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バーター症候群とギッテルマン症候群

執筆者:

Christopher J. LaRosa

, MD, Perelman School of Medicine at The University of Pennsylvania

レビュー/改訂 2019年 9月
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バーター症候群とギッテルマン症候群では、遺伝による尿細管の異常により、腎臓から電解質(カリウム、ナトリウム、塩素イオン)が過剰に排泄されてしまうため、発育、電解質、ときに神経および筋肉に異常が発生します。

バーター症候群とギッテルマン症候群は、遺伝性の病気であり、通常は 劣性遺伝子 劣性遺伝疾患 遺伝子とは、DNA(デオキシリボ核酸)のうち、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパク質の設計情報が記録された領域のことです。 染色体は非常に長いDNA鎖からできており、そこには多く(数百~数千)の 遺伝子があります。特定の細胞(例えば、精子と卵子)を除き、人間の正常な細胞には23対の染色体があります。22対の常染色体と1対の性染色体があり、合わせて46本の染色体があります。通常、それぞれの対を構成する染色体は、片方を母親から、もう片方... さらに読む によって引き起こされます(非X連鎖(常染色体)劣性遺伝疾患 非X連鎖劣性遺伝疾患 非X連鎖劣性遺伝疾患 )。したがって、バーター症候群またはギッテルマン症候群を発症した人は、通常、これらの病気の原因である劣性遺伝子を両親から1つずつ受け継いでいます。劣性遺伝子が関与する病気が発症するには2つの遺伝子を受け継ぐ必要があるため、ごく近い家族の中に同じ症候群の人はいないのが通常です。どちらもまれな病気ですが、バーター症候群と比較して、ギッテルマン症候群の方がより多くみられます。

バーター症候群とギッテルマン症候群では、腎臓で尿細管から塩分(塩化ナトリウム)を正常に再吸収することができなくなります。このため、腎臓から過剰な量の 電解質 電解質の概要 人の体内の水分量は体重の2分の1をはるかに上回ります。体内の水分は様々な空間(体液コンパートメントと呼ばれています)に制限されて存在していると考えられています。主に次の3つのコンパートメントがあります。 細胞内の体液 細胞の周囲の体液 血液 体が正常に機能するには、これらの各領域で体液量が偏らないようにする必要があります。 さらに読む ナトリウム 体内でのナトリウムの役割の概要 ナトリウムは体内の 電解質のうちの1つで、体内で比較的大量に必要とされる ミネラルです。電解質は血液などの体液に溶けると電荷を帯びます。( 電解質の概要も参照のこと。) 体内のナトリウムは、ほとんどが血液中または細胞の周囲の体液中に存在しています。ナトリウムには体液のバランスを正常に保つ働きがあります( 体内の水分についてを参照)。ナトリウムはまた、神経と筋肉が正常に機能するのに重要な役割を果たしています。... さらに読む と塩素イオン)が尿中に排泄されます。ナトリウムと塩素イオンが失われると、尿が過剰に作られるようになり、それにより軽度の 脱水 脱水 脱水は体内の水分が不足している状態です。 嘔吐、下痢、大量発汗、熱傷(やけど)、腎不全、利尿薬の使用により、脱水になる場合があります。 脱水が進むとのどの渇きを感じ、発汗や排尿も少なくなります。 脱水がひどくなると、錯乱やめまいを感じるようになります。 水を飲むか、場合によっては水分を静脈内投与して、失われた水分と血液中に溶けているナトリウムやカリウムなどの無機塩(電解質)を補給する治療が行われます。 さらに読む 状態になります。

