ハイリスク妊娠の定義については、正式なものや普遍的に受け入れられたものはありません。しかし、以下に示す条件を1つでも満たす場合をハイリスク妊娠とするのが一般的です。
母親または胎児が病気になったり死亡したりする可能性が通常よりも高い。
分娩の前後に合併症が発生する可能性が通常よりも高い。
複雑なハイリスクの条件のある女性の多くでは、ハイリスク妊娠を専門とする医師によるケアを提供する専門のセンターで治療を受けることが有益です。
母体死亡
母体死亡とは、妊娠および分娩の合併症による母体の死亡です。
米国では2017年に、分娩10万件当たり19人の女性が死亡しています。米国では、妊娠に関連する死亡のほぼ半数を黒人女性が占めます。米国の母体死亡率は、以下のような他の欧米諸国よりも高くなっています。
ドイツ:分娩10万件当たり7人の死亡
オランダ:5人の死亡
ポーランド:3人の死亡
スペイン:4人の死亡
スウェーデン:4人の死亡
スイス:5人の死亡
英国:7人の死亡
とはいえ、多くの母体死亡は発展途上国で起こっています。3分の2以上はサハラ以南アフリカ(ナイジェリアを含む)で起こり、ほぼ5分の1は南アジア(インドを含む)で起こっています。
母体死亡率は世界中の人種や民族によって大きく異なります。米国では、白人女性と比べて黒人女性の母体死亡率は3倍以上高く、アメリカンインディアンとアラスカ先住民の女性では2.5倍高くなっています。ブラジルでは、アフリカ系の女性の母体死亡率は白人女性の約5倍です。英国では、白人女性に比べて黒人女性の方が何倍も高くなっています。
妊婦における死亡の最も一般的な原因は以下のものです。
中絶 中絶 人工妊娠中絶は、手術や薬剤などの医学的手段によって妊娠を人為的に終わらせることです。 手術で子宮の内容物を取り除くか、あるいは特定の薬剤を服用することで妊娠を終わらせます。 訓練を受けた医療従事者が医療機関内で中絶を行った場合、合併症の発生はまれです。 人工妊娠中絶を受けることで以後の妊娠中の胎児、妊婦のリスクが上昇することはありません。... さらに読む または 流産 流産 流産とは、妊娠20週までに人為的でない原因によって胎児が失われることです。 胎児側の問題(遺伝性疾患や先天異常など)によっても母体側の問題(生殖器の構造的異常、感染症、コカインの使用、飲酒、喫煙、けがなど)によっても流産が起こりますが、多くの場合、原因は不明です。 出血や筋けいれんが起こることがありますが、特に妊娠して週数が経過している場... さらに読む
女性の妊娠前からあった病気(肥満やHIV感染症を含む感染症など)
妊婦の死亡の一因となる問題には以下のものがあります。
妊婦に問題がある場合に、本人とその家族が医療機関の受診を遅らせる。
妊婦に医療施設への交通手段がない。
医療施設での治療が遅れる。
母体死亡の約5件に3件は防ぐことができるものです。
各国の母体死亡率の比較
このグラフは、各国の母体死亡率を比較したものです。 母体死亡とは、妊娠に関連する問題が原因で、妊娠中、分娩中、または分娩直後に死亡した女性の数です。 母体死亡率とは、出生(生存している胎児の分娩)10万件当たりのこのような死亡の数です。 2017年には、母体死亡率は出生10万件当たり2件(ポーランド)から1150件(南スーダン)までの幅がありました(これらの国は以下に示されていません)。米国の母体死亡率は他の多くの欧米諸国よりも高くなっています(出生10万件当たり19件)。 ![]() Data from the World Health Organization, United Nations Children’s Fund (UNICEF), United Nations Population Fund (UNFPA), The World Bank, and the United Nations Population Division.Trends in Estimates of Maternal Mortality: 2000–2017.Geneva, World Health Organization, 2019. |
周産期死亡
周産期死亡とは、分娩の前後の時期における胎児および新生児の死亡です。米国での周産期死亡率は分娩1000件当たり6~7件です。
胎児および新生児の死亡の最も一般的な原因は以下のものです。
高血圧 高血圧 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなった状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む
