早発思春期の原因はしばしば不明ですが、脳の異常または腫瘍が原因である可能性があります。
症状としては、早期の成長スパート、ならびに陰毛および腋毛の早期発毛などがあります。
診断は、X線検査、血液検査、画像検査に基づきます。
治療は、早発思春期の種類によりますが、ホルモン療法が含まれることがあります。
思春期とは、一連の身体的な変化が起きて成人の身体的特徴と生殖機能が備わっていく期間のことです。正常であれば、思春期にこれらの変化が次々に起きていく結果、体は性的に成熟していきます。
思春期は、視床下部(下垂体をコントロールする脳の領域)がゴナドトロピン放出ホルモンと呼ばれる化学物質の分泌を開始することで起こります。この信号に下垂体が反応してゴナドトロピンと呼ばれるホルモン(黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモン)を放出し、ゴナドトロピンが性腺(男児では精巣、女児では卵巣)の成長を刺激します。これらの性腺がテストステロンやエストロゲンなどの性ホルモンを分泌し、これにより思春期が始まります。
男児の場合、思春期の最初の徴候は精巣と陰嚢(いんのう)が大きくなることで、その後に陰茎が長くなります。 その次に陰毛および腋の下の毛(腋毛)が生えます。 男児の場合、一般的に10~14歳に思春期が始まります(男児の思春期 男児の思春期 思春期は早ければ9歳頃から始まり、16歳頃まで続くことがあります。 思春期には、精巣のテストステロン産生が増えます。 テストステロンは、生殖器を成熟させたり、筋肉や骨を成長させたり、ひげや陰毛が生えるようにしたり、声を低くしたりします。 思春期とは、生殖能力が十分に備わり、成人としての性の特徴が現れてくる段階のことです。男児では、通常10~14歳で思春期を迎えます。ただし、9歳頃から始まることや、16歳頃まで続くことも珍しくありません。... さらに読む を参照)。
女児の場合、思春期にみられる最初の変化は、乳房が膨らみ始めることです。 その直後には、陰毛と腋毛が生え始めます。 女児の場合、一般的に8~13歳に思春期が始まります(女児の思春期 女児の思春期 思春期とは、一連の身体的な変化が起きて成人の身体的特徴と生殖機能が備わっていく期間のことです。それらの身体的な変化は、下垂体から分泌される黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンの血中濃度によって調節されます。この2つのホルモンの血中濃度は、出生直後は高くなっていますが、生後2~3カ月で低下していき、思春期まで低い水準で維持されます。思春期の始めには、黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンの血中濃度が上昇し、それが刺激となって性ホルモンが分泌され... さらに読む を参照。)
女児および男児の性的発達の発達指標
思春期の性的発達は、決まった順番で現れます。しかし、それらの変化が始まる時期や変化の速さは人それぞれです。 女児の場合、思春期は8歳半から10歳までに始まり、約4年間続きます。 男児の場合、思春期は9歳半から10歳半までに始まり、約3年間続きます。 このチャートには、性的発達における重要な段階の典型的な順序と正常範囲が示されています。 ![]() |
男女いずれとも、思春期の頃には、副腎もホルモンの分泌を開始し、これにより陰毛および腋毛が生えてきます。これらの副腎ホルモンは、思春期に関連する他のホルモンとは異なる化学的なシグナルでコントロールされています。
早発思春期では、小児の体が成人の体へと予測よりも早期に変化を始めてしまいます。
早発思春期の種類
早発思春期には3つのタイプがあります。
中枢性早発思春期
末梢性早発思春期
不完全思春期早発
これら3つのタイプでは、原因と症状が異なります。
中枢性早発思春期
このタイプの早発思春期は、全体として比較的よくみられ、女児では男児に比べて5~10倍多くみられます。
このタイプの思春期は、特定の性ホルモン(ゴナドトロピン)が早い時期に下垂体から放出されることで起こります。これらのホルモンにより卵巣または精巣(性腺)が成熟し大きくなります。卵巣や精巣は、成熟するとエストロゲンやテストステロンなどの他の性ホルモンの分泌を開始し、これによって思春期が誘発されます。一般的に、体の変化は他の同性の小児で起こる正常な思春期の変化と同じですが、早い年齢で始まります。
男児では精巣が大きくなり、陰茎が伸び、髭、腋毛、陰毛が生えて、男性的な風貌になります。
女児では乳房が膨らみ、陰毛や腋毛が生え、月経が始まることもあります。
男女とも成長のスパートによって、どんどん身長が伸びます。しかしながら、正常な思春期とは異なり、早発思春期では身長の急激な伸びが早期に終わるため、小児は成人になってから予想身長よりも低身長となります。
