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黒色腫は、正常な皮膚から発生する場合もあれば、すでにあったほくろから発生する場合があります。
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皮膚に様々な色の斑点を伴う平坦または隆起した褐色の不規則な皮疹、あるいは黒または灰色の硬い隆起が現れます。
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黒色腫の診断を下すには、生検を行います。
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黒色腫を切除します。
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腫瘍が広がっている場合は、化学療法薬と放射線療法を用いますが、根治を得るのは困難です。
(皮膚がんの概要も参照のこと。)
メラノサイトは、皮膚にあり、色素を作り出して皮膚に特有の色をもたらす細胞です。日光がメラノサイトを刺激すると、メラニンという皮膚の色を濃くする色素がたくさん作られ、黒色腫の発生リスクが高まります。
米国では毎年76,000人を超える人が黒色腫の診断を受け、約10,000人が死亡しています。米国では、黒色腫が全皮膚がんに占める割合は5%未満ですが、皮膚がんによる死亡のほとんどの原因になっています。米国では1時間に1人が黒色腫により死亡しています。
黒色腫は通常は正常な皮膚に発生し、たいていの場合は日光のあたる部分に、色素沈着を伴う新しい小さな増殖性病変として始まります。黒色腫の約3分の1は、元からあったほくろに発生します。黒色腫は、眼の周囲や内部、口の中、陰部や肛門部、脳の内部、および爪床に発生することもあります。
黒色腫は離れた部位に転移しやすく、転移した先でも増殖を続けて組織を破壊します。
黒色腫の最も一般的なタイプは次の2種類です。
危険因子
黒色腫の危険因としては以下のものがあります。
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日光曝露(主に水疱が生じる日焼けの繰り返し)
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紫外線A波(UVA)による日焼けの繰り返し、またはソラレンという薬剤と紫外線A波を併用する治療(PUVA)の反復
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皮膚がん(別の黒色腫または他の種類の皮膚がん)
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家族に黒色腫の人がいる
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色の薄い皮膚、そばかす
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多数の異型母斑(特に5個を超える場合)または色素性母斑(家族歴にもよるが特に20個を超える場合)
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免疫系の機能低下
黒色腫を発症した人では、新たな黒色腫が発生するリスクが高くなります。
黒色腫は皮膚の色が濃いほど少なくなります。皮膚の色が濃い人に黒色腫ができる場合は、しばしば爪床や手のひら、足の裏に発生します。
小児期に黒色腫を発症することは非常にまれです。
黒色腫は妊娠中にも発生しますが、妊娠によってほくろが黒色腫になる可能性が高まるわけではありません。妊娠中にはしばしばほくろの大きさが変わったり、色が濃くなったりします。妊娠している女性は黒色腫のABCDEについて知り、自分のほくろに悪性の変化がみられないか確認する必要があります。
症状
診断
新しくほくろができた、またはすでにあるほくろが大きくなる(特に縁が不規則な形になる)、色が濃くなる、炎症を起こす、点状に変色した、出血している、かゆみ、圧痛、痛みがある、などの変化をみせた場合は、悪性黒色腫について警戒すべき徴候であり、黒色腫のABCDEも同様です。このような所見がみられる場合、医師は黒色腫を疑って生検を行います。
生検では、病変が小さければ全体を切除しますが、大きければ一部のみを切除します。そのサンプルを顕微鏡で調べて黒色腫かどうかを判断し、もし黒色腫であった場合、がんが完全に切除されたかどうかを確認します。生検で増殖性変化が黒色腫であり、それが完全に切除されていないことが示された場合は、その後に完全に切除します。
生検用に切除される色の濃い増殖性変化のほとんどは、黒色腫ではなくただのほくろです。にもかかわらず、がんを1つ大きくさせるよりは、無害なほくろを多数切除する方が選ばれます。一部には、単なるほくろでも黒色腫でもなく、その中間のようなものもあります。それらは異型母斑と呼ばれ、後に黒色腫に変化するものもあります。異型母斑と黒色腫を見分けるのに有用な道具はほかにもあり、具体的には、病変をより詳細に評価できる偏光フィルターやダーモスコープなどがあります。
