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骨盤底障害

(骨盤底支持組織の障害、骨盤臓器脱)

執筆者:

S. Gene McNeeley

, MD, Michigan State University, College of Osteopathic Medicine

最終査読/改訂年月 2017年 5月
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骨盤底の障害は、骨盤部の靱帯、結合組織、筋肉が弱くなったり損傷を受けたりすることが原因で、膀胱、尿道、小腸、直腸、子宮、腟などが本来の位置よりも垂れ下がってしまう(脱出する)状態です。

  • 患者は骨盤内に圧迫感や充満感を感じ、排尿や排便に問題を起こすことがあります。

  • 患者がいきんだ状態で内診を行うことで、異常がより分かりやすくなります。

  • 骨盤底筋体操やペッサリーの使用が役立つ場合もありますが、手術が必要になる場合もあります。

骨盤底障害は、女性だけに発生し、年齢を重ねるにつれて多くなっていきます。生涯に骨盤底障害に対する手術が必要になる女性の割合は、およそ11人に1人です。

骨盤底の部分は筋肉、靱帯、結合組織がハンモックのようにつながっていて、骨盤内臓器(子宮、腟、膀胱、尿道、直腸)を支えています。これらの筋肉が弱くなったり、靱帯や結合組織が伸びたり損傷したりすると、骨盤内臓器や小腸が垂れ下がって腟の中に突出してくることがあります。重症になると、臓器が腟の開口部を越えて体外まで出てくることもあります。

通常、骨盤底障害は複数の要因が関与して発生します。

以下の要因は、骨盤底の障害の発生に一般的に関与するものです。

  • 出産、特に経腟分娩の場合

  • 肥満

  • 子宮摘出術などの外科手術の際に生じる損傷

  • 加齢

  • 排便時にいきむ、重い物を持ち上げるなど、腹部に圧力がかかる動作を頻繁に行う

妊娠や経腟分娩を経験すると、骨盤内の支持構造が弱くなったり引き伸ばされたりします。骨盤底障害は、経腟分娩を複数回経験した人でより多くみられ、分娩回数が多くなるほどリスクは高くなります。分娩自体が神経を損傷させ、筋力が低下する場合もあります。骨盤底障害の発生リスクは、帝王切開の方が経腟分娩よりも低くなる可能性があります。

年齢を重ねると、骨盤底の支持構造が弱くなり、骨盤底障害が発生しやすくなります。

子宮摘出によってもこれらの構造が弱くなり、骨盤底の障害が起こりやすくなります。

比較的まれな要因としては、腹部にたまった体液(腹水、骨盤内臓器を圧迫する)、骨盤底につながる神経の病気、腫瘍、結合組織(筋肉を含むほぼすべての臓器に存在する、多くは線維性の頑丈な組織で、支持と弾力性をもたらす)の疾患などがあります。骨盤底に影響を及ぼす先天異常のある女性や、生まれつき骨盤部の支持組織が弱い女性もいます。

種類と症状

骨盤底障害は、本質的にすべてヘルニア(脱出)で、支持組織が弱くなったために臓器が本来あるべき領域からはみ出してくることです。骨盤底障害は、影響を受けた臓器に応じた名称で呼ばれます。1人の女性に2種類以上の障害がみられることもしばしばあります。どのタイプでも最もよくみられる症状は、腟の部分に起きる重感や圧迫感で、子宮、膀胱、または直腸が垂れ下がっているような感覚がします。

底が抜ける:骨盤内臓器の脱出

底が抜ける:骨盤内臓器の脱出

症状は、立ったり、力んだり、せきをしたりしたときに出現し、横になって楽な姿勢を取ると消失する傾向があります。人によっては、性交時に痛みを感じる場合もあります。

軽症の場合は、高齢になるまで症状が現れないこともあります。

直腸の脱出(直腸瘤)、小腸の脱出(小腸瘤)、膀胱の脱出(膀胱瘤)、および尿道の脱出(尿道瘤)は特に、同時に起こる可能性が高いです。尿道瘤と膀胱瘤はほぼ常に同時に起こります。

直腸瘤

直腸瘤は、直腸が垂れ下がって腟の後壁に向かって突出した状態です。この異常は、直腸壁の筋肉や直腸周囲の結合組織が弱くなって発生します。

直腸瘤になると排便が困難になったり、便秘を起こしたりします。便を出し切ることができなくなる女性もいます。排便するときに、腟に指を入れて直腸を押す必要がある女性もいます。

小腸瘤

小腸瘤とは、小腸と腹膜(腹腔の内側を覆う膜)が腟と直腸の間の部分に垂れ下がった状態です。子宮を摘出する手術(子宮摘出術)の後に最もよく発生します。小腸瘤は、子宮や腟を支える結合組織と靱帯が弱くなることで発生します。

小腸瘤はしばしば何の症状も引き起こしませんが、骨盤内に充満感、圧迫感、痛みなどが生じる人もいます。腰痛がみられることもあります。

膀胱瘤と膀胱尿道瘤

膀胱瘤は、膀胱が垂れ下がって腟の前壁に向かって突出した状態です。この異常は、膀胱周囲の結合組織や支持構造が弱くなることで発生します。尿道瘤と膀胱瘤が同時に起こると、膀胱尿道瘤と呼ばれます。

