腟からの分泌物(おりもの)は正常である場合もあれば、腟の炎症(腟炎)に起因している場合もあり、後者は感染症が原因である可能性があります。性器周辺(外陰部)—腟の開口部周辺—も炎症を起こすことがあります。
おりものの原因により、しばしば他の症状もみられます。具体的には、かゆみ、灼熱感、刺激感、発赤のほか、ときに排尿時や性交時の痛みがなどみられます。
正常なおりもの
エストロゲン濃度の正常な変化によっておりものが生じることがあります。 エストロゲン濃度が高いとき、子宮頸部が刺激されて分泌物(粘液)が生じ、少量の粘液が腟から排出されることがあります。 エストロゲン濃度は以下のような状況で高くなります。
一般的に正常なおりものは匂いがなく、通常は乳白色またはサラサラした透明の液体です。妊娠可能な年齢にある女性では、おりものの量や性状は月経周期とともに変化することがあります。例えば、卵子が放出される月経周期の中頃(排卵期)には、子宮頸管から分泌される粘液が多くなり、サラサラになります。
妊娠、経口避妊薬(経口避妊薬)の使用や性的興奮によっても、おりものの量や性状は変わります。閉経後は エストロゲン濃度の低下に伴い、多くの場合、正常なおりものの量は減少します。
異常なおりもの
原因
異常なおりものは腟炎が原因であるのが通常で、腟炎はたいてい化学物質による刺激か感染症によって起こります。
一般的な原因
おりものの原因として可能性が高いものは、年齢によって異なります。
小児期では、一般的な原因としては以下のものがあります。
不潔な状態により感染症が起こることがあります。例えば、女児(特に2~6歳)が性器周辺を後ろから前にふいて細菌を消化管から移動させてしまう、あるいは排便後に手を洗わないなどの場合です。
異物が原因の場合、おりものに少量の血液が混じることがあります。
妊娠可能年齢の間は、おりものの原因は腟感染症であるのが通常で、最も多いのは以下のものです。
通常、腟は常在細菌(乳酸桿菌)によって感染症から守られています。これらの細菌は腟内の酸性度を正常範囲に維持しています。腟の酸性度が低下すると、腟内の防御機能をもつ細菌が減少し、有害な細菌が増加します。
以下のような状況では有害な細菌が増殖しやすくなり、腟感染症のリスクが上昇します。
閉経後には、多くの女性で異常なおりものがみられます。これは エストロゲンの減少により腟の粘膜が薄くなり乾燥するためです。中等度から重度の萎縮および乾燥は萎縮性腟炎と呼ばれます。腟粘膜が薄く、乾燥していると刺激感や炎症を起こしやすくなり、おりものが生じる原因となります。
あまり一般的でない原因
小児期では、性的虐待が原因である可能性があります。虐待により、けがまたは性感染症が生じることがあります。
妊娠可能年齢では、ときに異物(取り忘れたタンポンなど)が原因となります。しかし、この年齢層では、感染症がなく炎症だけが原因でおりものが生じることはめったにありません。
高齢女性では、尿や便によって性器や肛門の周辺に刺激感が生じ、その結果としておりものが生じることがあります。このような刺激感は、女性に失禁(意図せず排便または排尿してしまう)がみられる場合、または寝たきりの場合に起こることがあります。
すべての年齢層で、性器周辺に触れる様々な製品に刺激され、ときにおりものが生じます。このような製品には、女性用衛生スプレー、香料、生理用ナプキン、洗濯洗剤、漂白剤、衣類の柔軟剤のほか、ときに殺精子剤、腟クリームまたは潤滑剤、腟内避妊リング、ペッサリー、またラテックスにアレルギーのある女性ではラテックス製コンドームなどがあります。
まれに腸と性器の間に異常な開口部(瘻孔[ろうこう])ができている場合があり、おりものの原因になります。このようなおりものには、ときに便が混じります。瘻孔は以下のいずれかにより生じる可能性があります。
放射線療法、骨盤内手術、および腫瘍は瘻孔を生じさせるかどうかにかかわらず、おりものの原因となることがあります。
評価
医師はしばしば、おりものの特徴(性状や匂いなど)、女性の年齢、他の症状、すぐに結果の分かる簡単な検査に基づいて異常なおりものの原因を特定することができます。
警戒すべき徴候
受診のタイミング
警戒すべき徴候が多くみられる女性または女児は、1日以内に医師の診察を受ける必要があります。しかし、警戒すべき徴候が便または血の混じったおりものだけであれば、数日の遅れが問題になることはあまりありません。
警戒すべき徴候がみられない女性は、数日中に医師の診察を受ける必要があります。
患者が真菌感染症の症状を認識でき、自分の病気が真菌感染症であることに自信があり、ほかに症状がみられなければ、おりものが生じるたびに受診する必要はおそらくありません。真菌感染症が原因で生じるおりものは通常、特徴的で、しばしばかたまりを伴うネバネバした白いカッテージチーズ状です。しかし、ときに真菌感染症により主にかゆみと灼熱感だけが起こり、おりものは少量のみである場合もあります。
医師が行うこと
医師は初めに、症状と病歴について患者に質問します。次に身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、おりものの原因と必要になる検査を推測することができます(表「おりものの主な原因と特徴」を参照)。