、 糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に産生しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 神経を損傷し、知覚に問題が生じます。 血管を損傷し、心臓発作、脳卒中、慢性腎臓病、視力障害のリスクが高まります。... さらに読む 、 肥満 肥満 肥満とは、体重が過剰な状態です。 複数の要因が組み合わさって肥満に影響を及ぼします。複数の要因が組み合わさった結果、体に必要な量よりも多くの カロリーを摂取することになります。 そうした要因には、運動不足、食事、遺伝子、生活習慣、民族的背景、社会経済的背景、ある種の化学物質への曝露、特定の病気、特定の薬の使用などがあります。... さらに読む
、または 自己免疫疾患 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がし... さらに読む などの母親の病気
感染症
胎盤の異常(胎盤が早い時期に剥がれてしまう 常位胎盤早期剥離 常位胎盤早期剥離 常位胎盤早期剥離とは、子宮壁の正常な位置に付着している胎盤が、通常は妊娠20週以降に剥がれてしまうことです。 性器出血や激しい腹痛が起こり、ショック状態を起こすことがあります。 胎盤が早い時期に剥がれると、在胎週数の割に成長しなかったり、死亡することさえあります。 医師は症状に基づいて常位胎盤早期剥離を診断し、ときに超音波検査を行って診断... さらに読む や胎盤の位置の異常[ 前置胎盤 前置胎盤 前置胎盤とは、胎盤が子宮上部ではなく子宮下部で子宮頸部の開口部を覆うよう付着することです。 妊娠の後期に、痛みを伴わない、ときに大量の出血が生じることがあります。 通常は超音波検査で診断を確定できます。 床上安静だけでよい場合もありますが、出血が続く場合や、胎児や妊婦に問題が生じた場合には、帝王切開が行われます。... さらに読む
]など)
胎児の遺伝子異常
妊娠中のリスク評価
特定の状態や特徴(危険因子 ハイリスク妊娠の危険因子 危険因子には妊娠前から存在するものがあり、そのような危険因子には以下のものがあります。 女性の特定の 身体的特徴(年齢など)および 社会的特徴 過去の妊娠時の問題 妊娠前から存在する特定の病気 胎児に害のある物質への 曝露 さらに読む )により、ハイリスク妊娠になります。通常の 妊娠中のケア 妊娠中の医療 子どもをもつことを考えているカップルは、妊娠前に医師や医療従事者に相談して、妊娠が望ましいかについて話し合うことができていれば理想的です。通常、妊娠は非常に安全なものです。しかし、妊娠中に重症化する病気もあります。また、遺伝性疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いカップルもいます。... さらに読む の一環として医師はこうした危険因子を確認し、母親と胎児のリスクの程度を判定してよりよい医療の提供に努めます。 遺伝学的評価 遺伝子スクリーニング 遺伝子スクリーニングは、遺伝する遺伝性疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いかどうかを判断するために行う検査です。遺伝する遺伝性疾患とは、次の世代へ受け継がれる 染色体または遺伝子の病気です。 スクリーニングではカップルの家族歴を評価し、必要に応じて血液や組織のサンプル(頬の内側から採取した細胞など)を分析します。... さらに読む は特に重要です。遺伝学的評価では、カップルの家族歴を評価し、必要があれば血液や組織のサンプル(頬の内側の細胞など)を分析します。この評価は、カップルに遺伝する遺伝性疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いかどうかを判断するために行います。
母体のリスクに影響しうる要因には以下のものがあります。
妊娠前から存在する病気 妊娠前から存在する病気 危険因子には妊娠前から存在するものがあり、そのような危険因子には以下のものがあります。 女性の特定の 身体的特徴(年齢など)および 社会的特徴 過去の妊娠時の問題 妊娠前から存在する特定の病気 胎児に害のある物質への 曝露 さらに読む
