羊水とは、子宮内の胎児の周囲を満たしている液体のことです。羊水と胎児は羊膜腔と呼ばれる膜の中に入っています。羊水の問題には、以下のものがあります。
妊娠期間に対して羊水の量が多すぎる
妊娠期間に対して羊水の量が少なすぎる
羊水過多や羊水過少などの妊娠合併症は、妊娠中だけに発生する問題です。母体に影響を及ぼすもの、胎児に影響を及ぼすもの、または母子ともに影響を及ぼすものがあり、妊娠中の様々な時期に発生する可能性があります。しかし、ほとんどの妊娠合併症は効果的に治療できます。
羊水量が多すぎる
羊水の量が多すぎる場合(羊水過多)は子宮が引き伸ばされ、妊婦の横隔膜を圧迫します。
以下のような原因により羊水が過剰にたまることがあります。
胎児の先天異常(特に 食道の閉塞 食道閉鎖と気管食道瘻 食道閉鎖は、食道が狭くなったり、行き止まりになったりする 先天異常です。食道閉鎖がある新生児の大半では、食道と気管の間に気管食道瘻(ろう)と呼ばれる異常な連絡路があります。 食道は、口と胃をつないでいる長いチューブのような臓器です。食道閉鎖では、食道が狭くなっているか、途中で閉じて2つの部分に分断されています(閉鎖)。この異常のために、食べたり飲んだりしたものを食道から胃に送るのが遅くなったり、送れなくなったります。... さらに読む や 尿路 腎臓の異常 腎臓(左右に2つあって血液から老廃物をろ過して尿を作っている臓器)に生じる先天異常がいくつかあります。そのような異常は、通常は医師による診察では明らかにならず、 尿路を評価する検査を行う必要があります。 ( 尿路の先天異常の概要も参照のこと。) 腎臓の先天異常には多くの種類があります。そのような異常の多くは以下の変化をもたらします。 尿が腎臓から出る流れを妨げたり遅くしたりする... さらに読む の閉塞に関するもの)
その他の胎児の病気(感染症や遺伝性疾患など)
しかし、ほぼ半数が原因不明です。
羊水量が多すぎる場合、以下のようないくつかの問題が生じる可能性があります。
胎向または胎位の異常 胎向と胎位の異常 胎向とは、胎児が後ろ(母親の背中の方)を向いているか、前を向いているか(顔が上向きか)という胎児の向きのことです。 胎位とは、胎児の体のうち最初に産道を通る部分(先進部)を表します。通常、頭が先進しますが、ときに殿部や肩が下になることもあります。 最も一般的で安全な胎向と胎位の組合せは次のような状態です。 頭が下になっている(頭位) 胎児が後ろを向いている さらに読む があり、ときに 帝王切開 帝王切開 帝王切開では、母親の腹部と子宮を切開して胎児を外科手術により取り出します。 米国では分娩の最大30%が帝王切開で行われています。 以下のような場合には帝王切開が母体や胎児、あるいはその両方にとって経腟分娩よりも安全であると考えられるため、帝王切開を行います。 遷延分娩(分娩の進行が長引く) 胎児の 姿勢が異常な場合(骨盤位など) さらに読む を必要とする。
妊婦に重度の呼吸障害が生じる。
子宮が引き伸ばされ、正常に収縮できなくなる(子宮弛緩症と呼ばれる病態)。
胎児が死亡する。
羊水量が少なすぎる
以下のような状況では、羊水が少なすぎる傾向があります。
妊婦に高血圧や 常位胎盤早期剥離 常位胎盤早期剥離 常位胎盤早期剥離とは、胎盤が子宮壁から早期に剥がれてしまうことで、通常は妊娠20週以降に起こります。 腹痛や圧痛、性器出血が起こることがあり、ショック状態を起こすこともあります。 胎盤が早い時期に剥がれると、在胎週数の割に成長しなかったり、死亡することさえあります。 医師は症状に基づいて常位胎盤早期剥離を診断し、ときに超音波検査を行って診断を確定します。 胎児や母体が危険な状態である場合、または妊娠が満期である場合には、できるだけ早く分... さらに読む (胎盤が早い時期に子宮から剥がれてしまうこと)などの疾患があるために胎盤と子宮が正常に機能していない(その結果、胎児の成長が在胎期間の割に遅い可能性がある)。
