症状としては、消長を繰り返す発熱と発疹のほか、ときに関節痛やリンパ節腫脹などがみられます。
鼠咬症の診断を下すには、血液または感染組織のサンプルを検査室に送って培養検査を行うか、サンプルを顕微鏡で観察して調べます。
鼠咬症は抗菌薬で効果的に治療できます。
レンサ桿菌型の鼠咬症は、トレプトバチルス・モニリフォルミス Streptobacillus moniliformisによって引き起こされますが、この細菌は健康なハツカネズミ、クマネズミ、ドブネズミ、アレチネズミの口やのどに生息しています。人への感染は、野生やペットのネズミに咬まれたり引っかかれたりした際に起きるのが通常です。その他のげっ歯類やイタチも、この感染症を広める可能性があります。ときに、この細菌を含んでいる無殺菌の牛乳を飲むことで感染する場合もあります。原因菌を口から摂取することで発生したものは、ハーバーヒル熱と呼ばれます。
らせん菌型の鼠咬症(鼠毒)は、スピリルム・マイナス Spirillum minusによって引き起こされます。通常は、感染したネズミに咬まれた際に感染します。スピリルム属 Spirillumの細菌を口から摂取しても、感染が起きることはありません。
症状
2種類の鼠咬症、すなわちレンサ桿菌型の鼠咬症とらせん菌型の鼠咬症は、多くの共通する症状を引き起こしますが、異なる点もあります。どちらの場合も、ネズミの咬み傷は通常すぐに治癒し、その後に他の症状が現れます。
レンサ桿菌型の鼠咬症
咬み傷が治癒して1日から約3週間以内に突然、症状が現れます。具体的には、悪寒、発熱、嘔吐、頭痛、背中や関節の痛みなどがみられます。数日後には通常、平坦で赤い小さな膨らみから成る発疹が手と足に現れます。治療しない場合、関節痛が数日から数カ月続くことがあります。数週間から数カ月にわたって、発熱が消長を繰り返すことがあります。
ハーバーヒル熱でも同様の症状が引き起こされますが、嘔吐がより重度で、のどがただれることがありません。
ストレプトバチルス Streptobacillusは、心臓に感染して 心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む を引き起こすことがあります。脳や他の組織に膿瘍ができることもあります。これらの病態はまれですが、重篤です。
らせん菌型の鼠咬症
咬み傷が治癒して数日から約4週間後に、咬まれた箇所が腫れて赤くなり(炎症)、発熱が始まり、その後は消長を繰り返すようになります。リンパ節が腫れます。ときに赤い発疹が現れることもありますが、レンサ桿菌型の発疹より目立ちません。まれに関節痛がみられます。
治療しない場合、典型的には最長8週間にわたって発熱を繰り返します。
診断
レンサ桿菌型の鼠咬症では、血液または関節液の培養検査
らせん菌型の鼠咬症では、血液または感染組織のサンプルの検査
レンサ桿菌型の鼠咬症の診断を下すには、血液または関節液のサンプルを採取して検査室に送りますが、そこでは細菌を増殖させて(培養)分析することができます。ときに、サンプルを特別な方法で染色して、顕微鏡で観察して調べます。ときに血液検査が診断の役に立ちます。
らせん菌型の鼠咬症の診断を下すには、医師は血液のサンプルを採取するか、咬まれた部位の周囲の組織か感染したリンパ節から組織のサンプルを採取します。らせん菌は、サンプルを顕微鏡で観察すれば特定することができます。この種の細菌は培養ができません。
治療
抗菌薬
どちらの種類の鼠咬症も、アモキシシリンやペニシリン、エリスロマイシン、ドキシサイクリンなどの抗菌薬で治療されます。ストレプトバチルス Streptobacillusが心内膜炎を引き起こしている場合は、高用量のペニシリンと別の抗菌薬が使用されます。
治療しない場合、レンサ桿菌型の鼠咬症を発症した人の約10%が死亡します。