腐食性物質を飲み込むと、その物質が接触した唇から胃までの組織すべてに熱傷(やけど)を負います。
症状は、痛み(特に飲み込むとき)、せき、息切れ、嘔吐などです。
医師は内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を食道に挿入して熱傷がないかを調べ、損傷の程度を判断します。
治療は損傷の程度により決定され、手術をすることもあります。
(中毒の概要 中毒の概要 中毒とは、有害物質を飲み込んだり、吸い込んだり、皮膚や眼、または口や鼻などの粘膜に接触したときに生じる有害作用です。 中毒を起こす可能性のある物質としては、処方薬や市販薬、違法薬物、ガス、化学物質、ビタミン類、食べもの、キノコ類、植物、動物の毒などがあります。 ダメージを与えない毒物もありますが、重度の損傷を引き起こし、死をもたらす毒物も... さらに読む も参照のこと。)
全世界では、腐食性物質の飲み込みは80%が幼児に発生しており、これは通常は少量を誤って飲み込んだもので、多くの場合大きな害はありません。成人の場合、腐食性物質の飲み込みは多くの場合が故意であり、飲み込む量が大量で、生命を脅かします。
一般的な腐食性物質としては、個体や液体の排水口用やトイレ用の洗剤があります。通常、工業用品は家庭用品よりも濃度が高いため、より危険な傾向があります。しかし、排水口用やトイレ用の洗剤、食器洗浄器用の洗剤など、一般的な家庭用品の中にも、水酸化ナトリウムや硫酸などの腐食性物質を含むものがあります。
腐食性物質(強酸や強アルカリ)を飲み込むと、舌、口、食道、胃に熱傷を負います。熱傷は食道や胃の穿孔(穴があく)の原因となります。穿孔した部分から食べものや唾液が漏れると、胸部(縦隔炎 縦隔炎 縦隔炎は、縦隔(心臓、胸腺、一部のリンパ節のほか、食道、大動脈、甲状腺、副甲状腺の一部が入っている胸部の空間)に起きる炎症です。 縦隔炎は通常、食道の裂傷または胸部の手術が原因で起こります。 強い胸痛、息切れ、発熱などの症状がみられます。 診断には、胸部X線検査またはCT(コンピュータ断層撮影)検査が必要です。 治療には抗菌薬を用い、ときに手術が必要になります。 さらに読む または膿胸)や腹部(腹膜炎)に、重度の、死に至ることもある感染症を引き起こします。穿孔が生じない熱傷でも、食道や胃に瘢痕(はんこん)が生じることがあります。
腐食性物質には固体や液体のものがあります。固体の粒子は、湿った表面(唇など)に触れると焼けつくような感覚が生じ、そのために多量に摂取せずに済むことがあります。液体の場合は付着しないため、多量に摂取しやすく、食道全体に損傷を受けることがあります。液体を気道に吸い込んでしまった(誤嚥した)場合には、上気道の損傷が生じることがあります。
症状
すぐに(通常は数分以内)口やのどの痛みが起こり、痛みは重度の場合があり、特に飲み込んだ場合に重くなります。せき、よだれ、何も飲み込めない状態、嘔吐、吐血、息切れがみられることがあります。強力な腐食性物質で生じた重症の場合は、重度の低血圧(ショック)、呼吸困難、胸痛が生じることがあり、死に至る可能性もあります。
飲み込んだ場合、数時間から最初の1週間以内であればいつでも食道や胃の穿孔が生じることがあり、しばしばその前に嘔吐や重度のせきがみられます。食道から、左右の肺の間の領域(縦隔)や肺の周辺部(胸腔)に穴があくことがあります。どちらの場合も、激しい胸痛、発熱、心拍数の上昇、速い呼吸、重度の低血圧が起こり、手術が必要になります。腹膜炎で胃に穿孔が生じた場合、重度の腹痛が起こります。
食道に瘢痕が生じると、食道が狭くなり(狭窄)、そのため嚥下(えんげ)困難が起こります。狭窄は通常、熱傷を負った数週間後に発生し、最初は熱傷による症状が軽いものしか生じないことがあります。食道に瘢痕や損傷が生じた場合、何年も経ってから食道がんが発生することがあります。
診断
医師による評価
ときに内視鏡検査
口の中を診察して化学熱傷がないか確認します。口内に熱傷がない場合でも、食道や胃に熱傷を負っていることがあるため、医師は観察用の柔軟な機器(内視鏡)を食道に挿入して熱傷がないか調べることがあり、特によだれや嚥下困難がみられる場合はこの方法を用います。食道を直接観察することで、損傷の重症度を判定でき、その後の狭窄が起こるリスクや、食道を修復する手術の必要性も判断できる可能性があります。患者の状態が重篤で処置ができない場合は、内視鏡検査が遅れることがあります。
損傷の程度を評価するためにX線検査やCT検査が必要になることがあります。
治療
水かミルクを飲んで腐食性物質を薄める
ときに損傷を修復する手術
胃を空にするのを避ける
損傷の程度によって治療法が決まります。重度の熱傷の場合は、直ちに手術を行って損傷のひどい組織を取り除かなければならないことがあります。
腐食性物質は、胃から食道内に逆流するときにも、飲み込んだときと同じように損傷を与えるため、患者に腐食性物質を吐かせてはいけません。トコンシロップや活性炭は投与しません。
軽度の熱傷の場合は、胃の中にある腐食性の液体を薄めるために、すぐにミルクや水を飲むことが勧められる場合があります。この方法は、家庭でも病院に向かう途中でも行うことができます。飲めない場合は、飲めるようになるまで静脈から水分を補給します。穿孔は抗菌薬と手術で治療します。狭窄が起こった場合は、食道の狭くなった部分にバイパスチューブ(ステント)を留置し、食道の閉塞を防いで、後に拡張できるようにします。数カ月から数年にわたって繰り返し拡張しなければならないこともあります。重度の狭窄の場合は、手術による食道の再建が必要になることもあります。
さらなる情報
米国中毒情報センター協会(American Association of Poison Control Centers):1-800-222-1222(訳注:日本では、大阪中毒110番072-727-2499、または、つくば中毒110番029-852-9999)
Consumer Product Information Database (CPID)(消費者製品情報データベース)