通常、ホルモンの早期分泌の原因がみつかることはありませんが(特に女児)、ときに脳、典型的には下垂体や視床下部(下垂体をコントロールする脳の領域)に発生した腫瘍やその他の異常が原因であることがあります。神経線維腫症 神経線維腫症 神経線維腫症は一群の遺伝性疾患の総称で、皮膚の下などの体の部分に、軟らかく肥厚した神経組織(神経線維腫)が増殖し、しばしばコーヒーミルク色の平らな斑点(カフェオレ斑)が皮膚にできます。 皮膚の下にできる腫瘍とカフェオレ斑に加え、骨の異常、協調運動障害、脱力、感覚異常、聴覚障害、視覚障害がみられることもあります。... さらに読む (皮膚の下や体の他の部分に肉質の神経組織が多く増殖する病気)や、その他のまれな病気のいくつかも中枢性早発思春期に関連しています。ときに、特定の病気に対する治療(がんを治療するための手術、放射線照射、化学療法など)の使用によって中枢性早発思春期が引き起こされることがあります。
末梢性早発思春期
このタイプの早発思春期ははるかに発生頻度が低くなります。末梢性早発思春期では、エストロゲンやテストステロン(およびアンドロゲンと呼ばれるテストステロン様ホルモン)の放出は、下垂体からのゴナドトロピンによって刺激されたものではありません。その代わり、末梢性早発思春期では、副腎または未成熟な精巣や卵巣などに生じた腫瘍やその他の異常によって、高濃度のアンドロゲンやエストロゲンが産生されます。これらのホルモンは精巣や卵巣自体の成熟は引き起こしませんが、第二次性徴を引き起こします。男児および女児のいずれもエストロゲンやアンドロゲンが分泌される可能性があるため、思春期の体の変化は性別ではなく、分泌されるホルモンによって決まります。 このため、エストロゲンを産生する腫瘍や異常によって、男児および女児のいずれでも乳房が膨らむのに対し、アンドロゲンが産生される場合には陰毛および腋毛、成人のような体臭、にきびが男児および女児で発生し、男児では陰茎が大きくなります(ただし精巣は大きくなりません)。
不完全思春期早発(incomplete puberty)
思春期のごく一部の徴候のみが早期に現れる小児もいます。典型的には、早期の乳房の膨らみや早期の陰毛の発毛(adrenarche)が起こりますが、精巣や卵巣の成長、月経、成長スパートなどの他の思春期の変化は起こりません。一部の女児では、2歳前に乳房の膨らみが始まります。陰毛が早期に発毛した小児では、しばしば成人のような体臭とにきびもみられます。変化はゆっくりと進行します。
これらの早期の体の変化は、病気が原因で起こるものではなく、実際の早発思春期に至る小児はごくわずかです。早期の変化は、副腎のアンドロゲン産生量が増加しているためです。ゴナドトロピンとエストロゲンの産生量は増加しません。
診断
手と手首のX線検査
血液検査
画像検査の可能性
小児の思春期の開始時期が早すぎたり、急激に進行したり、進行の順序が通常と違うなどの徴候がみられる場合には、医師は手と手首のX線撮影を行って骨成熟度を調べます(X線画像による骨年齢評価)。
X線検査で、同年齢で典型的にみられる骨と比較して小児の骨のみかけがはるかに成熟している場合には、より包括的な評価が通常必要となります。血液検査を行ってホルモン濃度を特定します。
中枢性早発思春期では、医師は脳のMRI MRI(磁気共鳴画像)検査 MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強力な磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置内で生じるような強力な磁場の中に置かれると、磁場... さらに読む 検査を行い、視床下部や下垂体に腫瘍ができていないかを調べることがあります。
治療
原因疾患の治療
合成ホルモン療法
小児が通常より早く陰毛や腋毛が生え、乳房が膨らみ始めたというだけで早発思春期を治療する必要は通常ありませんが、思春期早発のその後の進展を調べるため定期的に検査を繰り返す必要があります。乳房の膨らみが2歳前に始まった小児では、乳房の発達が2歳後にも続いている場合に医師による評価を行います。
早発思春期の治療可能な原因が判明し、これに対する治療が行われると(腫瘍や嚢胞の切除など)、思春期の進行が止まることがあります。
治療可能な原因がみつからない場合には、薬で思春期の進行を遅らせることがあります。合成ホルモン(酢酸リュープロレリン、ヒストレリン[histrelin]など)を注射すると性ホルモンの分泌が止まるため、中枢性早発思春期が進まなくなることがあります。
末梢性早発思春期は性ホルモンの作用を阻害する薬剤を使って進行を止めます。