軽度の脱水状態になると、体内で血圧の調節を補助する酵素(レニン)とホルモン(アルドステロン)が多く作られるようになります。アルドステロンが増えると、腎臓でのカリウムと酸の分泌量が増加するため、血液中のカリウム濃度が低下するとともに(低カリウム血症 低カリウム血症(血液中のカリウム濃度が低いこと) 低カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が非常に低い状態をいいます。 カリウム濃度の低下には多くの原因がありますが、通常は嘔吐、下痢、副腎の病気、利尿薬の使用が原因で起こります。 カリウム濃度が低下すると、筋力低下、筋肉のけいれんやひきつり、さらには麻痺が生じるほか、不整脈を起こすことがあります。 診断は、カリウム濃度を測定する血液検査に基づいて下されます。 通常は、カリウムを豊富に含む食べものを食べるか、カリウムのサプリメントを飲むだ... さらに読む )、血液中から酸が失われることで血液のpHが上昇してアルカリ性になります(代謝性アルカローシス アルカローシス アルカローシスは血液のアルカリ性度が高くなりすぎた状態で、血液中の重炭酸塩の過剰または血液中の酸の減少が原因で発生する代謝性アルカローシスと、深く速い呼吸により血液中の二酸化炭素濃度が低下して生じる呼吸性アルカローシスとがあります。 アルカローシスは、易刺激性、筋肉のひきつり、筋肉のけいれん(強い痛みを伴うこともあります)を引き起こすことがあります。 アルカローシスの診断は血液検査により行われます。... さらに読む )。いずれの症候群でも尿細管に異常がみられますが、腎臓はその他の点では影響を受けておらず、老廃物を正常にろ過できます。

尿路の構造

尿路の臓器

これら2つの症候群は主に以下の点で異なっています。

  • 関係する遺伝子

  • 尿細管のうち異常がある部分

  • 症状が始まる年齢

症状

バーター症候群の症状は、出生前、乳児期、または小児期の早期に現れます。

ギッテルマン症候群の症状が現れるのは、小児期の後期から成人期です。

これらの症候群の小児では、尿の量を増加させる利尿薬という種類の薬を服用している人でみられる症状が現れ、その影響によって血液の化学物質のバランスが乱れることがあります。しかし、利尿薬を服用している人とは異なり、バーター症候群やギッテルマン症候群の人では、単に薬の使用を中止することで症状を止めることはできません。

バーター症候群の胎児は、子宮内で良好な発育が得られないことがあります。一部の患児は早産で生まれ、知的障害がある場合もあります。

バーター症候群の小児は、ときにギッテルマン症候群の小児も、発育が不良になり発達に遅れが生じることがあります。マグネシウム、カルシウム、カリウムの喪失により、筋力低下、けいれん、れん縮、疲労が生じる可能性があり、特にギッテルマン症候群でその傾向がみられます。症状としては、強いのどの渇き、大量の排尿、吐き気と嘔吐などがみられます。ナトリウムと塩素イオンが喪失することで、慢性的な軽度の脱水状態に陥ります。 血圧が低下 低血圧 低血圧とは、めまいや失神などの症状が出現するほど、血圧が低下した状態のことです。血圧が極度に低下すると、臓器に損傷が起きる可能性があり、そのような病態を ショックと呼んでいます。 体内の血圧を維持する仕組みは、様々な薬や病気によって影響を受けます。 血圧が下がりすぎた場合、脳の機能不全や失神を起こすことがあります。... さらに読む することもあります(低血圧)。

診断

  • 血中および尿中の電解質濃度の測定

バーター症候群とギッテルマン症候群は、これらの症候群の特徴的な症状がみられる小児や、血液中および尿中の電解質濃度に異常がみられた小児で疑われます。ときに、ほかの理由で行われた臨床検査で、電解質の測定値に異常がみられることがあります。

レニンおよびアルドステロンの血中濃度とナトリウム、塩素イオン、カリウムの尿中濃度が高ければ、いずれかの症候群の診断が確定します。

遺伝子検査が利用できますが、通常は行われません。

治療

  • カリウムおよびマグネシウムのサプリメント

  • スピロノラクトンまたはアミロライド(amiloride)

  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬

  • バーター症候群には非ステロイド系抗炎症薬

腎臓の尿細管細胞の機能障害を治すことはできないため、治療は生涯にわたって続けられ、ホルモン、体液、電解質の異常を是正することが目標となります。カリウムやマグネシウムなど、尿中に排泄される物質を含有するサプリメントを服用するとともに、水分の摂取量も増やします。

特定の薬剤は役立つ可能性があります。バーター症候群に対しては、インドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を使用します。尿中へのカリウムの排泄量を減少させる、スピロノラクトン(アルドステロンの作用も遮断します)やアミロライド(amiloride)などの薬も使用します。スピロノラクトンとアミロライド(amiloride)は、ギッテルマン症候群にも使用されます。NSAIDはギッテルマン症候群の治療には役立ちません。どちらの症候群にも、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を投与することがあり、アルドステロンの増加を止める効果があります。

患児の身長が非常に低い場合は、成長ホルモンを投与することもあります。

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