せきには、気道から異物を取り除き、異物が肺に入るのを防ぐ働きがあります。異物は吸い込んだ粒子のこともあれば、肺や気道から排出された物質のこともあります。多くの場合、異物はせきをすることで肺と気道からたん(粘液、壊死組織片、細胞などの混合物が肺から吐き出されたもの)として吐き出されます。血液がせきで吐き出されることもあります。たんや血液を吐き出すせきを湿性咳嗽といいます。年長児(および成人)であれば、一般的にせきをして異物を吐き出しますが、より若年の小児は通常、異物を飲み込んでしまいます。何も吐き出さないせきもあります。このようなせきを乾性咳嗽といいます。
せきは、親が子どもを医療従事者のもとへ連れて行く、最も多い理由の1つです。
(成人のせきも参照のこと。)
原因
評価
すべてのせきが、医師による早急な診察を必要とするわけではありません。どのような症状が深刻な原因によるものか親が知っていれば、医師に連絡を取る必要があるか決める助けになります。
警戒すべき徴候
受診のタイミング
警戒すべき徴候のある小児はすぐに医師のもとへ連れて行く必要があり、子どもが異物を吸い込んだと親が疑う場合も同様にすぐに受診させましょう。警戒すべき徴候はないものの、頻繁に激しいせきや犬が吠えるようなせき(犬吠様咳嗽)をする場合は、医師に電話で相談してください。小児の年齢、他の症状(発熱など)、病歴(特に喘息や嚢胞性線維症などの肺の病気)にもよりますが、一般的にはおよそ1日以内に受診してほしいと医師から言われます。ときおりせきをして典型的なかぜ症状(鼻水など)がみられるものの、それ以外の点では元気そうに見える場合には、受診する必要はありません。
警戒すべき徴候はないものの慢性のせきがある小児は受診するべきですが、受診が数日から1週間遅れても一般的に害はありません。
医師が行うこと
医師はまず、症状と病歴について質問します。次に身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、せきの原因と必要になる検査を推測することができます({blank} 小児のせきの主な原因と特徴)。
せきに関する情報は、医師が原因を判断するのに役立つため、 次のような質問をすることがあります
夜間のせきは、喘息や後鼻漏が原因のことがあります。睡眠開始時および朝の起床時のせきは通常、副鼻腔の炎症が原因です(副鼻腔炎)。真夜中のせきは喘息でより多くみられます。犬吠様咳嗽は、クループを疑わせるものですが、ウイルス性上気道感染症の後に残ったせきの場合もあります。小児に突然起こったせきで他の症状はない場合、異物を吸入した可能性があります。たんが黄色か緑色か、ネバネバかサラサラかによって、細菌性感染と他の原因を区別できると多くの人が考えますが、実際はそうではありません。
生後6カ月から4歳の小児の場合、異物(小さいおもちゃなど)や小さく滑らかで固い食物(ピーナッツやブドウなど)を飲み込んだ可能性があるか親に聞きます。最近の呼吸器感染のほか、肺炎やアレルギーまたは喘息の発作が頻繁に起こっていないか、あるいは特定の国への旅行中などに結核や他の感染症と接触したことがあるかについても尋ねます。
身体診察も行います。呼吸の異常がないか調べるため、小児の胸を観察し、聴診器で呼吸音を聞き、胸部の打診を行います。かぜ症状、リンパ節の腫れ、腹痛についても調べます。
小児のせきの主な原因と特徴
原因 |
一般的な特徴* |
検査 |
急性のせき(4週間未満の持続) |
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初めは、かぜ症状 喘鳴のほか、細気管支炎が重い場合に鼻の穴が広がる速い呼吸や呼吸困難 ときに、せきをした後に吐く 典型的には2歳までの乳幼児、最もよくみられるのは生後3~6カ月の乳児 |
医師の診察 ときに、胸部X線検査、ウイルスを特定するため鼻の粘液(綿棒で採取)の培養検査 |
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初めは、かぜ症状 その後、頻繁な犬吠様咳嗽(夜に悪化)、クループが重い場合は息を吸うときにキューキューという大きな音(吸気性喘鳴)や鼻の穴が広がる速い呼吸 典型的には、生後6カ月~3歳の小児 |
医師の診察 ときに、頸部と胸部のX線検査 |
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気管または肺の比較的太い気道(気管支)の中の異物 |
突然始まるせきと息詰まり 初めは発熱はない かぜ症状はない 典型的には、生後6カ月~4歳の小児 |
胸部X線検査 ときに、気管支鏡検査 |
1~2週間の軽いかぜ様症状後、せきの発作 乳児:せきの発作、唇や皮膚の青み(チアノーゼ)、せきこみ後の嘔吐、呼吸の停止(無呼吸)を伴うこともある より年長の小児:せきの発作、長引く甲高い音(笛声と呼ばれる)がその後に続く 数週間長引くせき |
鼻から採取した粘液サンプルの培養検査 |
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典型的には発熱 ときに、喘鳴、息切れ、胸痛 せき(ときに湿性咳嗽) |
医師の診察 しばしば胸部X線検査 |
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睡眠開始時または朝の起床時のせき ときに慢性的な鼻水 |
医師の診察 ときに副鼻腔のCT検査 |
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上気道感染症(最も一般的) |
鼻水と鼻づまり ときに、発熱やのどの痛み ときに、小さく、触っても痛くない頸部リンパ節の腫れ |
医師の診察 |
慢性のせき†(4週間以上続く) |
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誘因物質(花粉や他のアレルゲンなど)、冷たい空気への曝露や運動に反応して起こる、せきこみの周期的な発作 夜間のせきこみ ときに、喘息の家族がいる |
