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ボツリヌス症

執筆者:

Larry M. Bush

, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University

最終査読/改訂年月 2018年 7月
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ボツリヌス症は、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)という細菌が作り出す毒素による中毒で、まれな病気ですが発生すると生命を脅かします。

  • ボツリヌス毒素は通常、食べものと一緒に体内に侵入し、筋力の低下や麻痺を引き起こします。

  • 最初に、口腔乾燥、複視、眼の焦点が合わないなどの症状が現れます。あるいは、下痢、嘔吐、腹部けいれんといった消化管症状が最初に生じることもあります。

  • 血液、便、傷口の組織のサンプルを検査するほか、筋電図検査を行うこともあります。

  • 菌が混入した食べものを摂取することで発生するボツリヌス症は、食べものを注意深く調理して保存することで予防できます。

  • ボツリヌス症になったかもしれないと思う人は、直ちに医療機関を受診する必要があります。

  • 毒素の作用を阻止したり遅らせたりするために、抗毒素が投与されます。

ボツリヌス菌 Clostridium botulinumは、生存に酸素を必要としない嫌気性の細菌です。

ボツリヌス症の原因毒素は知られている限りで最も強力な毒であり、末梢神経の機能を重度に損ないます。ボツリヌス毒素は、アセチルコリンと呼ばれる化学伝達物質(神経伝達物質)が神経から放出されるのを妨げることにより、筋肉を麻痺させます。アセチルコリンは(神経筋接合部における)筋肉の受容体と相互作用し、筋肉を刺激して収縮させます。

あるボツリヌス毒素は、(筋肉の活動を減弱する作用により)筋肉のけいれんを緩和したり、しわを減らしたりするためにごく少量で用いられることがあります。

知っていますか?

  • ボツリヌス症の原因毒素は、知られている限りで最も強力な毒です。

  • あるボツリヌス毒素は、筋肉のけいれんを緩和したり、しわを減らしたりするためにごく少量で用いられることがあります。

  • 違法薬物の注射は、ボツリヌス症のリスクを高めます。

原因

ボツリヌス菌 Clostridium botulinumは、芽胞と呼ばれる生殖細胞を作る細菌です。芽胞は、種子と同様に何年間も休眠していることができ、破壊に対して非常に強い抵抗力をもっています。芽胞は腸内や密閉容器の中など、水分と栄養素があって酸素がない環境におかれると、増殖して毒素を作り始めます。ボツリヌス菌 Clostridium botulinumが作る毒素の中には、胃酸または腸内の体を守る酵素で破壊されないものもあります。

ボツリヌス菌 Clostridium botulinumは環境内によくみられる細菌で、芽胞は空気で運ばれます。芽胞を含む少量の土やほこりを胃や肺に吸い込んで、ボツリヌス症を発症した症例が多くあります。芽胞は、皮膚の傷や眼から体内に入ることもあります。しかし、ほとんどの症例は、毒素を含有する食品を食べることによって起こっています。

ボツリヌス症には、原因の異なる様々な病型があります。特に多くみられる病型は以下のものです。

食餌性ボツリヌス症

食餌性(しょくじせい)ボツリヌス症は、ボツリヌス菌 Clostridium botulinumによって作られるボツリヌス毒素が混入した食べものを摂取した際に発生します。保存前の加熱調理が不十分な食品には、ボツリヌス菌が混入している可能性があります。

食餌性ボツリヌス症で特に多い原因は以下のものです。

  • 家庭でびん詰めにした食品、特にアスパラガス、豆類、ビート、トウモロコシなど、酸の含有量が少ないものを保存したもの

これ以外に、刻みニンニクのオイル漬け、トウガラシ、缶詰のトマト、長時間室温に置かれていたジャガイモのホイル焼きや、家庭でびん詰めにしたり発酵させたりした魚なども原因になります。しかし、ボツリヌス症の約10%は市販の調理済み食品の摂取によって発生していて、特に多いのが野菜、魚、果物、香辛料(サルサソースなど)などの食品です。まれに、牛肉、乳製品、豚肉、鶏肉、またはその他の特定の食品も、ボツリヌス症の原因になることがあります。

