(口とのどの病気に関する序も参照のこと。)
口の中には、以下の3対の大唾液腺があります。
これらの大唾液腺のほかに、多数の小唾液腺が口のいたるところに分布しています。すべての唾液腺は唾液を分泌し、この唾液は消化過程の一端を担い、食物の分解を助けています。
以下のような数種類の病気が唾液腺に発生します。
唾液腺の機能異常
唾液腺の機能異常は成人でよくみられ、通常は唾液の分泌が極めて少なくなります。唾液量が不足したり、ほとんどなくなったりすると、口の中が乾燥していると感じるようになります。この状態を口腔乾燥症といいます。
以下のような特定の状態によって、唾液分泌量が減少することがあります。
-
病気、例えばシェーグレン症候群、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど
-
感染症、例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症など
-
薬、例えば特定の抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、抗パーキンソン病薬、鎮静薬、 メチルドパ、利尿薬、違法薬物のメタンフェタミンなど
-
がんを治療するための化学療法薬もしくは頭頸部の放射線照射、または甲状腺がんを治療するための放射性ヨード
放射線照射を原因とする口腔乾燥は、通常は永続的なものです(特に照射線量が多い場合)。がんの化学療法を原因とする口腔乾燥は、通常は一時的なものです。
しかし、口腔乾燥の原因がすべて唾液腺の機能異常というわけではありません。例えば、以下のことによって口腔乾燥が起こることもあります。
また年齢を重ねればある程度口が乾燥しますが、これは老化の過程そのものというよりも、加齢に伴い口腔の乾燥を引き起こす薬を服用することが多くなるためと考えられます。
唾液にはう蝕を防ぐ働きが備わっているため、唾液量が不足すると、う蝕が(特に歯根部に)できやすくなります。口腔乾燥が激しい場合は、話したりものを飲み込んだりすることが困難になることもあります。
まれに、唾液腺から唾液が過剰分泌されることがあります。唾液の増加は通常は非常に短時間のもので、特定の食べもの(酸っぱいものなど)を食べたことに反応して起こります。ときにはそうしたものを食べることを考えただけで、唾液の分泌量が増えることがあります。
唾液腺の結石(唾石)
唾液中に含まれる塩が固まって結石ができることがあります。結石は、特に脱水状態のときや唾液の分泌量を減らす薬を飲んだときにできる可能性が高まります。痛風の患者でも結石ができる可能性が高まります。唾石は成人で最も多くみられます。約25%の患者では複数の唾石があります。
唾液腺から口の中に唾液を送り出す管(唾液腺管)を唾石がふさぐと問題が生じます。管が閉塞すると、唾液が管の中を逆流し、唾液腺が腫れて痛みを伴います。詰まった管と唾液がたまった唾液腺に、細菌が感染することがあります。
唾液腺管の閉塞の典型的な症状は、詰まった唾液腺の腫れと痛みです。唾液腺管が閉塞していると唾液の行き場がなくなり唾液腺が腫れるため、痛みと腫れは食後に悪化し、特に唾液の分泌を刺激するもの(漬け物やレモン果汁など)を食べた場合に悪化します。腫れは数時間後に引くことがあり、唾液腺管から唾液が噴出することがあります。唾石があっても症状がまったく生じないこともあります。
唾液腺の感染症
唾液腺の感染症の大半は、唾液の流れをふさぐもの(結石など)があるか、唾液の分泌量が非常に少ない人に起こります。感染症は耳下腺で最も起こりやすく、典型的には以下の人にみられます。
-
年齢が50代および60代
-
慢性の病気と口腔乾燥がある
-
シェーグレン症候群の患者
-
口の領域に放射線療法を受けたか、甲状腺がんのために放射性ヨード療法を受けた患者
食欲不振の青年および若い成人も、この感染症にかかりやすくなっています。感染微生物は通常、黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusです。
ときに膿の蓄積(膿瘍)が唾液腺にでき、少量の膿が唾液腺管から出てきます。感染した唾液腺は腫れて非常に痛み、しばしば唾液腺の上の皮膚が赤くなり、触れると痛みます。
唾液腺の腫れ
ムンプス(おたふくかぜ、流行性耳下腺炎)、ある種の細菌感染症(例えば扁桃や歯の感染症)、一般的には成人で多いその他の病気(エイズ、シェーグレン症候群、糖尿病、サルコイドーシス、過食症など)によって、しばしば大唾液腺が腫れます。
唾液腺にできた悪性や良性の腫瘍によって腫れが起こることもあります。腫瘍による腫れは、多くの場合、感染による腫れよりも硬くなります。腫瘍が悪性の場合は、唾液腺は石のように硬くなって周囲の組織に強く癒着します({blank} 口とのどのがんを参照してください)。良性腫瘍の大半は可動性があります。
下唇のけが(例えば、うっかり下唇を噛んだことによる)によってその部位の小唾液腺が傷つくことがあり、唾液の流れが止まることがあります。その結果、傷ついた唾液腺が腫れて青みがかった小さな軟らかいしこり(粘液嚢胞)ができることがあります。このしこりは通常、数週間から数カ月以内に自然に消失します。
診断
唾液の分泌量を測定する優れた検査はありません。しかし、唾液腺は乳しぼりのように搾ることができ、唾液腺管からの唾液の流れ具合を観察することができます。
唾液腺管の閉塞による腫れは、食事時間と痛みの関係から診断されます。その他の腫れの原因を診断するには、歯科医などの医師が唾液腺組織のサンプルを採取し、顕微鏡で調べる検査(生検)を行うことがあります。唾液腺管の中に挿入できる非常に細い観察用の管(内視鏡)を用いる新しい手法によって、閉塞のその他の原因が特定されることもあります。
医師が身体診察で診断を下せない場合は、CT検査、超音波検査、唾液腺造影検査など特定の画像検査を行うことがあります。唾液腺造影検査はX線検査の一種で、X線画像に写る物質(造影剤)を唾液腺と唾液腺管に注射した後に撮影を行います。
治療
口腔乾燥に対して、患者は以下のことを行うべきです。
一部の歯科医は、患者にフッ素ゲルで満たされた合成樹脂製の歯のカバーを夜間につけさせることがあります。ときに、セビメリンやピロカルピンといった唾液の分泌量を増やす薬が症状の緩和に役立ちます。そうした薬は、唾液腺が放射線照射によって傷ついている場合は役に立たないことがあります。
唾石に対して、患者は痛み止め(鎮痛薬)の服用、水分を多めにとること、唾液腺のマッサージ、温かいものをあてる、レモン果汁や切ったレモンや酸っぱいキャンディで唾液の分泌を誘発するなどの方法を利用するほか、いくつかの方法を組み合わせてもよいでしょう。唾石が自然に出てこない場合は、歯科医が唾液線管の両側を圧して唾石を押し出す場合があります。これが成功しない場合は、細いワイヤー状の器具を使って唾石を引き出すことがあります。最後の手段としては、手術や内視鏡で摘出することができます。
唾液腺の感染症に対しては、医師は抗菌薬を投与し、患者に唾液腺をマッサージし温かいものをあてるよう指導します。唾液腺の膿瘍は、切って開き排膿する必要があります。
唾液腺の腫れの治療は、原因によって異なります。自然に消えない粘液嚢胞は、煩わしくなった場合には、手術で取り除くことができます。同様に、良性でも悪性でも唾液腺腫瘍は通常は手術で摘出できます。