(慢性高血圧 妊娠中の高血圧 妊娠中の 高血圧は以下のいずれかに分類されます。 慢性高血圧:妊娠前から血圧が高かった場合です。 妊娠高血圧:妊娠20週以降に初めて血圧が高くなった場合です(通常37週以降)。このタイプの高血圧は一般的に、分娩後6週間以内に解消します。 妊娠高血圧腎症は妊娠中に発症する高血圧の一種で、タンパク尿を伴います。妊娠高血圧腎症は、他の高血圧とは... さらに読む 、 糖尿病 妊娠中の糖尿病 妊娠前から糖尿病にかかっている女性の場合、糖尿病にかかっている期間や、高血圧や腎障害などの糖尿病の合併症がみられるかどうかによって、妊娠中に合併症を起こすリスクは異なります。妊娠は糖尿病(1型および2型)を悪化させる傾向がありますが、糖尿病の合併症(眼、腎臓、神経の障害)を誘発したり悪化させたりすることはありません。... さらに読む 、 性感染症 妊娠中の感染症 、 腎臓の感染症 妊娠中の尿路感染症 尿路感染症は妊娠中によく起こります。これは、大きくなった子宮と妊娠中に分泌されるホルモンの影響から、腎臓と膀胱を結ぶ管(尿管)を通る尿の流れが遅くなるためと考えられています。尿の流れが遅くなると尿管から細菌が洗い流されにくくなり、感染症のリスクが高くなります。 尿路感染症によって以下のリスクが上昇します。... さらに読む など)
妊娠中に発症する病気 妊娠中に発生する病気 危険因子には妊娠前から存在するものがあり、そのような危険因子には以下のものがあります。 女性の特定の 身体的特徴(年齢など)および 社会的特徴 過去の妊娠時の問題 妊娠前から存在する特定の病気 胎児に害のある物質への 曝露 さらに読む
(妊娠糖尿病 妊娠糖尿病 妊娠前から糖尿病にかかっている女性の場合、糖尿病にかかっている期間や、高血圧や腎障害などの糖尿病の合併症がみられるかどうかによって、妊娠中に合併症を起こすリスクは異なります。妊娠は糖尿病(1型および2型)を悪化させる傾向がありますが、糖尿病の合併症(眼、腎臓、神経の障害)を誘発したり悪化させたりすることはありません。... さらに読む や 妊娠高血圧腎症 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は、妊娠20週以降に新たに発症する高血圧または既存の高血圧の悪化で、過剰な尿タンパク質を伴うものです。子癇(しかん)は妊娠高血圧腎症の女性に起こるけいれん発作で、ほかに原因がないものをいいます。 妊娠高血圧腎症によって胎盤剥離や早産が起こりやすくなり、出生直後の新生児に問題が生じるリスクが高まります。... さらに読む など)
ハイリスク妊娠には綿密なモニタリングが必要であり、ときにハイリスク妊娠の管理を専門とするセンターに妊婦を紹介します。
分娩前の紹介の最も多い理由には以下のものがあります。
切迫早産 切迫早産 妊娠37週以前に起こる陣痛は切迫早産とみなされます。 早産児として生まれた新生児には、深刻な健康上の問題が生じる可能性があります。 切迫早産の診断は通常明らかです。 安静にしたり、ときには薬剤を用いて、分娩を遅らせます。 抗菌薬やコルチコステロイドも必要な場合があります。 さらに読む (しばしば 前期破水 前期破水 前期破水とは、陣痛開始前のいずれかの時点で胎児の周りの羊水が流れ出ることです。 多くの場合、破水後まもなく陣痛が始まります。 破水して6~12時間以内に陣痛が始まらない場合には、妊婦と胎児の感染リスクが上昇します。 破水後まもなく陣痛が開始しない場合や妊娠34週以降の場合、または胎児の肺が成熟している場合には通常、人工的に陣痛を開始させま... さらに読む による)
糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に産生しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 神経を損傷し、知覚に問題が生じます。 血管を損傷し、心臓発作、脳卒中、慢性腎臓病、視力障害のリスクが高まります。... さらに読む 、 高血圧 高血圧 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなった状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む
および重度の 肥満 肥満 肥満とは、体重が過剰な状態です。 複数の要因が組み合わさって肥満に影響を及ぼします。複数の要因が組み合わさった結果、体に必要な量よりも多くの カロリーを摂取することになります。 そうした要因には、運動不足、食事、遺伝子、生活習慣、民族的背景、社会経済的背景、ある種の化学物質への曝露、特定の病気、特定の薬の使用などがあります。... さらに読む
(病的肥満)などの妊娠前から存在していた、または妊娠中に発生した病態