まばたきする、顔をしかめる、急に頭をふるなど、何らかの動きをすることや音を発することに対して抗いがたい衝動が生じ、その行為は意図せずに(不随意に)起こります。
診断は症状に基づいて下されます。
多くのチックは自然になくなりますが、煩わしい場合や程度が重い場合には、CBIT(チックに対する包括的な行動介入)や、ときにクロニジンや抗精神病薬が役立つことがあります。
チックの重症度は様々で、5人に1人の小児では、ある期間に何らかのチックがみられます。これらのチックの多くは軽いもので、ほとんどの場合親も医師も病気とはみなしません。トゥレット症候群はチック症の中でも最も重度のもので、これがみられるのは小児100人のうち1人未満です。チックは女児に比べて男児に3倍多くみられます。
チックは18歳まで(典型的には4歳から6歳まで)に始まり、およそ10~12歳の間に症状が最も激しくなり、青年期に入って減少します。ほとんどのチックはやがてなくなります。しかし、約1%の小児では、成人期までチックが残ります。
チックがみられる小児は、以下のような別の病気を合併している場合があります。
不安症 小児と青年における不安症の概要 不安症(不安障害とも呼ばれます)は、実際の状況と釣り合わない強い恐怖、心配、脅威によって日常生活に大きな支障をきたすことを特徴とする病気です。 不安症には多くのタイプがありますが、恐怖や心配が向けられる主な対象によって区別されます。 不安症の小児の多くは、腹痛などの身体症状を理由に学校へ行くことをしばしば拒みます。 通常は症状に基づいて診断を下しますが、ときに検査を行って、しばしば不安によって引き起こされる身体症状が生じる病気がほかにな... さらに読む (分離不安症 分離不安症 分離不安症(分離不安障害とも呼ばれます)は、自宅や愛着をもっている人(通常は母親)から離れることに対して持続的に強い不安が生じる病気です。 ある程度の分離不安を感じる小児がほとんどですが、通常、乗り越えていきます。 分離不安症の小児は、しばしば立ち去ろうとする人に対し、行かないよう泣き叫びながら懇願し、去ってしまった後は、再会することだけを考えます。 診断は症状の内容と継続期間に基づいて下されます。... さらに読む など)
これらの病気は、しばしばチック以上に小児の発達と平穏を妨げます。ときに、ADHDの小児をメチルフェニデートなどの刺激薬で治療したときに初めてチックが現れることもあります。こういった小児はおそらく、チックを発症する素因をもっていると考えられます。
チックがみられる青年(および成人)は以下の病気を合併している場合があります。
分類
チック症には主に以下の3種類があります。
暫定的チック症:運動チックまたは音声チックがみられるが、持続期間が1年以内の場合
持続性チック症(慢性チック症):運動チックまたは音声チックの一方だけが1年以上みられる場合
トゥレット症候群:運動チックと音声チックの両方が1年以上みられる場合
典型的には暫定的チック症から始まり、ときに持続性チック症やトゥレット症候群に進行します。
原因
チック症の原因は分かっていませんが、家系内で多発する傾向があるため、遺伝的な要因が関与していると考えられています。
ときに、 ハンチントン病 ハンチントン病 ハンチントン病は遺伝性疾患で、初期には不随意な筋肉のひきつりまたはけいれんがときおり起こり、進行すると顕著な不随意運動(舞踏運動とアテトーゼ)と精神機能の低下が現れ、死に至ります。 ハンチントン病では、動作を滑らかにして協調させる働きのある脳領域に変性が生じます。 動作がぎこちなくなって協調運動が難しくなり、自制や記憶などの精神機能が低下します。 診断は症状および家族歴と脳の画像検査および遺伝子検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む や脳の感染症(脳炎 脳炎 脳炎とは、ウイルスが脳に直接感染して起こることもあれば、ウイルスやワクチン、その他の物質が炎症を誘発して起こることもあります。炎症が脊髄に波及することもあり、その場合は脳脊髄炎と呼ばれます。 発熱、頭痛、けいれん発作が起こることがあり、眠気、しびれ、錯乱をきたすこともあります。 通常は頭部のMRI検査と腰椎穿刺が行われます。 治療としては、症状を緩和する処置が行われ、ときに抗ウイルス薬が用いられることもあります。... さらに読む )などの別の病気がある人で、チックがみられることがあります。チックはまた、コカインやアンフェタミンなど特定の薬物の使用によって生じることもあります。ただし、別の病気や薬剤によって引き起こされたチックは、チック症とはみなされません。
