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小児の成長ホルモン欠損症

執筆者:

Andrew Calabria

, MD, The Children's Hospital of Philadelphia

レビュー/改訂 2020年 9月
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やさしくわかる病気事典
本ページのリソース

成長ホルモン欠損症は、下垂体から十分な成長ホルモンがつくられない場合に起こります。

  • 成長ホルモン欠損症は、最もよくみられる下垂体ホルモン欠損症で、全般的な発育不良と低身長を伴います。

  • 成長ホルモン欠損症のその他の症状は、小児の年齢と欠損症の原因によって異なります。

  • 成長ホルモン欠損症の原因は特定されないことがほとんどですが、ときに先天性疾患や脳腫瘍が原因のことがあります。

  • 診断は身体診察、小児の成長曲線の確認のほか、X線検査、血液検査、遺伝子検査、刺激試験、画像検査などの検査に基づいて下されます。

  • 治療は、一般的にはホルモン補充療法を含みます。

下垂体:内分泌中枢

下垂体は、脳の底部にあるエンドウマメ大の腺で、いくつかのホルモンをつくって分泌しています。これらのホルモンは、それぞれ体の特定部位(標的器官または標的組織)に影響を及ぼします。下垂体は体内の様々な内分泌腺機能を制御するため、しばしば内分泌中枢と呼ばれます。

下垂体かすいたいの位置いち

低身長とは、身長が年齢相当の身長(年齢と身長の標準 成長曲線 男児と女児の身長・体重表(2歳から10歳まで) 男児と女児の身長・体重表(2歳から10歳まで) に基づきます)の3パーセンタイル未満の場合と定義されます。低身長は、成長ホルモンの不足だけでなく、他の理由で起こることもあります。例えば、低身長の小児および青年のほとんどは、家系的に低身長であるか、成長スパートが正常な成長期の終盤に起こったために低身長になったケースです。体重増加不良や栄養不良、または甲状腺、心臓、肺、腎臓、腸などを侵す特定の慢性疾患が原因で低身長となる小児もいます。骨成長に影響を及ぼす遺伝性疾患が原因の場合もあります。

成長ホルモンが作られる量が不足する原因は、ほとんどの場合不明ですが、約25%のケースでは以下のような特定可能な原因があります。

  • 先天性疾患

  • 脳の腫瘍または損傷

  • 放射線

  • 感染症(髄膜炎や結核など)

症状

成長ホルモン欠損症の症状は、小児の年齢や原因など様々な要因によって異なります。

成長ホルモン欠損症の原因に応じて、他の異常も認められることがあります。成長ホルモン欠損症の新生児では、血糖値の低下(低血糖)、 黄疸 新生児黄疸 黄疸とは、血流中のビリルビンの増加が原因で、皮膚や眼が黄色くなることです。ビリルビンは、古くなった赤血球や損傷した赤血球を再利用する正常なプロセスの中で、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球の一部)が分解されるときに生成される、黄色い物質です。ビリルビンは血流によって肝臓に運ばれ、胆汁(肝臓で作られる消化液)の一部として肝臓から排泄されるように処理されます。肝臓でのビリルビンの処理において、ビリルビンは抱合と呼ばれる過程で別の化学物質に結合し... さらに読む 新生児黄疸 (高ビリルビン血症)、または小さい陰茎(小陰茎、男児の場合)や顔面の異常(口蓋裂 口唇裂と口蓋裂 頭蓋と顔面で最もよくみられる先天異常は口唇裂と口蓋裂(こうがいれつ)で、新生児約1,000人に2人の割合でみられます。 口唇裂とは通常、鼻のすぐ下で上唇が分離している状態です。 口蓋裂とは、口の中の天井(口蓋)に裂け目があり、鼻への異常な通路ができるものです。 口唇裂と口蓋裂はしばしば同時に起こります。 口唇裂や口蓋裂の形成には、環境的要因と遺伝的要因の両方が関与していることがあります。母親が妊娠中にタバコ、アルコール、またはその他の薬... さらに読む 口唇裂と口蓋裂 など)といった先天異常がみられることがあります。中枢性 甲状腺機能低下症 先天性甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの分泌量が低下した状態です。 小児の甲状腺機能低下症は、通常、甲状腺の構造に問題があるか、甲状腺が炎症を起こしていることが原因です。 症状は小児の年齢によりますが、成長と発達の遅延などがあります。 診断は、新生児スクリーニング検査、血液検査、画像検査に基づきます。 治療としては、甲状腺ホルモンの補充療法があります。 さらに読む などの、他のホルモン欠乏の症状がみられることもあります。

診断

  • 医師による成長基準に照らした身長の評価と、成長の遅延を引き起こすことが知られている病気の既往歴

  • X線検査

  • 血液検査および他の臨床検査

  • ときとして遺伝子検査

  • MRI検査

  • 一般的には、刺激試験

血液中の成長ホルモン濃度は大きく変動するため、小児の成長が遅延している理由を特定する上で、他のホルモン濃度のようには役に立ちません。このため、医師は様々な所見を総合的にみて診断します。