医師はおりものについて以下のことを質問します。
医師は腹痛または骨盤痛、排尿時または性交時の痛み、かゆみ、発熱、悪寒など他の症状についても質問します。
その他の質問には、陰部を刺激する可能性のある女性用衛生スプレーや他の製品を使用しているかどうかや、おりものが生じるリスクを高める何らかの状況(抗菌薬の頻繁な使用や糖尿病など)があるかどうかなどがあります。
身体診察では、内診に焦点が置かれます。
おりものの主な原因と特徴
原因 |
一般的な特徴* |
検査 |
小児期 |
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腟内の異物(しばしばトイレットペーパー) |
通常悪臭があり、しばしば少量の血が混じったおりもの |
医師の診察(ときに鎮静または全身麻酔を行ってから) |
以下のような感染症 |
陰部のかゆみ、発赤、および腫れ しばしば排尿時の痛み 蟯虫症では、夜間に悪化するかゆみ レンサ球菌感染症またはブドウ球菌感染症では、性器周辺の発赤および腫れ |
腟感染症を引き起こす微生物を調べるための分泌物のサンプルの顕微鏡検査および分析 蟯虫を調べるための性器周辺と肛門の診察 |
衛生状態が悪い |
陰部のかゆみ、発赤、および悪臭 ときに排尿時の痛み おりものはない |
ほかに考えられる原因を除外するための医師の診察 |
性器周辺のヒリヒリする痛み ときに悪臭を伴う、または血の混じったおりもの しばしば漠然とした症状(疲労や腹痛など)または行動の変化(かんしゃくを起こし始める、引きこもり始めるなど) |
医師の診察 性感染症がないか確認するための、分泌物のサンプルの顕微鏡検査および分析 |
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妊娠可能年齢 |
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濁った白色または灰色の生臭さを伴うサラサラしたおりもの かゆみや刺激感 |
分泌物のサンプルの顕微鏡検査および分析 |
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性器周辺の刺激感、かゆみ、発赤、および腫れ ネバネバした白いカッテージチーズ状で、かたまりを伴うおりもの ときに性交後や月経前に症状が強くなる ときに最近の抗菌薬の使用または糖尿病の既往 |
分泌物のサンプルの顕微鏡検査および分析 |
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トリコモナス症(原虫感染症の一種) |
通常、黄緑色で泡状の生臭さを伴う大量のおりもの 性器周辺のかゆみ、発赤、腫れ、およびヒリヒリする痛み ときに性交時や排尿時の痛み |
分泌物のサンプルの顕微鏡検査および分析 |
次第に強くなる、うずくような骨盤痛で、片側または両側に起こる ときに悪臭を伴うおりもので、感染症が悪化するにつれ膿状で黄緑色になることがあることがある 異常な性器出血 ときに性交時または排尿時の痛み、発熱または悪寒、吐き気、または嘔吐 |
子宮頸部から採取した分泌物のサンプルを使用して行う、性感染症を検出する検査 ときに骨盤内超音波検査 |
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腟内の異物(しばしば取り忘れたタンポン) |
ひどい悪臭を伴う頻回かつ大量のおりもの しばしば陰部の発赤および排尿時の痛み、ときに性交時の痛み |
医師の診察 |
閉経後 |
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腟粘膜が薄くなる(萎縮性腟炎) |
少量のおりもの 性交時の痛み |
医師の診察 分泌物のサンプルの顕微鏡検査および分析 |
尿または便による刺激感 |
性器および肛門周辺全体の発赤 失禁や寝たきりなど、このような刺激感のリスクを上昇させる状態 |
医師の診察 |
子宮内膜がん(子宮の内側を覆っている組織のがん) |
水っぽい、または血の混じったおりもの 異常な性器出血 たいていは進行するまで無症状 徐々に現れ、ときに慢性化する痛み ときに体重減少 |
生検 超音波検査やときにMRIまたはCT検査などの画像検査 |
すべての年齢層 |
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化学物質による刺激(石けん、入浴剤、女性用衛生スプレー、または腟クリームや軟膏などによる) |
性器周辺の発赤、かゆみ、腫れ、およびヒリヒリする痛み |
医師の診察 |
以下により生じた可能性のある腸と性器の間の異常な開口部(瘻孔) |
悪臭を伴うおりもの 腟内または分泌物中に便が存在 |
医師の診察 CT検査 内視鏡検査(観察用の管状の機器を用いて体内の構造を調べる) |
以下による炎症 |
