加齢に伴って、味覚が低下します。高齢者は食べものの味が鈍く感じることがあり、そのためより強い味を求めて、大量の調味料(特に塩、これは一部の人には害になります)を加えたり、非常に熱い食べものを欲して歯ぐきに熱傷(やけど)が生じたりすることもあります。
高齢者は、味を感じる能力に影響を及ぼす病気にかかっていたりそのような薬を使用したりしていることもあります。例として次のような病気があります。
口、鼻、または副鼻腔の感染症
慢性肝疾患 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。 医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。 さらに読む または 慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病では、血液をろ過して老廃物を除去する腎臓の能力が、数カ月から数年かけて徐々に低下します。 主な原因は糖尿病と高血圧です。 血液の酸性度が高くなり、貧血が起き、神経が傷つき、骨の組織が劣化し、動脈硬化のリスクが高くなります。 症状としては、夜間の排尿、疲労、吐き気、かゆみ、筋肉のひきつりやけいれん、食欲不振、錯乱、呼吸困難、体のむくみ(主に脚)などがあります。 診断は、血液検査と尿検査の結果により下されます。 さらに読む
味覚に影響を与える薬としては、高血圧の治療薬(カプトプリルなど)、コレステロール高値の治療薬(スタチン系薬剤など)、うつ病の治療薬などが挙げられます。
エナメル質は加齢に伴ってすり減る傾向があり、歯に損傷やう蝕が起こりやすくなります。歯の喪失は、ものをよく噛めず、そのため栄養素の摂取が不足する可能性が生じる最大の原因です。高齢者が歯を失うと、その歯を固定していた部分のあごの骨が徐々に萎縮していき、以前の高さを維持できなくなります。
唾液の分泌量が加齢に伴ってある程度減少し、一部の薬を使用すればさらに減少します。こうした唾液の減少は 口腔乾燥 口腔乾燥 口腔乾燥は、唾液の分泌が減少または停止することで発生します。この状態は、不快感を引き起こし、発話や飲み込みを妨げ、入れ歯の装着を難しくし、 口臭を引き起こし、また口内の酸性度を低下させ細菌の増殖が多くなることで口の衛生状態を悪化させます(これが う蝕発生の一因となります)。長期にわたる口腔乾燥の結果、重度のう蝕や口の カンジダ症が生じることがあります。口腔乾燥は高齢者によくみられる症状です。... さらに読む を引き起こします(口腔乾燥症)。歯ぐきが薄くなり退縮し始めることがあります。口腔乾燥症と歯ぐきの退縮によって、う蝕の可能性が高まります。口腔乾燥症によって、食道の粘膜もより傷つきやすくなると考える専門家もいます。
口腔乾燥症と歯ぐきの退縮があるにもかかわらず、多くの高齢者では自分の歯が残っており、特にう蝕にも歯周病にもなっていない人では歯が残っています。一部または全部の歯を失ってしまった高齢者では、部分入れ歯や総 入れ歯 歯科補綴物 う蝕や 歯周病などの 疾患、 外傷、または処置が成功しなかったときの抜歯などいくつかの原因によって、歯が失われることがあります。歯が失われると、美容上の問題や発話の問題、歯並びの問題、上下のあごの配置の問題が起こることがあります。また、近くに残っている歯が移動する場合もあります。 失った歯は、数種類の歯科補綴物(ほてつぶつ)で補うことができます。歯科補綴物には、ブリッジ、クラウン、インプラント、義歯(入れ歯)などがあります。... さらに読む 、またはインプラントが必要になる可能性が高くなります。
成人において、歯が失われる最大の原因は 歯周病 歯周炎 歯周炎は、重症の 歯肉炎で、歯ぐきの炎症が歯を支える構造にまで広がる病気です。 歯垢と 歯石が歯と歯ぐきの間にたまり、さらに歯の下にある骨へと広がります。 歯ぐきが腫れて出血し、口臭が生じ、歯がぐらつくようになります。 X線検査を行い、歯ぐきにできた歯周ポケットの深さを測定し、歯周炎の重症度を調べます。 専門的な口腔清掃を繰り返し行うことと、ときに歯科手術と抗菌薬が必要です。 さらに読む です。歯周病は、長期にわたる細菌の蓄積によって歯ぐきとそれを支える構造が破壊される病気です。歯周病になりやすいのは、口内の衛生状態が悪い人、喫煙者、糖尿病や栄養不良、白血病、エイズなどの病気がある人です。まれではありますが、細菌による歯の感染症によって 脳の膿瘍 脳膿瘍 脳膿瘍とは、脳の中に膿がたまった状態のことです。 脳膿瘍は、脳以外の頭部もしくは血流に生じた感染から、または傷を介して、細菌が脳に侵入することで形成されます。 頭痛、眠気、吐き気、体の片側の筋力低下、けいれん発作が起こることがあります。 頭部の画像検査を行う必要があります。 抗菌薬を投与し、通常は針で膿瘍をドレナージするか、手術で切除します。 さらに読む (内部に膿がたまった空洞)、 海綿静脈洞血栓症 海綿静脈洞血栓症 海綿静脈洞血栓症は、血液のかたまり(血栓)で海綿静脈洞(頭蓋骨底部にある太い静脈)が閉塞されてしまう非常にまれな病気です。 海綿静脈洞血栓症は通常、顔と眼窩(鼻の皮膚を含む)、眼窩、または副鼻腔の感染症から細菌が広がることにより起こります。 症状には、頭痛、顔面の痛み、視覚障害、突然現れる眼球の突出、高熱などがあります。 診断は、症状とMRI(磁気共鳴画像)検査またはCT(コンピュータ断層撮影)検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む 、原因不明の発熱、また心臓に特定の重度の異常がある人では 心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む
が生じることもあります。
(口の生物学 口の生物学 口は消化器系と呼吸器系の入り口です。口の内側は粘膜で覆われています。健康な人の粘膜(口腔粘膜)は赤味がかったピンク色をしています。歯ぐき(歯肉)は薄いピンク色で、歯の周囲をぴったりと取り巻いています。 口の天井にあたる口蓋(こうがい)は2つの部分に分かれます。前方部分は隆起があり、硬くなっています(硬口蓋)。後方部分は比較的滑らかで軟らか... さらに読む と 歯の生物学 歯の生物学 歯は、歯肉縁より上部の歯冠と、歯肉縁よりも下部の歯根に分かれます。 歯冠は、歯を保護している白いエナメル質で覆われています。エナメル質は体の中で最も硬い物質ですが、損傷した場合には自己修復能力がほとんどありません。 エナメル質の下には、骨よりも硬い骨に似た象牙質があります。象牙質は中心部の歯髄腔を取り囲んでおり、歯髄腔の中には血管、神経、結合組織があります。象牙質は接触や温度変化に敏感です。... さらに読む も参照のこと。)