体のほかの部分と比べて、腎臓と泌尿器系(尿路)には先天異常が多くみられます。異常の起こることがある部位は以下の通りです。
(尿路の概要 尿路の概要 通常、人体には2つの腎臓があります。尿路の残りの部分は以下の要素で構成されています。 2本の尿管(それぞれ左右の腎臓を膀胱につなぐ管) 膀胱(拡張して尿を貯めておくことのできる筋肉でできた袋状の臓器) 尿道(膀胱から出て体外に開口する管) 尿は2つの腎臓で絶えず作られていて、尿管を通って緩やかに膀胱に流れ込みます。そして膀胱から尿道を通り... さらに読む も参照のこと。)
尿路内の構造
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尿路の異常の合併症
尿路の異常によって以下の変化が起こる可能性があります。
尿の流れが妨げられる、または遅くなる
膀胱から腎臓に尿が逆流するようになる
尿の流れを妨げたり遅くしたりする先天異常は、尿を停滞させ、尿路感染症 小児の尿路感染症(UTI) 尿路感染症(UTI)とは、細菌による膀胱の感染症(膀胱炎)、腎臓の感染症(腎盂腎炎[じんうじんえん])、またはその両方がある状態です。 尿路感染症は細菌によって引き起こされます。 新生児と乳児では発熱以外の症状が出ないことがありますが、年長児では、排尿するときに痛みや灼熱感があったり、膀胱周辺が痛んだり、頻繁に排尿したくなったりする症状が... さらに読む や腎結石 尿路結石 結石は尿路のいずれかの部位で形成される硬い固形物で、痛み、出血、または尿路の感染や閉塞の原因となることがあります。 小さな結石の場合は症状がみられませんが、大きな結石が発生すると、肋骨と腰の間の部分に耐えがたい激痛が生じることがあります。 結石の診断では通常、画像検査と尿検査が行われます。... さらに読む の形成を引き起こす可能性があります。
尿の逆流は通常、2本の尿管が膀胱とつながる接合部に異常がある場合に起こります。正常であれば、この接合部(それぞれの尿管に1つずつあります)では、尿は腎臓から膀胱に向かう一方向にしか流れないようになっています。接合部に異常があると、尿が膀胱から腎臓に逆流するようになる場合があります。さらに、尿の流れを妨げる他の異常によって、膀胱内の圧力が高まり尿が逆流することがあります。
尿の逆流や頻繁な感染により、腎臓や尿管が徐々に傷つく可能性があります。腎臓が傷つくと、高血圧 高血圧 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなった状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む のほか、まれに腎不全 腎不全の概要 腎不全とは、血液をろ過して老廃物を取り除く腎臓の機能が十分に働かなくなった状態のことです。 腎不全の原因としては、様々なものが考えられます。腎機能が急激に低下する場合(急性腎障害、急性腎不全とも呼ばれます)もあれば、ゆっくりと低下していく場合(慢性腎臓病、慢性腎不全とも呼ばれます)もあります。腎不全になると、腎臓は血液をろ過して老廃物(ク... さらに読む が起こる可能性があります。
胎児に重度の尿路の異常があれば、尿がほとんどまたはまったく作られなくなることがあります。尿路の尿は子宮内の胎児の周囲を満たしている液体(羊水)になります。胎児が十分に尿を放出しなければ、羊水の量が少なくなります。羊水の量が少なすぎると、胎児の肺、心臓 心臓の異常の概要 120人に1人は心臓に異常をもって生まれます。重症の場合もありますが、多くはそうではありません。心臓の異常には心臓壁、弁、心臓に出入りする血管の異常形成などがあります。 哺乳不良、呼吸困難、青みがかった皮膚、正常に発育しない、あるいは正常に運動できない、速い心拍、失神のほか、乳児が成長するに従って運動中の胸痛といった症状がみられます。... さらに読む 、顔面 顔面、骨、関節、および筋肉の先天異常に関する序 顔面および四肢の先天異常はかなり多くみられます。体の特定の部分、例えば口(口唇裂または口蓋裂[こうがいれつ])や足(内反足)だけが侵されることがあります。多くの異常を伴う遺伝性症候群の一部である場合もあり、その例としては先天異常が顔面だけでなく他の多くの部位にも現れるトリーチャー・コリンズ症候群などがあります。... さらに読む 、および四肢 四肢の欠損または形成不全 出生時に、四肢の欠損や変形、発育不全がみられることがあります。 腕や脚に1つ異常がある小児には、それに関連するその他の異常もみられる傾向があります。 四肢の形成に異常がみられることがあります。 例えば、遺伝的異常のため、手と前腕の骨が欠損している場合があります(染色体異常を参照)。四肢の正常な発達が子宮内で中断することもあります。羊膜索症... さらに読む の発育に異常が生じることがあります。重度の異常によって、乳児がまだ胎内にいる間や出生直後に死亡する可能性があります。
症状