膀胱瘤または膀胱尿道瘤のどちらの女性にも、腹圧性尿失禁(せきをしたとき、笑ったとき、その他の腹圧が急に上がるような動作をしたときに尿が漏れてしまう状態)がみられる場合があります。重度の場合には、溢流性尿失禁(膀胱に尿がたまりすぎて溢れ出るように漏れる状態)または尿閉を起こすことがあります。排尿後にも膀胱が完全に空にならない人もいます。ときには、尿路感染症を発症することもあります。膀胱や尿道につながる神経に損傷が起きると、切迫性尿失禁(急に強い尿意に襲われ、我慢しきれずに尿を漏らしてしまうこと)を起こすことがあります。

子宮脱

子宮脱とは、子宮が腟の中に垂れ下がった状態です。この異常は通常、子宮を支える結合組織や靱帯が弱くなることで発生します。子宮脱の程度には以下のものがあります。

  • 腟の上部まで脱出

  • 腟の開口部まで脱出

  • 腟の開口部から一部脱出

  • 腟の開口部から子宮全体が脱出(全脱)

子宮がどの程度脱出しているかによって、症状の重症度が変わります。

子宮脱が起きると、腰や尾骨の辺りの痛み、排便困難、性交時の痛みのほか、重感や圧迫感(骨盤内臓器が垂れ下がっているような感覚)が生じます。しかし、何の症状もみられない女性も多くいます。

子宮全体が脱出すると、歩行時に痛みを感じるようになることがあります。突出した子宮頸部(子宮の下部)にただれが起きると、出血、分泌物、感染などの原因になります。

子宮脱によって尿道がねじれてしまうこともあります。尿道がねじれると、尿失禁が起きても分からなかったり、排尿が困難になったりします。

腟脱

腟脱とは、腟の上部が下方に下がり、腟が裏返しになった状態です。腟の上部が腟の途中まで下がってくる場合もあれば、完全に体外に脱出してしまう場合もあります。通常、膀胱瘤または直腸瘤も同時にみられます。

腟全体の脱出では、座っているときや歩いているときに痛みを感じることがあります。腟の突出した部分にただれができると、出血や分泌物の原因になります。腟脱によって尿意が強まったり頻尿になったりすることもあります。尿道がねじれてしまうこともあります。尿道がねじれると、尿失禁が起きても分からなかったり、排尿が困難になったりします。排便が困難になることもあります。

診断

  • 内診

また、いきんだり(排便時のように)、せきをするよう指示されることもあります。立って片足を丸椅子にのせた状態で診察を行うこともあります。このようにいきんだり、せきをしたり、立ったりすることで骨盤内の圧力が高まる結果、骨盤底障害がより分かりやすくなります。

膀胱と直腸の機能を調べるための検査を行う場合もあります。例えば、失禁することなく膀胱にためておける尿の量、排尿後に膀胱に残った尿の量、および尿の流れの速さがしばしば測定されます。排尿困難や尿失禁がみられる場合には、内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)による膀胱内の検査(膀胱鏡検査)や尿道の検査(尿道鏡検査)を行うこともあります。これらの検査では、医師が最善の治療法が薬物療法か手術かどちらであるかを判断するのに役立ちます。膀胱が正常に機能していない患者では、手術が必要になる可能性が高くなります。

腟内や子宮頸部にただれがある場合は、がんがないか確認するめ、サンプルを採取して顕微鏡で調べます(生検)。

治療

  • 骨盤底筋体操

  • ペッサリー

  • 手術

運動

ケーゲル体操などの骨盤底筋体操によって、腹圧性尿失禁などの不快な症状を和らげることができますが、脱出そのものには効果はありません。体操は、脱出が軽度の場合に最も助けとなります。

体操が役立つのは、体操が骨盤底筋を強化するためです。ケーゲル体操は、腟、尿道、および直腸の周囲にある筋肉(尿の流れを止める際に使用される筋肉)を対象とした運動です。これらの筋肉をきつく引き締めて、その状態を1~2秒ほど維持し、続いて約10秒間緩めます。筋肉を収縮させる時間を1回当たり約10秒間になるまで徐々に長くしていきます。体操は約10分間にわたり繰り返します。1日に数セット行うことが推奨されています。ケーゲル体操は座った状態でも、立った状態でも、横になった状態でも可能です。

人によっては、正しい筋肉を収縮させるのが難しい場合もあります。以下のような方法で、ケーゲル体操の習得を容易にすることができます。

  • 腟の中に円錐形の挿入物を入れる(正しい筋肉の収縮に意識を集中しやすくする)

  • バイオフィードバック装置

  • 電気刺激(医療従事者が電極を挿入し、そこから電流を流して正しい筋肉を収縮させる)

ペッサリー

脱出が症状を引き起こしている場合には、骨盤内臓器を支えるためにペッサリーと呼ばれる器具を腟に挿入することがあります。ペッサリーは、手術を待っている患者や、手術を希望していない患者、また手術ができない患者で特に有用です。

