(細菌の概要も参照のこと。)
過去には中世の黒死病など、ペストが大規模に発生して多くの死者が出た時代がありました。その主な要因は、げっ歯類の大量発生や都市部の人口集中、公衆衛生状態の劣悪さでした。
現在、ペストは散発的に、または限られた地域で発生します。
米国では、ペストの90%以上がアリゾナ州、カリフォルニア州、コロラド州、ニューメキシコ州などの南西部の州の農村地域または準農村地域で発生し、特にキャンプ場で起こります。最近数十年間の米国では、年間平均約7人(1~17人)がペストにかかっています。
世界的には、1990年代以降のほとんどの症例がアフリカで発生しており、最近ではマダガスカルで集団発生がありました。
ペストの感染経路
ペストを起こす細菌は、通常はラット、ネズミ、リス、プレーリードッグのような野生のげっ歯類に感染します。この細菌はネズミノミを介して広まります。野生のげっ歯類が死んで、ノミが人間の生活圏に近いところにいるげっ歯類に移ると、続いてネコなどのペットに寄生します。そしてネズミノミが人を咬むと、その人が細菌に感染します。感染した動物と直接接触した場合にも、皮膚の裂け目を介して感染することがあります。
まれに、せきやくしゃみで飛び散った飛沫を吸い込むことで、人から人に広がります。細菌は肺にとどまり、肺炎を引き起こします(肺ペスト)。人から人への感染は通常、一緒に生活している人との間や、肺ペストの患者とケアをする人との間で起こります。
ペスト菌は生物兵器に使用される可能性があります。空気中に拡散した細菌を吸入することで感染します。空気中を舞う粒子の大きさによって、気道のどの部分に細菌がとどまるかが異なります。小さな粒子は肺にとどまり、肺ペストを引き起こします。大きな粒子はのど(咽頭)にとどまり、のどのペスト(咽頭ペスト)を引き起こします。
症状
ペストにはいくつかの種類があります。
症状はペストの種類によって異なります。
腺ペスト
腺ペストは最も一般的な種類です。
腺ペストの症状は、感染後数時間から12日後に現れます(通常は2~5日後)。突然、悪寒と発熱(41℃に達する場合もある)が起こります。心拍は速くかつ弱くなり、血圧が下がることもあります。多くの患者がせん妄状態に陥ります。
発熱の少し前か同時に、ノミに咬まれたり引っかかれたりした部位の近くにあるリンパ節(通常は鼠径部または脇の下のリンパ節)が腫れて痛くなります。これらの腫れたリンパ節は、横痃(おうげん)あるいは横根(よこね)と呼ばれます。これらは固く、赤く、熱をもち、触れるとひどく痛みます。2週目にはリンパ節から膿が漏れ出すことがあります。肝臓や脾臓が腫大することもあります。
ノミに咬まれた部位に隆起、潰瘍、または黒いかさぶたができることがあります。
腺ペストの患者は、落ち着きをなくし、せん妄状態になり、混乱し、協調運動が損なわれます。
この細菌は血液を介して広がるため、肺を侵して肺ペストを引き起こすことがあります。
治療を受けないと、通常は3~5日目に、60%以上の人が死亡します。
軽症ペスト
肺ペスト
敗血症ペスト
敗血症ペストは、血液中に広がる感染症です。約40%の患者に吐き気、嘔吐、下痢、腹痛の症状が現れます。
やがて血栓が過剰に作られて血管をふさぐようになり、最終的に凝固因子が枯渇するために出血が生じます。これは播種性血管内凝固症候群という病態です。血流が妨げられるため、腕や脚に壊死が生じて黒く変色することがあります(そのため黒死病と呼ばれます)。
治療しなければ、多くの臓器が機能不全に陥り、しばしば死に至ります。
診断
予防
治療
さらなる情報
その他のエルシニア( Yersinia )感染症
エルシニア・エンテロコリチカ Yersinia enterocoliticaや仮性結核菌 Yersinia pseudotuberculosisといった、その他のエルシニア属 Yersiniaの細菌も、世界中で動物に感染しています。これらの細菌は人に感染することがありますが、ペストほど重い病気は引き起こしません。
感染した動物を触ったり(例えば猟師が)、生や加熱調理が不十分な肉、低温殺菌されていない牛乳または感染した動物からの乳製品を触ったり摂取した場合や、汚染された水を飲んだりした場合に、エルシニア属 Yersiniaの他の細菌によって引き起こされる感染症にかかることもあります。
これらの感染症では、下痢(通常は自然に治まる)やのどの痛みがよくみられます。腹部のリンパ節が炎症を起こし、右下腹部に痛みが生じます。このときの痛みは虫垂炎の痛みに似ています。
細菌が血液に感染することがありますが、腸管外に広がることはまれです。
その他のエルシニア(Yersinia)感染症の診断では、血液、便、たん、またはリンパ節の膿のサンプルなどの検査が行われます。
その他のエルシニア(Yersinia)感染症の予防としては、以下のことを行います。
その他のエルシニア(Yersinia)感染症の治療は、下痢の緩和に重点が置かれます。これらの感染症は通常自然に治まります。しかし、感染が血液や他の臓器に広がっている場合は、抗菌薬が必要です。