早産児や妊娠中に母親が糖尿病にかかった新生児は、呼吸窮迫症候群を発症するリスクが高くなります。
呼吸窮迫症候群の新生児には重い呼吸困難がみられ、血液中の酸素が不足しているため皮膚が青っぽくなります。
診断は、呼吸困難の有無、血液中の酸素レベル、および胸部X線検査の結果に基づいて下されます。
治療によって血液中の酸素レベルの低下が改善しなければ、この症候群により脳の障害が起こるか死に至ることがあります。
胎児が早産で生まれそうな場合、母親にコルチコステロイドを注射して胎児の肺のサーファクタント産生を促すことがあります。
酸素を投与し、持続陽圧呼吸を用いて肺胞を開いた状態に保ちます。新生児に重度の呼吸困難がある場合は、人工呼吸器が必要になることもあります。
新生児が自分で十分な量のサーファクタントを産生できるようになるまで、新生児の気管に合成サーファクタントを投与することで、不足分を補うことができます。
(新生児の一般的な問題の概要 新生児の一般的な問題の概要 新生児の問題は、以下の時期に生じることがあります。 胎児として成長している出生前 陣痛および分娩時 出生後 新生児の約10%は、 早産児であること、胎児期から新生児期への移行に際する問題、低血糖、呼吸困難、感染症、およびその他の異常のために出生後に特別なケアを必要とします。専門的なケアはしばしば、... さらに読む も参照のこと。)
呼吸窮迫とは、呼吸が難しくなることです。新生児が円滑に呼吸をするためには、肺胞が拡張した状態を保ち、空気で満たされなくてはなりません。正常な状態では、肺はサーファクタントと呼ばれる物質を産生します。サーファクタントは肺胞内側の表面を覆い、その表面張力を弱めます。表面張力が弱まると、呼吸サイクルを通して、肺胞が拡張した状態のままとなります。
通常、胎児は妊娠約24週目頃からサーファクタントを産生し始めます。妊娠34~36週目の間に、胎児の肺は十分なサーファクタントで満たされるようになり、肺胞が開いた状態が保たれるようになります。新生児が 未熟 早産児 早産児とは、在胎37週未満で生まれた新生児です。生まれた時期により、早産児の臓器は発達が不十分であるため、子宮外で機能する準備がまだできていないことがあります。 早産の既往、多胎妊娠、妊娠中の栄養不良、出生前ケアの遅れ、感染症、生殖補助医療(体外受精など)、および高血圧などがある場合に、早産児を出産するリスクが高くなります。 多くの臓器の発達が不十分であるため、早産児では呼吸したり哺乳したりすることが難しく、脳内出血、感染症や他の異常が... さらに読む であればあるほど、サーファクタント産生が少ないため、出生後に新生児が呼吸窮迫症候群を引き起こすリスクは高まります。呼吸窮迫症候群が起きるのは、もっぱら早産児ですが、 糖尿病の母親から生まれた 妊娠中の糖尿病 妊娠前から糖尿病にかかっている女性の場合、糖尿病にかかっている期間や、高血圧や腎障害などの糖尿病の合併症がみられるかどうかによって、妊娠中に合併症を起こすリスクは異なります。妊娠は糖尿病(1型および2型)を悪化させる傾向がありますが、糖尿病の合併症(眼、腎臓、神経の障害)を誘発したり悪化させたりすることはありません。 ( 糖尿病も参照のこと。) 妊婦の少なくとも5%が妊娠中に糖尿病を発症します。これを妊娠糖尿病といいます。妊娠糖尿病は以... さらに読む 満期産やほぼ満期産の新生児にもみられることがあります。
その他の危険因子には、多胎(双子、三つ子、四つ子など)や白人男性であることが含まれます。
まれに、この症候群は、サーファクタントの欠乏をもたらす特定の遺伝子の変異によって引き起こされることがあります。この遺伝的な原因で起こるタイプの呼吸窮迫症候群は、満期産児にも発生することがあります。
症状
呼吸窮迫症候群を起こしている新生児は、肺が硬くなり、肺胞が完全につぶれた状態で肺の中に空気がありません。非常に早期に生まれた早産児の場合、出生時に呼吸が始められないほど肺が硬くなっていることがあります。多くの場合、このような新生児は呼吸しようとしますが、肺が硬くなっているために重度の呼吸困難(呼吸窮迫)が起こります。呼吸窮迫の症状には以下のようなものがあります。
速く目に見えて苦しそうな呼吸
陥凹(速い呼吸に伴い、肋骨に付着した筋肉と肋骨の下の筋肉が内側に引っ張られる)
息を吸うときに膨らむ鼻孔
