子宮内避妊器具(IUD)は、プラスチック製で柔軟性のあるT字型の小さな器具で、子宮内に挿入して使用します。
種類に応じて3年間、5年間、または10年間、あるいは使用者が外したくなるまで挿入しておきます。IUDの挿入や抜去は医師または医療従事者が行います。2~3分もあれば挿入できます。抜去する際も短時間で済み、不快感もほとんどありません。
IUDは以下のようにいろいろな方法で妊娠を防止します。
精子を殺傷する、または精子の運動能をなくす
精子と卵子の受精を阻止する
子宮内で精子に有害な炎症反応を引き起こす
子宮内避妊器具を理解する
子宮内避妊器具(IUD)は、医師が腟から挿入して子宮内に設置します。IUDはT字型で、成型プラスチックでできています。いくつかの種類のIUDは、レボノルゲストレルと呼ばれるプロゲスチンを放出します。別のものは、軸部分とT字の腕の部分に銅製のワイヤーが巻きつけられています。IUDには合成樹脂の糸が付いており、この糸により使用者は器具が正しい位置に入っているか確認でき、医師が器具を取り出しやすくなります。 ![]() |
米国では何らかの避妊法を用いる女性のおよそ12%がIUDを使用しています。経口避妊薬と比べたときの利点のため、IUDはますます多くの女性に使用されるようになっています。
IUDは非常に効果的です。
全身的な作用がありません。
避妊に関する意思決定が必要になるのは、3年、5年、または10年に1回だけです。
米国では現在5種類のIUDが使用可能です。
4つはプロゲスチン(レボノルゲストレル)を放出するタイプです。このうち1つは3年間有効で、もう1つは5年以上有効です。3年間有効のIUDを使用中に妊娠する女性の割合はわずか約0.9%で、5年間有効のIUD使用中に妊娠する女性の割合は約0.7~1.5%です。
5つ目は銅を含有するタイプで、10年以上有効です。12年間入れたままにしておいた場合、妊娠する女性は2%未満です。
IUDを外した後の1年間では、妊娠を試みた女性の80~90%が妊娠します。
出産経験のない女性と青年期の女子を含め、ほとんどの女性がIUDを使用することができます。ただし、以下がある場合はIUDを使用すべきではありません。
骨盤内感染症(性感染症 性感染症(STD)の概要 性感染症(性病)とは、例外はあるものの、一般的には性的接触によって人から人に感染する病気のことです。 性感染症を引き起こす病原体の種類としては、細菌、ウイルス、原虫などがあります。 キスや濃厚な体の接触を介して広がる感染症もあります。 感染が体の他の部分に広がり、ときには深刻な結果に至る場合もあります。... さらに読む
や 骨盤内炎症性疾患 骨盤内炎症性疾患(PID) 骨盤内炎症性疾患は、女性の上部生殖器(子宮頸部、卵管、および卵巣)の感染症です。 骨盤内炎症性疾患は感染しているパートナーとの性交時に感染します。 典型的には、下腹部痛、おりもの、不規則な性器出血(不正出血)が生じます。 診断は、症状と子宮頸部および腟から採取した分泌物の検査結果のほか、ときに超音波検査の結果に基づいて下されます。 セックスパートナーが1人で、性交時にコンドームを使用している場合は、感染のリスクが低下します。 さらに読む
など)
子宮を変形させる構造的な異常
子宮頸がん 子宮頸がん 子宮頸がんは子宮頸部(子宮の下部)に発生します。 子宮頸がんは通常、性交時に感染するヒトパピローマウイルス(HPV)による感染症の結果として発生します。 最初の症状は通常、不規則な性器出血(不正出血)(通常は性交後)ですが、がんが大きくなるか広がるまで何の症状もみられない場合もあります。 通常は子宮頸部細胞診で異常が見つかり、その場合は生検を行います。 定期的に子宮頸部細胞診を受け、ヒトパピローマウイルスのワクチン接種を受けることで子宮... さらに読む
または 子宮内膜がん 子宮体がん 子宮体がんは、子宮の内側を覆っている子宮内膜という組織から発生するため、子宮内膜がんとも呼ばれています。 子宮内膜がんは通常は閉経後に発生します。 ときに異常な性器出血(不正出血)を引き起こします。 診断には、子宮内膜から採取した組織サンプルを検査します(生検)。 通常は子宮、卵巣、卵管およびときに近くのリンパ節を切除します。手術後には放射線療法を行うことが多いですが、化学療法またはホルモン療法を行うこともあります。 さらに読む
(子宮の内側を覆っている組織のがん)
妊娠
性感染症、骨盤内炎症性疾患、または 異所性(子宮外)妊娠 異所性妊娠 異所性妊娠とは、異常な部位に受精卵が着床することです。 異所性妊娠では、胎児は生存できません。 異所性妊娠が破裂すると、しばしば腹痛や性器出血が起こり、治療しなければ死に至ることがあります。 診断は血液検査および超音波検査(主に胎児の位置を調べるために行う)の結果に基づきます。 通常、胎児と胎盤を取り除くために手術を行いますが、メトトレキサートを単回または複数回投与して異所性妊娠を終了させる場合もあります。 さらに読む の病歴がある女性でも、IUDは使用できます。
IUDは受精卵からの流産を誘発することで妊娠を防止する方法ではないため、中絶を禁じる宗教的信条によってIUDの使用が禁止されることはありません。ただし、銅付加IUDが無防備な性行為後の 緊急避妊 緊急避妊 緊急避妊は、無防備な性行為の後や使用していた避妊法が失敗した後(コンドームが破れた場合など)に行われます。 緊急避妊により、無防備な性交後(妊娠成立の可能性が最も高い排卵期に近い時点で性交した場合を含む)に妊娠する確率が低下します。全体として、1回の無防備な性行為の後に妊娠する可能性は約5%ですが、排卵期に近いと約20~30%になります。緊急避妊処置が早ければ早いほど、効果がみられます。... さらに読む に用いられた場合、IUDが受精卵の子宮への着床を妨げる可能性があります。
