高齢者によっては、援助やケアをする意志と能力をもつ家族、友人、または隣人が存在します。このような人々は介護者と呼ばれます。ときに、宗教団体またはその他のグループが、無償または低料金で介護者を助ける、または介護者の役割を担う場合があります。介護者は、基本的な活動(食事、着衣、入浴など)、家事(調理、掃除、買い物、請求書の支払い、芝生の手入れ)、その他の作業(処方通りの薬の服用など)を助けます。
2016年、米国では、65歳以上の高齢者4900万人のうちの多くが日常的に介護者の助けを必要としています。現在2200万人を超える人が高齢者を介護しています。1週間に数時間、または24時間体制で介護に当たっている人もいます。
ほとんどの介護者が 家族内介護者 家族による高齢者の介護 家族内介護者は、慢性疾患を抱える高齢者をケアする上で重要な役割を果たします。隣人や友人が助けになることもありますが、自宅での(身体的、情緒的、社会的、経済的)援助の約80%は家族内介護者により提供されます。家族内介護者は、しばしば居住型の介護施設でのケアが必要になる時期を遅らせたり、または回避できたりすることさえあります。 家族による介護の量と種類は、経済力、家族構成、家族関係の質、家族が他に抱えている時間とエネルギーを要する仕事により... さらに読む 、つまりケアを受けている人の配偶者または子どもで、その大半が女性です。介護者の約3分の2が、介護の他にフルタイムまたはパートタイムの仕事をもっています。
高齢者に介護が必要かどうかの判断が難しい場合があります。家族は、高齢者が以下の事柄をどの程度できるかを観察すると、判断の助けになるでしょう。
食事:よく食べもので衣服を汚していないか。明らかな理由がないのに体重が減っていないか。
いすまたはベッドの移動:立ち上がる前に、体が数回前後に揺れていないか。近くの家具などを支えとして使用していないか。いすに倒れこむようにして座っていないか。ベッドから出るとき、またはいすから立ち上がるときに、頻繁に転倒しないか。
トイレの使用:衣服が汚れたり、または濡れたりすることがないか。
入浴:皮膚や毛髪が汚れたままになっていないか。
身だしなみ:衣類がしわだらけだったり、または乱れたりしていないか。
歩行:不安定に見える、または転倒することがないか。
処方薬の服用:処方薬が予定より長持ちしていないか。または予定より早くなくなっていないか。複数の薬を1つの容器に混ぜていないか。
電話の使用:電話での会話の内容を理解できているか。家にいるのに留守番電話になっていないか。
お金の管理:請求書の支払いが滞り、延滞通知がきていないか。預金の貸越通知が繰り返しきていないか。
食料品の買い物と食事の準備:十分な食物が手に入っているか。消費期限の過ぎた食品を保存していないか。鍋を何回も焦がしていないか。コンロを付けたままにしていないか。
洗濯:衣類は清潔か。
報酬と課題
家族の介護 影響 家族内介護者は、慢性疾患を抱える高齢者をケアする上で重要な役割を果たします。隣人や友人が助けになることもありますが、自宅での(身体的、情緒的、社会的、経済的)援助の約80%は家族内介護者により提供されます。家族内介護者は、しばしば居住型の介護施設でのケアが必要になる時期を遅らせたり、または回避できたりすることさえあります。 家族による介護の量と種類は、経済力、家族構成、家族関係の質、家族が他に抱えている時間とエネルギーを要する仕事により... さらに読む は重労働でストレスにもなりますが、非常に意義深い仕事です。多くの人は愛情と尊敬から、配偶者、パートナー、または親の介護を引き受けます。努力が常に評価されるとは限りませんが、他者の生活に寄与することにより自分自身の生活に新しい意味を見つけ出します。しかしながら、介護の困難さに対して完全に備えておくことはできません。
以下のような状況になると、介護は肉体的、精神的、金銭的、精神的に大きな負担になります。
すべての家事、衣類の着脱や入浴の介助、処方薬の用法・用量を守っていることの確認、患者の金銭の管理、またはこれらのうちの複数を介護者がしなくてはならない。
介護が必要な親もしくは配偶者の世話をする中で貯金を使い果たす、または介護のために仕事をやめなければならない。
精神的な要求に絶えず応じなければならない。
楽しみにしている活動をあきらめなくてはならない。
誰が介護をするか、または誰が費用を支払うかなどの介護に関する問題について、家族で意見が一致しない、または口論になる。
介護者自身がフレイルである場合、予期せず、もしくは望まないながらも役割を担うことになった場合、または非協力的な人もしくは攻撃的な人の世話をしなくてはならない場合には、要求はより厳しいものとなります。
高齢者介護に伴う多くの責任や葛藤により、介護者が孤立したり人間関係にひびが入ったりすることがあり、就業の機会が脅かされる場合もあります。その結果、怒り、欲求不満、罪悪感、不安、ストレス、抑うつ、無力感、極度の疲労がたまることになりかねません。このような感情は、ときに介護者の燃えつきと呼ばれます。燃えつきはいつでも誰にでも起こりえますが、介護される人を1人にすることができない、または夜も眠れないような状況で生じやすくなります。最悪のケース(介護者が支援について知らない場合、または支援を得られない場合)では、燃えつきが 高齢者虐待 高齢者虐待 (介護の放棄やさらには高齢者に対する暴力など)につながることがあります。
