腹部が膨れ、便に血液が混じり、新生児は緑色や黄色、さび色をした液体を吐き、非常に具合が悪くなりぐったりします。
壊死性腸炎の確定診断は、腹部X線検査によって行います。
この病気になった新生児の約70~80%は回復します。
治療では、哺乳を止め、胃まで通した吸引チューブで胃の内容物を除去して圧力を下げ、静脈から抗菌薬と水分を投与します。
重症例では、腸管の損傷した部分を切除する手術が必要になります。
壊死性腸炎の原因は完全には分かっていませんが、血液中の酸素レベルの低下が部分的に関係しています。健康状態が悪い未熟児では、腸への血流が少なくなるために腸内部の表面が損傷を受けます。すると、腸内に常在する細菌が損傷を受けた腸壁に侵入しやすくなり、それから血流に入って感染症( 敗血症 新生児の敗血症 敗血症とは、血液の感染症です。 敗血症にかかった新生児は、一般に元気がない、つまりぼんやりしていて哺乳が不良であり、多くの場合皮膚が灰色になるほか、発熱または低体温がみられることもあります。 診断は症状と血液中の細菌、ウイルス、または真菌の存在に基づいて下されます。 治療では抗菌薬が投与されるほか、支持療法として、輸液、赤血球や血漿の輸血、呼吸補助(人工呼吸器を使用する場合があります)、血圧を維持する薬の投与などが行われます。... さらに読む )を引き起こします。損傷が進行して腸壁の全層を侵し、腸壁に穴が開いてしまうと(穿孔)、腸の内容物が腹腔に漏れ出して炎症を引き起こし、多くの場合、腹腔と腹膜の感染症( 腹膜炎 腹膜炎 腹痛はよく起こりますが、多くの場合軽度です。しかし、強い腹痛が急に起きた場合は、ほとんどが重大な問題であることを示しています。このような腹痛は、手術が必要なことを示す唯一の徴候であるかもしれず、速やかに診察を受ける必要があります。乳幼児や高齢者、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者、免疫系を抑制する作用のある薬を使用中の患者では、腹痛には特に注意が必要です。高齢者では同じ病気の若い成人よりも腹痛が弱いことがあり、病状が重篤な場合でも腹痛... さらに読む )も引き起こします。
危険因子
壊死性腸炎は85%以上が未熟児に発生しています。
未熟性 未熟児 未熟児とは、37週未満で生まれた新生児です。生まれた時期により、未熟児の臓器は発達が不十分であるため、子宮外で機能する準備がまだできていないことがあります。 早産の既往、多胎妊娠、妊娠中の栄養不良、出生前ケアの遅れ、感染症、生殖補助医療(体外受精など)、および高血圧などがある場合に、未熟児を出産するリスクが高くなります。 多くの臓器の発達が不十分であるため、未熟児では呼吸したり哺乳したりすることが難しく、脳内出血、感染症や他の異常が起こ... さらに読む に加えて、リスクを高める異常として以下のものがあります。
長時間の破水(羊水を包んでいる膜が破れること)
先天性心疾患
交換輸血
在胎週数の割に体重が軽い乳児( 在胎不当過小児 在胎不当過小(SGA:Small for Gestational Age)の新生児 同じ在胎期間で生まれた新生児の90%が占める体重分布よりも体重が軽い(10パーセンタイル未満)新生児は、在胎期間に比べて小さい(在胎不当過小)とみなされます。 両親が小柄である、胎盤が正常に機能しなかった、母親に病気がある、母親が薬を飲んでいる、母親が妊娠中に喫煙した、飲酒したなどの場合に、新生児の体重が小さくなります。 感染症や遺伝性疾患がない限り、在胎不当過小の新生児のほとんどは、ほかには症状がみられず健康です。... さらに読む )や、高度に濃縮された人工乳で経管栄養を受けている乳児でも、リスクが高くなります。
症状
壊死性腸炎の乳児では、腹部が膨らんだり、哺乳困難がみられたりすることがあります。血が混じった、または胆汁に染まった腸液を吐いたり、便に血が混じったりしているのが肉眼で分かることもあります。これらの症状が出た新生児はすぐに非常に具合が悪くなり、眠りがちな状態に陥り、体温が低下し、呼吸の一時的な停止を繰り返します(無呼吸発作)。
診断
腹部X線検査
血液検査
壊死性腸炎の診断は、 腹部X線検査 単純X線検査 X線は高エネルギーの放射線で、程度の差こそあれ、ほとんどの物質を通過します。医療では、極めて低線量のX線を用いて画像を撮影し、病気の診断に役立てる一方、高線量のX線を用いてがんを治療します(放射線療法)。 X線は単純X線検査のように単独で使用することもありますが、コンピュータ断層撮影(CT)などの他の手法と組み合わせて使用することもあります。 X線検査では、調べたい体の部位をX線源と画像の記録装置との間に置きます。撮影者はX線を遮断する... さらに読む において腸壁の中にガスがみられる(腸壁気腫症)、腸壁に穿孔が起きている場合には腹腔内にガスがみられるといった所見が認められることで確定されます。
細菌感染やその他の異常(例えば白血球数の上昇)がないか調べるために採血を行います。
予後(経過の見通し)
最新の内科的治療と外科的治療により、壊死性腸炎の乳児の予後は改善されています。約70~80%の患児が生存します。腸狭窄(腸管が狭くなること)は、最も多くみられる長期の合併症です。狭窄は壊死性腸炎を発症して生存する乳児の10~36%に発生します。狭窄が起きる場合、典型的には壊死性腸炎の発症から数週間から数カ月後に狭窄による症状が現れます。ときに狭窄には手術による是正が必要になります。
予防
未熟児には人工乳より母乳を与える方が、壊死性腸炎をある程度予防できるとみられています。また、高度に濃縮された人工乳を避け、血流中の酸素濃度が低下しないようにすることも重要です。プロバイオティクス(体によい細菌)が予防に役立つという科学的根拠がいくらか示されていますが、この治療法はまだ実験段階です。
治療
栄養分と水分の静脈内投与
ときに手術
壊死性腸炎の新生児では、授乳を中止します。吸引チューブを新生児の胃に入れて内容物を除去すると圧力が下がり、嘔吐を予防するのに役立ちます。静脈から栄養分と水分を補給して、体内の水分量と栄養状態を維持します。感染症を治療するために抗菌薬を静脈から投与します。
壊死性腸炎を起こした新生児の75%以上では、手術は必要になりません。しかし、腸穿孔が起きている場合や、腸の一部がひどく侵されている場合には、手術が必要になります。手術では、十分な血液が供給されていない腸の部分を取り除きます。正常な腸の端を皮膚表面につなぎ、腸からの排泄を可能にするための一時的な開口部を作ります(人工肛門造設術)。あとで、新生児が健康になったらその腸の端をつないで腸を腹腔に戻します。
極めて小さな乳児(600グラム以下)や重篤な状態にある乳児で、大手術に耐えられない可能性があれば、腹腔ドレーン(排液管)という管を腹腔内に留置することがあります。この腹腔ドレーンを通じて感染物を腹部から体外に吸い出すことができ、症状が軽減します。この処置でこのような新生児は容体が安定し、後に手術をより安全な状態で行うことができます。手術をしなくてもこの治療法だけで回復する例もあります。