前回の月経から無防備な性行為を行っていなければ、その月経周期中はいつでもIUDを挿入することができます。無防備な性行為を行っていた場合は、IUDの挿入前に妊娠検査を行う必要があり、それまでは別の避妊法を使用することが勧められます。女性が無防備な性行為の後の緊急避妊としてIUDを使用することを希望している場合を除き、IUDの挿入前には女性が妊娠していないことを確認する必要があります。緊急避妊として使用する場合は、望まない妊娠を防止するために銅付加IUDを挿入します。避妊をしなかった性行為の後、5日以内に銅付加IUDを挿入すると、緊急避妊の方法としてほぼ100%の効果があります。この場合、希望があれば長期的な避妊手段として入れたままにしておくことができます。レボノルゲストレル放出IUDは緊急避妊法としては使用されておらず、挿入前に妊娠の可能性を否定する必要があります。
IUDを挿入する前に、医師が女性の危険因子に基づき性感染症(STD)の検査を勧めることがあります。ただし、医師はIUDの挿入前にSTD検査の結果を待つ必要はありません。結果が陽性であれば、そのSTDを治療し、IUDは挿入したままにします。膿が混じったおりものがみられる場合、IUDは挿入しません。このような場合はSTD検査を行い、検査結果を待たずに直ちに抗菌薬の投与を開始します。
IUDは、第1または第2トリメスター(訳注:第1トリメスターは日本の妊娠初期に、第2トリメスターは妊娠中期にほぼ相当)の流産または中絶の直後や、帝王切開後に胎盤が娩出された直後に挿入することができます。
挿入時には、子宮内に一時的に細菌が侵入しますが、感染が起こることはまれです。IUDの糸は細菌の侵入経路にはなりません。IUDの使用開始後最初の1カ月間だけ骨盤内感染症のリスクが上昇します。感染症が生じた場合は、抗菌薬による治療が行われます。治療後も感染症が持続しない限り、IUDは挿入したままにしておくことができます。
起こりうる問題
女性がIUDを抜去する理由の主なものは出血と痛みであり、本来の交換時期より前に抜去する理由の半数以上を占めています。銅付加IUDは、経血量を増加させたり、月経痛を引き起こすことがあります。月経痛は通常、NSAIDで緩和できます。レボノルゲストレル放出IUDは経血量を減少させ、1年後には、3年間有効のIUDを使用する女性の約6%、5年間有効のIUDを使用する女性の約20%で完全に月経が止まります。
一般的に、女性の5%未満で挿入後1年以内にIUDが子宮から出てしまいますが(脱出)、最初の2~3週間で脱出することもしばしばあります。ときに使用者が脱出に気づかない場合もあります。確認をしたければ、IUDに付いている合成樹脂の糸によってIUDがきちんと入っているかどうかをときおり確かめることができます。ただし、IUDが脱出した場合や正常な位置に入っていない場合には、一般的に出血や痛みがみられます。IUDの脱出後に別のIUDを挿入した場合、再び脱出することは通常ありません。IUDの脱出が疑われる場合は、問題が解決するまで別の避妊法を使用する必要があります。
まれに、挿入時に子宮が裂けてしまうこと(穿孔)があります。穿孔が起きても、それによる症状は通常みられません。合成樹脂の糸が見つからず、超音波検査やX線検査でIUDが子宮外で発見されて初めて、穿孔を起こしたことが判明します。子宮を貫通して腹腔に出てしまったIUDは、腸を傷つけて瘢痕を残す可能性があるため、通常、 腹腔鏡 腹腔鏡検査 医師は、 スクリーニング検査を勧めることがあります。スクリーニング検査とは、症状がない人に対して病気の有無を調べるために行われる検査です。女性に生殖器系に関連する症状(婦人科疾患の症状)がある場合、症状を引き起こしている病気を特定するための検査(診断目的の検査)が必要になることがあります。 婦人科領域では以下の2つのスクリーニング検査が重要です。 子宮頸がん(子宮の下部のがん)の有無を調べるためのパパニコロウ検査のような細胞診... さらに読む を用いて、外科的に取り出します。
IUDを挿入した状態で妊娠した女性は、異所性(子宮外)妊娠になる可能性が高くなります。ただし、IUDを使用している女性では妊娠そのものが効果的に阻止されるため、全体として避妊していない女性と比べて異所性妊娠が起こるリスクははるかに低くなります。
期待される利点
効果的な避妊法であることに加え、どの種類のIUDであっても 子宮体がん(子宮内膜がん) 子宮体がん 子宮体がんは、子宮の内側を覆っている子宮内膜という組織から発生するため、子宮内膜がんとも呼ばれています。 子宮内膜がんは通常は閉経後に発生します。 ときに異常な性器出血(不正出血)を引き起こします。 診断には、子宮内膜から採取した組織サンプルを検査します(生検)。 通常は子宮、卵巣、卵管およびときに近くのリンパ節を切除します。手術後には放射線療法を行うことが多いですが、化学療法またはホルモン療法を行うこともあります。 さらに読む のリスクが低下します。
5年間有効なレボノルゲストレル放出IUDは、重い月経のある女性に対する効果的な治療にもなります。
銅付加IUDは、ホルモン剤による避妊法が使用できない女性にとって効果的な避妊法となります。