妊娠期間が42週以上続く(過期妊娠)。
胎児が死亡している。
多くの場合、原因は不明です。
第2から第3トリメスター【訳注:第2トリメスターは日本でいう妊娠中期に、第3トリメスターは妊娠後期にほぼ相当】にかけてアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(エナラプリルやカプトプリルなど)のような特定の薬剤を使用すると、羊水過少になることがあります。これらの薬剤は通常、妊娠中は避けますが、まれに、重度の心不全の治療に使用されます。非ステロイド系抗炎症薬(イブプロフェンなどのNSAID)も妊娠中に用いると羊水の量が減ることがあります。
羊水の量が少なすぎる場合(羊水過少)にも、以下のような問題が生じる可能性があります。
胎児が死亡する。
胎児の成長が在胎期間の割に遅い。
羊水の量が極端に少なくなると、胎児が圧迫され、四肢の変形、平らな鼻、下顎が小さくなり後退しているように見えるなどの問題が生じる。
胎児の肺が正常に発達しない。(この未熟な肺と奇形の組合せをポッター症候群といいます。)
胎児が分娩に耐えられず、帝王切開が必要になる。
羊水の問題の症状
通常、羊水が多すぎたり少なすぎることで、妊婦に症状を引き起こすことはありません。羊水に問題がある妊婦では、妊娠の初期ほどの胎動がないと感じることがあります。ときに、羊水量が大幅に過剰であると、妊婦に呼吸困難が生じたり、予定日の前に痛みを伴う収縮が起こったりします。
羊水過多や羊水過少の原因または一因となる病気が、症状を引き起こすことがあります。
羊水の問題の診断
医師による評価
超音波検査
原因を特定するための検査
妊娠期間の割に子宮が大きすぎたり小さすぎたりする場合や、在胎週数の割にあまり胎動がない場合には、羊水過多や羊水過少が疑われることがあります。
あるいは超音波検査で偶然、羊水の問題が見つかることがあります。問題が見つかると、超音波検査を用いて存在する羊水の量を確認することができます。
羊水が多すぎる、または少なすぎることが分かった場合、考えられる原因を調べます。例えば腟と子宮頸部を診察して、胎児を包む膜が早期に破れていないかどうか確認します。
血液検査を行って、羊水に影響を及ぼす病気(感染症や糖尿病など)がないかを調べることもあります。胎児の先天異常と遺伝子異常を確認するために超音波検査やその他の検査(場合により 羊水穿刺 羊水穿刺 出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む )を実施することもあります。
羊水の問題の治療
胎児の成長をモニタリングし、羊水量を計測する超音波検査
胎児の心拍数のモニタリング
基礎疾患の治療
ときに羊水の除去
分娩
胎児がどのくらい成長しているかをモニタリングし、羊水量を計測するために、定期的に超音波検査を行います。胎動があるときと胎動がないときの胎児の心拍数も定期的にモニタリングします。この検査は胎児の状態(well-being)を調べるために行うものです(ノンストレステスト 胎児モニタリング と呼ばれます)。
糖尿病、高血圧などの基礎疾患があれば治療します。
羊水が多すぎる場合、医師が余分な羊水を除去することはまれです。しかし以下の場合には、針を用いて妊婦の腹部から羊水を除去することもあります。
早期の分娩の開始
母体に重大な問題がある
羊水が多すぎる場合、一部の症例では医師はおよそ39週での分娩を計画します。
羊水の量が少なすぎる場合、ほとんどの専門家は胎児の状態に応じて36~37週の間での分娩を勧めることがあります。