医師の診察 喘息の薬を投与し症状が軽くなるか反応をみる 肺機能を評価する呼吸検査(肺機能検査) |
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肺の先天異常 |
肺の同じ部位で繰り返す肺炎 |
胸部X線検査 ときにCTまたはMRI検査 |
気管の先天異常、食道の先天異常、またはその両方の先天異常 |
異常により様々 典型的には新生児や乳児 気管が正常に発育しなかった場合、ときに、息を吸うときにキューキューという大きな音(吸気性喘鳴)、犬吠様咳嗽や呼吸困難 気管と食道の間に異常な通路がある場合(気管食道瘻)、授乳や飲食時のせきや呼吸困難、頻繁な肺炎 |
胸部X線検査 ときに気管支鏡検査や内視鏡検査 気管の異常が疑われる場合は、CT検査やMRI検査 |
粘り気の強い分泌物による腸閉塞(胎便性イレウス)が、生後まもなく見つかる 肺炎、副鼻腔炎、またはその両方の頻発 予想された通りの発育がみられない(発育不良) 指先の肥大、爪が生えてくる部分(爪床)の角度の変化(ばち状指)、青みがかった爪床 |
汗試験 ときに、診断を確定するための遺伝子検査 |
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肺や気道の異物 |
突然始まるせきと息詰まり 息詰まりは治るものの、せきは数週間長引くか悪化していく ときに発熱 かぜ症状はない 典型的には、生後6カ月~4歳の小児 |
息を吸っているときと吐いているときの胸部X線検査 気管支鏡検査 |
乳児:むずかり、哺乳後の溢乳、背中の反り返り、授乳や飲食後の啼泣、寝かせたときのせき 体重増加不良 より年長の小児と青年:食後や横になったときの胸痛や胸やけ、ときに喘鳴、声がれ、吐き気、逆流 夜に悪化することが多いせき |
医師の診察 乳児:ときに、構造が正常か明らかにするため、口からバリウムを投与して行う上部消化管X線検査 ヒスタミンH2受容体(H2)拮抗薬の投与(症状が軽くなった場合、おそらく胃食道逆流症が原因である) ときに、食道の酸性度や逆流回数を測定する検査(食道pHまたはインピーダンス検査と呼ばれる)、あるいは逆流の回数や重症度を明らかにするため、口から人工乳を投与した後のX線検査(胃排出シンチグラフィー) より年長の小児:H2拮抗薬またはプロトンポンプ阻害薬を投与し症状が軽くなるか反応をみる ときに内視鏡検査 |
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後鼻漏 |
頭痛、目のかゆみ、軽度ののどの痛み(特に朝)、夜と起床時のせき アレルギーの病歴 |
抗ヒスタミン薬またはコルチコステロイドの鼻腔スプレーの投与(症状が軽くなった場合、アレルギーが原因である) ときに副鼻腔のX線検査やCT検査 |
心因性または習慣性のせき |
かぜの後や気道の炎症の後の小児に現れることがある 起きているときに、頻繁(最長で2~3秒毎)か、激しい、または警笛のように聞こえるせきがみられ、ときに数週から数カ月間続く 眠ると完全に止まるせき 熱や他の症状がない |
医師の診察 ときに、他の原因を探すため胸部X線検査 |
感染した人との最近の接触 多くの場合、免疫力の低下(易感染状態) ときに、発熱、寝汗、悪寒、体重減少 |
胸部X線検査 ツベルクリン検査 |
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*この欄には症状や診察の結果などが示されています。ここに示されている特徴は典型的なものですが、常に当てはまるわけではありません。 |
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†慢性のせきが引き起こされる病気の場合は、4週間より前に受診することもあります。慢性のせきがある小児の初診時には、胸部X線検査を必ず行います。 |
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CT = コンピュータ断層撮影、MRI = 磁気共鳴画像。 |
検査
症状および医師が疑っている原因によって、検査が必要かどうかが決まります。一般的に、警戒すべき徴候のある小児には、クリップ式のセンサー(パルスオキシメーター)で血中酸素レベルを測定し、胸部X線検査を行います。慢性のせきがある場合、あるいはせきが悪化する場合もこれらの検査を行います。病歴と身体診察の過程で見出した結果によっては、他の検査も行います({blank} 小児のせきの主な原因と特徴)。
警戒すべき徴候のない小児には、せきの期間が4週未満でかぜ症状がある場合、検査を行うことはまれです。そのような場合の原因は、ウイルス感染であることが普通です。
症状から強く疑われる原因がある場合も、検査の必要がないことがあります。そのような場合、その疑われる原因に対する治療が開始されます。しかし、治療しても症状が続く場合は、しばしば検査を行います。
治療
咳の原因に対する治療に重点が置かれます(例えば、細菌性肺炎には抗菌薬、アレルギー性後鼻漏には抗ヒスタミン薬を使います)。
多くの場合、せきの症状を軽くするため、湿った空気を吸わせ(加湿器や熱いシャワーを利用する)、水分を多めに取らせるなど、民間療法を行うよう親は助言されます。このような治療に害はないものの、小児の状態に何らかの違いをもたらすという科学的根拠はほとんどありません。
せき止め薬(デキストロメトルファンやコデインなど)が小児に勧められることはまれです。せきは、体にとって気道から分泌物を取り除く重要な方法です。また、このような薬には錯乱や鎮静などの副作用があり、小児の状態を良くしたり回復を早めたりする助けになるという証拠はほとんどありません。去たん薬はたんを薄めて軟らかくする(吐き出しやすくする)と考えられていますが、これも普通は小児に勧められません。