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感染症の診断

執筆者:

Maria T. Vazquez-Pertejo

, MD, FACP, Wellington Regional Medical Center

レビュー/改訂 2022年 10月
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感染症は、 細菌 細菌の概要 細菌は、顕微鏡で見ることができる大きさの単細胞生物です。地球の最も初期の段階から存在している生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境で生存しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌は、人間や動物の皮膚、気道、口、消化管、尿路、生殖器の表面や内部で、何の... さらに読む ウイルス ウイルス感染症の概要 ウイルスは、核酸( DNAかRNAのどちらか一方)と、それを覆うタンパク質の膜で構成されています。ウイルスが増殖するには、生きた細胞を必要とします。ウイルス感染症は、無症状(明らかな症状はない)から重症の病気まで、幅広い病態を引き起こします。 ウイルスへの感染は、ウイルスを飲み込んだり、吸い込んだり、虫に刺されたりするか、性的な接触を通じ... さらに読む 真菌 真菌感染症の概要 真菌は植物でも動物でもなく、その大きさは顕微鏡でようやく見えるものから肉眼で容易に見えるものまで様々です。かつては植物と考えられていましたが、現在では独自の区分(界)に分類されています。一部の真菌は人に感染症を引き起こします。 真菌の胞子は空気中や土壌中に存在することが多いため、真菌感染症は通常は肺や皮膚から始まります。... さらに読む 寄生虫 寄生虫感染症の概要 寄生虫とは、他の生物(宿主[しゅくしゅ])の体表や体内にすみつき、宿主を利用して(例えば、栄養素を奪うことによって)生きている生物のことです。この定義は細菌、真菌、ウイルスなど多くの微生物に当てはまりますが、「寄生虫」という用語は以下のものを指して用いられます。 単一の細胞のみで構成される原虫(... さらに読む などの微生物によって引き起こされます。

医師は、患者の症状や身体診察の結果、危険因子に基づいて感染症を疑います。まず、患者がかかっている病気が感染症であり、他の種類の病気ではないことを確認します。例えば、せきが出て、呼吸が苦しいと訴える人は、肺炎(肺の感染症)の可能性があります。また、喘息や心不全(これらの病気は感染が原因ではありません)である可能性もあります。このような人には、胸部X線検査を行うことで、肺炎なのか、それ以外の病気なのかを判別する手がかりが得られます。

患者の病気が感染症であると確定したら、次に感染症の原因になっている微生物を特定する必要があります。多種多様な微生物が同じ感染症を引き起こすことがあります。例えば、肺炎はウイルスや細菌が原因の場合もあれば、まれに真菌が原因の場合もあります。治療法は微生物毎に異なります。

様々な臨床検査で微生物を特定できます。臨床検査では、血液、尿、たんなどの体液や組織のサンプルを採取し、次のような分析を行います。

1つの検査ですべての微生物を特定できるわけではなく、ある微生物の特定に適した検査が、他の微生物の特定には適さないことも多々あります。医師は、病気を引き起こしていそうな微生物を考慮して、実施する検査を選ぶ必要があります。

ときには、数種類の検査を特定の順番で、前の検査結果を踏まえながら実施していきます。こうして個々の検査で可能性を絞り込んでいきます。適切な検査が行われなければ、感染症の原因を特定できないこともあります。

検査用サンプル

まず、感染の原因と思われる微生物が存在する可能性が高い部位からサンプルを採取します。サンプルには次のようなものがあります。

  • 血液

  • たん

  • 尿

  • 便

  • 組織

  • 髄液

  • 鼻、のど、陰部から得られた粘液

たんや便、または鼻やのどをぬぐって採取した粘液などのサンプルを検査に出しますが、これらのサンプルには、病気を引き起こさない細菌も多く含まれています。医師はこうした細菌と病気を引き起こしている可能性のある細菌を区別する必要があります。

また、尿や血液、髄液(脳と脊髄の周囲を流れている液体)など、正常なら微生物が存在しない(無菌)はずのサンプルも採取します。このようなサンプルでは、汚染を防ぐためにその部位を消毒してからサンプルを採取している限り、細菌が見つかることは異常です。