まず、医師は小児の身長と体重を測定し、測定値を年齢毎の 成長曲線 男児と女児の身長・体重表(2歳から10歳まで) 男児と女児の身長・体重表(2歳から10歳まで) に当てはめ、小児の成長が遅延しているかどうかを判断します。その後、手の骨のX線検査をしばしば行います。このようなX線検査では、小児の骨が年齢にふさわしい正常な発達をしているかどうかを見ることができます。ただ単に身長が低い小児は、年齢に応じた正常な骨の発達を示します。成長ホルモン欠損症の小児は、骨の発達が遅れています。骨の発達の遅れは、 甲状腺機能低下症 乳児と小児の甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの分泌量が低下した状態です。 小児の甲状腺機能低下症は、通常、甲状腺の構造に問題があるか、甲状腺が炎症を起こしていることが原因です。 症状は小児の年齢によりますが、成長と発達の遅延などがあります。 診断は、新生児スクリーニング検査、血液検査、画像検査に基づきます。 治療としては、甲状腺ホルモンの補充療法があります。 さらに読む 思春期の遅れ 思春期の遅れ 思春期の遅れとは、性的成熟が予想される時期に始まらないことをいいます。 最も一般的には、同年齢の小児と比較して単に発達の開始が遅れているだけで、最終的には正常に発達します。 思春期の遅れは、慢性的な医学的問題、内分泌系の病気、放射線療法や化学療法、摂食障害や過度の運動、遺伝性の病気、腫瘍、ある種の感染症などによって起こることもあります。 典型的な症状としては、男児では精巣が大きくならない、女児では乳房が膨らまない、生理がないなどがありま... さらに読む など、他の状況でも起こる可能性があります。

成長ホルモンの分泌量の評価は、成長ホルモンの分泌量が1日の中で変動するため、困難です。その結果、随時に測定した成長ホルモン濃度はしばしば役に立ちません。その代わり、医師は成長ホルモンによって刺激を受ける他の物質の血中濃度を血液検査で測定します。このような物質には、インスリン様成長因子1やインスリン様成長因子結合タンパク質3などがあります。しかしながら、これらの物質は 甲状腺機能低下症 診断 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの分泌量が低下した状態です。 小児の甲状腺機能低下症は、通常、甲状腺の構造に問題があるか、甲状腺が炎症を起こしていることが原因です。 症状は小児の年齢によりますが、成長と発達の遅延などがあります。 診断は、新生児スクリーニング検査、血液検査、画像検査に基づきます。 治療としては、甲状腺ホルモンの補充療法があります。 さらに読む セリアック病 セリアック病 セリアック病は、小麦や大麦、ライ麦に含まれるタンパク質のグルテンに対する遺伝性の不耐症であり、小腸の粘膜に特徴的な変化を起こし、 吸収不良が生じます。 タンパク質のグルテンの摂取後に、腸の粘膜に炎症が生じます。 症状としては、成人では下痢、低栄養、体重減少などがあります。 小児でみられる症状としては、腹部膨満、非常に強い悪臭がする大量の便、成長不良などがあります。 診断は、典型的な症状と小腸の粘膜から採取した組織サンプルの検査結果に基づ... さらに読む セリアック病 低栄養 診断 低栄養とは、カロリーまたは1つ以上の必須栄養素が不足している状態です。 低栄養は、食べものを手に入れたり調理したりできない、食べものを食べたり吸収したりしにくくなる病気がある、またはカロリーの必要量が大幅に増えているということが原因で発生することがあります。 低栄養は、多くの場合、見た目にも明らかです。低体重で、しばしば骨が突き出ており、... さらに読む 診断 などの他の病態によっても影響を受けることがあり、これらの病態を除外するために検査が行われる場合があります。

発育不良の他の原因がなく、成長ホルモンの値が低い場合、医師は一般的には刺激試験を行います。刺激試験では、医師は成長ホルモン分泌を刺激する薬剤を投与し、成長ホルモン濃度を数時間にわたって測定します。

治療

  • 成長ホルモン補充療法

  • ときに他のホルモンの補充

小児に合成成長ホルモンを注射します。ホルモンの補充は、小児が受容できる身長に達するか、小児の身長の伸びが1年に約2.5センチメートルを超えなくなるまで続けます。治療の最初の1年間に、身長が10~12センチメートル伸びる小児もいますが、反応は個人によって異なります。通常、成長ホルモン療法の副作用はありませんが、一部の小児では脚の軽度のむくみ(通常は速やかに消失します)がみられたり、まれに脳内の圧力の上昇(特発性頭蓋内圧亢進症 特発性頭蓋内圧亢進症 特発性頭蓋内圧亢進症は、頭蓋骨内部の圧力(頭蓋内圧)の上昇を特徴とします。この病気の誘因は不明です。 頭痛が毎日のように起こり、ときに吐き気、かすみ目、複視を伴います。頭の中で雑音(耳鳴り)が聞こえることもあります。 頭蓋内圧が上昇する原因がほかにないかを調べるため、頭部の画像検査と腰椎穿刺を行います。 適切な治療を行わないと、視力が失われる可能性があります。 減量や、脳内の液体を減らすための利尿薬の投与、減圧を目的とした定期的な腰椎穿... さらに読む )や 大腿骨頭すべり症 大腿骨頭すべり症(SCFE) 大腿(だいたい)骨頭すべり症とは、太ももの骨(大腿骨)の端部が股関節の成長板でずれた、または分離した状態です。 この病気は、成長過程の股関節の脆弱化が原因である可能性があります。 典型的な症状として、股関節のこわばりや軽度の痛みなどがあります。 診断はX線検査のほか、ときにその他の画像検査に基づいて下されます。 病気を治すためには通常、手術が必要です。 さらに読む (膝や股関節の痛みや跛行として現れる大腿骨上部の異常)などのより重篤な副作用がみられたりする場合もあります。

下垂体が正常に機能していても、低身長の小児の身長を伸ばすために成長ホルモンを用いる場合がありますが、これには賛否両論があります。低身長を病気だと考える親もいますが、多くの医師は身長が低いという理由だけでは成長ホルモンの投与を承諾しません。低身長の原因が何であれ、成長ホルモンが効果を発揮するのは、骨が成長を終える前に投与した場合に限られます。

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