際には、放射線の影響を非常に受けやすい部位、すなわち眼の水晶体、女性の乳房、卵巣や精巣、甲状腺などをできるだけ保護します(鉛の入った防護用品を装着するなど)。

知っていますか?

  • 原子力発電所から16キロメートル以内に住んでいる人は、ヨウ化カリウムの錠剤をすぐに入手できるようにしておきます。

  • ほとんどの体外汚染を除去するには、服を着替えて温かいシャワーを浴び、普通のシャンプーで洗髪することが非常に効果的です。

予後(経過の見通し)

被曝した放射線量、線量率(どれだけ短時間で被曝したか)、被曝した体の部位により、予後は異なります。ほかにも、その人の健康状態や治療の有無などの要因によって予後が変わります。治療を受けないと、通常は一度に3Gyを超える放射線を全身に受けた人の半数が亡くなります。8Gy以上の放射線を受けると、ほとんどの人が死亡します。2Gy未満の放射線を浴びた場合は、ほとんどの人が1カ月以内に完全に回復しますが、がんなどの長期の合併症が起こる可能性があります。6Gyの放射線を全身に浴びた場合でも、治療を行えば約半数の人が生存します。最大10Gyの放射線に被曝しても、生存する人もいます。

多くの場合、放射線の被曝量を医師が知ることはできないため、症状に基づいて予後を予測します。脳血管症候群の場合は、数時間から数日の間に死に至ります。胃腸症候群の場合は3~10日のうちに死に至りますが、数週間生存し続ける場合もあります。造血器症候群の場合は、被曝量と健康状態によりますが、治療を受けた人の多くが生存します。助からない患者の多くは、被曝後4~8週間で死亡しています。

治療

  • 重篤で生命を脅かす損傷の治療(最初に行う)

  • 傷、皮膚、毛髪の除染

  • 体内汚染の治療

  • ときに特定の放射性核種に対する特定の処置

  • 免疫不全状態の治療

  • 支持療法

重篤な身体的外傷は、放射線以上に短期間で生命を脅かすおそれがあるため、放射線照射に対する処置を行う前に治療します。放射線照射に対する緊急の治療はありませんが、患者の経過を詳細にモニタリングし、様々な症候群が発生していないかを確認し、症状が起こった場合にはそれを治療します。

放射能汚染はすぐに除去して放射性物質による継続的な被曝を防ぐとともに、放射性物質を体内に取り込まないようにする必要があります。傷口の汚染は、皮膚の汚染よりも先に対処します。傷を食塩水で洗浄し、手術用スポンジで拭きとって除染します。汚染を除去した後、傷を覆って、他の部位を洗浄している間に再汚染が起きないようにします。

汚染された皮膚は、大量の湯(熱湯ではない)と石けんとでやさしくこすって洗います。皮膚のしわや爪には特に注意を払う必要があります。また、刺激の強い化学物質やブラシを使ったり、強くこすって洗ったりすると皮膚表面を損傷する可能性があるため、これらは控えるべきです。石けんと水で頭髪を除染できない場合は、剃るよりもハサミで切るようにします。これは剃るときに皮膚を切ってしまい、汚染が体内に及ぶおそれがあるからです。皮膚と傷の洗浄は、ガイガーカウンターで放射線が完全にまたはほとんど測定されなくなるまで、もしくは放射線量の測定値があまり下がらなくなるまで、またはそれ以上洗浄を続けると皮膚を傷つけるまで続けます。熱傷(やけど)はやさしく洗い流し、こすらないようにします。

特定の方法で体内汚染を減らすことができます。多量の放射性物質を飲み込んだばかりなら嘔吐させます。一部の放射性物質に対しては、特定の化学的処置を実施して、飲み込んだ物質の吸収量を減らしたり体内からの除去を促進したりします。放射性ヨードによる体内汚染が起きる少し前、またはその直後にヨウ化カリウムを投与すると、甲状腺による放射性ヨードの吸収を非常に効果的に防止できるため、甲状腺がんや甲状腺損傷のリスクが低下します。ヨウ化カリウムは放射性ヨードにのみ有効で、他の放射性元素には効果がありません。そのほかにも、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)の亜鉛塩またはカルシウム塩(プルトニウム、イットリウム、カリホルニウム、アメリシウムに対して)や、リン酸カルシウム溶液またはリン酸アルミニウム溶液(放射性ストロンチウムに対して)、プルシアンブルー(放射性セシウム、ルビジウム、タリウムに対して)などの薬剤を経口または静脈内投与して、体内に取り込まれた放射性核種の一部を除去することができます。しかし、高い効果のあるヨウ化カリウム以外は、体内汚染を軽減する薬剤を投与しても、被曝量の低下は約25~75%にとどまります。

吐き気と嘔吐を軽減するには、制吐薬(嘔吐を予防する薬)が役立ちます。この種の薬は、放射線療法や化学療法を受けている患者に定期的に投与されます。脱水は静脈からの水分補給(輸液)で治療します。

胃腸症候群や造血器症候群の患者は、感染性の微生物に極力接触しないよう隔離されます。輸血や、血球の生成を促進する増殖因子(エリスロポエチンやコロニー刺激因子)の注射により、血球数を増加させます。この治療は出血を減らし貧血の発生を抑え、感染症に対する抵抗力を高めます。骨髄に重度の損傷が起きた場合には増殖因子は効果がなく、造血幹細胞移植が行われる場合がありますが、胃腸症候群または造血器症候群に対する造血幹細胞移植は、成功率が低い上に経験数が限られています。

胃腸症候群の患者には、制吐薬、静脈からの水分補給(輸液)、鎮静薬が必要です。淡白な食事なら食べられる患者もいます。抗菌薬の経口投与により、腸管から体内に侵入しようとする細菌を死滅させます。必要に応じて、抗菌薬に加え、抗真菌薬や抗ウイルス薬を静脈内投与します。

脳血管症候群の治療は、痛みや不安、呼吸困難を緩和して楽にすることが中心となります。けいれん発作をコントロールするための薬も投与されます。

放射線によるびらんや潰瘍の痛みは鎮痛薬で治療します。 時間が経ってもこれらの損傷が十分に治癒しない場合は、皮膚移植などの方法で外科的に修復することがあります。

生き延びた患者には白内障と甲状腺疾患の定期的なモニタリングが必要ですが、ほかに定期的にモニタリングが必要なものはありません。

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