レンサ球菌感染症 レンサ球菌感染症 レンサ球菌感染症は、レンサ球菌属 Streptococcusの細菌によって引き起こされる感染症です。これらの グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 主な細菌の形」を参照)は、レンサ球菌咽頭炎、肺炎のほか、創傷、皮膚、心臓弁、血流の感染症など、多くの病態を引き起こします。 種類の異なる菌株が異なった経路で拡大し、例えば、せきやくしゃみ、感染が生じた傷や褥瘡(床ずれ)、経腟分娩(母親から新生児へ)を介して感染します。... さらに読む にかかっている小児や過去にかかったことがある小児では、ときにチックや強迫症の症状が突然現れたり、1日で劇的に悪化したりすることがあります。このようなケースは、小児自己免疫性溶連菌感染関連性精神神経障害(PANDAS)と呼ばれています。レンサ球菌を排除するために体内で作られた抗体がチック(または強迫症)の発生やチックの悪化の原因になっていると考えている研究者もいます。しかし、大半の研究者は、この関係を証明する証拠はないと考えています。
症状
チックが起こる前には、その動作をしたいという強い衝動が生じます。この衝動は、くしゃみをするときや、かゆいところをかきたくなるときの衝動に似ています。その際、チックが起きる体の部分で緊張が高まります。そこでチックを起こすと、一時的に落ち着きます。
チックは、数秒から数分であれば我慢できることもありますが、意識的な努力が必要で、容易なことではありません。通常、チックの動作をしたいという衝動は最終的に抑えられなくなります。チックをコントロールしようとすることは困難で、精神的ストレスがあるときは特に難しくなります。ストレスや疲労はチックを悪化させます。しかし、テレビを見ているときなどのように、体がリラックスしているときにチックが悪化することもよくあります。チックを指摘すると、特に小児では、チックが悪化することがあります。典型的な例では、チックが睡眠中に起こることはなく、協調運動を妨げることもほとんどありません。勉強や仕事に集中しているとき、あるいは不慣れな場所にいるときは、チックが減少することがあります。
重度のチックがある人、特にトゥレット症候群の人の多くは、日常生活に困難を感じており、社会的な場で大きな不安を覚えます。過去には周囲から敬遠されて隔離されたり、悪魔にとりつかれているとみなされたことさえありました。患者は衝動的、攻撃的、自己破壊的な振る舞いをすることもあります。
重度のチック症またはトゥレット症候群のある小児では、強迫症、ADHD、学習障害などの別の病気も存在する可能性が高くなります。これらの病気は、チックやトゥレット症候群を引き起こす脳の異常から生じると考えられています。しかし、重度のチック症を抱える生活からくる極度のストレスによって、これらの障害が悪化している可能性もあります。
チックは特定の一時点では似たものになる傾向がありますが、時間とともに種類、程度、頻度に変化がみられます。ときには、チックが突然、劇的に始まることもあります。1時間に数回起きたかと思えば、数カ月ほとんど現れないこともあります。
チックの種類
チックは以下のように分類できます。
単純性チックと複雑性チック
運動チックと音声チック
単純性チックは、極めて短時間のチックです。最初はただの神経質な癖にすぎない場合もあります。
複雑性チックは、より長い時間続くもので、複数の単純性チックの組合せである場合もあります。複雑性チックの中には、卑猥な言葉や便に関連した言葉を叫ぶこと(汚言)もあります。トゥレット症候群というと汚言を連想する人がよくいますが、トゥレット症候群の人の少なくとも85%には汚言がみられません。汚言を吐いたり他の人の動きや言葉を繰り返したりする複雑性チックは、わざとやっているように見えることもありますが、患者は意図してやっているわけではないのです。
診断
医師による評価
チック症が早期に診断されれば、チックが本人の意図的な行為ではないこと、また罰を与えてもチックが止まるわけではなく、むしろ悪化させる可能性があることを、両親が理解する助けになります。
診断は症状とその持続時間に基づいて下されます。
トゥレット症候群をその他のチック症から区別するため、定期的に医師の評価を受けなければならない場合もあります。
医師はチックとともに発生することの多い病気(ADHDや強迫症など)の有無も確認します。
治療
安心させる言葉と支援