息を吐き出すときのうめき声
この状態では肺の大部分に空気がないため、呼吸窮迫症候群の新生児では血液中の酸素レベルは低く、皮膚や唇は青みがかった色(チアノーゼ チアノーゼ チアノーゼは、血液中の酸素の不足が原因で、皮膚が青っぽく変色することです。 酸素が枯渇した血液(脱酸素化血液)は、赤色というより青みがかっており、これが皮膚を循環している場合にチアノーゼがみられます。肺または心臓の重い病気の多くは、血液中の酸素レベルを低下させるため、チアノーゼの原因となります。また、血管や心臓にある種の奇形があると、血液が空気中から酸素を取り込む場所である肺胞(肺にある小さな空気の袋)を通らず、直接心臓に流れるために、... さらに読む )になります。時間が経つにつれ、呼吸のために使っている筋肉が疲労し衰弱していき、肺の中のわずかなサーファクタントを使い果たしてさらに多くの肺胞がつぶれるため、呼吸窮迫はさらに重くなります。酸素レベルの低下が治療されないと、新生児の脳やその他の臓器が損傷を受け、死亡することもあります。
診断
呼吸窮迫の徴候
血液検査
胸部X線検査
血液の培養検査、ときに髄液の培養検査
呼吸窮迫症候群の診断は、呼吸窮迫の徴候、血液中の酸素レベル、および胸部X線検査での異常所見に基づいて下されます。
呼吸窮迫症候群は、血液感染(敗血症 新生児の敗血症 敗血症は、血流を通じて広がった感染に対する全身の重篤な反応です。 敗血症にかかった新生児は、一般に元気がない、つまりぼんやりしていて哺乳が不良であり、多くの場合皮膚が灰色になるほか、発熱または低体温がみられることもあります。 診断は症状と血液、尿、または髄液中の細菌、ウイルス、または真菌の存在に基づいて下されます。 治療では抗菌薬が投与されるほか、支持療法として、輸液、赤血球や血漿の輸血、呼吸補助(人工呼吸器を使用する場合があります)、... さらに読む )や 新生児一過性多呼吸 新生児一過性多呼吸 新生児一過性多呼吸は、出生後、肺の中に過剰な液体があるために一時的な呼吸困難が起こって、しばしば血液中の酸素レベルが低くなる病気です。 この病気は、早産児と特定の危険因子がある満期産児で発生する可能性があります。 この病気の新生児の呼吸は速く、息を吐くときにうめくような音を出す場合があり、血液中に酸素が十分にないと皮膚が青みがかった色に見えることがあります。 診断は呼吸困難に基づいて行い、胸部X線検査によって確定することがあります。... さらに読む などの病気に伴って発生することがあります。そのため、医師はこれらの病気を除外するための検査を行うことがあります。呼吸窮迫の感染性の原因を探すために血液や、ときに髄液の 培養検査 微生物の培養検査 感染症は、 細菌、 ウイルス、 真菌、 寄生虫などの 微生物によって引き起こされます。 医師は、患者の症状や身体診察の結果、危険因子に基づいて感染症を疑います。まず、患者がかかっている病気が感染症であり、他の種類の病気ではないことを確認します。例えば、せきが出て、呼吸が苦しいと訴える人は、肺炎(肺の感染症)の可能性があります。また、喘息や... さらに読む が行われることがあります。
予後(経過の見通し)
治療を行えば、ほとんどの新生児が生き延びることができます。サーファクタントの産生は、出生後に増加します。サーファクタントが持続的に産生されていれば、ときに呼吸補助と合成サーファクタント(下の 治療 治療 呼吸窮迫症候群は早産児にみられる呼吸疾患で、サーファクタントという肺胞を覆う物質が産生されないか不足しているために、肺胞が拡張した状態を保てないことで起こります。 早産児や妊娠中に母親が糖尿病にかかった新生児は、呼吸窮迫症候群を発症するリスクが高くなります。 呼吸窮迫症候群の新生児には重い呼吸困難がみられ、血液中の酸素が不足しているため皮膚が青っぽくなります。 診断は、呼吸困難の有無、血液中の酸素レベル、および胸部X線検査の結果に基づい... さらに読む を参照)の助けを借りることで、呼吸窮迫症候群は通常4~5日以内に治ります。