染色と顕微鏡による観察

医師が顕微鏡で観察するだけで、微生物を特定できることもあります。

ほとんどのサンプルには染色を施します。染色では特殊な色素を使用して微生物に色をつけ、背景から際立たせるようにします。一部の微生物は大きさや形状、染色したときの色が特徴的で、医師はそれらを手がかりに微生物を識別できます。

ただし、多くの微生物は互いによく似ていて、顕微鏡でも区別できません。さらに、十分な数が存在し、顕微鏡で確認できる程度に大きくなければ認識できません。例えば、ウイルスは小さすぎて顕微鏡では見分けがつきません。

細菌の場合、医師はよく最初にグラム染色(紫色の染色)を行います。細菌は以下のように分類されます。

  • グラム陽性(グラム染色で紫色の染色が維持されるため、青く見えます)

  • グラム陰性(染色が維持されないため、赤く見えます)

細菌がグラム陽性かグラム陰性かに基づいて、使用すべき抗菌薬を判断できることがあります。グラム陽性細菌とグラム陰性細菌は、それぞれ効きやすい抗菌薬の種類が異なります。

グラム染色に加えて、感染が考えられる微生物の種類に応じて、ほかの染色法を用いることもできます。

微生物の培養検査

多くのサンプルでは、含まれている微生物の量が少なすぎて、顕微鏡で観察できず、ほかの検査法でも特定できません。そこで通常は培養検査が行われ、検査室で微生物を増殖させて、種類を特定できるようになるまで増やします。

滅菌したシャーレ(平らな皿)や試験管に微生物の増殖を促す特定の栄養素を入れて、そこにサンプルを加えます。感染症を引き起こしていることが疑われる微生物の種類に応じて、異なる栄養素を用います。しばしば、疑われる病気を引き起こすことのない微生物を増殖させないように、シャーレや試験管に特定の物質を追加することもあります。

尿路感染症や咽喉炎を引き起こす細菌など、多くの微生物は培養により簡単に増殖します。しかし、梅毒の原因菌など、まったく培養できない細菌も存在します。また結核菌などの他の細菌と真菌は、培養は可能なものの、増殖させるのに数週間の期間を要します。ウイルスは培養可能なものもありますが、多くは培養できません。

微生物を培養したら、その種類を特定し、抗菌薬に対する感受性を調べるための検査を行います。

微生物の抗菌薬に対する感受性を調べる試験

感受性試験には多くの場合、培養したサンプルが用いられます。増殖させた微生物の培養液に何種類かの抗菌薬を添加して、どれならその微生物を殺せるかを調べます。さらに、その微生物がそれぞれの薬にどれほど敏感に反応するか、つまりは微生物を死滅させるのに少量で済むのか、大量に必要になるのかを明らかにします(感受性試験)。通常、検査室で微生物を死滅させるのに多くの量を使用する必要がある薬剤は、治療には使用されません。

感受性試験は(体内ではなく)検査室で行われるため、その結果は薬剤が投与されたときに体内で起こる現象と常に一致するわけではありません。薬剤の使用者に関係する要因が薬剤の効き目に影響を及ぼすことがあります(薬に対する反応の概要 薬に対する反応の概要 薬に対する反応は人によって異なります。人がどのようにある薬に反応するかは多くの要因に左右されます。例えば以下のような要因があります。 遺伝的素因 年齢 体の大きさ 他の薬や栄養補助食品( 薬用ハーブなど) さらに読む も参照)。具体的には以下のものがあります。

  • 免疫系がどの程度機能しているか

  • 年齢

  • ほかの病気にかかっているかどうか

  • 薬がどのように体に吸収され処理されているか

微生物に対する抗体または微生物の抗原を調べる検査

抗体検査

通常、抗体検査は感染者の血液のサンプルを用いて行います。髄液や他の体液のサンプルを調べる場合もあります。

抗体は、それが作られるきっかけになった特定の異物(抗原 免疫系の概要 )を認識して標的にします。したがって、個々の抗体は特定の種類(種)の微生物に固有のものです。人が特定の微生物に対する抗体をもっているということは、その人がその微生物にさらされて、免疫反応が起きたことがあるということを意味します。しかし、多くの抗体は感染が治まった後も長く血液中に残るため、ある微生物に対する抗体がみつかったからといって、その時点でも感染が起きているとは限りません。その抗体は過去の感染時から残っているだけかもしれないのです。