骨盤部を侵す病気の最近の治療 膿の混じったおりもの 排尿時や性交時の痛み ときに刺激感、かゆみ、発赤、灼熱痛、および軽い出血 |
医師の診察 通常は分泌物のサンプルの顕微鏡検査および分析 |
乾癬、硬化性苔癬(たいせん)、および癜風(でんぷう)(真菌感染症の一種)などの皮膚疾患 |
発疹、かゆみ、またはその他の症状(疾患による) |
医師の診察 |
*この欄には症状や診察の結果などが示されています。ここに示されている特徴は典型的なものですが、常に当てはまるわけではありません。 |
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CT = コンピュータ断層撮影、MRI = 磁気共鳴画像。 |
検査
治療
可能であれば原因を是正または治療します。例えば、細菌性腟症は抗菌薬により治療します。
一般的な対策により、感染症を根治させることはできませんが、症状を和らげることができます。
一般的な対策
性器周辺はできるだけ清潔にしておかなくてはなりません。毎日石けんを使わずに洗うか、石けんが必要であれば、刺激が少なくアレルギーを引き起こさない石けん(グリセリン石けんなど)で洗い、よくすすいで十分に乾かすようにします。下着の交換と入浴またはシャワーを1日1回行うと、症状の緩和に役立ちます。
アイスパックで性器周辺を冷やす、温坐浴(場合によっては重曹を使ってもよい)を行うなどの方法でヒリヒリする痛みとかゆみが軽減することもあります。坐浴の場合には、座った状態で性器と肛門の周辺だけを水につけます。坐浴には少しだけお湯を張った浴槽や大きなたらいが使用できます。ぬるま湯を勢いよく性器周辺にかけることで、症状を緩和できることもあります。
失禁または寝たきりが原因の場合は、衛生状態の改善が特に役立ちます。女児には、前から後ろにふく、排便や排尿の後は手を洗う、性器周辺を指でいじらないなど、良好な衛生状態について教えるべきです。
特定のクリーム、パウダー、石けん、コンドームなどによって必ず刺激感が生じる場合は、その使用を中止すべきです。女性用衛生スプレーや腟洗浄器の使用は控えることが勧められます。このような製品を使用しても、おりものが治まらず、かえって悪化することがあります。腟洗浄によって骨盤内炎症性疾患のリスクが高まることがあります。
薬剤
高齢女性での重要事項
閉経後には エストロゲンの濃度が著しく低下します。その結果、正常なおりものの量は通常は減少します。しかし、腟粘膜が薄くなり乾燥するため(萎縮性腟炎と呼ばれる)、腟はより刺激を受けやすく、しばしば異常なおりものが生じる原因となります。このようなおりものは、水っぽくサラサラしているか、ネバネバして黄色っぽい色をしています。萎縮性腟炎により性交時に痛みが生じることがあります。
粘膜が薄くなることで一部の腟感染症も発生しやすくなります。薄く、乾燥した組織は損傷しやすくなり、通常では無害な皮膚の細菌が皮下組織に侵入し、感染を引き起こします。通常このような感染症は重篤なものではありませんが、ときに不快感があります。
高齢女性は エストロゲンを減少させる治療を受けている可能性が高く、そのため腟に刺激感が生じやすくなります。このような治療には、両側卵巣の摘出、骨盤部の放射線療法、一部の化学療法薬などがあります。
失禁や寝たきりなど、良好な衛生状態を保つのが難しくなる問題も高齢女性ではより多くみられます。衛生状態が悪いと、尿や便の刺激により性器周辺に慢性的な炎症が生じることがあります。
細菌性腟症、真菌感染症、トリコモナス(Trichomonas)腟炎などの腟感染症は閉経後にはまれですが、これらの感染症の危険因子がある女性では発生する可能性があります。真菌感染症の危険因子には糖尿病や失禁があります。細菌性腟症とトリコモナス(Trichomonas)腟炎の危険因子としては、新しいセックスパートナーや複数のセックスパートナーの存在などがあります。
高齢女性が性的に活動的な場合、性感染症のリスクを減らすためにコンドームを使用すべきです。しかし、特に高齢女性ではコンドームは腟の組織に刺激を与えるため、潤滑剤の使用が不可欠です。ラテックス製コンドームには、水性の潤滑剤のみを使用すべきです。油性潤滑剤(ワセリンなど)はラテックスを弱くし、コンドームの破損につながります。
高齢女性でおりものがみられた場合は、速やかに医師の診察を受ける必要があり、とりわけおりものに血が混じっている場合や、おりものが茶色やピンク色(少量の出血を意味している可能性があります)をしている場合は特にそうすべきです。閉経後のおりものは前がん状態(子宮内膜の肥厚など)またはがんの警戒すべき徴候である可能性があり、無視してはいけません。
抗ヒスタミン薬でかゆみが和らぎます。多くの抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン、ヒドロキシジンおよびシプロヘプタジンを含む)は眠気を引き起こすため、高齢者の転倒リスクが上昇します。そのため、高齢女性が日中に抗ヒスタミン薬を服用する必要がある場合は、ロラタジン、セチリジン、フェキソフェナジンなどの眠気を引き起こしにくいものを使用すべきです。