血液中の酸素レベルを上げる治療を行わなければ、新生児は心不全を起こしたり、脳またはその他の臓器が損傷を受けたり、死亡したりするおそれがあります。長期間治療を必要とした乳児は、 気管支肺異形成症 気管支肺異形成症(BPD) 気管支肺異形成症は、 人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)の長期使用や長期間の酸素投与によって引き起こされる新生児の慢性肺疾患です。 この病気は多くの場合、非常に未熟な状態で生まれた乳児、重い肺の病気がある乳児、長期間の人工呼吸器もしくは酸素投与を必要とした乳児、または肺胞の発達が不十分な乳児に起こります。 呼吸が速くなったり、呼吸が苦しそうになったり、その両方がみられたり、皮膚や唇が青みを帯びたりすることもありますが、... さらに読む を発症することがあります。
予防
医師は、出生前に羊水中のサーファクタントのレベルを測定することにより、胎児の肺の成熟度を検査できます。羊水は、 羊水穿刺 羊水穿刺 出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む と呼ばれる手技で胎児を覆う袋の中から採取されるか、母親の腟を介して採取されます(破水している場合)。サーファクタントのレベルは、医師が最適な分娩時期を決定するのに役立ちます。呼吸窮迫症候群のリスクは、胎児の肺が十分な量のサーファクタントを産生するようになるまで出産を安全に遅らせることができれば、かなり軽減できます。
早産が避けられない場合、母親にコルチコステロイド(ベタメタゾン)を注射することがあります。このコルチコステロイドは胎児に吸収され、サーファクタントの産生を促進します。この注射を開始すれば、胎児の肺は48時間のうちに、出生後に呼吸窮迫症候群を起こさない、あるいは起こしても比較的軽度で済む段階にまで成熟する可能性があります。
出生後、呼吸窮迫症候群を発症するリスクが高い新生児には合成サーファクタントを投与することがあります。リスクの高い新生児は、 在胎期間 在胎期間 新生児の問題は、以下の時期に生じることがあります。 胎児として成長している出生前 陣痛および分娩時 出生後 新生児の約10%は、 早産児であること、胎児期から新生児期への移行に際する問題、低血糖、呼吸困難、感染症、およびその他の異常のために出生後に特別なケアを必要とします。専門的なケアはしばしば、... さらに読む 30週より前に出生した新生児、特に母親がコルチコステロイドの投与を受けなかった新生児です。サーファクタント製剤を使用することで、新生児の命を救い、肺の虚脱(新生児の気胸 新生児の気胸 気胸とは、肺から空気が漏れて肺の周りの胸腔に空気がたまった状態です。 この病気は、呼吸窮迫症候群や胎便吸引症候群などの肺の病気で持続陽圧呼吸(CPAP)や人工呼吸器を使用している新生児に起こる可能性があります。 肺がつぶれて呼吸困難になり、血圧が下がります。 診断は、呼吸困難の有無、胸部X線検査の結果に加え、通常は新生児の血液中の酸素と二酸化炭素の量に基づいて下されます。 呼吸困難のある新生児には酸素を投与し、ときに針とシリンジまたは胸... さらに読む )などの合併症のリスクを減らすことができます。サーファクタント製剤には、天然のサーファクタントと同じ作用があります。サーファクタントの投与は、口から気管に入れたチューブ(気管挿管と呼ばれます)を介して新生児に投与されます。この処置は呼吸窮迫症候群を予防するために、出生直後の症状が現れる前に分娩室で行われることがあります。
治療
ときに合成サーファクタントの投与
酸素と呼吸を補助する対策
呼吸窮迫症候群の新生児では、出生後に気管内に呼吸用のチューブを挿入しなければならないことがあります。このチューブを 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む (肺に出入りする空気の流れを補助する機械)に取り付けて新生児の呼吸を補助します。この気管内チューブを通して合成サーファクタントが新生児に投与されます。合成サーファクタントは数回の投与が必要になる場合があります。
出生後、程度の軽い早産児や呼吸窮迫症候群の症状が軽い新生児では、酸素投与または 持続陽圧呼吸 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (CPAP)による治療で十分な場合もあります。酸素投与は、鼻に入れたチューブを介して行われます。CPAPは、自然呼吸下にわずかに加圧された酸素を投与する方法です。
サーファクタント治療は、呼吸窮迫が持続する場合、生後最初の数日間に数回、繰り返し行います。