医師はどの感染症の可能性が高いかを考えた上で、数種類の抗体について検査を行います。医師は抗体の有無だけを調べることもありますが、通常は存在する抗体の量も調べようとします。抗体の量を知るには、まずサンプルを半分に薄めて試験を行い、その後も抗体に対する陽性反応が出なくなるまで半分に薄める操作を繰り返します。試験結果が陰性になるまでに薄めた回数が多いほど、サンプルに含まれている抗体の量が多いということになります。

検出するのに十分な量の抗体が免疫系によって作られるには、数日から数週間の時間がかかりますので、感染症の診断は遅くなることがあります。発症の直後に行われた抗体検査は、多くが陰性になります。そのため、医師は早い段階で採取したサンプルに加えて、数週間後にもう一度サンプルをとり、抗体の値が上昇していないか確認します。発症直後の検査では抗体の測定値が低く、数週間後の検査で上昇していた場合には、その時点または少し前の(過去ではない)時点で感染が起きていることが示唆されます。

知っていますか?

  • ある微生物に対する抗体が血液中でみつかっても、その人がその時点でも感染しているとは必ずしも限りません。というのは、その抗体は過去の感染時から残っているだけかもしれないからです。

抗原検査

抗原とは、体内で免疫反応を誘発する可能性がある物質のことです。微生物(とすべての細胞)は、その表面と内部に抗原をもっています。微生物はその種類ごとに固有の抗原をもっています。そのため、それらの抗原のどれかが見つかれば、特定の微生物が存在するということになります。抗原検査では微生物の存在を直接確認することができ、そのため、感染した人の体内で微生物に対する抗体を作られるのを待つことなく、感染症を迅速に診断することができます。また、この種の検査は、免疫系によって抗体が十分に作られない人(骨髄移植を受けて間もない人やエイズの人など)でも行うことができます。

抗体検査を行うためには、感染が疑われる人からサンプルを採取して、それを感染している可能性がある微生物に対する検査用の抗体と混ぜ合わせます。サンプルの中にその微生物の抗原が含まれていれば、その抗原は検査用の抗体に結合します。抗原と抗体の結合は、別の方法で検出することができます。どのような方法を用いるにせよ、抗原が存在するということは、微生物が存在すること、そしておそらくそれが感染の原因であることを意味します。

微生物の遺伝物質を検出する検査

微生物由来の遺伝物質を検出するには、以下の検査を行います。

  • 核酸検査

微生物の培養が困難で、他の方法による特定も難しい場合は、微生物の遺伝物質を特定する検査(遺伝子検査)を行うことができます。その遺伝物質は、DNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)という核酸で構成されています。個々の生物がもつDNAやRNAの一部は、その生物に固有のものです。そのため、そのようなDNAやRNAが見つかれば、特定の微生物が存在するということになります。

PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査は、この種の検査の一例です。PCR検査では、微生物の遺伝子のコピーを大量に増やすことで、微生物の種類をはるかに特定しやすくします。

個々の遺伝子検査は、それぞれ特定の微生物だけを対象とします。つまり、C型肝炎ウイルスの遺伝子検査は、このウイルスだけを対象とするもので、それ以外のウイルスは検出されません。そのため、こうした検査は、特定の病気が疑われる場合にのみ行われます。

ほとんどの核酸検査は、体内に微生物が存在するかどうかを特定する検査(定性検査)として設計されています。ただし、特定の感染症(HIVやC型肝炎など)に対しては、原因微生物の遺伝物質が存在する量を測定する検査(定量検査)も可能で、その結果から、その感染症の重症度を判断することができます。定量検査は治療の効果をモニタリングする目的でも行われます。

核酸検査は、微生物に薬剤に対する耐性をもたせる遺伝子や遺伝子変異がないかを調べる目的で行われることもあります。しかし、耐性をもたらす遺伝子変異には未知のものもあるため、この種の検査の精度は完全ではありません。そのため、耐性に関する遺伝子の有無をもれなく確認することはできません。加えて、この種の検査は費用が高く、あまり普及しておらず、ごく一部の微生物にしか利用できません。

微生物の特定に用いられるその他の検査

微生物固有のその他の特徴を特定する検査は、ときに以下のように呼ばれることがあります。

  • 核酸検出法によらない同定検査

例えば、以下のものを特定するために検査が行われます。

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