通常は、感染したネズミに咬まれた際に感染します。
ストレプトバチルス・モニリフォルミスによる鼠咬症は関節痛を引き起こします。
スピリルム・マイナスによる鼠咬症は、リンパ節の腫れを引き起こします。
どちらの病型でも、消長を繰り返す発熱や発疹がみられます。
鼠咬症の診断は、症状に基づきますが、血液または感染組織のサンプルを検査室に送って培養したり(レンサ桿菌型の鼠咬症)、これらのサンプルを顕微鏡下に観察したり(らせん菌型の鼠咬症)することもあります。
鼠咬症は抗菌薬で効果的に治療できます。
(細菌の概要 細菌の概要 細菌は、顕微鏡でようやく見える程度の単細胞生物です。この地球上で最も初期の段階から存在する生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境に生息しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌が、宿主に害を与えずに、人間や動物の皮膚、気道、口の中、消化管、尿路や生殖... さらに読む も参照のこと。)
鼠咬症には以下の2種類があります。
レンサ桿菌型の鼠咬症
らせん菌型の鼠咬症
レンサ桿菌型の鼠咬症は、ストレプトバチルス・モニリフォルミス Streptobacillus moniliformisによって引き起こされますが、この細菌は健康なハツカネズミ、クマネズミ、ドブネズミ、アレチネズミの口やのどに生息しています。これは桿菌と呼ばれる棒状の細菌です(図「 主な細菌の形 主な細菌の形 」を参照)。人への感染は、野生やペットのネズミに咬まれたり引っかかれたりした際に起きるのが通常です。その他のげっ歯類やイタチも、この感染症を広める可能性があります。ときに、この細菌を含んでいる無殺菌の牛乳を飲むことで感染する場合もあります。原因菌を口から摂取することで発生したものは、ハーバーヒル熱と呼ばれます。レンサ桿菌型の鼠咬症は一般に米国で発生します。
らせん菌型の鼠咬症(鼠毒)は、スピリルム・マイナス Spirillum minusによって引き起こされます。これは、スピロヘータに似たらせん状の細菌です(図「 主な細菌の形 主な細菌の形 」を参照)。通常は、感染したネズミ(ときにハツカネズミ)に咬まれた際に感染します。スピリルム属 Spirillumの細菌を口から摂取しても、感染が起きることはありません。らせん菌型の鼠咬症は主にアジアで発生します。
症状
これら2種類の鼠咬症は、多くの共通する症状を引き起こしますが、異なる点もあります。
レンサ桿菌型の鼠咬症
レンサ桿菌型の鼠咬症では、ネズミの咬み傷は(あっても)通常、すぐに治ります。咬み傷が治癒して1日から約3週間以内に突然、症状が現れます。具体的には、悪寒、発熱、嘔吐、頭痛、背中や関節の痛みなどがみられます。数日後には通常、平坦で赤い小さな膨らみから成る発疹が手と足に現れます。治療しなければ、関節痛や 感染性関節炎 感染性関節炎 感染性関節炎は、関節液や関節組織の感染症で、通常は細菌感染が原因ですが、ウイルスや真菌の感染によって起こることもあります。 細菌、ウイルス、真菌は、血流を介して、または近くの感染部位から関節に入り、感染症を引き起こすことがあります。 通常は、数時間ないし数日以内に痛みや腫れ、発熱が生じます。 関節液を針で吸引して検査します。 抗菌薬の投与を直ちに開始します。 さらに読む (関節内の液体や組織の感染症)は数日から数カ月続くことがあります。数週間から数カ月にわたって、発熱が消長を繰り返すことがあります。
ハーバーヒル熱でも同様の症状が引き起こされますが、嘔吐がより重度で、のどがただれることがありません。
ストレプトバチルス Streptobacillusは、心臓に感染して 心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む を引き起こすことがあります。脳や他の組織に膿瘍ができることもあります。これらの問題や感染性関節炎はまれですが、重篤化します。
らせん菌型の鼠咬症
らせん菌型の鼠咬症では、咬み傷は通常すぐに治癒します。しかし、数日から約4週間後に、咬まれた箇所が腫れて赤くなり(炎症)、発熱が始まり、その後は消長を繰り返すようになります。リンパ節が腫れます。ときに発疹が現れることもありますが、レンサ桿菌型の発疹より目立ちません。まれに関節痛がみられます。
治療しない場合、典型的には最長8週間にわたって発熱を繰り返します。
診断
レンサ桿菌型の鼠咬症では、血液または関節液の培養検査
らせん菌型の鼠咬症では、血液または感染組織のサンプルの検査
多くの場合、症状の主な違いを探すことで、鼠咬症の病型を診断できます。例えば、医師は、レンサ桿菌型の鼠咬症で生じる関節痛の有無や、らせん菌型の鼠咬症で起こるリンパ節の腫れがないかを調べます。
レンサ桿菌型の鼠咬症の診断を確定するには、血液または関節液のサンプルを採取して検査室に送りますが、そこでは細菌を増殖させて(培養)分析することができます。ときに、サンプルを特別な方法で染色して、顕微鏡で観察して調べます。ときに血液検査が診断の役に立ちます。
らせん菌型の鼠咬症の診断を確定するには、医師は血液のサンプルを採取するか、咬まれた部位の周囲の組織か感染したリンパ節から組織のサンプルを採取します。らせん菌は、サンプルを顕微鏡で観察すれば特定することができます。この種の細菌は培養ができません。
予後(経過の見通し)
治療しない場合、鼠咬症を発症した人の約10%が死亡します。
治療
抗菌薬
どちらの種類の鼠咬症も、アモキシシリンやペニシリン、エリスロマイシン、ドキシサイクリンなどの抗菌薬で治療されます。
ストレプトバチルス・モニリフォルミス Streptobacillus moniliformisが心内膜炎を引き起こしている場合は、高用量のペニシリンと別の抗菌薬が使用されます。
さらなる情報
米国疾病予防管理センター:鼠咬症(Centers for Disease Control and Prevention: Rat-Bite Fever)