多くの尿路の異常は症状を引き起こさず、別の理由で画像検査を行った際や小児健診 乳児健診 健康な乳児は、生後1年間は医師による健診を定期的に受ける必要があります。健診は、生後数日以内か生後2週までと、生後1、2、4、6、9カ月の時点で受けます。健診で医師は月齢別のガイドラインを参考に乳児の成長と発達を継続的にモニタリングし( 乳児と小児の身体的成長)、様々な発達上の指標について親に尋ねます(... さらに読む の際に初めて見つかることがよくあります。一部の腎臓の異常は、何の問題引き起こさないまま、成人期まで発見されないことがあります。
尿路の異常が症状を引き起こす場合は、小児に以下の症状がみられることがあります。
尿の流れが妨げられること(閉塞)による腹痛や嘔吐
尿路閉塞がある小児では、腎臓に圧力がかかっているため、わずかなけがをしただけで著しい尿路出血が生じるリスクも高まります。
診断
出生前なら、出生前超音波検査および血液検査
出生後なら、画像検査およびときに膀胱鏡検査
ときに排尿時膀胱尿道造影検査
出生前では、通常行われる出生前超音波検査 超音波検査 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む や遺伝性疾患がないか調べるその他の通常のスクリーニング検査の際に、尿路の異常が発見されることがよくあります。
出生後では、尿路の異常が疑われる場合に、超音波検査 超音波検査 腎疾患または尿路疾患が疑われる場合の評価には、様々な検査が用いられます。 尿路を評価する際、X線検査は通常役に立ちません。ときに、腎結石の位置や増大をモニタリングするために用いられる程度です。 超音波検査は以下の点で有用な画像検査です。 電離放射線や造影剤の静脈内投与(ときに腎臓を損傷します)が不要である... さらに読む 、CT検査 CT(コンピュータ断層撮影)検査 腎疾患または尿路疾患が疑われる場合の評価には、様々な検査が用いられます。 尿路を評価する際、X線検査は通常役に立ちません。ときに、腎結石の位置や増大をモニタリングするために用いられる程度です。 超音波検査は以下の点で有用な画像検査です。 電離放射線や造影剤の静脈内投与(ときに腎臓を損傷します)が不要である... さらに読む 、核医学検査 核医学検査 核医学検査は、無害の放射性物質を用いた検査です( 核医学検査)。放射性物質は、飲食物の一部として摂取するか、または静脈内に投与されます。これらの放射性物質から発生する少量の放射線を用いて、体内構造の画像が作成されます。放射性物質を体内に入れた後に、放射線を検出する特殊なスキャナーやカメラ(ガンマカメラと呼ばれる)を用いて、放射性物質がどこ... さらに読む 、MRI検査 MRI検査 腎疾患または尿路疾患が疑われる場合の評価には、様々な検査が用いられます。 尿路を評価する際、X線検査は通常役に立ちません。ときに、腎結石の位置や増大をモニタリングするために用いられる程度です。 超音波検査は以下の点で有用な画像検査です。 電離放射線や造影剤の静脈内投与(ときに腎臓を損傷します)が不要である... さらに読む などの画像検査が一般的に行われます。まれに、排泄性尿路造影検査 排泄性尿路造影検査 腎疾患または尿路疾患が疑われる場合の評価には、様々な検査が用いられます。 尿路を評価する際、X線検査は通常役に立ちません。ときに、腎結石の位置や増大をモニタリングするために用いられる程度です。 超音波検査は以下の点で有用な画像検査です。 電離放射線や造影剤の静脈内投与(ときに腎臓を損傷します)が不要である... さらに読む や膀胱鏡検査 膀胱鏡検査 膀胱および尿道の病気の中には、膀胱鏡(内視鏡[観察用の柔軟な管状の機器]の一種)による観察で診断できるものもあります(例えば、膀胱腫瘍、膀胱結石、前立腺肥大症)。膀胱鏡は鉛筆ほどの太さをした内視鏡で、長さは30~150センチメートルほどですが、実際に尿道と膀胱の内部に挿入されるのは先頭の15~30センチメートルほどの部分だけです。多くはラ... さらに読む が行われます。膀胱鏡検査では、医師が膀胱鏡という内視鏡の一種で膀胱と尿道の中を観察します。
特定の尿路の異常を診断するために、排尿時膀胱尿道造影検査 膀胱造影検査と膀胱尿道造影検査 腎疾患または尿路疾患が疑われる場合の評価には、様々な検査が用いられます。 尿路を評価する際、X線検査は通常役に立ちません。ときに、腎結石の位置や増大をモニタリングするために用いられる程度です。 超音波検査は以下の点で有用な画像検査です。 電離放射線や造影剤の静脈内投与(ときに腎臓を損傷します)が不要である... さらに読む という検査が行われることがあります。排尿時膀胱尿道造影検査では、尿道から膀胱までカテーテルを挿入し、そのカテーテルを通して液体の造影剤(X線画像に写る物質)を注入してから、排尿する前と後にX線撮影を行います。
治療
ときに手術
症状を引き起こしている異常や腎臓や膀胱にかかる圧力を増加させる異常は、通常は外科的に治療する必要があります。