ペッサリーには膜状のもの、立方体のもの、ドーナツ形のものなどがあります。膨らませて使用するものもあります。医師は様々なサイズのペッサリーを試して、それぞれの患者に適したものが見つかるまで調整します。国によっては、店頭でペッサリーを購入できる場合もあります。

連続での装用を選択する人もいれば、夜間などはペッサリーを外すことを選択する人もいます。

ペッサリーは定期的に外して、石けんと水で洗う必要があります。使用する女性はまず、装着の方法と洗浄のための取外しの方法について指導を受けます。あるいは、定期的に医療機関を受診して、そこでペッサリーを洗浄してもらうこともできます。少なくとも2~3週間毎に1回は洗浄するか、交換すべきです。性交時には外す必要があります。

ときにペッサリーによって腟の組織に炎症が生じ、悪臭を伴う帯下が生じることがあります。そのような分泌物は、定期的な洗浄を(可能であれば毎晩)行うことで軽減することができます。腟の正常な酸性度(pH)を回復させて維持する腟用のゼリーも役立つことがあります。正常なpHを回復させることで、悪臭を伴う帯下の原因になる細菌の増殖を阻止できます。このゼリーは、医師の指示に従って、アプリケーターを用いて腟内に挿入します。このようなゼリーの1つには、ヒドロキシキノリン硫酸塩とラウリル硫酸ナトリウムが含まれています。

ペッサリーを使用する女性は定期的に主治医の診察を受けるべきです(例えばペッサリーを最初に挿入して1~2週間後、その1~2カ月後、その後は6~12カ月毎など)。

手術

骨盤底筋体操とペッサリーを試しても症状が続く場合には、手術を行います。女性がペッサリーの使用を希望しない場合にも、手術が選択肢になります。手術は通常、患者がこれ以上妊娠を希望しないと決めた場合にのみ実施されます。

以下のいずれかのタイプの手術を行います。

  • 腟式手術:腹部からでなく腟経由で行う手術です。この場合、体の外側で切開を行う必要がありません。

  • 腹式手術:腹部を1カ所または複数カ所切開します。

腹式手術には以下のものがあります。

  • 開腹手術:腹部に5~10センチメートルほどの長さの切開を施します。

  • 腹腔鏡下手術では、観察用の管状の機器(腹腔鏡)と手術器具を下腹部に施した複数のごく小さな切開部から挿入します。

手術では弱くなった部分を特定し、その周囲の組織を補強することによって、臓器の垂れ下がりを予防します。手技としては以下のものがあります。

  • 直腸瘤、小腸瘤、膀胱瘤、および膀胱尿道瘤に対しては、正常であれば腟を支えているはずの組織に長年かけて隙間ができてしまった部分を再びつなぎ直す手技(腟壁縫合と呼ばれます)があります。

  • ときに、腟の開口部と肛門の間(会陰部)の組織も修復する手技(会陰縫合と呼ばれます)も行います。

これら2つの手技は腟経由で行われ、腹部の切開は不要です。

重度の子宮脱または腟脱では、通常、子宮がある場合は摘出します(子宮摘出術)。また、腟の上部は通常、近くの安定した組織(骨盤内の骨や強い靱帯など)に縫い付けます。これらの手技は腹腔鏡を用いて行うか、腹部または腟を切開して行います。腟壁縫合または会陰縫合も必要な場合があります。

脱出の修復に合成素材のメッシュを使用すると、支持構造を強くすることができます。メッシュは主に腹腔鏡下手術または開腹手術の場合に使用されます。腟経由の手術では、メッシュを留置すると合併症が増えるためメッシュは一般的に使用されません。合併症には、感染症、骨盤内の構造の損傷、骨盤痛、性交時の痛みなどがあります。これらの合併症には、さらなる外科手術による治療が必要になることがあります。腟の修復に使用されるメッシュは、尿失禁の治療に使用されるものとは異なります。臓器脱に外科的修復が必要な場合、メッシュを使用するのかどうか、メッシュを使用する場合には、メッシュを使うことのリスクと便益が何なのかについて、主治医に尋ねるとよいでしょう。

腟脱が重度で、患者が性的に活動的であり続けることを望んでいない場合、他の選択肢として腟閉鎖術があります。この処置では腟の粘膜の大部分を切除し、腟を縫い合わせて閉じます。処置に時間がかからず、合併症がほとんどないため、手術にリスクを伴う病気(心疾患など)がある女性には良い選択肢となります。また、腟閉鎖術の後、脱出が再発する可能性は低くなります。

骨盤底障害の治療として手術を受けた後は多くの場合、尿を排出させるため、手術の終了から最長24時間までカテーテルを膀胱まで挿入しておきます。尿失禁がみられる場合や手術後に尿失禁が起こると予想される場合には、失禁を治療するための手術を同時に行うことも通常は可能です。その場合には、尿を排出させるためのカテーテルの留置が長期間必要になることがあります。

骨盤底障害の治療として手術を受けた後の少なくとも3カ月間は、物を持ち上げたり、いきんだり、長時間立ち続けるのは避けるべきです。

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