ボツリヌス菌 Clostridium botulinumは、通常の冷蔵庫の温度でも多少の毒素を作ることがあるため、冷蔵庫に入れてある食べものが必ず安全とは限りません。

ボツリヌス毒素は小腸から血液に入り、神経へと運ばれます。この毒素は神経から筋肉への信号伝達を阻害します。

創傷性ボツリヌス症

創傷性(そうしょうせい)ボツリヌス症は、ボツリヌス菌 Clostridium botulinumで傷口が汚染されたときや、菌が別の組織に入ったときに起こります。細菌が傷の内部で作った毒素は、血液中に吸収されます。

滅菌されていない針で薬剤を注射した場合や、汚染されたヘロインを筋肉内や皮膚の下に注射した場合にも、このタイプのボツリヌス症が起こることがあります。

症状

食餌性ボツリヌス症の症状は、毒素が体内に取り込まれてから一般的に18~36時間後に突然現れます。ただし、毒素の摂取からわずか4時間後や、逆に8日も経ってから現れることもあります。毒素を多く摂取するほど早く発症します。

食餌性ボツリヌス症の症状は、しばしば吐き気、嘔吐、胃けいれん、下痢で始まります。これらの消化器症状は通常、筋肉に影響が及ぶ前に発生します。創傷性ボツリヌス症では消化器系の症状は現れません。

食餌性ボツリヌス症と創傷性ボツリヌス症では、顔面や頭部の筋力低下に起因する、多くの共通の症状がみられます。このような症状としては以下のものがあります。

  • 口腔乾燥

  • かすみ目、複視

  • 眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)

  • 近くの物に焦点を合わせられない

  • 眼に光をあてても瞳孔が正常に収縮しない

  • 話し方が不明瞭になる

  • 嚥下困難

毒素による神経の損傷は筋力に影響を及ぼしますが、感覚には影響しません。また、通常は精神状態も明晰に保たれます。

ものがうまく飲み込めなくなるため、食べものや唾液が肺に吸い込まれて(誤嚥されて)、むせたりのどに詰まったりするため、肺炎(誤嚥性肺炎と呼ばれます)のリスクが高まります。

典型的な経過としては、顔面や頭部の筋力が低下した後、腕、脚、呼吸に関わる筋肉の筋力が徐々に低下します。筋力は進行性に低下し、やがて呼吸ができなくなり生命を脅かす状態に陥ることもあります。多くの人が便秘になります。

診断

  • 筋電図検査

  • 可能であれば、食べもの、血液、便の中から毒素を検出する検査

ボツリヌス症は症状から疑われます。しかし、別の病気で同様の症状が起こる可能性もあるため、さらに情報が必要です。

筋電図検査(筋肉を刺激して電気的活動を記録する検査)が有用になることもあります。乳児ボツリヌス症患児のほとんどで、電気刺激の後に異常な筋肉の反応が現れます。

食餌性ボツリヌス症では、中毒源として考えられる食べものが手がかりになります。例えば、同じ場所で調理された同じものを食べた2人以上の人にボツリヌス症が起こった場合は、診断がより明白になります。食餌性ボツリヌス症の診断は、血液から毒素が検出されるか、便のサンプルからボツリヌス菌または毒素が検出されると確定します。毒素は、患者が食べた食品から検出されることもあります。

創傷性ボツリヌス症の診断時には、皮膚にけがをしたかどうかを尋ねられます。違法薬物の使用を思わせる針跡が皮膚にないかも調べられます。創傷ボツリヌス症の診断は、血液からボツリヌス毒素が検出されるか、傷口の組織培養でボツリヌス菌が検出されると確定します。