予後(経過の見通し)
黒色腫は素早く転移し、診断から数カ月以内に死に至ることもあります。黒色腫の皮膚内での増殖の程度が少ないほど、手術で根治できる可能性が高くなります。初期段階の、最も浅い黒色腫であれば、手術でほぼ100%が治ります。しかし、皮膚の中に約1ミリメートルを超えて浸潤している黒色腫の場合、リンパ管や血管へ転移する可能性が高くなります。
黒色腫がリンパ節に転移した場合の5年生存率には、潰瘍化の程度と転移が起きたリンパ節の数に応じて25~70%の幅がみられます。
黒色腫が遠隔転移した場合の5年生存率は約10%です。余命が9カ月より短い場合もあります。しかし、病気の経過は非常に多様であり、免疫系の防御能力によっても変わってきます。黒色腫が転移しても、見かけ上健康な状態で数年生存する人もいます。
予防
黒色腫は日光に長期間さらされることで引き起こされる場合が多いため、幼児期から以下の予防策を講じることが、このがんの予防に役立ちます。
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日光を避ける:例えば、屋外では日陰に入る、午前10時から午後4時まで(日光が最も強くなる時間帯)の屋外活動を減らす、日光浴や日焼けマシーンの利用を控える(特に青年と若い成人)
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保護効果の高い衣類を着用する:例えば長袖のシャツ、ズボン、つばの広い帽子
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日焼け止めを使用する:紫外線防御指数(SPF)30以上で紫外線A波とB波に対する防御効果のあるものを指示通りに使用し、2時間毎に、また泳いだ後と汗をかいた後にも塗り直す(ただし、日光を浴びる時間を増やすことを目的に日焼け止めを使用してはならない)
しかし、このような対策をとることで黒色腫の発生リスクや死亡リスクを減らせるかどうかについて確実にいえるほどの十分な証拠は現在ありません。しかし、これらの対策をとれば確かに他のある種の皮膚がん(基底細胞がんや有棘細胞がん)の発生リスクは低下します。
黒色腫を発症した人は、さらに別の黒色腫が発生するリスクが高くなります。そのため、そのような人は皮膚の診察を定期的に受ける必要があります。ほくろが多い人も、全身の皮膚の診察を年1回以上の頻度で受けるようにします。元からあるほくろの変化を発見し、黒色腫を示唆する特徴を見つけることのできるように本人を指導することもあります。危険因子がない人については、毎年行う皮膚の診察で黒色腫による死者数を減らせるかどうかは分かっていません。
治療
黒色腫の手術では、腫瘍とその周囲の皮膚組織を腫瘍の縁から1センチメートル程度余分に切除します(ときにモース顕微鏡手術を行うこともあります)。
黒色腫最も浅い層にとどまっている場合(表皮を越える浸潤がない場合のことで、表皮内黒色腫と呼ばれます)や、手術ができない場合(健康状態が非常に悪い場合など)、または患者が手術を受けないことを選んだ場合(黒色腫が美容上重要な部分にある場合など)は、イミキモドクリームによる治療や極端な低温で黒色腫を破壊する治療(凍結手術)が用いられます。
転移した黒色腫
黒色腫が離れた部位に転移している場合は、一般に手術は選択肢から外れますが、ときに、がんが限局している領域(例えば、転移がみられるリンパ節)を外科的に切除することもあります。
転移した黒色腫の治療には化学療法が用いられますが、治癒が得られないこともあります。
新しい免疫療法薬であるペムブロリズマブやニボルマブを使用すると、がん細胞を破壊する免疫系の能力を高めることができます。このような薬剤は、プログラム細胞死タンパク質1と呼ばれる、がん細胞の表面にあるタンパク質の作用を阻害することから、PD-1阻害薬と呼ばれます。このタンパク質はがん細胞を免疫系の作用から保護しています。PD-1阻害薬によってこのタンパク質が阻害されると、免疫系はがん細胞を攻撃し、殺すことができるようになります。PD-1阻害薬は転移性黒色腫に対する非常に有効な治療法となりつつあります。イピリムマブは別の免疫療法薬であり、ある種の白血球を活性化し、がん細胞を攻撃させて、生存を改善します。
転移を起こした黒色腫患者の生存率を改善できる新世代の他の薬剤として、ダブラフェニブとベムラフェニブがあります。これらの薬剤はしばしば旧世代の化学療法薬よりも正確に実際のがん細胞を標的とすることができます。その仕組みは、がん細胞だけに生じる異常な遺伝子を見つけることによるものです(分子標的療法と呼ばれます)。
放射線療法はがんが脳に転移した人に使用することができます。
他の治療法の研究も行われており、例えば体を刺激して黒色腫細胞を攻撃させる他の薬剤やワクチンなどがあります。