どのようにして高齢者のニーズにこたえつつ、 介護者の燃えつきを避ける 介護者の燃えつきを回避する かを判断するためには、介護者は様々な医療従事者、すなわちソーシャルワーカー、 ケアマネージャー 高齢者ケアマネージャー 高齢者のケアは複雑になりがちです。高齢者はしばしば異なる場所で複数の医療従事者にかかっています。年齢を重ねるにつれて移動や交通機関の利用が難題になります。また、メディケア(米国の高齢者医療保険制度)の処方薬プランでカバーされる薬が保険会社により異なり、頻繁に変更されます。このような複雑さに対応するには、かかりつけ医または高齢者のケアを専門... さらに読む (高齢者が必要とするすべての支援と介護を確実に受けられるようにする訓練を受けた専門家)、かかりつけ医、看護師、および/または理学療法士、作業療法士などと話し合わなければならないことが多くあります。介護者が介護の心構えをして、燃えつきてしまわないよう対策を講じることもできます。
遠距離介護
流動的な現代社会では、ときに家族が数百キロまたは数千キロも離れて暮らしていることがあります。これほど離れていると、高齢の家族が確実に必要なケアを受けられるようにすることは困難です。遠距離介護者(通常は成人した子ども)は、多くの課題を抱えます。
良好なコミュニケーションの継続はしばしば困難です。家族が高齢者の生活またはニーズを完全に、または正確に把握することは決してできないと感じる場合もあります。ニーズを理解したとしても、一緒にいなければ高齢者にしてあげられることはほとんどないと感じるかもしれません。
遠距離介護の心配を減らすための対策として以下のようなことがあります。
決まった時間に電話をかける(これにより皆が安心できます)
電子メールまたはテレビ電話でコミュニケーションをとる
定期的に訪問して、疑問または心配事が生じたときにすぐに連絡してくれる人を見つける
買い物、食事の準備、食事内容に心配がある場合は、何らかの給食制度(Meals on Wheelsなど)の加入を手配する
セキュリティーに心配がある場合は、ホームセキュリティーシステムを設置する
転倒の心配がある場合は、個人的な緊急時対応システム(医療警報装置)を設置する
また家族は、リビングウィルまたは医療判断代理委任状などの 事前指示書 事前指示書 医療に関する事前指示書は、ある人が医療に関する決断を下すことができなくなった場合に、医療についての本人の希望を伝達する法的文書です。事前指示書には、基本的にリビングウィルと医療判断代理委任状の2種類があります。(医療における法的問題と倫理的問題の概要も参照のこと。) リビングウィルは、終末期ケアに代表されるような、個人が医療に関する決定能力を喪失する事態に備え、将来の医学的治療に関する指示や要望を事前に表明するものです。... さらに読む のコピーを入手し、家族に緊急の治療が必要なときに助けになるようにすべきです。また、当人が 生命維持治療に関する医師指示書 生命維持治療に関する医師指示書(POLST) 患者がDNR(蘇生処置拒否)を指示した場合、主治医がその患者の診療記録に記載します。これによって、心肺蘇生を試みてはならないことが医療スタッフに伝えられます。心肺蘇生が行われないため、後続の蘇生処置(心臓への電気ショックや挿管しての人工呼吸など)も行われません。この指示は、終末期の患者にとって必要がなく、かつ望ましくない、体に負担をかける治療を回避するのに役立ってきました。終末期の心肺蘇生の成功率は極めて低い値です。(医療における法的問... さらに読む (POLST)(延命治療に関する医療指示書[MOLST]と呼ばれることもあります)を作成しているかどうかも家族は知っておくべきです。これらの文書は、どのような延命治療を行ってほしいか、または行ってほしくないかを明記したもので、実際の医師の指示とみなされます。
高齢者が住む地域の援助システムをよく知っている人に助力を求めることもできます。地域での支援を手配するにあたって、高齢者のかかりつけ医が役に立つ場合もあります。また、家族が高齢者ケアマネージャーを手配して、介護と医療の監視をしてもらうこともできます。しかし、ときに、自分たちが身近で直接助ける以外の選択肢はないと思い込んでいる家族もいます。米国の家族医療休暇法(Family Medical Leave Act)は、扶養家族の世話を行う人が在職中に最長12週間の無給休暇をとることを認めています。ただし、この保護制度の提供が求められているのは、ある程度以上の規模を有する企業のみであり、従業員の適格性などの制限があります。
さらなる情報
AARP:家族による介護(AARP: Family Caregiving)—全米退職者協会(American Association of Retired Persons:AARP)家族による介護に関するリソース
エルダーケア・ロケーター(Eldercare Locator)—米国高齢者局(Administration on Aging)の高齢者および介護者向けサービスのデータベース