ときに、ボツリヌス症が傷から起こったのか、食べものから起こったのかを見分けられない場合もあります。

予防

  • 食べものには完全に火を通す

  • 食べものの適切な処理と保存を行う

ボツリヌス菌 Clostridium botulinumの芽胞は熱に非常に強く、数時間煮沸しても死滅しませんが、ボツリヌス毒素は熱で容易に破壊されます。保存前の加熱調理が不十分な保存食品は、ボツリヌス症の原因になる可能性があります。ボツリヌス菌は一般的な冷蔵庫内の低温下(3℃)でもいくらかの毒素を作り出すため、冷蔵庫に入れておけば安全というわけではありません。

食餌性ボツリヌス症を予防するには、次のような対策が役立ちます。

  • 80℃で30分間以上調理する(ボツリヌス毒素をほぼ確実に破壊できます)

  • 自家製のびん詰食品は10分間煮沸する(毒素を破壊できます)

  • 変色や異臭がある保存食品は破棄する

  • 膨らんでいたり中身が漏れ出していたりする保存食品は廃棄する

  • ニンニクやハーブを入れた自家製のオイルは冷蔵し、未使用のオイルは4日後には捨てる

  • アルミホイルで包み焼きしたジャガイモは食べる直前まで保温しておく

缶詰の保存食品を捨てるべきかどうか判断できない場合は、缶を開け始めるときに判断する方法があります。最初の穴を開ける前に、穴を開ける場所に水を数滴垂らしておきます。そして缶に穴を開けたときに、その水が吸い込まれるのではなく、吹き出した場合は、その缶は汚染されている可能性が高く、廃棄すべきです。

汚染の可能性がある食品の廃棄は慎重に行うべきです。毒素を微量でも食べたり、肺に吸い込んだり、皮膚の傷口や眼から吸収したりすると、重篤な病気になる可能性があります。皮膚に毒素ができるだけ触れないように注意し、食品に触れた手はすぐに洗うようにします。

傷口が感染した場合は、すぐに医療機関を受診すれば、創傷性ボツリヌス症のリスクを減らすことができます。

治療

  • ときに、食べものに混入していた毒素が吸収されないようにするために、活性炭を摂取する

  • 抗毒素

  • 呼吸困難がある場合は、人工呼吸器の使用

ボツリヌス症になったかもしれないと思う人は、直ちに医療機関を受診する必要があります。ボツリヌス症と診断された人は、入院して綿密なモニタリングを受けます。

診断を確定するための臨床検査が行われますが、多くの場合は、検査結果を待つことなく直ちに治療が開始されます。吸収されていない毒素を取り除くために、活性炭を口から、または鼻もしくは口から胃に挿入した管を介して投与することがあります。

バイタルサイン(脈拍、呼吸数、血圧、体温)が頻繁に測定されます。呼吸困難が始まった場合は集中治療室に移され、一時的に人工呼吸器が装着されることもあります。ボツリヌス症の死亡率は、20世紀初めには約70%もありましたが、上記のような治療が行われるようになってからは10%未満にまで低下しました。

ボツリヌス症と診断された場合は、毒素の作用を遮断する物質(抗毒素)が直ちに投与されます。これを発症後72時間以内に投与できれば、かなり高い確率で効果が得られます。抗毒素は、身体機能がさらに悪化するのを遅らせたり防いだりするため、体は数カ月ほどで自然に回復します。しかし抗毒素は、すでに起こってしまった損傷を元に戻すことはできません。また、抗毒素はウマの血清から作られたものであるため、抗毒素に対して重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー反応)が起こったり、血清病が発生したりすることがあります。

必要であれば、ものを飲み込めない人には、鼻からのどに細い合成樹脂製のチューブ(経鼻胃管)を通して栄養を投与することもあります。

創傷性ボツリヌス症では、傷を徹底的に洗浄し、壊死した組織を除去します。治療はペニシリンやメトロニダゾールなどの抗菌薬を静脈内に注射(静注)します。

ボツリヌス症から回復した人の一部では、その後何年間にもわたって疲労や息切れがみられます。このような場合は長期間の理学療法が必要です。

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