CBIT(チックに対する包括的な行動介入)
薬剤
症状が軽度であれば、心配する必要はないと安心させることが最善の治療になる場合が多く、チックが自然になくなるまで、できるだけ気に留めないようにします。家族が病気に理解を示しており、学校の先生や友達にも病気について説明し理解が得られているのであれば、治療は行われないことがほとんどです。
CBIT(チックに対する包括的な行動介入)
CBITは行動療法の一種です。一部の年長児でチックを管理するのに役立ちます。
CBITには以下のようなものがあります。
認知行動療法(習慣逆転法など)
チックに関する教育
リラクゼーション法
習慣逆転法では、小児にチックの代わりになる新しい行動を教えます。例えば、チックが肩をすくめる行為である場合には、肩をすくめたいという衝動がなくなるまで両腕を伸ばして外に広げるように指導します。
教育では、チックが起きたり悪化したりする状況を特定するように小児(とその親)を指導します。
薬剤
チックが続いて、活動の妨げや自己像(セルフイメージ)の低下につながっている場合に限り、チックを止める薬の使用が推奨されます。チックを許容できる程度に抑えるために必要な最低限の用量を使用し、チックが減るのに合わせて用量も減らします。
クロニジンは、ときに有用となる薬でチック症に伴うことのある不安や多動のコントロールにも有用です。しかし、クロニジンは眠気を引き起こす可能性があり、日中の活動に支障をきたすことがあります。クロニジンは高血圧の治療にも用いられますが、これを使用したからといって小児が低血圧になることはめったにありません。しかし、クロニジンの服用をしばらく続けてから突然中止すると、一時的に血圧が上昇することがあります。
チックが重度の場合は、たとえ精神障害が原因でなくても、 抗精神病薬 抗精神病薬 統合失調症は、現実とのつながりの喪失(精神病)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)の問題を特徴とする精神障害です。 統合失調症は、遺伝的な要因と環境的な要因の双方によって起こると考えられています。 症状は様々で、奇異な行動、とりとめのない支離滅裂な発言、感情鈍麻、寡黙、集中力や記憶力の低下など、多岐にわた... さらに読む が効果的となることがあります。リスペリドン、ハロペリドール、ピモジド、オランザピンなどの薬剤が効果的です。副作用としては、落ち着きがなくなる、筋肉のこわばり、パーキンソン病に似た症状(パーキンソニズム パーキンソニズム パーキンソニズムとは、パーキンソン病とは別の原因により生じるパーキンソン病の症状(緩慢な動作や振戦など)のことです。 パーキンソニズムは、脳の病気、脳損傷、または特定の薬剤や毒素によって引き起こされます。 パーキンソン病患者と同様、パーキンソニズムの患者は、筋肉が弛緩しているときに起こる振戦、筋肉のこわばり(筋強剛)、動きの遅延、バランスや歩行の問題を有します。 医師は、原因を特定するために、パーキンソニズムを引き起こすことが分かってい... さらに読む )、遅発性ジスキネジア(ゆっくり繰り返される不随意運動)などがあります。しかし、チックの治療に使用されるのは低用量なので、こうした副作用がみられることはまれです。
その他の問題に対する治療
チックがあり、学校生活に困難を感じている小児は、学習障害がないか評価を受け、必要に応じて支援を受ける必要があります。
強迫的または衝動的な気質に困っている場合は、抗うつ薬の一種である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬剤が有用となる場合があります。
ADHD 治療 注意欠如・多動症(注意欠陥/多動性障害とも呼ばれます)(ADHD)は、注意力が乏しいか注意の持続時間が短い状態、年齢不相応の過剰な活動性や衝動性のため機能や発達が妨げられている状態、あるいはこれら両方に該当する状態です。 ADHDは脳の病気で、生まれたときからみられる場合もあれば、出生直後に発症する場合もあります。 主に注意を持続したり、集中したり、課題をやり遂げたりすることが困難な場合もあれば、過剰に活動的で衝動的な場合もあり、その両... さらに読む の治療によく用いられる刺激薬はチックを悪化させることがあるため、ADHDの治療は難航することがあります。それらの刺激薬は低用量で使用することで、チックを悪化させることなく、ADHDを効果的に治療できることがあります。あるいは、刺激薬ではない薬剤でADHDを治療することも可能です。