(真菌感染症の概要も参照のこと。)
コクシジオイデス Coccidioidesの胞子は、米国南西部、カリフォルニア州のセントラル・バレー、メキシコ北部、中米とアルゼンチンの一部の土壌に存在しています。これらの地域に住んでいる女性の30~60%は、生涯のいずれかの時点でこの真菌にさらされます。米国で2016年に報告されたコクシジオイデス症の症例数は11,829例です。
農作業に従事する人や汚染された土壌に触れた人が、胞子を吸い込み感染するケースがほとんどです。旅行中に感染し、帰宅してから症状が出るケースもあります。
コクシジオイデス症には以下の2つの病型があります。
進行性コクシジオイデス症の危険因子
症状
急性原発性コクシジオイデス症の患者は、その大半が無症状です。症状が出る場合は、感染後1~3週間経過してから生じます。症状は通常は軽く、しばしばインフルエンザに似ています。具体的には、せき、発熱、悪寒、胸痛などのほか、ときに息切れもみられます。せきでたんが出ることもあります。ときに、肺の感染症が重度の場合、肺に空洞ができ、喀血がみられることもあります。
進行性コクシジオイデス症は、最初に感染した後、数週間、数カ月、ときには数年も経過してから発症します。軽度の発熱、食欲減退、体重減少、筋力低下などの症状が出ます。肺の感染症が悪化することがありますが、これは通常、免疫機能が低下している人だけに限られます。息切れが強くなることがあり、ときにたんに血が混じることもあります。
コクシジオイデス症は、肺から皮膚、骨(骨髄炎が起きます)、関節、肝臓、脾臓(ひぞう)、腎臓、その他の組織に広がることもあります。感染が皮膚に広がった場合、1箇所または複数箇所にびらんができることがあります。ときに関節が腫れて痛みを伴います。深部感染により皮膚が破れ、その傷口から感染物質が排出されることもあります。
コクシジオイデス Coccidioidesは、脳や脳と脊髄を覆う組織(髄膜)にも感染する可能性があり、髄膜炎を引き起こします。この場合はしばしば慢性化し、頭痛、錯乱、平衡感覚の喪失、複視などの症状が出ます。髄膜炎は治療をしないと必ず死に至ります。
診断
コクシジオイデス症の流行地域に住んでいた人や流行地域に最近旅行した人に症状がみられた場合、この病気が疑われることがあります。
通常は原因菌に対する抗体を検出する血液検査(血清学的検査)と胸部X線検査を行います。免疫系が正常な人では通常、コクシジオイデス症にかかっていると血液検査で抗体が検出されます。通常、胸部X線検査で特徴的な異常が示されます。これらの結果も診断の助けとなります。
尿に含まれる抗原(真菌から放出されるタンパク)を検出する検査も役立ちます。
しかし、真菌を特定して診断を確定するために、血液、たん、膿、その他の感染組織のサンプルを顕微鏡で観察したり、検査室で培養することもあります。コクシジオイデス Coccidioidesの培養検査には最長で3週間かかるため、医師は通常、血液検査と胸部X線検査の結果から診断を下します。
治療
急性原発性コクシジオイデス症は、治療をしなくても自然に治るのが一般的で、通常は完全に回復します。しかし、コクシジオイデス症が広がる可能性がわずかにあるため、そうした患者も治療すべきと考える医師もいます。また、治療した方が症状が早く消えます。通常の治療では、フルコナゾールなどの抗真菌薬を3~6カ月使用します。
進行性コクシジオイデス症は治療しなければ死に至る病気で、特に免疫機能が低下している人は通常は死亡します。エイズ患者の約70%は、診断後1カ月以内に死亡します。軽度から中等度の進行性コクシジオイデス症には、フルコナゾールまたはイトラコナゾールを経口で投与します。あるいは、ボリコナゾールを経口または静脈内投与で、もしくはポサコナゾールを経口で使用することもあります。重度の場合には、アムホテリシンBの静脈内投与を行います。
髄膜炎が生じた場合は、フルコナゾールを投与します。コクシジオイデス症による髄膜炎を起こした人は、フルコナゾールを生涯にわたって服用しなければなりません。
薬物治療は、皮膚、骨、関節などの局所の感染症には効果的ですが、治療をやめると再発することがよくあります。通常、免疫機能が低下している患者は何年もの間、多くの場合は生涯にわたって薬を服用しなければなりません。
骨に感染した場合や感染により肺に空洞ができた場合は、手術が必要になることがあります。